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網膜・硝子体

脳回転状萎縮

脳回転状萎縮(Gyrate Atrophy of the Choroid and Retina; GACR)は、オルニチンアミノトランスフェラーゼ(OAT)の欠損を基盤とする代謝性網膜ジストロフィーである。OATはビタミンB6(ピリドキサールリン酸; PLP)を補酵素とし、オルニチンをグルタミン酸セミアルデヒドに変換する酵素である。この欠損により血漿オルニチンが正常の10〜20倍に上昇し、脈絡膜網膜の進行性萎縮が生じる。

疫学

世界発生率:約1:1,500,000〜1:2,770,0004, 5)

フィンランド:創始者効果により1:50,000と高頻度5)

原因遺伝子

OAT遺伝子:染色体10q26.13に位置し、439アミノ酸をコード5)

既知変異:ClinVarに44のlikely pathogenicと82のpathogenic変異が登録5)

遺伝形式

常染色体潜性遺伝:両親からの変異アレルが必要

キャリア:ヘテロ接合キャリアでも軽度の表現型を示すことがある4)

OAT遺伝子には多数の病原性変異が報告されているが、遺伝子型と表現型の相関は未確立である5)。ビタミンB6反応性を示す患者の割合は、推定5%から系統的レビューで30%まで幅があると報告されている5)

Q 脳回転状萎縮は遺伝しますか?
A

常染色体潜性遺伝のため、両親がともに保因者の場合、子への発症確率は25%である。ヘテロ接合キャリアはOAT mRNAが正常の46%程度に低下し、軽度の表現型を示すことがある4)。遺伝が心配な場合は遺伝カウンセリングを受けることが望ましい。

症状の経過を年代別に示す。

年代主な症状
小児期後半夜盲・高度近視
10〜20代視野狭窄・白内障
40代以降黄斑障害・失明
  • 夜盲:最初に現れる自覚症状で、小児期後半(10歳頃まで)に発症することが多い。
  • 高度近視:球面等価屈折度の平均は−8.96Dと報告されており、他の遺伝性網膜疾患と比較して著しく高度な近視を呈する5)
  • 視野狭窄:周辺部萎縮の進行に伴い輪状暗点・視野狭窄が出現する。
  • 視力低下黄斑部への病変進行や白内障により生じる。後嚢下白内障は20代までにほぼ全患者に出現する。

初期には網膜の中間周辺部から遠周辺部にかけて、境界鮮明な円形〜楕円形の脈絡網膜萎縮斑が散在性に出現する。これが「脳回転状」の外観の由来である。Takki分類によりStage I〜IVに病期が分類される7)

20代頃から個々の萎縮斑が拡大・融合し、扇立て状の境界(scalloped border)を呈しながら後極部へと進行する。網膜色素上皮RPE)と脈絡毛細管板の両者が障害される。

foveoschisis(黄斑部網膜分離)は本疾患の重要な合併症である1, 6, 7)フルオレセイン蛍光造影では漏出を示さない点がCMEと異なる。

Guan らは6歳女児の症例でビタミンB6療法開始後に中心窩厚が645μmから554μmへ改善したことを報告した6)。ビタミンB6によるfoveoschisis改善が示唆される症例である。

Jenaらは3人兄弟を対象とした5年間の超広角眼底撮影(UWFI)追跡で、中心窩厚の変動とStage別の萎縮進行を記録した7)

  • 認知機能障害:軽度の認知機能障害とMRI上の脳萎縮が報告されている。
  • クレアチン欠乏:脳・筋における二次的なクレアチン欠乏が生じ得る5)。神経症状は全患者の10%未満にとどまる5)
  • チン小帯脆弱水晶体を支えるチン小帯が脆弱化し、偽水晶体動揺を生じることがある1)

網膜色素変性RP)との誤診例が報告されており1)、血漿オルニチン測定が確定診断に不可欠である(診断と検査方法参照)。

Q 病気の進行はどの程度早いですか?
A

網膜電図の振幅は半減期約16年で低下するとされる。Jenaらは5年間のUWFI追跡で萎縮の進行を記録しており7)、個人差はあるが概して緩徐に進行する。食事療法への早期介入が進行を遅らせる可能性がある。

OAT遺伝子(10q26.13)の両アレルに病原性変異が生じることで発症する。OATはPLP(ピリドキサールリン酸、ビタミンB6の活性型)依存性酵素であるため、一部の変異ではビタミンB6投与によりOAT活性が回復する。

報告されている主な変異例を以下に示す。

  • c.425-1G>A(スプライスサイト変異):ビタミンB6反応性を示した症例で同定された3)
  • c.1186C>T / c.748C>T:ヘテロ接合キャリアで軽度表現型を呈した症例4)
  • c.251C>T / c.648+2T>G:foveoschisisを合併した小児例6)
  • c.991C>T:新生児期に高アンモニア血症として発症した症例8)

ヘテロ接合キャリアではOAT mRNAが正常の46%程度まで低下し、軽度表現型を示すことがある4)。非センスmRNA依存性分解(NMD)がGACR発症機序の一因となる可能性が指摘されている4)

血漿オルニチン値は診断と治療効果モニタリングの指標となる。

状態オルニチン値
正常25〜115 μM
典型GA400〜1500 μM
新生児期低値→高値

GA患者の実測値として、1463.2μM3)、1180μM6)、1063nmol/mL1)などが報告されている。

OATの生理的機能は年齢により異なる点が重要である。

  • 新生児期:腸管においてOATはオルニチン合成方向に働く。欠損により低オルニチン血症と高アンモニア血症を生じる8)
  • 乳児期以降:OATはオルニチン分解方向に機能する。欠損によりオルニチンが蓄積し、GA特有の高オルニチン血症となる。

GA診断の核心は血漿オルニチンの著明な上昇(正常の10〜20倍)の確認である。夜盲・高度近視・特徴的な周辺部萎縮斑を有する患者では必ずアミノ酸分析を実施する。

  • 血漿アミノ酸分析:血漿オルニチンの高度上昇が診断の基本。正常値の10〜20倍(400〜1500μM以上)が特徴的。
  • 眼底検査:周辺部から後極へ進行する境界鮮明な萎縮斑を確認する。
  • 超広角眼底撮影(UWFI):周辺部病変の全体像を描出し、進行モニタリングに有用である7)
  • 光干渉断層計OCT:foveoschisisの検出と中心窩厚のモニタリングに用いる6)
  • 網膜電図ERG:全視野網膜電図で桿体・錐体機能の低下を定量的に評価する。
  • 遺伝子解析(WES/WGS):OAT遺伝子の病原性変異を同定し確定診断に至る3, 4)
疾患鑑別点
コロイデレミアRPE色素なし・X連鎖
網膜色素変性骨小体様色素沈着
敷石状変性後極部に及ばず

血漿オルニチンの測定がGAとこれら疾患を鑑別する最重要検査である。RPとの誤診例も報告されており1)、周辺部萎縮斑を呈する患者では必ずオルニチン値を確認する。

Q 網膜色素変性とどう区別しますか?
A

血漿オルニチン測定が決め手となる。GAでは正常の10〜20倍の著明な高オルニチン血症を示す一方、RPではオルニチン値は正常である1)。眼底所見では骨小体様色素沈着がRPに特徴的であり、GAでは境界鮮明な萎縮斑が優位に認められる。

GAに対する治療は、血漿オルニチンを低下させることで網膜変性の進行を遅らせることを目標とする。

食事療法

低蛋白・アルギニン制限食:オルニチンの前駆体であるアルギニンの摂取を制限し、血漿オルニチンを低下させる。

コンプライアンス:長期継続が困難なことが多い6, 7)。管理栄養士による継続的支援が必要。

ビタミンB6

投与量:B6反応性例では高用量ビタミンB6(例:500mg/日)の投与でオルニチン低下・foveoschisis改善が報告されている6)

反応率:5〜30%と幅がある5)。変異の種類により規定される。

クレアチン補充

目的:OAT欠損によりAGATが阻害され、脳・筋における二次的クレアチン欠乏が生じる5)

効果:クレアチン補充により全身合併症の是正を図る。

  • アルギニン制限食(低蛋白食):オルニチン前駆体のアルギニンを制限する。長期継続により血漿オルニチンが低下し、網膜変性の進行遅延が期待される。コンプライアンスの維持が最大の課題である6, 7)
  • L-リジン10〜15g/日:アルギニンとトランスポーターを競合するL-リジンの投与により、オルニチンを21〜31%低下させると報告されている5)

ビタミンB6(ピリドキシン)はOATの補酵素PLPの前駆体である。B6反応性変異を持つ患者ではビタミンB6投与によりOAT活性が回復する。

スプライスサイト変異c.425-1G>Aを持つ患者に低蛋白食とビタミンB6を3カ月間投与したところ、血漿オルニチンが44%低下した3)

c.251C>T/c.648+2T>G変異を持つ6歳女児に対して9カ月間の食事療法とビタミンB6投与を行い、オルニチン値が257.92μMから132.71μMへ低下した。さらにOCT中心窩厚が645μmから554μmへ改善した6)

全患者にビタミンB6反応性があるわけではない。反応率は5〜30%と幅があり5)、まず高用量ビタミンB6を数週間投与し血漿オルニチン値の変化で反応性を判定する。

  • 白内障手術:後嚢下白内障が進行した場合は手術適応となる。多くの場合20代後半に行われる。チン小帯の脆弱性に十分注意して手術を行う必要がある1, 5)
  • 炭酸脱水酵素阻害薬嚢胞様黄斑浮腫を合併した症例にアセタゾラミド250mg×3回/日の投与が用いられることがある1)
Q ビタミンB6は全員に効果がありますか?
A

反応率は推定5〜30%であり、すべての患者に効果があるわけではない5)。B6反応性はOAT変異の種類に依存し、スプライスサイト変異c.425-1G>Aのような変異では反応性が示された3)。診断後に数週間の投与試験を行い、血漿オルニチンの低下で反応性を判定する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

OATはオルニチンをグルタミン酸セミアルデヒドへ変換するPLP依存性酵素である。OAT欠損により血漿オルニチンが著明に蓄積するが、なぜ網膜脈絡膜が特異的に障害されるかについては複数の仮説が提唱されている5)

網膜が特異的に障害される理由を説明する仮説として以下が提唱されている5)

  • オルニチン直接毒性:高濃度オルニチンはRPE細胞に直接毒性を及ぼす。RPEはカチオン性アミノ酸トランスポーターCAT-1を介してオルニチンを取り込む。
  • プロリン欠乏:OAT欠損によりオルニチン→プロリン変換が障害される。RPEと光受容体間のプロリン代謝サイクルが阻害される。
  • ポリアミン異常:オルニチン蓄積によりポリアミン合成が変化し、細胞増殖や生存に影響する。
  • グルタチオン欠乏による酸化ストレス:OAT欠損がグルタチオン合成経路に影響し、酸化ストレスが増加する。
  • クレアチン欠乏:オルニチン蓄積がAGAT(アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ)を阻害し、クレアチン合成が低下する5)

高オルニチン血症を示すが眼症状を呈しないHHH症候群(高オルニチン血症・高アンモニア血症・ホモシトルリン尿症)の存在は、オルニチン毒性だけでは網膜障害を説明できないことを示唆している2)

OATノックアウトマウスでは新生児期に致死的な低オルニチン・高アンモニア血症を呈する8)。ヒトでも新生児期はOATが腸管でオルニチン合成方向に機能するため、OAT欠損により逆説的に低オルニチン・高アンモニア血症となる8)。乳児期以降にはOAT機能が分解方向へ転換するため、オルニチン蓄積によるGA典型病態へ移行する。

組織学的にはRPEが最初に障害される部位であり、その後、光受容体・脈絡毛細管板へと障害が波及する。周辺部から後極部への進行パターンはRPEと光受容体間の代謝的相互依存関係を反映していると考えられている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

現時点で最も有望な将来的治療法として遺伝子治療が注目されている。

Bergenらは、眼局所へのAAVベクターを用いた遺伝子治療がGACRに有望であると論じた。RPE65遺伝子治療(Luxturna®)の臨床成功が参考事例となっており、類似のアプローチがGACRに応用できると指摘されている2)

  • 眼局所AAV遺伝子治療RPEへの局所的なOAT遺伝子導入が検討されている2, 5)
  • 肝臓標的AAV遺伝子治療:肝臓でのOAT発現回復によりシステミックなオルニチン低下を目指す。マウスモデルで効果が確認されている2)
  • RPE細胞置換療法:iPSC(人工多能性幹細胞)由来RPE細胞による置換療法が研究されている2)
  • オプトジェネティクス:進行した症例での光感受性タンパクを用いた残存視機能の活用が検討されている5)

臨床応用には10年以上を要すると見込まれている2)

Q 遺伝子治療はいつ受けられますか?
A

現時点では研究段階であり、一般臨床での提供には至っていない。Bergenらはマウスモデルでの成果を踏まえ将来性を論じているが、ヒトへの臨床応用には10年以上を要すると見込まれている2)。現在の標準治療(食事療法・ビタミンB6・白内障手術)を継続しながら、研究の進展を待つことが求められる。


  1. Ceran TH, Gediz BS, Sonmez K. Atypical Presentation and Delayed Diagnosis of Gyrate Atrophy: Case Reports of Two Siblings. Beyoglu eye journal. 2023;8(4):301-307. doi:10.14744/bej.2023.72473. PMID:38089080; PMCID:PMC10711583.
  2. Arthur A Bergen, Mark JN Buijs, Anneloor LMA ten Asbroek, Berith M Balfoort, Camiel JF Boon, The Dutch GACR “Bird’s Eye View” Consortium, Roselie RMH Diederen, Sacha Ferdinandusse, et al. Vision on gyrate atrophy: why treat the eye?. EMBO Mol Med. 2023;16(1):4-7. doi:10.1038/s44321-023-00001-1.
  3. Molaei Ramshe S, Zardadi S, Alehabib E, Nourinia R, Jamshidi J, Soosanabadi M, et al. A Novel Ornithine Aminotransferase Splice Site Mutation Causes Vitamin B6-Responsive Gyrate Atrophy. Journal of ophthalmic & vision research. 2024;19(1):118-132. doi:10.18502/jovr.v19i1.15446. PMID:38638626; PMCID:PMC11022026.
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  5. Mark J. N. Buijs, Berith M. Balfoort, Marion M. Brands, Anneloor L. M. A. ten Asbroek, Camiel J. F. Boon, Roselie M. H. Diederen, Corrie Timmer, Margreet A. E. M. Wagenmakers, et al. Molecular and cellular mechanisms underlying gyrate atrophy: Why is the retina primarily affected?. Acta Ophthalmologica. 2025;103(7). doi:10.1111/aos.17498.
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  7. Jena S, Tripathy K, Chawla R, Mansour AM. Ultrawide field imaging to document the progression of gyrate atrophy of the choroid and retina over 5 years. BMJ case reports. 2021;14(8). doi:10.1136/bcr-2021-244695. PMID:34404670; PMCID:PMC8375768.
  8. Kaczmarczyk A, Baker M, Diddle J, Yuzyuk T, Valle D, Lindstrom K. A neonate with ornithine aminotransferase deficiency; insights on the hyperammonemia-associated biochemical phenotype of gyrate atrophy. Molecular genetics and metabolism reports. 2022;31:100857. doi:10.1016/j.ymgmr.2022.100857. PMID:35782604; PMCID:PMC9248225.

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