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小児眼科・斜視

先天停止性夜盲

先天停止性夜盲(Congenital Stationary Night Blindness; CSNB)は、眼底がほぼ正常でありながら網膜電図ERG)により診断がなされる疾患である。「停止性」とは病態が非進行性であることを意味し、網膜色素変性のような進行性の光受容体変性は起こらない点が特徴である。

病型は完全型(complete CSNB; cCSNB)と不全型(incomplete CSNB; iCSNB)の2種類に分類される。原因遺伝子が同定される以前からERGによる臨床分類が行われており、後の遺伝学的解析により当時の臨床診断が遺伝学的にも正しく分類されていたことが証明された。いかに臨床診断が重要かを示す好例として知られる。

ERG所見に基づく古典的分類として、暗順応下で陰性型ERGを示すSchubert-Bornschein型(cCSNBとiCSNBを含む)と、桿体光受容体自体の機能異常を反映するRiggs型がある1)

CSNBは大きく眼底正常型眼底異常型に分類される。眼底正常型にはSchubert-Bornschein型(完全型・不全型)とRiggs型が含まれ、眼底異常型には白点状網膜(Fundus albipunctatus)と小口病(Oguchi disease)がある。遺伝的背景は多様であり、18遺伝子・360以上の変異がCSNBに関連する2)

完全型cCSNB

機能不全部位:ON型双極細胞

ERG特徴:DA 0.01でb波消失。陰性型ERG

主な原因遺伝子:NYX(X連鎖)、GRM6・TRPM1・GPR179・LRIT3(常染色体劣性)

不全型iCSNB

機能不全部位:ON/OFF型双極細胞

ERG特徴:DA 0.01でb波減少だが残存。陰性型ERG

主な原因遺伝子:CACNA1F(X連鎖)、CABP4・CACNA2D4(常染色体劣性)

Riggs型CSNB

機能不全部位:桿体視細胞

ERG特徴:DA 3.0でa波・b波振幅低下。LA正常

主な原因遺伝子:GNAT1・PDE6B・RHO・SLC24A1

CSNBはまれな遺伝性網膜疾患に分類される。フランスにおける有病率は約1/10,000と報告されている2)。X連鎖劣性遺伝が多いため男性に罹患者が多い。完全型・不全型ともに常染色体劣性の報告もある。

1838年にフローレント・キュニエ(Florent Cunier)が初めて記載した。夜盲を呈する患者の家系を11世代56人にわたって追跡したジャン・ヌーガレ(Jean Nougaret)家系が最初の詳細な記録とされる1)。遺伝子時代以前から、ERGを用いた臨床分類が確立されていた歴史的背景を持つ疾患である。

Q 「停止性」とはどういう意味ですか?
A

夜盲視力低下が進行しないという意味である。網膜色素変性のような光受容体の変性・脱落は起こらない。ほとんどの例では視力ERGも経時変化しない。ただし、まれにCACANA1F遺伝子変異を持つ不全型の例で、網膜視神経萎縮が緩徐に進行した症例の報告がある。

完全型と不全型では自覚症状と臨床所見が大きく異なる。以下に対比を示す。

完全型(cCSNB)

主訴夜盲(幼少期から自覚)、視力低下、眼振

屈折:高度近視を伴うことが多い(報告コホートの中央値 −7.4 D)1)

眼底強度近視に伴い傾斜乳頭、耳側蒼白の視神経乳頭、網脈絡膜萎縮を認めることがある

視力:0.1〜1.0とさまざまだが軽度低下が多い(視力中央値 logMAR 0.30、約20/40)1)

眼振:振り子状眼振を高頻度に認める

不全型(iCSNB)

主訴視力低下(夜盲はほとんど訴えない)

屈折屈折に一定の傾向なし(コホートの中央値 −4.8 D)1)

眼底:異常なし

視力:さまざま

眼振:認めることがある

色覚は通常正常である。完全型では Blue on Yellow 視野検査で15度より周辺領域に青色感度低下が認められる。

羞明(光過敏)は不全型でよくみられる症状である3)。CABP4関連疾患では夜盲はほとんどなく、暗い場所を好む(明るい光を避ける)傾向が特徴的とされる3)。iCSNBの小児では54%のみが夜盲を主訴として来院し、残りの多くは弱視近視として診断されている7)

内斜視を最も多く認める1)眼振は振り子状で、高頻度・低振幅の共同性でないものを認める1)斜視は50〜70%に認められる2)

完全型の一部では光干渉断層計(SD-OCT)により内顆粒層(INL)の菲薄化が報告されている1)。高度近視との関連が示唆されているが、機序の解明には至っていない1)。一部患者ではRNFL菲薄化・mGCC菲薄化も報告されている2)。CABP4関連疾患では中心窩低形成・楕円体ゾーン不連続・中心窩挙上・中心窩下低反射ゾーンが報告されている3)

  • 白点状網膜:後極部(黄斑部除く)〜中間周辺部に黄白色斑点が散在する
  • 小口病:三尾・中村現象(暗順応後は正常眼底に見えるが、光曝露後に網膜が黄金色の光沢を呈する)
Q 完全型と不全型は症状で区別できますか?
A

症状だけでの鑑別は難しい場合がある。完全型は夜盲眼振・高度近視が三徴として揃いやすいが、不全型では夜盲を訴えないことが多く視力低下のみで受診することが多い。確実な鑑別には精密ERG検査(杆体反応と錐体反応を分けた測定)が必須である。

CSNBは単一遺伝子疾患の集合体であり、複数の遺伝形式が知られている。X連鎖劣性遺伝が最多で男性に多いが、常染色体劣性や常染色体優性の報告もある。

遺伝子遺伝形式病型機能経路
NYXX連鎖劣性cCSNBニクタロピン(LRRタンパク質)。TRPM1の安定化に関与。「Nyx」はギリシャ神話の夜の女神に由来1)
CACNA1FX連鎖劣性iCSNB電位依存性L型Caチャネルα1Fサブユニット。光受容体シナプス終末での神経伝達物質放出を制御1)
GRM6常染色体劣性cCSNB代謝型グルタミン酸受容体(mGluR6)。ON型双極細胞のシナプス伝達1)
TRPM1常染色体劣性cCSNBON型双極細胞樹状突起先端のカチオンチャネル。光刺激による脱分極を担う1)
GPR179常染色体劣性cCSNBオーファンGPCR。mGluR6/TRPM1シグナルカスケードの調節足場1)
LRIT3常染色体劣性cCSNBON型双極細胞機能に必要なLRRタンパク質1)
GNAT1常染色体優性Riggs型桿体トランスデューシンαサブユニット
SLC24A1常染色体劣性Riggs型Na/K/Caイオン交換体(桿体の暗電流回復に関与)
CABP4常染色体劣性iCSNBCav1.4調節タンパク質。「先天性錐体杆体シナプス障害」と呼ばれる3)
CACNA2D4常染色体劣性iCSNB電位依存性Caチャネル補助サブユニット
RDH5常染色体劣性白点状網膜RPE内ビジュアルサイクル酵素
GRK1常染色体劣性小口病ロドプシンキナーゼ
SAG常染色体劣性小口病アレスチン(リン酸化ロドプシン結合)

遺伝形式は完全型・不全型ともに多くはX連鎖劣性を示すが、原因遺伝子は完全型がNYX、不全型がCACNA1Fである。近年は両タイプで常染色体劣性の遺伝形式も報告されている。

X連鎖劣性遺伝が最多であることから、罹患者の母親はほぼ保因者である。常染色体劣性の場合、同胞の25%が罹患するリスクを持つ。遺伝子検査により原因変異が同定された場合は、キャリア診断と出生前診断が可能である。

ERGはCSNBの診断において決定的な役割を果たす。眼底が正常でありながら視力不良や眼振を呈する小児では、ERG検査が必須である。

完全型・不全型ともに暗順応下のフラッシュ刺激で陰性型ERGを示す。陰性型とは、a波は比較的保たれているにもかかわらず、b波が著明に低下または消失する波形パターンであり、これが Schubert-Bornschein 型の特徴である。

精密ERG(完全型と不全型の鑑別)

Section titled “精密ERG(完全型と不全型の鑑別)”

通常のフラッシュERGでは完全型と不全型の鑑別ができないため、杆体反応と錐体反応を分けた精密ERG検査が必要となる。

ERG所見完全型(cCSNB)不全型(iCSNB)
暗順応杆体反応(DA 0.01)消失残存(減弱)
暗順応混合反応(DA 3.0)陰性型(b波消失)陰性型(b波減弱)
明順応錐体反応(LA 3.0)保たれる減弱
30Hz フリッカー正常〜軽度低下低下

完全型ではDA 0.01でのb波が消失し、ON型双極細胞の完全機能欠損を反映する1)。不全型では杆体反応も錐体反応もともに減弱するが消失はしない。錐体系反応が小さいことが不全型の特徴である。

分類ERGパターン原因部位
Schubert-Bornschein 完全型DA陰性型、杆体反応消失、錐体保持ON型双極細胞
Schubert-Bornschein 不全型DA陰性型、杆体・錐体ともに減弱ON/OFF型双極細胞
Riggs型a波そのものの異常桿体光受容体

SD-OCTで完全型の一部にINL菲薄化を認める1)。標準的な補助診断検査として推奨される。

次世代シーケンシング(NGS)による確定診断が可能であり、標準的な遺伝子パネル検査で70〜80%に遺伝子診断が可能である8)。台湾コホートの報告では、新規CACNA1F変異のほか、RHO・SLC24A1・GNAT1・CABP4・CACNA2D4・GRK1・RDH5・RLBP1・RPE65・SAG・PDE6Bなど他の遺伝性網膜疾患関連遺伝子の変異がCSNB類似の表現型を呈する可能性が示されている1)。通常のエクソーム解析では検出困難な構造変異には全ゲノムシーケンシング(WGS)が優れた検出能を示す8)。小児ではポータブルERG(RETeval)も診断補助に有用である7)

  • 弱視:眼底正常でERGも正常。ERGがCSNBとの決定的な鑑別点となる
  • 網膜色素変性RP:進行性、眼底に骨棘状色素沈着を認める
  • レーバー先天黒内障(LCA):より重度の視力障害、ERGが著明低下〜消失
  • 全色盲(achromatopsia):明所ERGに異常を呈する
  • 小口病・眼底白点症:停止性夜盲の範疇だが特徴的な眼底所見で鑑別できる

CSNBに対する根本的な治療法は現時点では存在しない。治療の中心は症状管理と合併症予防である。

完全型では高度近視を伴うことが多いため、適切な眼鏡・コンタクトレンズの処方が重要である。弱視を合併している場合は弱視治療も並行して行うが、CSNBでは弱視治療の効果が限定的な場合があることに留意する7)視力の改善可能性を最大限に引き出すため、早期からの矯正が推奨される。羞明がある場合は遮光レンズが有用である。

定期的なERG視力の経過観察を行い、非進行性であることを確認する。成人後は緑内障の合併に注意が必要である。特に高度近視を伴う完全型では眼圧管理が重要となる。

  • 暗所での活動(夜間歩行・夜間運転等)に関して適切な注意喚起を行う
  • 自動車免許については夜盲の程度に応じた個別の対応が必要となる場合がある
  • スポーツ活動や職業選択においても光環境への配慮を指導する

X連鎖劣性遺伝が最多であることから、保因者(母親)の確認が重要である。常染色体劣性の場合は同胞の25%が罹患するリスクを持つ。原因変異が同定された場合、キャリア診断・出生前診断が可能となる。心理的サポートも含めた包括的な遺伝カウンセリングが推奨される。

Q 遺伝カウンセリングはどこで受けられますか?
A

大学病院や専門医療機関の遺伝科・小児科・眼科で受けることができる。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが相談に応じる。CSNBはX連鎖劣性遺伝が多く家族内に保因者がいる可能性が高いため、診断確定後は早めに受診することが推奨される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

桿体が光を受容するとグルタミン酸放出が減少する。ON型双極細胞では、mGluR6(代謝型グルタミン酸受容体6型)がこの変化を感知してGαoβ3γ13への活性化が解除され、TRPM1チャネルが開口して細胞が脱分極する。この一連のカスケードが網膜の光信号処理の基礎をなしている。TRPM1チャネルはmGluR6活性化から約100ミリ秒で完全開口し、桿体のcGMP依存チャネルの開口より5倍速いとされる1)

完全型の病態はON型双極細胞の機能欠損による。TRPM1・mGluR6・ニクタロピン(NYX)は三分子複合体を形成し、ON型双極細胞機能に必須の構造体をなしている1)。この複合体の破綻によりON型双極細胞が脱分極できなくなり、ERGのb波が消失する。OFF型双極細胞の機能は保たれているため、錐体系ERG反応は残存する。

  • NYX変異:ニクタロピンはTRPM1の細胞表面への輸送・安定化に関与する
  • GRM6変異:mGluR6の機能欠損により光応答シグナルがGαoに伝達されない
  • TRPM1変異:チャネル自体の機能欠損
  • GPR179変異:mGluR6/TRPM1シグナルカスケードの足場タンパク機能が失われる
  • LRIT3変異:ON型双極細胞の機能維持に必要なタンパク質の欠損

不全型の病態はON型・OFF型双極細胞の両方の機能不全による。主要原因遺伝子であるCACNA1F(電位依存性L型Caチャネルα1Fサブユニット)の異常により、光受容体シナプス終末でのCa²⁺流入が障害される。その結果、神経伝達物質の放出が異常となりON/OFF両方の双極細胞機能が低下する。視細胞-双極細胞間のシナプス機能不全として理解される。

Riggs型は桿体光受容体自体の光情報伝達異常によるものである。GNAT1(桿体トランスデューシンαサブユニット)やSLC24A1(Na/K/Caイオン交換体)などの変異により、光受容体レベルでの光信号変換が障害される。ERGではa波自体の異常が観察され、Schubert-Bornschein型とは異なるパターンを示す。

NYXノックアウトマウスでは近視発症素因とドーパミン低下が観察されており、CSNBに伴う高度近視の病態解明の手がかりとなっている1)。眼球内のドーパミン系がON型双極細胞の活動と連動して眼軸長制御に関与している可能性が研究されている。

ほとんどの例では非進行性であり、視力ERGも経時変化しない。まれに、CACNA1F遺伝子変異を持つ例で網膜視神経萎縮が進行した症例の報告がある。成人後は緑内障などの合併疾患への注意が継続して必要である。

遺伝子置換療法(動物モデル)

Section titled “遺伝子置換療法(動物モデル)”

CSNBに対する承認済みの遺伝子治療は現時点では存在しない。しかし動物モデルで精力的に研究が進んでいる1)

NYX関連cCSNBモデル(Nyxnob マウス)

AAV2(quadY-F+TV)-Ple155-YFP_NyxのP2(生後2日)硝子体内注射によりb波回復とTRPM1局在回復が確認された。P30では効果が見られず、発達早期の介入が重要とされる1)

LRIT3関連cCSNBモデル(Lrit3−/− マウス)

rAAV RHO::Lrit3のP5投与でTRPM1局在回復・DA b波50%回復が達成された。P35(成体)マウスでも効果が確認されており、成人発症例への応用可能性が示唆される。AAV2-7m8のP30投与でDA b波58%回復が達成され、4ヶ月後も効果が持続した1)

GRM6関連cCSNBモデル(Grm6−/− マウス)

AAV2-7m8投与でmGluR6発現は回復するものの、ERGの回復が得られなかった。発達期の構造的異常が原因と推測されており、この遺伝子型では早期介入の重要性が示唆される1)

犬モデル(CSNBビーグル犬)

AAV K9#12-shGRM6-cLRIT3-WPREの投与によりERG b波が野生型の30%まで安定回復し、1.2年以上効果が持続することが確認された1)

遺伝子編集技術・AAVベクターの課題

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CRISPR/Cas9・塩基編集・プライム編集はCSNBへの臨床応用報告はまだないが、CEP290変異LCA10では網膜内SaCas9が臨床試験Phase 1/2まで進んでいる1)。AAV7m8は霊長類では期待通りの効果を示さず、種差が課題となっている。非ウイルスベクターとして脂質ナノ粒子(LNPs)やウイルス様粒子(VLPs)の開発も進んでいる1)

全ゲノムシーケンシングの診断的優位性

Section titled “全ゲノムシーケンシングの診断的優位性”

通常のエクソーム解析では検出困難な構造変異も、WGSにより同定可能であることが示されている8)

Martinez Sanchezら(2025)は通常のシーケンシングで診断困難だったCSNB症例をWGSにより診断し、CACNA1F遺伝子における新規構造変異を同定した8)

未同定のCSNB関連遺伝子の探索にRNA-seq(全トランスクリプトーム解析)が応用されており、新規原因遺伝子の同定が期待されている1)

近年の遺伝子パネル検査(NGS)の普及により、CSNBに類似した表現型を呈する他疾患(RPE65・SAG・PDE6B等の変異による遺伝性網膜疾患)との鑑別精度が向上しつつある1)

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