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その他

立体視検査(Stereopsis Testing)

立体視(stereopsis)は、視覚対象が左右の網膜に投影されたときに生じる像の水平方向のずれ、すなわち両眼視差(binocular disparity)を脳が検出して奥行きに換算する機能である。融像を得て初めて成立する機能であり、中心窩融像によって精密な立体視が、周辺融像によっておおまかな立体視が可能となる。

正常な立体視がある場合には、10m先の8cmの奥行き差を見分けられるほど非常に精密な奥行き知覚が可能となる。

立体視検査は以下の目的で実施される。

  • 斜視の評価:手術前後の両眼視機能評価および治療効果の確認
  • 弱視の評価弱視治療による両眼視機能改善の定量的評価
  • 小児眼科スクリーニング:視機能発達の評価・異常の早期発見
  • 術後評価斜視矯正術・白内障術後の両眼視機能回復確認
  • 就職・適性検査:精密作業や自動車運転等に必要な立体視力の評価

立体視力(stereoacuity)は弧秒(arc second;秒)で表す。数値が小さいほど精密な立体視が可能であることを意味する。

  • 正常成人:40〜60秒程度
  • 高い立体視力:40秒以下
  • 粗い立体視:400〜800秒程度
  • 実用的な立体視の目安:200秒以下
Q 立体視がなくても日常生活に支障はないか?
A

立体視を獲得できていなくとも、世界が平面的に見えるわけでは決してなく、日常動作に大きな支障はない。単眼の奥行き手がかり(遠近法・陰影・動視差等)が奥行き知覚を補完するためである。ただし、精密作業・スポーツ・自動車運転など両眼視機能が求められる場面では不利になる場合がある。斜視弱視の治療によって立体視が改善することもあるため、定期的な評価が有用である。

ランダムドット立体視検査チャート(FInD Stereo):リング・ディップ刺激の深度チャートと閾値推定の心理測定関数
ランダムドット立体視検査チャート(FInD Stereo):リング・ディップ刺激の深度チャートと閾値推定の心理測定関数
Wilkins L, et al. FInD stereo: a rapid, sensitive stereoacuity test. PLoS One. 2024;19(6):e0305036. Figure 1. PMCID: PMC11161055. License: CC BY 4.0.
ランダムドット図形を用いたFInD立体視検査のA)リング刺激とB)ディップ刺激の深度チャート(易〜難の視差範囲を適応的に提示)および参加者応答から立体視閾値を推定するC)心理測定関数。本文「TNOテスト(補色分離法)」の項で扱うランダムドット法による立体視閾値測定の原理に対応する。

簡易検査:Two pencil法・輪通し法

Section titled “簡易検査:Two pencil法・輪通し法”

Two pencil法は2本の鉛筆の先をくっつけさせる極めて簡便な検査である。被検者の前方33cmで検者の持っている鉛筆の先に、被検者の持っている鉛筆の先を当てさせる。どちらの検査も両眼では可能で片眼では失敗するとき、実用的な両眼視機能があると判断する。

輪通し法は直径2〜3cmの輪を作り、検者が持ったうえで被検者に鍵型に曲げた針金を通させる。Two pencil法に比べ単眼性の手がかりに乏しく、視差の感知がより大きく要求される。

両検査の特徴:

  • 両眼を分離することなく行える自然な検査
  • 訓練によってパスすることが可能(厳密な立体視測定ではない)
  • 簡便で特殊器具が不要

Titmusステレオテスト(偏光眼鏡法)

Section titled “Titmusステレオテスト(偏光眼鏡法)”

偏光眼鏡を用いて左右眼に視差のある視標を見せることで、近見立体視機能を測定する検査である。視標は眼前40cmの距離に置く。

検査手順

  1. 被検者に偏光眼鏡を装着させる
  2. まず視差最大のfly(3,000秒)を提示し、羽を掴む動作ができるかを確認する
  3. flyが可能であれば3段階のanimals(400〜100秒)を検査する
  4. さらに9段階のcircles(800〜40秒)へ進む

Titmusステレオテストの視差範囲

視標視差範囲
Fly(フライ)約3,000秒
Animals400〜100秒
Circles800〜40秒

注意点:circlesおよびanimalsでは単眼性手がかりが残存するため、偽陽性が生じる可能性があることを念頭に置く必要がある。

Q Titmusステレオテストで偽陽性が出るのはなぜか?
A

Titmusステレオテストのcirclesとanimalsでは、偏光眼鏡なしでも見える単眼性手がかり(印刷のわずかな凹凸・陰影等)が残存することがある。このため、実際には立体視がない患者でも正解できる偽陽性が生じる。flyは視差が大きく(約3,000秒)、単眼性手がかりが少ないため偽陽性が出にくい。TNOテストはランダムドット法で単眼性手がかりがなく、偽陽性が少ない検査として補完的に使用される。

赤緑眼鏡を使用して両眼を分離し、ランダムドット図形(乱数点図形)で立体視を測定する検査である。

特徴:

  • 赤緑眼鏡(アナグリフ法)で両眼分離
  • ランダムドット図形により単眼性手がかりを完全に排除
  • 偽陽性が少ない
  • 測定範囲:480〜15秒
  • 両眼視の有無の確認に優れる

実際の物体の前後配置で立体視を測定する最も自然な方法である。

特徴:

  • 偏光や補色フィルターを使用しない
  • 両眼分離なしで測定
  • 実在する三次元物体を使用するため、最も生理的な立体視評価が可能
  • 近見用

円柱レンズのアレイを用いて両眼に異なる画像を提示する方法であり、眼鏡不要で立体視の有無を評価できる。

特徴:

  • 眼鏡(偏光・補色)不要
  • 主に乳幼児・小児のスクリーニングに使用
  • 検査への協力度が低い幼児でも適用可能
  • 定量性よりも立体視の「有無」の確認に適している

各検査法の比較

検査法両眼分離法単眼性手がかり測定範囲主な対象年齢
Two pencil法なしあり定量不可すべて
輪通し法なし少ない定量不可すべて
Titmusステレオテスト偏光眼鏡あり(circle/animal)3,000〜40秒2歳以上
TNOテスト赤緑眼鏡なし480〜15秒学童以上
Frisby testなし少ない近見範囲すべて
Lang Stereotest円柱回折少ない粗い定量のみ乳幼児〜

3. 年齢別の検査選択と立体視の発達

Section titled “3. 年齢別の検査選択と立体視の発達”

視覚誘発電位VEP)を使った研究では、生後2カ月までに両眼視が存在し、生後3〜5カ月までに融像が始まる。立体視が検出されるのも同じ年齢範囲(生後3〜5カ月)である。遅くとも生後20週には75%以上の子どもで立体視が検出される。

ランダムドットカードを使った研究では、生後1年5カ月で立体視力が60秒に達するとの報告もあるが、概ね4歳頃に60秒の立体視力に達すると考えてよい。

立体視の発達に関する主要な時期:

  • 生後2カ月:両眼視の成立
  • 生後3〜5カ月:融像・立体視の開始
  • 生後20週(約5カ月):75%以上の子どもで立体視検出可能
  • 4歳頃:立体視力が60秒程度に到達
年齢推奨される検査
乳幼児(〜2歳)Lang Stereotest、行動観察
幼児(2〜4歳)Titmus fly、Lang Stereotest
学童以上Titmus全項目、TNOテスト、Frisby test
成人すべての検査(目的に応じて選択)

乳幼児期は協力度が低いため、眼鏡不要のLang Stereotestや行動観察が実施しやすい。幼児期はTitmus flyの「羽を掴む動作」が遊びとして実施できる。学童以上になればTNOテストのような精密測定が可能となる。

年齢に応じた検査選択の留意点を以下に示す。

  • 3歳未満では定量的検査より立体視「有無」の確認を優先する
  • 偏光眼鏡(Titmus)は幼児では装着協力が得られにくい場合がある
  • Lang Stereotestは検査が短時間で終わるため小児に適している
  • 成人でも目的(スクリーニング・精密評価・適性検査)に応じて検査を選択する

視力立体視力(stereoacuity)には何らかの関連があるが、弱視があってもかなり良好な立体視力を示す患者は多い。視力がある値以下に低下すると立体視力も急激に低下する。

NDフィルターで片眼視力を低下させた実験データ:

この関係から、片眼の中等度弱視視力0.2〜0.3程度)があっても立体視は保たれる可能性がある。ただし高精細な立体視力(40〜60秒)は障害されやすく、粗い立体視(数百秒レベル)のみ保たれる場合もある。

弱視では立体視が障害されやすいが、弱視治療(健眼遮閉・光学矯正等)により立体視が改善する可能性がある。

立体視障害が起こりやすい弱視の種類:

  • 斜視弱視:両眼の眼位ずれにより対応点が確立されず、立体視が著しく障害される
  • 不同視弱視:片眼の視力低下により立体視が低下するが、弱視眼の視力改善により回復することがある
  • 形態覚遮断弱視:先天性白内障等で長期間視覚が遮断された場合、立体視の回復が困難なことがある
Q 弱視があっても立体視は保たれるか?
A

弱視のタイプと程度によって異なる。片眼視力が0.3程度までは立体視力が正常範囲に保たれることが多い。斜視弱視では眼位ずれのため立体視が著明に障害されやすい。不同視弱視では弱視眼の視力が0.3以上に改善することで立体視が回復する場合がある。弱視治療(健眼遮閉・プリズム・手術等)後の立体視評価は治療効果の重要な指標となる。

両眼分離の程度と単眼性手がかり

Section titled “両眼分離の程度と単眼性手がかり”

立体視検査において「偽陽性を防ぐ」ためには、単眼性手がかりの排除が重要である。両眼分離の強さと単眼性手がかりの少なさで各検査を比較すると、以下のように整理できる。

単眼性手がかりが多い(偽陽性リスクが高い)方向へ:

  • Two pencil法 → Frisby test → Lang Stereotest → Titmusステレオテスト(circle/animal) → TNOテスト(最も少ない)

臨床での選択指針

  • スクリーニング目的(乳幼児):Lang Stereotest、行動観察
  • 定性評価(立体視の有無):Titmus fly、Lang Stereotest
  • 定量評価(立体視力の精密測定):TNOテスト、Titmus circles
  • 偽陽性を避けたい場合:TNOテスト(ランダムドット法)
  • 眼鏡装着が困難な場合:Lang Stereotest、Frisby test

多くの臨床的立体視検査は近見(30〜40cm)で実施される。これは検査器具の操作上の利便性によるが、日常生活での立体視(遠見含む)を完全に反映するわけではない。

  • Titmusステレオテスト:近見(40cm)
  • TNOテスト:近見(40cm前後)
  • Frisby test:近見〜中距離(調整可能)
  • Two pencil法:近見(33cm)

遠見立体視の評価が必要な場合(職業上の適性検査等)は、遠見専用の立体視検査(Howard-Dolman装置等)を使用する。

6. 立体視の神経機構と臨床への応用

Section titled “6. 立体視の神経機構と臨床への応用”

立体視の処理は視覚野(V1野)から始まり、V2・V3・V4・MT野に及ぶ広範な視覚処理系が関与する。

主な処理経路:

  • 両眼視差の検出:一次視覚野(V1)で左右眼からの入力が統合され、視差に応じた応答を示す双眼ニューロンが機能する
  • 奥行きへの換算:V2野・V4野・MT野(V5)での処理を経て、視差情報が奥行き知覚として意識化される
  • 腹側路(What経路):物体の形・色の認識に関与
  • 背側路(Where経路):物体の位置・運動の処理に関与し、立体視は主にこの経路で処理される

立体視は融像(両眼の像を一つに合わせる機能)を前提とする。融像には以下の2種類がある。

  • 中心窩融像中心窩付近の精密な融像。精密な立体視(数十秒レベル)の基盤
  • 周辺融像:周辺網膜での融像。粗い立体視(数百秒レベル)でも維持される

斜視弱視では融像が障害されるため立体視も障害される。斜視手術後に融像機能が改善することで立体視が回復することがある。

立体視検査は弱視斜視のスクリーニングに有用だが、以下の限界に注意が必要である。

  • 単独の立体視検査のみで弱視斜視を確定診断することはできない
  • 立体視が良好でも、微小斜視(monofixation syndrome)が存在する場合がある
  • 立体視が不良でも、視力・眼位が正常な場合もある(立体視のみが選択的に障害される例)
  • 乳幼児では検査への理解・協力が得られにくく、偽陰性が生じやすい

立体視検査の結果は視力検査・眼位検査・眼球運動検査と組み合わせて総合的に判断する。

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