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緑内障

シュワルツ症候群(シュワルツ・松尾症候群)

1. シュワルツ症候群(シュワルツ・松尾症候群)とは

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シュワルツ症候群は、裂孔原性網膜剥離に伴って眼圧上昇を来す稀な病態である。1973年にSchwartzが「高眼圧を呈する裂孔原性網膜剥離」として初めて報告した2)。通常、裂孔原性網膜剥離では露出した網膜色素上皮RPE)が液体を能動的に吸収するため眼圧は低下する傾向にあるが、本症候群ではこの原則に反して眼圧が上昇する点が特徴的である。

Schwartzの初報では、裂孔原性網膜剥離に続発する慢性開放隅角緑内障(chronic open-angle glaucoma secondary to rhegmatogenous retinal detachment)として報告され、虹彩毛様体炎による房水流出障害が病因であると推測された2)。その後、1978年にDavidorfが網膜色素上皮から放出された色素顆粒が線維柱帯を閉塞するという別の仮説を提唱した5)

1986年、松尾らは本症候群の基準を満たす患者の前房水吸引液から視細胞外節を単離・同定し、視細胞外節による線維柱帯閉塞という病因を支持する所見を報告した8)。1994年にはSurvey of Ophthalmologyにおいて詳細な総説を発表し7)視細胞外節が網膜裂孔を通過して房水流出路(線維柱帯)に到達し、流出障害を引き起こすという病態機序を整理した3)。この機序に基づき、現在では「Schwartz-Matsuo症候群」の名称が広く用いられている。

緑内障診療ガイドライン(第5版)では、本症候群は続発開放隅角緑内障に分類されている1)眼圧上昇機序は「線維柱帯房水流出抵抗の主座がある」カテゴリに属し、副腎皮質ステロイド・落屑物質・アミロイド・ぶどう膜炎水晶体物質・外傷・眼科手術・眼内異物・眼内腫瘍・虹彩色素と並んで記載されている1)

欧州緑内障学会ガイドライン(第5版)でも、硝子体網膜手術に関連する緑内障の項で「線維柱帯網膜細胞外節の細胞破片によって閉塞されうる(Schwartz症候群)」と記載されている4)

なお、「続発閉塞隅角緑内障」と表記されることがあるが、隅角は開放隅角を呈する。線維柱帯レベルでの房水流出障害であり、隅角そのものが閉塞するわけではない。

裂孔原性網膜剥離の中で本症候群を呈する頻度は稀であり、大規模な疫学データは存在しない。Phelps & Burton(1977)は裂孔原性網膜剥離817眼を後方視的に検討し、そのうち眼圧が正常以上を示した症例を報告しているが、本症候群に特化した発生率の算出には至っていない6)。臨床的特徴として以下が報告されている。

  • 好発: 若年男性に多い。活動性が高く外傷を受けやすいことが一因と考えられる
  • 側性: 片眼性
  • 既往歴: 鈍的外傷やアトピー性皮膚炎の既往が多い。アトピー性皮膚炎患者では眼をこする習慣(アイラビング)が網膜剥離の発症に関与する
  • 裂孔の特徴: 鋸状縁毛様体など最周辺部の小裂孔が多い。外傷性網膜離断(retinal dialysis)も好発パターンの一つである10)
Q シュワルツ症候群は緑内障の一種ですか?
A

続発開放隅角緑内障に分類される。裂孔原性網膜剥離から脱落した視細胞外節が線維柱帯を閉塞し、房水流出障害を引き起こすことで眼圧が上昇する。緑内障診療ガイドライン(第5版)では、線維柱帯房水流出抵抗の主座がある続発開放隅角緑内障として位置付けられている1)。ただし、網膜復位術によって原因が除去されれば眼圧は正常化するため、一般的な慢性緑内障とは経過が大きく異なる。

本症候群の自覚症状は、網膜剥離に由来するものと高眼圧に由来するものが混在する。

網膜剥離に伴う症状:

  • 視野欠損: 剥離範囲に対応した視野の暗点・欠損
  • 光視症: 網膜裂孔形成時の閃光感
  • 飛蚊症: 硝子体混濁・色素散布による
  • 視力低下: 黄斑部に剥離が及んだ場合に顕著

眼圧に伴う症状:

  • 眼痛: 眼圧上昇が著しい場合
  • 霧視: 角膜浮腫による
  • 頭痛: 同側の前頭部・側頭部
  • 悪心・嘔吐: 著明な眼圧上昇時

網膜剥離がゆっくり進行する症例や、剥離が下方に限局する例では自覚症状に乏しいことがある。前房内の細胞様浮遊物のみで眼科を受診し、ぶどう膜炎と誤診される場合もあるため注意を要する。特に若年者では眼痛視力低下を訴えずに経過する例もあり、外傷歴のある患者で説明のつかない前房細胞と眼圧上昇を認めた場合は、本症候群を鑑別に挙げて周辺部の眼底検査を徹底する必要がある。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

本症候群に特徴的な臨床所見を以下に示す。

所見特徴
隅角開放隅角(閉塞隅角ではない)
前房比較的大きな細胞様浮遊物(視細胞外節)
眼圧上昇(著しい日内変動を伴う)
網膜浅い裂孔原性網膜剥離硝子体基底部を巻き込むことが多い)
裂孔鋸状縁毛様体など最周辺部の小裂孔
剥離網膜時間経過とともに索状物を形成
水晶体白内障や脱臼を合併することがある

前房内に認められる「細胞」は、ぶどう膜炎で見られる炎症細胞とは本質的に異なる。これらは剥離網膜から脱落した視細胞外節であり、真の虹彩毛様体炎(iridocyclitis)は伴わない。角膜後面沈着物(keratic precipitates; KP)や虹彩前癒着を認めないことが鑑別上重要である。視細胞外節は炎症性白血球に比べてやや大きく、細隙灯顕微鏡で観察すると比較的大きな細胞様構造体として認められる。

前房細胞は副腎皮質ステロイド治療に反応しない点も、炎症性疾患との重要な鑑別ポイントとなる。ステロイド点眼や全身投与を行っても前房細胞は減少せず、眼圧も改善しない。この「ステロイド抵抗性」の前房細胞は、ぶどう膜炎ではなく本症候群を積極的に疑う契機となる。

なお、裂孔原性網膜剥離に伴うtobacco dust様色素(Shafer’s sign)は網膜色素上皮由来の所見であり、本症候群の前房細胞(視細胞外節)とは別の現象である。Shafer’s signは裂孔発症を示唆する有用な所見として知られている。両所見が同一眼に共存することもあるが、それぞれの起源と臨床的意義は異なる。

Q 前房の細胞はぶどう膜炎の炎症とは違うのですか?
A

本症候群の前房細胞は、ぶどう膜炎で認められる炎症性の白血球やリンパ球ではなく、剥離網膜から脱落した視細胞外節(光受容体外節)である。そのため角膜後面沈着物(KP)や虹彩前癒着、フレアの著明な増加を伴わない。さらに副腎皮質ステロイドによる点眼や全身投与を行っても前房細胞は減少しない。このステロイド抵抗性は重要な鑑別所見であり、治療方針の決定に直結する。詳しくは「診断と検査方法」の項を参照。

本症候群の病因は、裂孔原性網膜剥離によって網膜下腔に脱落した視細胞外節が、粘稠性の網膜下液とともに網膜裂孔を通過し、前房に到達して線維柱帯を閉塞することにある。視細胞外節は網膜の光受容体(桿体・錐体)の先端部分であり、正常では網膜色素上皮によって日々貪食・再生される構造体である。網膜剥離が生じると視細胞外節の正常な代謝回転が破綻し、脱落した外節が蓄積して房水流出路に流入する。詳細な病態機序については「病態生理学」の項を参照。

本症候群の発症に関与するリスク因子として、以下が報告されている。

  • 硝子体基底部を巻き込む浅い網膜剥離: 浅い剥離は変性した視細胞外節の継続的な脱落を可能にする。また、硝子体基底部の関与により、視細胞外節が硝子体膜に遮られることなく前房に到達できる
  • 鋸状縁における網膜裂孔網膜離断: 最周辺部の裂孔は前房との距離が短く、視細胞外節が前房に到達しやすい10)
  • 眼外傷(鈍的外傷): 外傷性の網膜裂孔や離断は本症候群のリスクとなる6)
  • アトピー性皮膚炎: アトピー性皮膚炎患者は網膜剥離のリスクが高く、鋸状縁付近の裂孔を生じやすい
  • マルファン症候群: 水晶体亜脱臼・硝子体変性に伴い、網膜裂孔鋸状縁付近に生じるリスクがある9)
  • 近視: 強度近視裂孔原性網膜剥離の危険因子であり、間接的に本症候群のリスクを高める
  • 若年男性: 若年者では外傷性の網膜離断や鋸状縁裂孔の頻度が高い

本症候群は以下の3つの臨床所見の組み合わせによって臨床的に診断される。

  1. 他のぶどう膜炎の徴候を伴わない前房細胞(細胞の数は症例により様々)
  2. 著しい変動を伴う高眼圧
  3. 裂孔原性網膜剥離

前眼部所見のみでは診断は困難であるが、裂孔原性網膜剥離が確認されれば診断は容易となる。

本症候群の診断・評価に用いる検査法を以下に示す。診断の鍵は裂孔原性網膜剥離の確認であり、周辺部の小裂孔を見落とさないための多角的な検査アプローチが重要となる。

  • 散瞳眼底検査: 網膜剥離および裂孔の確認。最周辺部(鋸状縁付近)の小裂孔を見落とさないよう、倒像鏡や前置レンズを用いて硝子体基底部まで入念に観察する
  • 圧迫子を用いた眼底検査: 散瞳不良や水晶体疾患により裂孔検出が困難な場合も多い。強膜圧迫法を用いて鋸状縁付近の最周辺部を隆起させ、小裂孔を積極的に探索する。外傷性の網膜離断は圧迫子なしでは見落とされやすい
  • Bモード超音波検査: 白内障硝子体出血角膜浮腫などにより眼底が透見不良な場合、網膜剥離の存在を確認するために有用である。網膜剥離の範囲や高さの推定にも用いる
  • 超音波生体顕微鏡UBM: 毛様体付近の裂孔や網膜剥離の前方範囲を高解像度で評価できる。通常の眼底検査では観察が困難な毛様体扁平部の病変検出に特に有効である
  • 光干渉断層計OCT: 網膜下液の存在や網膜層構造の変化を確認する。黄斑部OCTは術前の網膜構造評価にも有用である
  • 隅角検査隅角鏡): 開放隅角であることを確認する。隅角後退隅角閉塞・周辺虹彩前癒着新生血管など、眼圧上昇の他の原因を除外する。Goldmannタイプの隅角鏡を用いて全周を観察することが推奨される
  • 眼圧測定: Goldmann圧平眼圧計による正確な眼圧の記録。本症候群では著しい日内変動を示すことがあり、複数回・異なる時間帯での測定が推奨される
  • 細隙灯顕微鏡検査: 前房内の細胞様構造体の評価。角膜後面沈着物(KP)や虹彩前癒着の有無を確認し、ぶどう膜炎との鑑別に用いる。前房フレアの程度も評価する
  • 全身検査: アトピー性皮膚炎やマルファン症候群の身体所見を確認する。マルファン症候群では高身長・くも指・水晶体偏位などの特徴的所見を示す

本症候群は眼圧上昇と前房細胞を呈するため、以下の疾患との鑑別が必要である。

鑑別疾患鑑別のポイント
虹彩炎(前部ぶどう膜炎KP・虹彩前癒着あり。ステロイドに反応する
ポスナー・シュロスマン症候群微細なKP、わずかなフレア。ステロイドに反応する
外傷性緑内障隅角後退所見あり。網膜復位後も眼圧下降が得られない
原発開放隅角緑内障前房細胞を伴わない。網膜復位後も眼圧下降が得られない

外傷性緑内障原発開放隅角緑内障との鑑別がしばしば困難であるが、これらの疾患では網膜復位後も眼圧下降が得られない点が決定的な鑑別所見となる。

Q 散瞳できないときはどのように裂孔を探しますか?
A

散瞳不良や水晶体疾患(白内障・脱臼など)により眼底が透見困難な場合は、Bモード超音波検査で網膜剥離の存在を確認する。さらに超音波生体顕微鏡UBM)を用いれば毛様体付近の裂孔や網膜剥離を評価できる。OCT網膜下液の検出に有用である。圧迫子を用いた強膜圧迫法により、散瞳が不十分でも最周辺部の裂孔を検出できる場合がある。

本症候群の根本的治療は網膜復位術である。視細胞外節の供給源である裂孔原性網膜剥離を修復することで、線維柱帯閉塞の原因が除去され、眼圧は正常化する。

  • 強膜バックリング術強膜内陥術): 第一選択。若年者の周辺部裂孔が多いことから、強膜バックリングが最も適した術式となる。シリコーンスポンジやシリコーンバンドなどのバックル材料を強膜表面に縫着し、裂孔部位を外方から隆起させて網膜色素上皮と神経網膜を再接着させる。裂孔周囲には冷凍凝固クライオペキシー)を施行して癒着を促す。若年者では硝子体が透明で網膜の柔軟性も保たれているため、強膜バックリングによる良好な復位率が期待できる
  • 硝子体手術(経扁平部硝子体切除術): 増殖性硝子体網膜症PVR)を伴う場合、巨大裂孔の場合、あるいは強膜バックリングでは復位が困難な場合に選択する。硝子体を切除した後、網膜裂孔周囲にレーザー光凝固を施行し、六フッ化硫黄(SF6)ガスや八フッ化プロパン(C3F8)ガスによるタンポナーデを行う。重症例ではシリコーンオイルタンポナーデを選択することがある
  • 白内障同時手術: 白内障水晶体脱臼の合併がある場合、水晶体再建術(眼内レンズ挿入)を同時に施行することがある。特に水晶体混濁により眼底が透見困難な場合は、手術操作の視認性を確保する目的でも白内障手術の同時施行が考慮される

欧州緑内障学会ガイドライン(第5版)でも、網膜剥離に対する手術が治療の中心であり、眼圧コントロール不良時には緑内障手術を検討すると記載されている4)

薬物療法(待機的・一時的眼圧下降)

Section titled “薬物療法(待機的・一時的眼圧下降)”

手術待機中の眼圧管理として、以下の薬物療法が使用される。

  • 炭酸脱水酵素阻害薬: アセタゾラミドダイアモックス)500mg 1日2回 経口投与。房水産生を抑制して眼圧を下降させる
  • 眼圧降下点眼薬: β遮断薬(チモロール0.5%など)、プロスタグランジン関連薬などの点眼による眼圧下降
  • ピロカルピン(適応外使用): 縮瞳作用により線維柱帯の間隙を広げ、房水流出を促進する可能性がある

副腎皮質ステロイドは無効である。前房内の「細胞」は炎症細胞ではなく視細胞外節であるため、ステロイドの抗炎症作用は前房細胞を減少させず、眼圧も改善しない。この点は臨床上極めて重要であり、ぶどう膜炎と誤診してステロイド治療を続けても改善が得られないことが、診断の手がかりとなる場合がある。

網膜復位後も眼圧がコントロール不良のまま残存する場合は、以下を検討する。

  • 濾過手術線維柱帯切除術など): マイトマイシンC併用線維柱帯切除術により、新たな房水流出路を外科的に作成して眼圧を下降させる
  • 低侵襲緑内障手術MIGS: マイクロフック線維柱帯切開術iStentなどのステントデバイスによる線維柱帯レベルの流出抵抗低減。従来の濾過手術に比べて合併症リスクが低い
  • 房水流出路再建術: 線維柱帯切開術トラベクロトミー)により、Schlemm管への房水流出を改善する

ただし、網膜復位に成功した場合に持続的な眼圧コントロール不良を来す例は少ない。術後早期に眼圧が正常化しない場合でも、線維柱帯からの視細胞外節の除去には一定の時間を要するため、数週間の経過観察で改善が得られることがある。

Q ステロイド点眼で眼圧は下がりますか?
A

下がらない。本症候群の前房細胞は炎症細胞ではなく視細胞外節であるため、ステロイドの抗炎症作用は無効である。むしろステロイドの長期使用はステロイド緑内障白内障のリスクを高めるため注意が必要である。眼圧を下降させるには、炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミド500mg 1日2回)の内服やβ遮断薬の点眼を使用し、根本治療として網膜復位術を行う必要がある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

通常の裂孔原性網膜剥離における眼圧変化

Section titled “通常の裂孔原性網膜剥離における眼圧変化”

通常、裂孔原性網膜剥離が発症すると眼圧は低下する傾向にある6)。これは、網膜剥離によって露出した網膜色素上皮RPE)が液体を能動的に吸収(ポンプ作用)するためである。RPEの液体吸収量が増加すると、房水の産生量に対して相対的に流出が促進され、結果として眼圧は低下する。

本症候群における逆説的な眼圧上昇

Section titled “本症候群における逆説的な眼圧上昇”

本症候群では、この通常の法則に反して眼圧が上昇する。その機序は以下のように理解されている。

  1. 裂孔原性網膜剥離の発症: 網膜裂孔を通じて液化硝子体網膜下腔に流入し、網膜剥離が生じる
  2. 視細胞外節の脱落: 剥離した網膜視細胞(光受容体)から外節が脱落し、網膜下腔に遊離する
  3. 前房への到達: 脱落した視細胞外節は、粘稠性の網膜下液とともに網膜裂孔を通過し、硝子体腔を経由して前房に到達する
  4. 線維柱帯の閉塞: 前房に到達した視細胞外節が房水流出路である線維柱帯の細孔を物理的に閉塞する
  5. 房水流出障害と眼圧上昇: 線維柱帯の閉塞により房水流出が障害され、眼圧が上昇する

硝子体基底部を巻き込む浅い網膜剥離は本症候群の発症リスクを特に高める。浅い剥離は変性した視細胞外節の継続的な脱落を促し、硝子体基底部の関与により硝子体膜のバリア機能が失われるため、視細胞外節が遮られることなく前房に到達できる。深い網膜剥離では視細胞外節が硝子体膜に捕捉されやすく、前房への到達が阻害される。

病因をめぐる歴史的な仮説の変遷

Section titled “病因をめぐる歴史的な仮説の変遷”

本症候群の病因については、以下のように複数の仮説が提唱されてきた。

  • Schwartz(1973年): 虹彩毛様体炎が房水流出施設の機能を低下させ、房水産生が正常または減少している状況下で眼圧上昇に寄与するという仮説2)
  • Davidorf(1978年): 網膜色素上皮RPE)から放出された色素顆粒が前房内を前方に移動し、線維柱帯を閉塞する可能性を提唱5)
  • 松尾ら(1986年・1994年): 前房水吸引液から視細胞外節と炎症細胞を単離・同定8)視細胞外節が網膜裂孔を通過して房水流出路に到達し、流出障害を引き起こすという病態機序を整理した3)7)

松尾らの報告以前に蓄積された症例報告では、本症候群の隅角において以下の3つの特徴が観察されていた。

  1. 色素沈着の程度が対側眼と同等(色素の過剰沈着がない)
  2. 角膜に色素沈着がない
  3. 前房内に浮遊色素が認められない

これらの所見はDavidorfの色素顆粒説とは一致せず、視細胞外節が根本的な病因であることを支持するものであった。松尾らの実験的証拠によりこの仮説が確立され、以後「Schwartz-Matsuo症候群」の呼称が定着した3)

網膜復位術により裂孔が閉鎖されると、視細胞外節の前房への供給が遮断される。すでに線維柱帯に沈着した視細胞外節は線維柱帯細胞の貪食作用によって徐々に除去され、房水流出が回復する。その結果、眼圧は正常化し、前房細胞も消失する。この眼圧正常化のメカニズムは以下のように段階的に進行する。

  1. 裂孔の閉鎖により視細胞外節の新たな供給が停止する
  2. 前房内に浮遊する視細胞外節は房水のターンオーバーとともに徐々に減少する
  3. 線維柱帯に捕捉された視細胞外節は線維柱帯細胞の貪食作用により除去される
  4. 房水流出抵抗が正常化し、眼圧が生理的範囲に復帰する

術後に眼圧下降薬が必要となることは少ない。この眼圧正常化が本症候群の最も重要な臨床的特徴であり、外傷性緑内障原発開放隅角緑内障との鑑別の根拠となる。外傷性緑内障では隅角後退による線維柱帯の構造的損傷が不可逆的であり、原発開放隅角緑内障では線維柱帯の加齢性変化が基盤にあるため、いずれも網膜復位後に眼圧が正常化することはない。

Q なぜ通常の網膜剥離では眼圧が下がるのに、この症候群では上がるのですか?
A

通常の裂孔原性網膜剥離では、露出した網膜色素上皮RPE)が液体を能動的に吸収するため眼圧は低下する6)。しかしシュワルツ症候群では、剥離網膜から脱落した視細胞外節が網膜裂孔を通過して前房に到達し、線維柱帯の細孔を物理的に閉塞する。この閉塞によって房水流出が障害されるため、RPEの液体吸収による眼圧低下効果を上回る眼圧上昇が生じる。特に硝子体基底部を巻き込む浅い剥離では、視細胞外節が前房に到達しやすく、眼圧上昇のリスクが高い。


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