開放隅角型の治療
Schwartz症候群: 網膜復位術が根治。ステロイド無効
Ghost cell緑内障: 眼圧下降薬→前房洗浄→PPV→濾過手術
炎症性: ステロイド点眼+房水産生抑制薬
乳化SO型: 薬物療法→SO抜去→CPC/ドレナージ
網膜剥離に伴う緑内障は、網膜剥離そのもの、または網膜剥離に対する手術に関連して生じる続発緑内障の総称である。単一の疾患概念ではなく、眼圧上昇をきたす機序の異なる複数の病態を包括している。
緑内障診療ガイドライン(第5版)では、本疾患群に含まれる病態が複数の分類項目にまたがって記載されている1)。
欧州緑内障学会ガイドライン(第5版)でも、硝子体網膜手術に関連する緑内障(II.2.3.3.3)として記載があり、長期の網膜剥離は虚血性新生血管を誘発し、線維柱帯は新生血管・瘢痕・色素散布・炎症・視細胞外節の細胞残渣(Schwartz症候群)により閉塞されうるとしている2)。
本疾患群に含まれる主な病態を以下に示す。
| 病態 | 緑内障分類 | 主な機序 | 典型的発症時期 |
|---|---|---|---|
| Schwartz症候群 | 続発開放隅角 | 視細胞外節による線維柱帯閉塞 | RD発症後〜数週 |
| Ghost cell緑内障 | 続発開放隅角 | 変性赤血球による線維柱帯閉塞 | 硝子体出血後1〜3か月 |
| Angle rotation緑内障 | 続発閉塞隅角 | 毛様体浮腫による隅角閉塞 | 強膜バックリング術後早期 |
| SO緑内障(前房移動型) | 続発閉塞隅角 | シリコーンオイル(SO)瞳孔ブロック | 術後早期〜中期 |
| SO緑内障(乳化SO型) | 続発開放隅角 | 乳化SO粒子による線維柱帯閉塞 | 術後数か月以上 |
| 炎症性眼圧上昇 | 続発開放隅角 | フィブリン・炎症性デブリによるTM閉塞 | 術後早期 |
| 新生血管緑内障 | 続発閉塞隅角 | 網膜虚血→新生血管による隅角閉塞 | 術後数週〜 |
通常、裂孔原性網膜剥離では露出した網膜色素上皮(RPE)のポンプ作用により眼圧は低下する傾向にある7)。本疾患群はこの原則に反して眼圧上昇を生じる点が臨床上重要である。
通常の裂孔原性網膜剥離では、露出した網膜色素上皮(RPE)が液体を能動的に吸収するため眼圧は低下する7)。しかし、Schwartz症候群では剥離網膜から脱落した視細胞外節が線維柱帯を閉塞し、Ghost cell緑内障では変性赤血球が同様に閉塞する。また、手術に用いるシリコーンオイルやガスが瞳孔ブロックや線維柱帯閉塞を引き起こすことがある。これらの閉塞機序がRPEのポンプ効果を上回る場合に眼圧が上昇する。
本疾患群の自覚症状は、網膜剥離由来のものと眼圧上昇由来のものが混在する。
網膜剥離に伴う症状:
眼圧上昇に伴う症状:
続発閉塞隅角緑内障(強膜バックリング術後のAngle rotation等)では、急激な眼圧上昇に伴い視力低下が急速に進行することが多い。Ghost cell緑内障では、硝子体出血による視力低下が先行し、出血後しばらくして眼圧上昇が加わる経過をとる。
病態ごとに特徴的な臨床所見が異なるため、鑑別に重要な所見を以下にまとめる。
| 病態 | 前房所見 | 隅角所見 | その他の特徴 |
|---|---|---|---|
| Schwartz症候群 | 比較的大きな細胞(視細胞外節)、KP(-) | 開放隅角 | 最周辺部小裂孔、著しい眼圧変動 |
| Ghost cell緑内障 | カーキ色小胞、偽前房蓄膿 | 開放隅角、下方にGC層状沈着 | 硝子体出血の既往 |
| Angle rotation | 浅前房、毛様体脈絡膜剥離 | 閉塞隅角 | 強膜バックリング術後 |
| SO緑内障 | 前房内SO気泡 | 開放/閉塞(機序による) | 乳化SOの上方象限蓄積 |
Schwartz症候群の所見の特徴: 片眼性で開放隅角を呈する。前房中の細胞様浮遊物は炎症細胞ではなく視細胞外節であるため、角膜後面沈着物(KP)や虹彩前癒着を認めない。副腎皮質ステロイドに反応しない点がぶどう膜炎との重要な鑑別所見となる4)。鋸状縁や毛様体など最周辺部の小裂孔が多く、発症から時間が経過すると剥離網膜下に索状物がみられる。水晶体異常(白内障や脱臼など)の合併もある。
Ghost cell緑内障の所見の特徴: 前房中および硝子体中にカーキ色(土褐色)の球状小胞を認め、多量の場合は偽前房蓄膿を形成する6)。新鮮赤血球とゴースト細胞が共存する場合、下方に重い新鮮赤血球層、上方に軽いカーキ色のゴースト細胞層が重なり「キャンディストライプ」様の外観を呈する。隅角鏡では線維柱帯下方にゴースト細胞が層状に沈着する2)。
シリコーンオイル関連の所見: 数か月以上経過したシリコーンオイル眼では、乳化シリコーンオイル粒子がマクロファージに部分的に貪食され、上方象限の線維柱帯に蓄積してtrabeculitis(線維柱帯炎)を誘発する2)。
本疾患群の各病態は、それぞれ異なる原因で眼圧上昇をきたす。
Schwartz症候群: 裂孔原性網膜剥離により網膜下腔へ脱落した視細胞外節が、粘稠性の網膜下液とともに裂孔を通過し前房に到達、線維柱帯を閉塞する4)5)。
Ghost cell緑内障: 硝子体出血後に数週間以上停留した赤血球が変性し、細胞膜以外の成分がほとんど消失した中空の胞体(ghost cell)となる。このghost cellは変形能が弱く、線維柱帯の通過が困難となり眼圧が上昇する6)。発症には硝子体中での赤血球の数週間の停留と、前部硝子体面の破壊(硝子体前房間の交通)の両方が必要であり、前房出血のみでghost cell緑内障が生じることはまれである。
Angle rotation緑内障: 強膜バックリング術後の毛様体脈絡膜剥離に伴い、毛様体が強膜突起を軸として前方に回転し隅角を閉塞する。渦静脈のバックルによる圧迫や広範囲のバックル設置が原因となる。
シリコーンオイル緑内障: SOの前房移動によるTM閉塞(早期)、乳化SOによるtrabeculitis(中期)、SOとTMの長期接触による永続的構造変化(後期)と段階的に機序が異なる2)。SOの過充填が早期眼圧上昇の主因となる。
炎症性眼圧上昇: 硝子体手術後早期の炎症反応やフィブリン析出により、血液眼関門が破綻し、炎症性デブリが線維柱帯を閉塞する。増殖性硝子体網膜症に対する手術で特に強い。
新生血管緑内障: 長期の網膜剥離や網膜虚血に続発し、VEGFの増加により虹彩・隅角に新生血管が増殖して隅角を閉塞する2)。
| 術式・病態 | 主なリスク因子 |
|---|---|
| 硝子体手術後 | バックリング併用、術中散布光凝固、PVR |
| 強膜バックリング後 | 狭隅角、環状締結、強度近視、高齢 |
| シリコーンオイル | 既存緑内障、糖尿病、無水晶体2) |
| ガスタンポナーデ | 高濃度使用(C3F8)、光凝固併用 |
| Schwartz症候群 | 若年男性、鈍的外傷、アトピー性皮膚炎4) |
本疾患群の診断において最も重要なのは、隅角検査により開放隅角メカニズムか閉塞隅角メカニズムかを鑑別することであり、この結果が治療方針を直接決定する。
Schwartz症候群: 裂孔原性網膜剥離の確認が診断の鍵となる。3つの臨床所見の組み合わせにより臨床的に診断される。(1) 他のぶどう膜炎徴候を伴わない前房細胞、(2) 著しい変動を伴う高眼圧、(3) 裂孔原性網膜剥離4)。散瞳不良や水晶体疾患により裂孔検出が困難な場合も多く、Bモード超音波やUBM・OCTを活用する。
Ghost cell緑内障: 前房穿刺液の顕微鏡検査により確定診断が可能である。位相差顕微鏡で細胞膜内側に変性ヘモグロビン残渣(Heinz小体)を有する球状のゴースト細胞を確認する6)。硝子体出血の既往があり眼圧上昇をきたした場合に本疾患を疑う。
続発閉塞隅角緑内障(Angle rotation含む): 眼圧上昇時の隅角検査と前眼部所見から病態を解明する。経過観察中に隅角所見が変化して診断が確定する場合もある。
| 鑑別すべき疾患対 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| Schwartz症候群 vs 虹彩炎 | KP・虹彩前癒着なし、ステロイド反応なし |
| Schwartz症候群 vs 外傷性緑内障 | 網膜復位後の眼圧正常化の有無 |
| Ghost cell緑内障 vs 新生血管緑内障 | 隅角新生血管の有無、前房細胞の色調 |
| Angle rotation vs 悪性緑内障 | UBMでの毛様体位置と硝子体腔内房水動態 |
続発緑内障の治療は可能な限り原因疾患の治療を第一とする1)。続発緑内障では眼圧上昇の機序を把握して治療法を選択する。本疾患群では病態ごとに治療戦略が大きく異なるため、正確な病態診断が前提となる。
原則: 網膜復位が治療の第一選択である。
副腎皮質ステロイドは無効である。前房内の「細胞」は炎症細胞ではなく視細胞外節であるため、ステロイドの抗炎症作用は奏効しない。ぶどう膜炎と誤診してステロイド治療を続けても改善は得られず、むしろステロイド緑内障の合併リスクを高める。
手術待機中の眼圧管理として、炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド500 mg 1日2回内服)やβ遮断薬(チモロール0.5%)点眼による一時的な眼圧降下を行う4)。
予後: 網膜復位により眼圧は正常化する。術後に眼圧下降薬が必要となることは少ない。
薬物療法(第一段階):
眼圧下降が十分であればリパスジル→ラタノプロストの順で中止を検討する。リパスジルはRhoキナーゼ阻害薬であり、作用機序からghost cellによる線維柱帯閉塞に対して有効である可能性がある。
外科的治療(第二段階):
難治例(第三段階):
強膜バックリング術後の毛様体浮腫による隅角閉塞に対する治療を以下に示す。
漿液性脈絡膜剥離に起因する隅角閉塞は、網膜裂孔が閉鎖されていれば自然寛解することが多い。
Angle rotation緑内障の本態は毛様体浮腫による毛様体の前方回転であり、隅角が物理的に閉塞されている状態である。ピロカルピン(縮瞳薬)は毛様体筋を収縮させるため、浮腫のある毛様体の緊張をさらに助長し、隅角閉塞を悪化させる。このため散瞳薬で毛様体の弛緩を促し、自然寛解を待つのが原則である。閉塞隅角だからといって安易に縮瞳薬を使用しないよう注意が必要である。
予防:
薬物療法: β遮断薬、プロスタグランジン関連薬、炭酸脱水酵素阻害薬を含む局所薬物療法により30〜78%の症例で眼圧を制御可能である。
シリコーンオイル抜去: 添付文書上、網膜安定後1年以内の適切な時期に抜去されるべきとされている。ただし、再剥離リスクの高い症例や低眼圧による眼球癆の危惧がある場合は抜去できないこともある。SO抜去後も眼圧上昇が持続する報告もあり、抜去のみで眼圧制御が保証されるわけではない2)。
手術療法(難治例):
添付文書上は網膜が安定した後、1年以内の適切な時期に抜去することが推奨されている。数か月以上経過すると乳化シリコーンオイルによる眼圧上昇が生じうるため、早期抜去が望ましい。しかし、再剥離リスクの高い症例や低眼圧による眼球癆の危惧がある症例では抜去できない場合もある。個々の症例における網膜安定性と眼圧の状況を総合的に判断して決定する。
術後早期の炎症に伴う眼圧上昇は、ステロイド点眼と房水産生抑制薬(β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬)の併用で多くはコントロール可能である。ただし、ステロイド応答者では逆にステロイド点眼により眼圧が上昇する場合があり、慎重な経過観察が必要である。
眼内ガスは膨張性を有し、SF6は注入量の2〜2.5倍、C3F8は4倍に膨張する。ガス最大膨張はSF6で約24時間後、C3F8で約72時間後に到達するが、膨張率は最初の6時間で最も高い。
予防的IOP降下薬の投与:
チモロール0.5%/ドルゾラミド2%配合点眼は術後眼圧スパイクを低減することがRCTで示されている3)。
SF6は20%以下、C3F8は12%以下に濃度調整することで予想外の膨張を避けることが可能である。
開放隅角型の治療
Schwartz症候群: 網膜復位術が根治。ステロイド無効
Ghost cell緑内障: 眼圧下降薬→前房洗浄→PPV→濾過手術
炎症性: ステロイド点眼+房水産生抑制薬
乳化SO型: 薬物療法→SO抜去→CPC/ドレナージ
閉塞隅角型の治療
裂孔原性網膜剥離により以下の連鎖的過程が生じる4)5)。
硝子体基底部を巻き込む浅い網膜剥離が本病態のリスクを特に高める。浅い剥離では視細胞外節の継続的な脱落が促され、硝子体基底部の関与により硝子体膜のバリア機能が失われるため、視細胞外節が前房に到達しやすい。鋸状縁や毛様体扁平部付近の小裂孔は前房との距離が短く、到達効率が高い。
網膜復位後には視細胞外節の供給が停止し、線維柱帯に沈着した外節は線維柱帯細胞の貪食作用により除去される。このため、術後に眼圧は正常化する。この眼圧正常化が外傷性緑内障(隅角後退による不可逆的構造損傷)や原発開放隅角緑内障との決定的な鑑別所見となる。
硝子体出血後に赤血球が経る変化は以下の通りである6)。
ゴースト細胞は球状(正常赤血球の両凹円盤状と異なる)で、カーキ色を呈し、変形能が著しく低下している。そのため線維柱帯の細孔を通過できず、大量に前房内に流入すると房水流出抵抗が急激に上昇する。
前房への流入経路は、手術・外傷・自然破綻により損傷した前部硝子体面(前部硝子体境界膜)である。この経路が存在しなければゴースト細胞は前房に到達できず、緑内障は発症しない。前房出血のみでghost cell緑内障となることはまれである。
シリコーンオイル(SO)による眼圧上昇は、時期により3段階の機序が提唱されている2)。
早期(術後直後〜数週): SOの前房への移動(特に過充填時)により線維柱帯が直接閉塞される。無水晶体眼ではSOが前房に容易に移動するため、閉塞隅角メカニズム(瞳孔ブロック)が主因となることが多い。
中期(術後数か月): 乳化したSO粒子が前房に移動し、マクロファージに部分的に貪食される。これらの複合体が上方象限の線維柱帯に蓄積してtrabeculitis(線維柱帯炎)を誘発する。
後期(長期留置): SOと線維柱帯の長期接触により、永続的な構造変化が生じる。この段階ではSO抜去後も眼圧上昇が持続しうる。
SOの合併症は多岐にわたり、角膜内皮障害、白内障の進行、眼圧上昇による続発緑内障、視神経乳頭へのSOの取り込み、頭蓋内へのSOの迷入、網膜色素上皮への毒性がある。
強膜バックリング術後に渦静脈のバックルによる圧迫や広範囲のバックル設置により毛様体充血・浮腫が生じ、脈絡膜剥離を合併する。毛様体は強膜突起(scleral spur)に強く接着しているため、脈絡膜剥離が生じると強膜突起を中心(軸)として毛様体が前方に回転し、虹彩根部を押し上げて隅角を閉塞する。
正常では毛様体と隅角壁の間に房水流出路としての空間が保たれているが、この前方回転により隅角が物理的に閉じられる。
汎網膜光凝固の直後に毛様体腫脹または血液網膜関門の一時的脆弱化により、脈絡膜から硝子体への体液移動が生じ、水晶体虹彩隔壁が前方に変位して隅角が閉塞する。レーザーエネルギー量が発生率と重症度に影響する。
開放隅角メカニズム
視細胞外節閉塞: Schwartz症候群。裂孔→硝子体→前房→TM閉塞
変性赤血球閉塞: Ghost cell緑内障。硝子体出血→数週で変性→TM通過不能
乳化SO閉塞: SO粒子→マクロファージ貪食→上方TM蓄積→trabeculitis2)
炎症性閉塞: フィブリン・デブリによるTM閉塞。術後早期
閉塞隅角メカニズム
Angle rotation: 毛様体浮腫→強膜突起軸の前方回転→隅角閉塞
SO瞳孔ブロック: SOが瞳孔を閉塞→水晶体虹彩隔壁の前方変位
ガス膨張: 膨張ガスによる瞳孔ブロックまたは房水流出圧迫
新生血管: 網膜虚血→VEGF↑→虹彩・隅角新生血管→線維性癒着
シリコーンオイル(SO)は時間経過とともに乳化し、微小なSO粒子が前房に移動する。これらの乳化SO粒子はマクロファージに部分的に貪食され、上方象限の線維柱帯に蓄積してtrabeculitis(線維柱帯炎)を誘発する2)。さらに長期間SOと線維柱帯が接触し続けると、永続的な構造変化が生じ、SOを抜去しても眼圧上昇が持続する場合がある。このため、網膜が安定したら1年以内の抜去が推奨されている。
膨張性ガス、既存緑内障、術後炎症のリスクが高い症例では、day 1レビューの省略は慎重に判断する。レビュー間隔を延ばす場合も、ガス濃度管理と眼圧スパイク時の受診導線を事前に明確化する。
Benzらは50眼のRCTで、チモロール0.5%/ドルゾラミド2%配合点眼(術終了時投与)がプラセボと比較して術後IOPを低減することを示した3)。ただし、予防投与の対象とタイミングは術式、タンポナーデ、既存緑内障リスクに応じて個別化する。
人口ベースの研究では、強膜バックリングと硝子体切除術の併用または硝子体切除術単独の後、10年間の緑内障発症累積確率は8.9%(95%CI 3.8〜14%)であり、対照群の1.0%(95%CI 0〜2.4%)と比較して有意に高かった(P=0.02)8)。ただし、111眼を対象とした別のレトロスペクティブ研究では平均49か月の追跡で長期的な眼圧上昇は認められておらず、報告間で差がみられる。