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その他

大型弱視鏡(シノプトフォア)検査(Synoptophore Examination)

1. 大型弱視鏡(シノプトフォア)検査とは

Section titled “1. 大型弱視鏡(シノプトフォア)検査とは”

大型弱視鏡シノプトフォア)は、斜視弱視眼球運動障害を対象に、主に両眼機能検査と訓練に用いる機器である。光学的遠見(通常6m相当)に設定された状態で、左右眼を完全に分離して両眼視機能を詳細に評価できる点が最大の特徴である。

大型弱視鏡検査の主な目的を以下に示す。

  • 同時視・融像・立体視の評価:両眼視の3段階の機能をそれぞれ定量的に評価する
  • 斜視角の定量:9方向の眼位定量が可能であり、他覚的斜視角と自覚的斜視角の両方を計測する
  • 網膜対応の検査:正常網膜対応か異常網膜対応かを判定する
  • 融像域の測定:輻輳・開散方向の融像域の幅を定量する
  • 回旋偏位の定量:回旋成分を有する斜視(上斜筋麻痺など)の評価に活用する
  • 弱視訓練・斜視訓練:プレオプトカバーを用いた弱視訓練が可能である
Q 大型弱視鏡(シノプトフォア)はどのような検査に用いるのか?
A

大型弱視鏡斜視弱視眼球運動障害の精密評価と訓練に用いる機器である。左右眼を完全に分離した状態で同時視・融像・立体視の評価、斜視角の9方向定量、網膜対応検査(正常対応・異常対応の判定)、融像域の測定、回旋偏位の定量が可能である。さらに弱視訓練やプレオプトカバーによる斜視訓練にも使用する。日常診療では斜視の術前・術後評価、両眼視機能の定量評価、融像訓練(輻輳不全など)に広く活用される。

大型弱視鏡(シノプトフォア)の外観(Walter Green型、約1930年)
大型弱視鏡(シノプトフォア)の外観(Walter Green型、約1930年)
Wellcome Collection. Synoptophore with wooden base. Wikimedia Commons. c.1930. Figure 1. Source ID: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Synoptophore_with_wooden_base._Wellcome_L0011202.jpg. License: CC BY 4.0.
左右対称に張り出した2本のアームの先端にそれぞれ接眼筒とスライド室を備え、中央の回転台で水平・垂直・回旋方向の角度を読み取る構造が示されている。本文「機器の構造と原理」の項で扱う照明室・スライド室・反射鏡・接眼部からなる鏡筒構造に対応する。

大型弱視鏡は、照明室・スライド室・反射鏡・接眼部からなる鏡筒と角度表示部で構成されている。被検者に鏡筒を覗いてもらい、左右眼分離の状態で検査を行う。視標スライドは鏡筒先端のスライド室に挿入でき、光学的遠見として呈示される。

  • 高い両眼分離効果:左右眼を完全に分離した状態で検査を行う。日常視では得られない強い両眼分離が、抑制や異常対応の検出を容易にする
  • 9方向の眼位設定:第一眼位だけでなく8方向の注視位でも斜視角を測定でき、麻痺性斜視や制限性斜視の評価に対応する
  • スライド交換式:スライドを交換することで同時視・融像・立体視網膜対応など各種検査に対応する
  • 光学的遠見(6m相当):調節の影響を排除した状態での検査が可能である
  • 自覚的検査と他覚的検査の両立角膜反射を用いた他覚的測定と被検者の申告による自覚的測定の両方が可能である

左右に異なる図形(例:ライオンと鳥かご)のスライドを用いる。両方の図形を同時に認識できるかを評価し、抑制の有無を確認する。両眼で異なる図形を同時に知覚できれば同時視ありと判定する。片眼が抑制されている場合は一方の図形しか見えない。

左右に同じ図形のスライドを用いる。両眼像を重ね合わせて1つに見える角度の範囲(融像域)を測定する。鏡筒の内転・外転量から融像域の幅を定量する。間欠性外斜視児では正常児と比較して輻輳融像幅が低下することが報告されている1。なお、シノプトフォアとプリズムバーで測定した融像域は一致しないことがあり(特に輻輳側でシノプトフォアが大きい値を示す傾向がある)、両者を相互に置き換えて使用することは推奨されない2

融像域の正常値は以下のとおりである。

  • 外転(輻輳)方向:5〜10°
  • 内転(開散)方向:2〜5°

左右に視差のある図形スライドを用いる。立体的に認識できるかを評価し、立体視機能の有無を確認する。

大型弱視鏡による網膜対応検査の要点は、他覚的斜視角と自覚的斜視角が一致するかどうかにある。同時視用スライド(左右で形が異なる図形)を用いて検査する。

判定他覚的斜視自覚的斜視解釈
正常対応=自覚的斜視=他覚的斜視正常な網膜対応
調和性異常対応≠自覚的斜視0°(一致感あり)異常対応が確立
非調和性異常対応≠自覚的斜視0°以外過渡的な異常対応

一般に両眼分離が強い検査法ほど深い異常対応が検出されやすい。大型弱視鏡の強い両眼分離により、日常視に近い検査では検出できない異常対応が明らかになることがある。シノプトフォアの照度を左右で段階的に変化させる手技は、Worth 4 dotテストよりも感度の高い抑制深度の定量に応用できることが報告されている3

他覚的斜視角と自覚的斜視角を以下の方法で求める。

  • 他覚的斜視角膜反射が中心窩位置に来るように鏡筒を動かしたときの角度。検者が外から角膜反射を観察して決定する
  • 自覚的斜視:被検者が左右の視標を重なって1つに見えると感じるときの角度。被検者の申告に基づく
Q 網膜対応の正常・異常はどのように判定するのか?
A

大型弱視鏡で他覚的斜視角と自覚的斜視角を別々に計測し、両者を比較して判定する。他覚的斜視角は検者が角膜反射を観察して決定し、自覚的斜視角は被検者が視標を1つに重なると感じる角度として申告される。両者が一致(差が0)すれば正常対応と判定する。一致しない場合は異常対応であり、自覚的斜視角が0°(斜視眼の偏位があるのに融像感がある)であれば調和性異常対応、0°以外であれば非調和性異常対応と判定する。

シノプトフォア検査用スライドの例:第1度(同時視)と第2度(融像)スライドおよびその知覚パターン
シノプトフォア検査用スライドの例:第1度(同時視)と第2度(融像)スライドおよびその知覚パターン
Barouch FC, Fielder AR, Elston JS, et al. Refining Clinical Quantification of Depth of Suppression in Amblyopia through Synoptophore Measurement. Life. 2023;13(9):1900. Figure 1. PMCID: PMC10532546. License: CC BY 4.0.
パネルAは第1度スライド(同時視用:兵士と矢印の異質図形)を左右眼に呈示し、融像・弱視眼抑制・部分抑制の3種の知覚パターンを示す。パネルBは第2度スライド(融像用:花を持つウサギと尾のあるウサギの同質図形)とその知覚パターンを示す。本文「スライドの選択」の項で扱う同時視用・融像用スライドの図形特徴と用途に対応する。

スライドは2枚1組の検査用スライドとして複数種類が用意されている。検査目的や被検者の年齢に応じて適切なスライドを選択することが重要である。

スライドの種類図形の特徴主な用途
同時視用スライド左右で異なる図形(異質図形)同時視検査・網膜対応検査
融像用スライド左右でほぼ同じ図形(同質図形・融像アローで差をつける)融像域測定
立体視用スライド左右で視差をつけた図形立体視検査
幼児用スライド動物・乗り物などの絵柄低年齢児の検査

幼児用スライドは動物や乗り物などの親しみやすい絵柄が用いられており、就学前の小児でも検査を受け入れやすい設計となっている。同時視用・融像用・立体視用にも幼児用バリエーションがある。

5. 他の両眼視機能検査との比較

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両眼視機能検査にはいくつかの方法があり、両眼分離の強さと日常視との距離によって特性が異なる。

検査両眼分離日常視との距離抑制検出しやすさ
Bagolini線条レンズ弱い近い検出しにくい
Worth4灯試験中程度中程度中程度
大型弱視鏡強い遠い検出しやすい
残像試験最強最も遠い最も検出しやすい

一般に両眼分離が強い検査法ほど深い異常対応が検出されやすい。大型弱視鏡では日常視では抑制されているような異常対応が顕在化することがある。一方で、日常視とかけ離れた状況での結果であるため、実際の生活での両眼視機能とは乖離することも念頭に置く必要がある。

Bagolini線条レンズや Worth4灯試験は日常視に近い条件での検査であり、より実用的な両眼視機能を評価する。大型弱視鏡は精密定量評価や訓練に適しており、両者は相補的に活用する。

Q 大型弱視鏡と他の両眼視検査はどう使い分けるのか?
A

両眼分離の強さと日常視との距離によって使い分ける。Bagolini線条レンズは日常視に最も近い条件で抑制・異常対応の有無をスクリーニングするのに適する。Worth4灯試験は中程度の両眼分離で抑制の有無を確認するのに便利である。大型弱視鏡はこれらより強い両眼分離を持ち、斜視角の定量・融像域の測定・網膜対応の精密判定に優れる。残像試験は最も強い両眼分離で深い異常対応の検出に最適だが、施設要件が高い。臨床では複数の検査を組み合わせ、日常視に近い状態と大型弱視鏡での状態を比較することで両眼視機能の全体像を把握する。

大型弱視鏡検査の主な臨床適応を以下に示す。

  • 術前評価斜視の種類・斜視角(9方向)・網膜対応・融像域を術前に定量化する。手術計画の立案と予後予測に用いる
  • 術後評価:術後の眼位変化・融像域の改善・両眼視機能の回復を定量的に追跡する
  • 麻痺性斜視の評価:9方向の他覚的斜視角を測定し、Hessチャートと組み合わせることで障害筋を特定する
  • 弱視の機能評価弱視治療前後の両眼視機能(同時視・融像・立体視の有無と程度)を定量的に評価する
  • 融像機能の評価輻輳不全・開散不全などの融像障害を定量評価し、訓練の適応を判断する
  • 斜視手術の適応判断:異常対応が確立している症例では手術後の複視リスクを事前に評価できる
  • 弱視訓練:プレオプトカバー(ペナリゼーション)を用いた弱視訓練に活用する
  • 斜視訓練:融像域の拡大訓練、輻輳訓練を行う
  • 融像訓練輻輳不全症例に対して融像域の拡大を目的とした反復訓練を実施する

両眼視機能訓練と屈折矯正・プリズム療法を併用すると、内斜視および弱視を伴う小児で眼位矯正率と両眼視機能が単独療法より改善することが報告されている4。また弱視治療においても、融像機能の改善度が視力改善と相関することが示されている5

  1. Fu T, Wang J, Levin M, Su Q, Li D, Li J. Fusional vergence detected by prism bar and synoptophore in chinese childhood intermittent exotropia. J Ophthalmol. 2015;2015:987048. PMID: 25954512. PMCID: PMC4411439. doi:10.1155/2015/987048

  2. Haque S, Toor S, Buckley D. Are Horizontal Fusional Vergences Comparable When Measured Using a Prism Bar and Synoptophore? Br Ir Orthopt J. 2024;20(1):85-93. PMID: 38525409. PMCID: PMC10959145. doi:10.22599/bioj.326

  3. Plaumann MD, Roberts KL, Wei W, Han C, Ooi TL. Refining Clinical Quantification of Depth of Suppression in Amblyopia through Synoptophore Measurement. Life (Basel). 2023;13(9):1900. PMID: 37763304. PMCID: PMC10532546. doi:10.3390/life13091900

  4. Liang J, Pang S, Yan L, Zhu J. Efficacy of binocular vision training and Fresnel press-on prism on children with esotropia and amblyopia. Int Ophthalmol. 2023;43(2):583-588. PMID: 35945412. doi:10.1007/s10792-022-02461-9

  5. Lv Z, Tao Z, Hu G, Deng H. Significance of binocular fusion in enhancing visual acuity during amblyopia treatment. Transl Pediatr. 2024;13(10):1767-1776. PMID: 39524389. PMCID: PMC11543132. doi:10.21037/tp-24-125

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