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小児眼科・斜視

レーバー先天黒内障

レーバー先天黒内障(Leber congenital amaurosis; LCA)は、出生時〜乳児期に重度の視覚障害を来す先天性網膜ジストロフィの中で最も重篤な型である。小児視覚障害の主要な原因疾患であり、先天性視覚障害の代表的原因疾患として知られる。臨床像は多彩である。

1869年にドイツの眼科医テオドール・フォン・レーバー(Theodor Karl Gustav von Leber, 1840–1917)によって初めて報告された。なお、同じレーバーが1871年に報告したレーバー遺伝性視神経症LHON)は20歳前後で発症するミトコンドリア疾患であり、LCAとは全く異なる疾患である。1957年に網膜電図ERG)での波形消失がLCA診断の共通特徴として確認され、疾患名が確立した。

推定出生有病率は出生10万人あたり2〜3人(1/30,000〜1/81,000)である1)。報告によっては1:80,000〜1:200,000 とする文献もあり、幅がある2)。全網膜ジストロフィの約5%を占め、盲学校に通う視覚障害児の約20%がLCAである1)。現在約27のLCA関連遺伝子が同定されており2)、症例の約70〜80%で原因遺伝子が特定される2)。遺伝形式は常染色体劣性遺伝が主であるが、優性遺伝やX連鎖性遺伝の報告もある。

Q レーバー先天黒内障はいつ頃わかるのか?
A

通常生後6週頃に眼振や固視欠如で親が気づくことが多い3)。重度の視覚反応不良(固視・追視が全くできない)が認められた場合にLCAを疑い、網膜電図で確定診断する。

レーバー先天黒内障の両眼の眼底写真・眼底自発蛍光・OCTで、網膜色素上皮変化と外網膜障害を示す画像
Higa N, et al. A novel RPE65 variant p.(Ala391Asp) in Leber congenital amaurosis: a case report and literature review in Japan. Front Med (Lausanne). 2024. Figure 1. PMCID: PMC11446184. License: CC BY.
27歳患者の両眼の(A)眼底写真での網膜色素上皮の色素脱失と網膜血管の狭細化、(B)眼底自発蛍光での病変部の過蛍光と信号低下、(C)OCTでの右眼のエリプソイドゾーンEZ)消失と左眼中心窩の僅かな残存を示す。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う網膜色素上皮の変性と網膜血管の狭細化に対応する。

出生時〜生後早期から重度の視覚障害が存在する。

  • 視力低下:大部分の患者は視力0.1以下であり、約3分の1は光覚を有しない。視覚障害は一般に安定しているか、非常にゆっくりと進行する。
  • 羞明:光に対する過敏性を示す例が多い。
  • 夜盲:暗所での視機能がさらに低下する。

生後6週頃に眼振や固視欠如で親が気づくことが多い3)

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 眼振:出生時〜生後すぐに出現する。振り子状または遊走性で全眼位に認められる。早期発症重症網膜ジストロフィ(EOSRD)との重要な鑑別点であり、EOSRDでは眼振を伴わない2)
  • 瞳孔反応異常:対光反射の遅鈍〜消失を示す。「黒内障性瞳孔(amaurotic pupils)」と呼ばれる。
  • 眼指徴候(oculo-digital sign):目を突く・押す・こする動作であり、網膜を機械的に刺激して視覚を呼び起こそうとする行動と考えられている。主な後遺症は眼窩脂肪萎縮による眼球陥凹である。
  • 屈折異常:強度遠視(>5ジオプター)が一般的で、早期の視覚障害による正視化障害に起因すると考えられる。

乳児期には眼底が正常に見えることも多いが、その後多彩な所見が出現する。眼底所見は正常眼底から定型的な網膜色素変性様眼底まで多種多様である。進行した症例では視神経乳頭が蒼白化し、血管はきわめて狭細化し、眼底全体の色調が暗く、黄斑の輪状反射が消失する。

  • 視神経乳頭蒼白網膜血管狭細
  • ごま塩様眼底:小白斑や脱色素など網膜色素上皮変性
  • 骨棘状色素沈着網膜下フレック(大理石状眼底)
  • 黄斑変性Coats病様滲出
  • 色素性貨幣状病変

OCTでは網膜外層がほとんど消失しており、ellipsoid zone(IS/OS junction)の菲薄化〜消失が特徴的である。遺伝子型により所見が異なる:

  • CRB1 変異:網膜厚が増加する逆説的所見(coarse lamination)1)
  • RPE65 変異:FAF眼底自発蛍光)が消失2)
  • GUCY2D 変異:FAF正常保持2)
  • NMNAT1 変異:黄斑萎縮(macular coloboma-like atrophy)

円錐角膜白内障緑内障の合併が年齢とともに増加する。

LCAは眼症状のみの単純型と全身疾患を合併する複雑型に分類される。

単純型

眼症状のみ:視覚障害が主体で、全身異常を伴わない。

中等度以上の遠視:全身異常を伴わない例に多い。

複雑型

中枢神経系異常:小脳虫部低形成、脳幹部奇形。

精神発達遅滞:知的障害を伴う例がある。

腎障害:嚢胞腎を合併することがある。

その他:難聴、骨格異常、肝障害、代謝異常、てんかん。

Q 眼指徴候(目をこする動作)は何のために行うのか?
A

LCA患者に特徴的な行動で、目を指で突いたり押したりすることで網膜を機械的に刺激し、視覚を呼び起こそうとしていると考えられている。長期間の反復により眼窩脂肪の萎縮をきたし、眼球陥凹の原因となる。

LCAは遺伝性の網膜変性疾患群であり、大多数が常染色体劣性遺伝の形式をとる2)。まれにCRXIMPDH1OTX2の変異で常染色体優性遺伝を示す例がある2)。X連鎖性遺伝の報告も存在する。

現在LCA1〜LCA19の19型に加え、さらに8つの関連遺伝子が報告されている2)。原因遺伝子は光受容体形態形成、光情報伝達繊毛、視サイクル(ビジュアルサイクル)など、網膜の発達と機能に関わる複数の経路に関与している。

LCA関連遺伝子は5つの主要な機能ネットワークに分類される2)

  1. レチノイド代謝・桿体視サイクルRPE65, LRAT, RDH12)
  2. 網膜恒常性維持・光受容体維持(AIPL1, SPATA7, TULP1, USP45, CRB1, LCA5)
  3. 網膜発達・形態形成(RD3, CEP290)
  4. 光刺激検出・視覚知覚(GUCY2D, CNGA3)
  5. 光受容体結合繊毛・外節維持(CEP290, RPGRIP1, RPGR)

世界的に最も頻度の高い変異遺伝子とその割合は以下の通りである。

遺伝子割合関与する経路
CEP290約15%繊毛機能
GUCY2D約12%光情報伝達(cGMP合成)
CRB1約10%細胞極性維持
RPE65約8%レチノイド代謝

日本人コホート(34家系)のNGS解析では検出率約56%であり、最頻変異遺伝子はCRB1NMNAT1RPGRIP1と報告されている1)

原因遺伝子の同定は治療適格性の判断に直結する。特にRPE65変異の確認は遺伝子治療(ボレチゲン ネパルボベク)の適応判定に必須である2)

AIPL1はホスホジエステラーゼ6(PDE6)の特殊シャペロンとして機能し、PDE6は光情報伝達においてcGMP分解を担う。AIPL1欠損によりPDE6タンパク量が劇的に減少し、cGMP代謝破綻→光受容体変性→早期失明に至る2)。AIPL1変異はLCA全体の約5〜10%を占める2)

Q 次の子どもにもLCAが遺伝する確率は?
A

常染色体劣性遺伝の場合、両親がともにキャリアであれば、次の子どもが罹患する確率は25%、キャリアとなる確率は50%、非罹患・非キャリアの確率は25%である。原因遺伝子が判明していれば出生前診断や着床前診断も選択肢となる。

LCAの診断は臨床的に行われ、網膜電図による確定診断と遺伝子検査による分子遺伝学的確認が必要である2)

先天性の著しい視覚反応不良(固視・追視の欠如)を認めた場合にLCAを疑う。重度視力障害と強度遠視を伴う乳児では、分子遺伝学的検査によるLCAの検索が第一選択となる4)

主な診断検査を以下に示す。

検査所見・特徴
網膜電図ERG暗所・明所とも導出不能〜著明低下。必須
OCT光干渉断層計網膜萎縮、外層消失、ellipsoid zone消失
FAF眼底自発蛍光亜型で異なる(RPE65型は消失、GUCY2D型は正常)
遺伝子検査(NGS等)確定診断・亜型同定に必要
  • 網膜電図:杆体応答・錐体応答がともに消失〜著明低下する。正常網膜電図はLCAの診断を否定する。
  • OCT網膜外層・ellipsoid zoneはほとんど消失。CRB1変異では逆説的な網膜厚増加(coarse lamination)が認められる1)。ハンドヘルドOCTは覚醒下の乳児や麻酔下の幼児の検査に有用である4)
  • FAF:亜型により所見が異なる。GUCY2D変異では自発蛍光が正常保持、RPE65変異では消失する2)
  • 遺伝子検査:次世代シーケンシング(NGS)、DNAマイクロアレイ、連鎖解析などが用いられる。全体での検出率は約70〜80%2)。2023年より82個のIRD病因遺伝子に対するパネル検査(PrismGuide IRDパネル)が保険収載され、RPE65関連IRDが疑われる若年発症者に適用される。

ほとんどの型のLCAに対して実質的な治療法は確立されていない。現時点での管理は以下の通りである。

  • 屈折異常の矯正:強度遠視等に対し適切な屈折矯正を行う。強い屈折異常を示していることがあるので、眼鏡処方をして視能訓練に努める。
  • 視能訓練:残存視機能を最大限に活用するための視覚リハビリテーションを行う。
  • 視覚代行訓練:視機能が著しく障害されているため、点字指導・白杖歩行訓練・拡大読書器の使用等も考慮する。
  • ロービジョンケアロービジョン補助具の使用、教育・就業機会への最適なアクセスを支援する。
  • 遺伝カウンセリング:家族・患者に推奨される。キャリア検査、出生前診断、着床前診断が可能な場合がある。
  • 羞明への対応:遮光眼鏡の使用や光曝露の軽減が推奨される。
  • 定期的なフォローアップ網膜電図を含む眼科的フォローアップ、必要に応じてロービジョン外来への紹介を行う。

遺伝子治療(ボレチゲン ネパルボベク)

Section titled “遺伝子治療(ボレチゲン ネパルボベク)”

2017年、米国FDAは両アレル性RPE65変異に関連するLCA2の治療薬として**ボレチゲン ネパルボベク(voretigene neparvovec-rzyl; 商品名Luxturna)**を承認した。これは眼科領域で初めてのFDA承認遺伝子治療製品である。2023年には本邦においても承認(製品名:ルクスターナ®注)された。

組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV2)ベクターにより正常なRPE65遺伝子のコピーを網膜色素上皮網膜下注射で導入する。硝子体手術室での施行となる。

Phase III 301試験(Russell 2017)5)

  • 対象:31名のRPE65関連IRD患者
  • 主要評価項目:MLMT(multi-luminance mobility test; さまざまな照度における行動観察試験)
  • 全視野刺激閾値(FST)でも有意な改善を認めた

Phase I/III 長期成績(Maguire 2019)6)

  • 治療後6〜12ヶ月でピークに達した網膜感度・視力・機能的利得が、その後進行性に低下する傾向が示された
  • 網膜感度の上昇により夜盲・視野の改善が期待できる

国内第Ⅲ相試験(A11301試験)(Fujinami 2025)7)

  • 日本人RPE65関連IRD患者4名を対象
  • FST(全視野刺激閾値)で有意な感度上昇(10倍を超える感度上昇を有意と定義)
  • 視野拡大が投与後1年時点で確認
  • 主な有害事象:眼痛を含む眼障害(投与手技に関連すると想定)

投与プロトコル:

  • 第2眼は第1眼の少なくとも6日後に投与
  • 免疫抑制:投与3日前からステロイド開始、投与後14日間継続

ただし、RPE65変異はLCA患者全体の約8%にすぎない。他の変異型に対しては現時点で効果が証明された治療法はない。

Q 遺伝子治療はすべてのLCA患者に使えるのか?
A

現時点で承認されている遺伝子治療(ボレチゲン ネパルボベク / ルクスターナ®注)の適応は、両アレル性RPE65変異によるLCA2に限られる。RPE65変異はLCA全体の約8%であり、大多数の患者には適応がない。他の遺伝子型に対する治療は研究段階にある。

Q 日本で遺伝子治療を受けるにはどうすればよいか?
A

両アレル性RPE65変異が確認され、十分な生存網膜細胞を有することが条件となる。遺伝子パネル検査(PrismGuide IRDパネル)による遺伝子診断が第一歩となる。遺伝性網膜疾患の診療経験を有する専門施設への紹介が推奨される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

LCAの病態生理は、視サイクル(Visual Cycle)の破壊により眼が光情報伝達を行えないことに関連している。

視サイクルは網膜色素上皮RPE)と神経感覚網膜の間で行われる一連の酵素反応であり、食事由来のビタミンAを代謝して11-シス-レチナール(11-cis retinal)を生成し、光色素を産生する。11-シス-レチナールがなければ光情報伝達カスケードは開始されず、視覚神経信号が視覚野に伝達されない。この一連の反応に関与するタンパク質をコードする遺伝子のいずれかに変異があると、視サイクルが遮断されLCAの症状を引き起こす。

組織病理学的には外網膜・光受容体の関与が示されており、LCAは形成不全ではなく変性プロセスであることが示唆されている。

  • GUCY2D(LCA1)網膜特異的グアニル酸シクラーゼ(GC-E)をコードする。cGMP合成を触媒し、光情報伝達の鍵となる。140以上の疾患関連変異が同定されており、88%が常染色体劣性LCAの原因である。838番アミノ酸が変異ホットスポットとして知られる2)
  • RPE65(LCA2):カロテノイド切断オキシゲナーゼスーパーファミリーに属し、all-trans-retinyl esterからのO-アルキルエステル切断とレチニル部分の異性化(all-trans-retinol → 11-cis-retinol)を触媒する二重機能酵素である2)。桿体・錐体いずれの機能にも必須で、近年ルテインからmeso-zeaxanthinへの異性化にも関与する可能性が示唆されている2)遺伝子治療の唯一の承認適応。
  • CRB1(LCA8):ショウジョウバエのcrumbsタンパク質と相同で、光受容体内節とミュラー細胞に発現する。細胞極性の維持に重要であり、染色体1q31.3に位置する1)
  • CEP290(LCA10):光受容体の繊毛機能に関与する。LCA関連遺伝子の中で最も変異頻度が高い(約15%)。
  • NMNAT1(LCA9):NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)生合成の鍵酵素をコードする2)
  • LCA5:レベルシリン(lebercilin)をコードし、繊毛機能と繊毛内タンパク質輸送に関与する2)
  • AIPL1:PDE6(ホスホジエステラーゼ6)の特殊シャペロンとして機能する。AIPL1欠損でPDE6が不安定化→cGMP代謝破綻→チャネル異常→光受容体変性という経路で発症する2)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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ボレチゲン ネパルボベクの長期追跡評価(NCT00481546、NCT00643747)では、治療後6〜12ヶ月で初期のピークが見られた後、網膜感度・視力・機能的利得を含む臨床的利益が進行性に低下することが報告されている6)。PERCEIVE研究(前向き登録研究)では、実臨床での2年間の安全性・有効性データが報告されており、最大50%の症例でGTAU(遺伝子治療関連ぶどう膜炎)が認められた9)

CEP290に対するCRISPR/Cas9治療(EDIT-101)

Section titled “CEP290に対するCRISPR/Cas9治療(EDIT-101)”

Editas Medicine社開発。AAV5ベクターにS. aureus由来Cas9と2つのガイドRNAを搭載し、CEP290のイントロン26に存在する深部イントロン変異(c.2991+1655A>G)を標的とする3)。First-in-human試験で安全性が確認され、比較的高用量でも忍容性良好であることが示された3)

オプトジェネティクス(光遺伝学)による視機能回復

Section titled “オプトジェネティクス(光遺伝学)による視機能回復”

遺伝子非依存的アプローチとして、残存する内層網膜ニューロンに光応答性チャネルロドプシンを発現させる手法が研究されている3)。全LCA型に適用可能な可能性(遺伝子型を問わない)があり、初期臨床試験が進行中である。

GUCY2DAIPL1変異に対する遺伝子治療が動物モデルで進行中であり、桿体・錐体光受容体の救済において有望な結果が示されている。

LCAの経過は安定(約75%)、進行性悪化(約15%)、改善(約10%)の3パターンに分類される。AIPL1変異は進行性悪化と、RPGRIP1変異は安定した経過と関連する。将来的には人工視覚・遺伝子治療・再生医療などによる進行停止や治療も期待されている。


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