コンテンツにスキップ
小児眼科・斜視

神経線維腫症1型(NF1)の眼合併症

1. 神経線維腫症1型(NF1)の眼合併症とは

Section titled “1. 神経線維腫症1型(NF1)の眼合併症とは”

神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1; NF1)はvon Recklinghausen病とも呼ばれる。皮膚・神経の多発性神経線維腫と特有の色素斑(カフェオレ斑)を主徴とし、骨病変・眼病変など多彩な症候を呈する常染色体優性遺伝性疾患(母斑症)である。責任遺伝子NF1は17q11.2に位置し、がん抑制タンパクであるneurofibrominをコードする。

NF1は母斑症(phakomatosis)に分類される疾患の1つであり、皮膚・神経系・眼を同時に侵す。NF1NF2は全く別の疾患であることが判明しており、混同してはならない。

眼合併症として、虹彩Lisch結節・視神経膠腫緑内障・眼瞼および眼窩の神経線維腫が高頻度に出現する。特にLisch結節はNF1患者の90%以上に認められ、NIH診断基準の1項目を構成するため、眼科医はNF1の確定診断において重要な役割を担う。年齢とともに所見が増加する進行性疾患であり、小児期からの継続的な眼科管理が不可欠である。

Q NF1の眼合併症はどのくらいの頻度でみられるか?
A

NF1は3,000人に1人の頻度で発症する。眼所見で最も多いのは虹彩Lisch結節で、NF1患者の90%以上に出現する。視神経膠腫は約15%に合併し、カフェオレ斑が眼瞼にある症例では約50%に緑内障を合併する。

NF1の眼合併症に関連する自覚症状は、合併する病変の種類によって異なる。

  • 視力低下・視野異常視神経膠腫の進行例で生じる。緩徐な進行が多く、自覚されにくい。
  • 眼瞼下垂:眼瞼の叢状神経線維腫による機械的下垂。小児では弱視の原因となる。
  • 眼球突出視神経髄膜腫・視神経膠腫眼窩内神経線維腫によって生じる。
  • 牛眼(buphthalmos)緑内障合併例では眼圧上昇による眼球拡大を生じる。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

虹彩Lisch結節

定義虹彩実質のメラニン細胞過誤腫(hamartoma)。

特徴:淡褐色・境界鮮明・多発性の小結節。細隙灯顕微鏡で確認する。

頻度・意義NF1の90%以上に出現。2個以上存在すればNIH診断基準の1項目を満たす。視力には直接影響しない。

視神経膠腫

頻度NF1の約15%に合併する(optic pathway glioma)。

経過:多くは無症候性。進行例では視神経萎縮視力障害・視野障害を生じる。視交叉への浸潤もありうる。

病理:低悪性度星細胞腫(pilocytic astrocytoma; WHO grade I)。

緑内障

頻度:カフェオレ斑が眼瞼に存在する症例の50%に合併。小児では牛眼の原因となる。片眼性が多い。

発症機序隅角形成不全、毛様体脈絡膜肥厚による隅角閉塞、隅角への神経線維腫浸潤、ぶどう膜外反に伴う隅角構造異常。

分類緑内障診療ガイドライン(第5版)では「先天全身疾患に関連した緑内障」に位置づけられる1)

眼瞼・眼窩病変

眼瞼の叢状神経線維腫:機械的眼瞼下垂を呈する。眼瞼を「袋状」に変形させることがある。

眼窩腫瘍視神経髄膜腫・視神経膠腫眼窩内神経線維腫→眼球突出。びまん性型は眼窩脂肪・外眼筋に浸潤する。

顔面変形眼窩・顔面骨変形(蝶形骨異形成など)を伴うことがある。

  • 眼底病変(頻度は少ない):色素斑、過誤腫、網膜変性
  • 角膜病変水晶体病変(まれ)
Q Lisch結節は視力に影響するか?
A

Lisch結節は虹彩実質のメラニン細胞過誤腫であり、視力に直接影響することはない。ただしNF1の診断に重要な所見であり、2個以上存在すればNIH診断基準の1項目(第5項)を満たす。

NF1常染色体優性遺伝(autosomal dominant; AD)形式をとる遺伝性疾患である。責任遺伝子はNF1遺伝子(17q11.2)で、60以上のエクソンからなる大型遺伝子である。NF1遺伝子はneurofibrominをコードする。neurofibrominはRas-GTPase活性化タンパク(RasGAP)として機能し、細胞増殖シグナルの抑制に働くがん抑制遺伝子産物である。

NF1変異によりneurofibrominの機能が失われると、Ras-MAPK経路が恒常的に活性化される。その結果、神経系・皮膚・骨での過誤腫増殖が生じる。

遺伝学的特徴

  • de novo変異が約50%を占める。親からの遺伝と新規変異がほぼ半々であるため、家族歴がない症例にも発症する。
  • 浸透率はほぼ100%であるが、表現型(症状の種類・重症度)は家族内でも多様である。
  • 第一度近親者にNF1がある場合、子への遺伝確率は50%となる。

眼合併症のリスク要因

  • 眼瞼のカフェオレ斑緑内障合併リスクが約50%と高い。眼瞼に色素斑をもつNF1患者は特に緑内障スクリーニングが重要である。
  • ぶどう膜外反の合併隅角構造異常から緑内障を発症しやすい。
  • 蝶形骨異形成眼窩変形や拍動性眼球突出のリスクがある。

NF1の診断はNIH診断基準(7項目中2つ以上)によって行われる。眼科医はこのうちLisch結節(第5項)と視神経膠腫(第4項)の2項目の評価を担う重要な役割をもつ。

NIH診断基準の7項目を以下に示す。

項目基準
1. カフェオレ斑思春期以前:最大径≥5mm × 6個以上 / 思春期以降:最大径≥15mm × 6個以上
2. 神経線維腫2個以上の神経線維腫、または1個以上の叢状神経線維腫
3. 腋窩・鼠径部freckling腋窩・鼠径部の雀卵斑様色素斑(象皮病様皮膚肥厚)
4. 視神経膠腫optic pathway glioma
5. Lisch結節虹彩結節2個以上
6. 骨病変蝶形骨異形成、長管骨の菲薄化など
7. 家族歴第一度近親者(両親・同胞・子)にNF1
  • 細隙灯顕微鏡検査虹彩を丁寧に観察し、Lisch結節の個数と分布を記録する。
  • 眼底検査視神経乳頭の形状(膠腫・萎縮の有無)、網膜病変を評価する。
  • 眼圧測定緑内障スクリーニング。乳幼児では全身麻酔下での測定を考慮する。
  • 隅角鏡検査隅角形成不全・神経線維腫浸潤の有無を確認する。緑内障疑い例では必須。
  • MRI(造影)視神経膠腫・頭蓋内病変の評価。造影MRIが標準的である。
  • 視野検査視神経膠腫合併例での視野障害を評価する。年齢に応じた方法(自動視野計・対座法)を選択する。
病変の状態経過観察頻度
Lisch結節のみ(視神経膠腫なし)年1回の定期眼科検査
視神経膠腫合併例3か月に1回の定期検査
Q NF1の診断に必要な基準は何か?
A

NIH診断基準の7項目(カフェオレ斑、神経線維腫、腋窩・鼠径部freckling、視神経膠腫、Lisch結節、骨病変、家族歴)のうち2つ以上を満たせば診断となる。眼科医はLisch結節(第5項)と視神経膠腫(第4項)の2項目の評価を担う。

NF1に伴う緑内障隅角形成不全に加え、神経線維腫の隅角浸潤と毛様体脈絡膜肥厚の複合機序で発症するため、治療は困難を要する。緑内障診療ガイドライン(第5版)では「先天全身疾患に関連した緑内障」に分類される1)

  • 隅角切開術・線維柱帯切開術:施行されるが、効果は乏しい。
  • チューブシャント手術:適応となる場合が多いが、眼窩内病変のために手術が困難な場合も少なくない。
  • 薬物療法(補助的):β遮断薬点眼(チモロール0.25〜0.5%)、炭酸脱水酵素阻害薬点眼(ドルゾラミド1%)を補助的に使用する。
  • 視路や眼窩内にも病変を伴うことが多く、視力予後はよくない。

眼瞼・眼窩の神経線維腫の管理

Section titled “眼瞼・眼窩の神経線維腫の管理”
  • 経過観察の適応:全身のNF1で診断が確定しており、視神経・眼球運動神経への圧迫による視力低下や複視がなければ経過観察でよい。
  • 外科的切除:完全摘出は不可能で再発も多い。手術の主体は減量切除(debulking)である。
  • 眼瞼下垂への対応:叢状神経線維腫による機械的下垂では外科的修復を検討する。弱視予防のため小児では早期介入を考慮する。

視神経膠腫の治療方針は進行の有無と症状によって決定する。

  • 無症候性・進行なし:経過観察が基本。定期的なMRIと視機能評価(視力・視野)で進行を監視する。
  • 進行性の視力障害がある場合:外科的切除を検討するが、視機能は失われ術後合併症が多い。
  • 視交叉への浸潤がある場合:化学療法の適応となる。カルボプラチン+ビンクリスチン併用が用いられる。
Q NF1の緑内障はなぜ治療が難しいか?
A

NF1緑内障隅角形成不全に加え、神経線維腫の隅角浸潤・毛様体脈絡膜肥厚という複合的な機序で発症する。そのため通常の小児緑内障手術(隅角切開術・線維柱帯切開術)の効果が乏しく、眼窩内病変によって手術アプローチも困難となることがある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

NF1遺伝子は17q11.2に位置し、60以上のエクソンからなる大型遺伝子である。コードするneurofibrominはRas-GTPase活性化タンパク(RasGAP)として機能する。

  • 正常機能:Ras-GTP(活性型)をRas-GDP(不活性型)に変換し、細胞増殖シグナルを抑制する。
  • NF1変異→機能喪失:Ras-MAPK経路が恒常的に活性化され、細胞増殖・分化の制御が失われる。
  • 結果:神経系・皮膚・骨での過誤腫増殖が生じる。

Lisch結節(虹彩過誤腫)虹彩実質のメラニン細胞でNF1変異によるRas過活性化が生じ、メラニン細胞の過剰増殖をきたす。過誤腫として虹彩実質に集積するが、視機能には影響しない。

視神経膠腫NF1視神経・視路のグリア細胞(特にアストロサイト)の増殖制御に関与する。NF1機能喪失→Ras過活性化→低悪性度星細胞腫(pilocytic astrocytoma; WHO grade I)が生じる。進行が緩徐であることが多く、NF1に関連した腫瘍特有の生物学的挙動を示す。

神経線維腫の病理分類NF1では末梢神経のSchwann細胞においてNF1ヘテロ接合性喪失(LOH)が生じ、腫瘍形成を招く。形態的に3型に分類される。

  • 叢状型(plexiform):末梢神経に沿って広がる。von Recklinghausen病に特徴的。
  • びまん性(diffuse):脂肪組織・筋組織に浸潤する。眼窩脂肪組織・外眼筋に広がることがある。
  • 孤立性(isolated):限局性腫瘤を形成する。

緑内障の複合機序NF1における緑内障は複数の機序が関与する。

  1. 隅角発育異常:神経堤細胞由来組織の形成不全により、隅角の正常な発育が障害される。
  2. 毛様体脈絡膜の過誤腫性肥厚:物理的に隅角を閉塞させ、房水流出を妨げる。
  3. 神経線維腫の隅角浸潤:叢状・びまん性神経線維腫が房水流出路を閉塞する。
  4. ぶどう膜外反虹彩色素上皮の外反により隅角構造に異常をきたす。

カフェオレ斑は生後早期より体幹を中心にあらゆる部位に出現する色素性病変であり、NF1遺伝子変異によるメラニン細胞の過活性を反映する。思春期以前では最大径5mm以上が6個以上、思春期以降では最大径15mm以上が6個以上存在することが診断基準となる。腋窩・鼠径部の雀卵斑様色素斑(freckling)、多発性神経線維腫、蝶形骨異形成などの骨病変、てんかん・精神発達遅滞などの神経学的所見も同様にRas-MAPK経路の恒常的活性化に起因する多彩な表現型として生じる。

Ras-MAPK経路下流のMEK1/2を標的とする分子標的薬であるセルメチニブ(selumetinib)は、2020年にFDAが2歳以上の手術不能な叢状神経線維腫に対して承認した。NF1関連視神経膠腫に対する有効性の検討も進行中である。日本での承認・保険適用状況については、最新の動向を確認する必要がある。

2021年に国際NF診断基準委員会がNIH基準を改訂した。主な変更点として、遺伝子検査(NF1変異の同定)が診断基準に加わったこと、および近赤外光撮影で検出される脈絡膜異常(choroidal abnormalities)が新たな診断項目に追加されたことが挙げられる。

NF1変異と小児緑内障の関連が遺伝学的研究によって確認されている。NF1変異を有する小児緑内障の約50%は片眼性であるとの報告がある2)NF1は「先天全身疾患に関連した緑内障」の遺伝的プロファイルの一部として同定されており、小児・早発型緑内障の分子診断において重要なターゲットとなっている2)

  • MEK阻害薬の眼合併症(視神経膠腫・叢状神経線維腫)への適応拡大
  • 遺伝子治療の可能性
  • NF1関連緑内障に対する新規治療アプローチの開発

  1. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
  2. Prasov L, et al. Classification and genetic profile of early-onset and juvenile open-angle glaucoma. Ophthalmology. 2024.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます