両眼視機能検査(Binocular Vision Testing)
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 両眼視機能検査とは
Section titled “1. 両眼視機能検査とは”両眼視は「右眼の視覚と左眼の視覚が大脳の視覚中枢で同時に認識される感覚」と定義される。この機能を客観的に評価するのが両眼視機能検査である。
両眼視機能の3要素
Section titled “両眼視機能の3要素”両眼視機能は以下の3要素から構成され、段階的な階層構造をもつ。
- 同時視(simultaneous perception):左右眼の視覚を同時に認識する機能。両眼視機能の基盤となる第1段階
- 融像(fusion):左右眼に投影された同質図形を重ね合わせ、1つの像として認識する機能(感覚性融像)。同時視が成立して初めて得られる第2段階
- 立体視(stereopsis):両眼視差を脳が検出し奥行きに換算する最高度の機能。同時視・融像が成立して初めて獲得できる第3段階
立体視は最も高度な両眼視機能であり、日常生活での奥行き知覚・空間認識を担う。
両眼視機能成立の条件
Section titled “両眼視機能成立の条件”両眼視機能が正常に成立するには、以下の5条件をすべて満たす必要がある。
- 視覚中枢(大脳)に両眼視細胞が存在する
- 両眼の視力が良好である
- 不等像視がない(網膜に映る対象の大きさに両眼で大きな差がない)
- 斜視がない
- 正常の網膜対応がある
これらの条件のいずれかが損なわれると、両眼視機能の一部または全体が障害される。斜視・弱視・不等視などが両眼視障害の主な原因となる。
両眼視機能検査の適応
Section titled “両眼視機能検査の適応”両眼視機能検査の主な適応を以下に示す。
- 斜視の術前・術後評価(両眼視機能の回復確認)
- 弱視の治療効果確認(遮閉治療・健眼遮閉の効果判定)
- 斜位の評価(小斜位の融像力確認)
- 融像訓練の適応判定・治療効果のモニタリング
- 小児の視機能スクリーニング(就学前検診等)
- 複視を訴える患者での網膜対応・同時視の評価
2. Worth 4灯試験
Section titled “2. Worth 4灯試験”
Worth 4灯試験(Worth four-light test)は、赤緑補色フィルターを利用して両眼を分離し、同時視・融像・網膜対応を検査する代表的な両眼視機能検査である12。
赤色と緑色は補色の関係にある。赤フィルターを通すと緑の視標は見えず、緑フィルターを通すと赤の視標は見えない。この性質を利用し、各眼を赤フィルター(右眼)と緑フィルター(左眼)で分離した状態で4つの灯(上:赤、左右:緑、下:白)を見せ、見え方を答えさせることで、同時視・融像・抑制・複視を判定する。
| 見え方 | 灯の数 | 判定 |
|---|---|---|
| 赤2灯+緑2灯(白は赤または緑に見える)が正しく見える | 4灯 | 正常・融像あり |
| 赤2灯のみ見える | 2灯(赤) | 左眼(緑フィルター側)の抑制 |
| 緑2灯のみ見える | 2灯(緑) | 右眼(赤フィルター側)の抑制 |
| 2列に灯が見える | 5灯 | 複視(同時視なし・融像なし) |
実施上の注意点
Section titled “実施上の注意点”- 近見(33cm)と遠見(3〜6m)の両方で施行することが望ましい。近見・遠見で結果が異なる場合は、眼位偏位の距離依存性や融像力の差を反映している可能性がある
- 網膜対応の判定にあたっては、事前に眼位(cover test等)を把握しておくことが重要である
- 小児に対しては、同様の原理で灯数を3つに減らしたベレンス3灯検査が使用される
- 抑制ゾーンのサイズ・深さを定量評価する目的では、近年タブレット型デバイスを用いた拡張検査法(W4DApp等)も開発されている1
- 赤緑色覚異常を有する患者でも、Worth4灯試験は両眼視機能の判定に有用であることが報告されている2
3. Bagolini線条レンズ検査
Section titled “3. Bagolini線条レンズ検査”
Bagolini線条レンズ検査(Bagolini striated glass test)は、日常視に最も近い状態で両眼視機能を評価できる検査である3。
Bagolini線条眼鏡は、1対の平面レンズ(ほぼ光学的に無力なガラス)に細かい平行線の傷をつけたものである。このレンズをかけてペンライトなどの点光源を見ると、レンズの線条(傷)と直角方向に1本の線条が光源から発して見える。右眼用と左眼用のレンズは線条の方向が直角になるように配置されており、正常な両眼視では2本の線条がペンライトを中心に直交して見える。
- 2本の直交する線条が光源を中心に見える → 正常対応・融像あり(両眼視機能正常)
- 1本の線条のみ見える → 抑制あり(一眼の情報が抑制されている)
- 2本の線条がずれている(交差点がペンライトの位置と一致しない) → 複視(網膜対応異常または斜視による複視)
特性と臨床的意義
Section titled “特性と臨床的意義”Bagolini線条レンズ検査の最大の特徴は、日常視に最も近い自然な状態で検査できる点にある。両眼分離度が弱いため抑制がかかりやすく(自然な状態と同様に抑制機構が働くため)、異常対応(異常網膜対応)の検出に優れている4。異常網膜対応は小角度(4〜5度=8〜10プリズム)の斜視で生じやすいことが、神経解剖学的検討と臨床例の解析から示されている4。
一方で、抑制の検出感度は他の検査(Worth4灯試験・大型弱視鏡)より低く、軽度の抑制は検出されにくい点に注意する。Bagolini線条眼鏡を応用した3灯式の改良法(starlight test)も両眼視野スクリーニングに用いられている3。
4. 残像試験(Bielschowsky after image test)
Section titled “4. 残像試験(Bielschowsky after image test)”残像試験(Bielschowsky残像試験)は、各眼の中心窩に残像を独立して形成し、その空間的関係から網膜対応・同時視・抑制を評価する検査である。
中心固視が保たれていれば、眼位に関わらず網膜対応・同時視を評価できることが特徴である。
検査手順は以下のとおりである。
- 斜視眼を遮閉し、固視眼(主眼)に横方向のフラッシュ光(横線状)を当てる
- 固視眼を遮閉し、斜視眼に縦方向のフラッシュ光(縦線状)を当てる
- 両眼を開放し、残像の見え方を被検者に答えさせる
| 残像の見え方 | 判定 |
|---|---|
| 縦残像と横残像が中心で直交している(十字形に交差) | 正常対応(Hering-Bielschowsky test陽性) |
| 縦残像と横残像が分離している(交差しない) | 異常対応(異常網膜対応) |
| 片方の残像しか見えない | 抑制(非固視眼の中心窩が抑制されている) |
臨床的意義と注意点
Section titled “臨床的意義と注意点”残像試験は両眼分離度が最も強い検査であり、抑制の検出感度が最も高い。斜視の手術適応判定・術後評価において、異常対応の有無を確認する目的で用いられる。
ただし、中心固視が前提条件であるため、偏心固視(central fixation が失われている状態)がある例では判定できない。
5. 各検査法の比較と選択
Section titled “5. 各検査法の比較と選択”複数の両眼視機能検査はそれぞれ特性が異なり、検査目的・臨床状況に応じた使い分けが重要である。
各検査の特性比較
Section titled “各検査の特性比較”| 検査 | 日常視との距離 | 抑制検出 | 異常対応検出 | 融像のしやすさ |
|---|---|---|---|---|
| Bagolini線条レンズ | 最も近い | 検出しにくい | 出やすい | しやすい |
| Worth 4灯試験 | 中程度 | 中程度 | 中程度 | 中程度 |
| 大型弱視鏡(synoptophore) | 遠い | 検出しやすい | 出にくい | しにくい |
| 残像試験 | 最も遠い | 最も検出しやすい | 出にくい | 最もしにくい |
選択の考え方
Section titled “選択の考え方”両眼分離が強い検査ほど深い(真の)異常対応が検出されやすく、日常視に近い検査ほど実際の見え方に即した評価ができる。
- 日常生活での実態を把握したい場合 → Bagolini線条レンズ
- 抑制・複視の有無を確実に確認したい場合 → Worth4灯試験・大型弱視鏡
- 異常対応の最終確認・術前評価 → 残像試験
- 小児スクリーニング・簡易確認 → Worth4灯試験(ベレンス3灯)
これらの検査は単独で用いるのではなく、複数を組み合わせて総合的に評価するのが原則である。
Bagolini線条レンズ検査が日常視に最も近い状態で両眼視機能を評価できる。このレンズはほぼ光学的に無力な平面ガラスに細かな傷をつけたものであり、装用しても視野や視力に大きな変化を与えない。そのため日常の両眼融像状態に近い条件で網膜対応と融像を評価でき、異常対応の検出に優れる。一方で両眼分離度が弱いため、軽度の抑制は検出されにくい点に注意が必要である。
6. 両眼視機能の発達と臨床的意義
Section titled “6. 両眼視機能の発達と臨床的意義”発達の時系列
Section titled “発達の時系列”両眼視機能は生後早期から急速に発達する。VEP(視覚誘発電位)を用いた研究では、以下の発達パターンが確認されている。
- 生後2カ月まで:両眼視が出現する
- 生後3〜5カ月:融像が始まる
- 生後20週まで:75%以上の子どもで立体視が検出される5
- 生後6〜7カ月:立体視の閾値(stereoacuity)はほぼ成人レベルに到達する5
この時期に斜視・弱視・不等視などが生じると、両眼視機能の正常な発達が妨げられる。感受性期(臨界期)内に適切な治療介入を行うことで、両眼視機能の回復が期待できる。
弱視・斜視治療との関連
Section titled “弱視・斜視治療との関連”弱視治療の最終目標は視力の回復だけでなく、両眼視機能の回復にある。
- 健眼遮閉療法(遮閉治療):弱視眼の視力回復を促すが、遮閉中は両眼視が成立しないため、治療終了後に両眼視機能検査で融像・立体視の状態を確認する
- 斜視手術前評価:術前の両眼視機能検査(Worth4灯・残像試験など)で異常対応や抑制の状態を評価し、術後に両眼視機能が回復する可能性を判断する
- 斜視手術後評価:術後の両眼視機能検査で眼位矯正後の同時視・融像・立体視の回復状態を確認する
- 斜位の管理:小斜位では融像力が保たれている場合が多いが、疲労・老化で融像力が低下すると症状が出現することがあるため、融像力の定量評価が有用である
立体視の評価との使い分け
Section titled “立体視の評価との使い分け”Worth4灯試験・Bagolini線条レンズ・残像試験は、主に同時視・融像・網膜対応・抑制の評価に用いる。これらの検査で同時視・融像が確認できた場合に、さらに立体視検査(Titmus fly test、Lang stereotest、TNO test等)で立体視の有無・深度を定量評価する流れが一般的である。
立体視は両眼視機能の感覚・運動両面に依存し、斜視の有無や程度を反映する高感度な指標として臨床的に有用である6。立体視の詳細な評価については、立体視検査(Stereopsis Testing)の項を参照されたい。
7. 参考文献
Section titled “7. 参考文献”Footnotes
Section titled “Footnotes”-
Webber AL, Mandall TR, Molloy DT, Lister LJ, Birch EE. Worth 4 Dot App for Determining Size and Depth of Suppression. Transl Vis Sci Technol. 2020;9(2):3. PMID: 32818097. ↩ ↩2
-
Bak E, Yang HK, Hwang JM. Validity of the Worth 4 Dot Test in Patients with Red-Green Color Vision Defect. Optom Vis Sci. 2017;94(5):626-629. PMID: 28234793. ↩ ↩2
-
Hirai T, Arai M, Ito Y, Sato M. Modified Bagolini striated glass test: clinical applications of starlight test in binocular visual field screening. Br J Ophthalmol. 1998;82(11):1288-1293. PMID: 9924335. ↩ ↩2
-
Wong AM, Lueder GT, Burkhalter A, Tychsen L. Anomalous retinal correspondence: neuroanatomic mechanism in strabismic monkeys and clinical findings in strabismic children. J AAPOS. 2000;4(3):168-174. PMID: 10849394. ↩ ↩2
-
Birch E, Petrig B. FPL and VEP measures of fusion, stereopsis and stereoacuity in normal infants. Vision Res. 1996;36(9):1321-1327. PMID: 8711910. ↩ ↩2
-
Read JC. Stereo vision and strabismus. Eye (Lond). 2015;29(2):214-224. PMID: 25475234. ↩