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腫瘍・病理

眼瞼乳頭腫

眼瞼乳頭腫(eyelid papilloma)は、腫瘍血管を枝として腫瘍細胞が木の葉のように増殖する良性上皮性腫瘍である。扁平細胞乳頭腫あるいは単純乳頭腫とも呼ばれる。ヒトパピローマウイルス(HPV)が発症に関与し、多発することもある。

眼瞼皮膚に発生するものには潰瘍はなく、有茎性のこともある。群葉状に発育し、表面は角化し、血管に富んだ線維組織からなる。瞼縁に近いものは角化が少なく、赤味を帯びる。

眼瞼良性腫瘍の病理診断別頻度では乳頭腫は眼数6/64(9%)を占め、4番目に多い腫瘍である。HPVが発症に関与する場合があり、多発する傾向を示す症例もある。小児から成人いずれにも発生し、免疫抑制患者では多発・再発リスクが高い1)

HPVの関与については、結膜乳頭腫の検討からHPV 6型・11型が低リスク型として主に関与することが示されている1)。HPV 16型・18型は高リスク型であり、悪性転化との関連が指摘されている2)

眼瞼乳頭腫は発育形態により以下の2型に分類される。

  • 有茎性乳頭腫:細い血管茎を介し結膜面から成長するタイプ。最も多い。
  • 広基性乳頭腫:広基性に発育するタイプ。扁平上皮癌との鑑別を要する。
Q 眼瞼乳頭腫はうつる病気か?
A

HPVが発症に関与する場合があり、理論上は接触伝播の可能性がある。ただし通常の日常接触による眼瞼間での伝播リスクは低い。免疫抑制状態(臓器移植後・HIV感染など)では多発・再発リスクが高まることが報告されている。眼瞼に多発する病変や急速増大する病変では眼科を受診することを勧める。

有茎性および広基性の眼瞼乳頭腫(結膜・眼瞼面)と腫瘍内出血
有茎性および広基性の眼瞼乳頭腫(結膜・眼瞼面)と腫瘍内出血
Theotoka D, et al. Update on Diagnosis and Management of Conjunctival Papilloma. Eye Vis (Lond). 2019;6:18. Figure 4. PMCID: PMC6580461. DOI: 10.1186/s40662-019-0142-5. License: CC BY 4.0.
51歳男性の眼瞼・涙丘部に生じた有茎性および広基性の結膜乳頭腫で、眼瞼病変には自然発生的な腫瘍内出血がみられる(矢頭)。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う有茎性・広基性乳頭腫の臨床所見に対応する。
  • 眼瞼に腫瘤を自覚(異物感・整容的問題)
  • 腫瘤が大きくなると下垂感を伴うこともある

眼瞼乳頭腫の臨床所見は有茎性か広基性かによって異なる。

有茎性乳頭腫

ピンク色のカリフラワー状腫瘤:ピンク色で細かく分葉したカリフラワー状の腫瘤を形成する。

細い血管茎による付着:有茎性のため瞼結膜面への付着面積は見た目よりも少ない。群葉状に発育し、表面は角化、血管に富む線維組織からなる。瞼縁に近い病変は角化が少なく赤味を帯びる。

広基性乳頭腫

広基性の発育:腫瘍の基部が広く瞼結膜面に付着する。臨床的に扁平上皮癌との鑑別が困難な場合がある。

無茎性(sessile)病変:無茎性の乳頭腫は巨大乳頭結膜炎と類似した外観を呈することがあり、診断が困難になる3)

まれに悪性化することがあり、病変の急速増大・出血・潰瘍形成などは精密検査の適応となる。

Q 眼瞼乳頭腫は悪性化するのか?
A

まれに悪性化(扁平上皮癌)することが知られている。広基性の発育パターンや急速な増大、表面の出血・潰瘍形成、花火状腫瘍血管の出現などは悪性を疑う所見である。切除後の病理組織検査が確定診断に必須であり、定期的な経過観察も重要である。

眼瞼乳頭腫の主な原因はHPV感染である。

  • HPV 6型・11型:低リスク型HPV。結膜・眼瞼乳頭腫の大多数に関与する1)。良性乳頭腫の主因。
  • HPV 16型・18型:高リスク型HPV。眼表面への感染は頻度が低いが、悪性転化リスクが高い2)
  • 免疫抑制状態:臓器移植後・HIV感染・血液悪性腫瘍などでは多発・再発リスクが著しく増大する2)。免疫機能の低下によりHPVに対する宿主免疫が抑制されることが要因と考えられる。
  • 小児での発生:小児では角結膜乳頭腫と眼瞼乳頭腫が合併することがある1)。成人に比べ免疫応答の違いが乳頭腫の発生・経過に影響する可能性がある。

眼瞼乳頭腫の診断において最も重要なのは、有茎性か広基性かの評価である。

  • 有茎性(細い血管茎) → 良性を示唆
  • 広基性発育 → 扁平上皮癌との鑑別が必要
  • 切除検体の病理組織検査 → 確定診断に必須

無茎性(sessile)乳頭腫は外観が巨大乳頭結膜炎と類似し、臨床的に正確な診断が困難な場合がある3)。細隙灯顕微鏡による詳細な観察と病理組織検査の組み合わせが診断の鍵となる。

鑑別疾患鑑別のポイント
尋常性疣贅多発傾向、瞼縁に小結節状
脂漏性角化症褐色〜黒色、表面が角化した腫瘤
扁平上皮癌広基性発育、花火状腫瘍血管、潰瘍形成
巨大乳頭結膜炎無茎性乳頭腫と類似、アレルギー歴・コンタクトレンズ使用歴

切除後は必ず病理組織検査に提出する。特に広基性で急速増大する病変では悪性の可能性を念頭に置く。

Q 乳頭腫は生検が必要か?
A

切除検体は必ず病理組織検査に提出することが原則である。切除生検により確定診断が得られるとともに、まれに含まれる悪性成分(扁平上皮癌への悪性転化)を見逃さずに済む。特に広基性発育・急速増大・出血・潰瘍を伴う病変では悪性を積極的に疑い、早期の切除生検が推奨される。

標準術式:切除+焼灼止血+冷凍凝固

Section titled “標準術式:切除+焼灼止血+冷凍凝固”

眼瞼乳頭腫の第一選択治療は外科的切除である。単純切除のみでは再発しやすいため、以下の手順が標準的に行われる。

  1. 結膜面に付着する腫瘍根部を切除し焼灼止血する
  2. 切除面に冷凍凝固(freeze and thaw)を2セット追加して再発を予防する
  3. 切除検体は必ず病理組織検査に提出する

単純切除のみでは再発しやすい。冷凍凝固の追加により再発率を低減できる。

治療法適応備考
切除+焼灼止血+冷凍凝固全例(標準)腫瘍根部切除後に freeze and thaw 2セット
CO2レーザー蒸散多発例・再発例周囲正常組織の温存が可能2)
経口シメチジン補助療法H2受容体拮抗薬の免疫調節作用を利用3)
インターフェロンα-2b再発性乳頭腫結膜下注射が有効との報告あり4)

インターフェロンα-2b結膜下注射は、再発性・難治性の結膜乳頭腫に対して有効との報告がある4)。局所の抗ウイルス・免疫賦活効果によりHPV関連病変を縮小させると考えられる。

経口シメチジン(H2受容体拮抗薬)は、HPV関連皮膚病変に対して免疫調節作用を介した治療効果が報告されており、補助的に用いられることがある3)

HPVワクチン(4価ワクチン・ガーダシル等)によるHPV 6・11・16・18型への予防効果は、眼表面乳頭腫の予防への応用が検討されている5)

Q 手術後に再発しやすいか?
A

単純切除のみでは再発しやすいことが知られている。再発予防のために切除面に冷凍凝固(freeze and thaw)を2セット追加することが標準的な方法である。免疫抑制状態にある患者では特に再発リスクが高い。再発を繰り返す場合はインターフェロンα-2b結膜下注射などの追加治療も検討される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

眼瞼乳頭腫は腫瘍血管を枝として、腫瘍細胞が木の葉状に増殖する構造的特徴を持つ。群葉状の発育パターンは血管周囲への細胞増殖の結果生じる。表面の角化と血管に富む線維組織が組織学的な特徴である。

有茎性乳頭腫は結膜上皮が外向性に増殖した結果生じるのに対し、広基性乳頭腫は内向性増殖の傾向を示す。この発育形態の違いが臨床的な予後(良性・悪性の可能性)と相関する。

HPV 6型・11型は低リスク型として眼瞼・結膜乳頭腫の大多数に関与する1)。これらのウイルスが発現するE6・E7タンパクは宿主細胞の増殖制御に関与し、持続感染により腫瘍性増殖を促進する2)

一方、HPV 16型・18型は高リスク型であり、E6タンパクによるp53の分解とE7タンパクによるRbタンパクの不活化を通じて細胞の悪性転化を促進する2)。眼瞼乳頭腫がまれに扁平上皮癌に悪性転化する背景として、これら高リスク型HPVの関与が疑われる。

宿主の細胞性免疫はHPV感染の制御に重要な役割を果たす。臓器移植後・HIV感染・血液悪性腫瘍などの免疫抑制状態では、HPVに対する免疫応答が低下し、乳頭腫の多発・再発・増大が生じやすくなる2)。免疫抑制患者における眼瞼乳頭腫の管理では、原疾患の治療と並行した定期的な眼科的評価が求められる。

HPVワクチンによる眼表面乳頭腫の予防

Section titled “HPVワクチンによる眼表面乳頭腫の予防”

HPVワクチン(特に4価ワクチン・9価ワクチン)がHPV 6・11型由来の眼瞼・結膜乳頭腫の予防に応用できる可能性が検討されている5)。子宮頸癌予防を目的に開発されたワクチンが眼科領域での乳頭腫発症予防にも効果を示す可能性があるが、眼科領域での大規模臨床試験はまだ確立されていない。

シドフォビル(cidofovir)はHPV関連病変への応用が検討される抗ウイルス薬である。眼表面乳頭腫に対する標準治療ではなく、既存治療で制御困難な症例に対する研究段階の選択肢にとどまる6)

光線力学療法が難治性乳頭腫に対して少数例で報告されている6)。HPV関連上皮性腫瘍に対するPDTの有効性については、引き続き研究が進められている段階である。


  1. Sjö NC, Heegaard S, Prause JU, et al. Human papillomavirus in conjunctival papilloma. Br J Ophthalmol. 2001;85(7):785-787.
  2. Chalkia AK, Bontzos G, Spandidos DA, et al. Human papillomavirus infection and ocular surface disease. Int J Oncol. 2019;54(5):1503-1510.
  3. Chang KL, Yeh SI. Sessile papilloma mimicking giant papillary conjunctivitis. Ophthalmology. 2020;127(4):448.
  4. Schechter BA, Rand WJ, Velazquez GE, et al. Treatment of conjunctival papillomata with topical interferon alfa-2b. Am J Ophthalmol. 2002;134(2):268-270.
  5. Yıldız ZÖ, Erdem E. Ocular papilloma and HPV vaccines: a review. Turk J Ophthalmol. 2022;52(3):206-210.
  6. Kaliki S, Arepalli S, Shields CL, et al. Update on diagnosis and management of conjunctival papilloma. Eye Vis (Lond). 2019;6:18. doi:10.1186/s40662-019-0142-5.

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