星状硝子体症(AH)
粒子形状:球状
組成:カルシウム・リン脂質、ムコ多糖
硝子体状態:非液化、ゲル状態を保つ
静止時の挙動:元の位置に戻る
症状:通常無症状
発症背景:加齢性変性
星状硝子体症(Asteroid Hyalosis; AH)は、一般に60歳以上の高齢者にみられる硝子体線維の変性疾患である。星状体(asteroid body; AB)が硝子体のコラーゲン線維内に沈着し、硝子体の変性を生じると考えられている。星状体はカルシウム含有リン脂質・ムコ多糖(またはリン酸カルシウム)が主体であり、黄白色で球状の粗な粒子が硝子体中に浮遊する。眼球運動とともに可動性を呈するが、静止すると元の位置に戻る。
1894年に Alfred Hugh Benson が初記述し、後に Luxenberg と Sime が「asteroid hyalosis」と命名した。閃輝性硝子体融解症(synchysis scintillans)とは異なる独立した疾患である(鑑別診断の項参照)。
80%は片眼性である。有病率は約1〜2%で、3大疫学研究では以下の結果が報告されている。
| 研究 | 有病率 | 特記事項 |
|---|---|---|
| Beaver Dam Eye Study | 1.2% | 43-54歳 0.2% → 75-86歳 2.9%。男性1.4% vs 女性0.6%5) |
| Blue Mountains Eye Study | 1.0% | 49-55歳 0% → 75-97歳 2.1%6) |
| UCLA剖検コホート(10,801人) | 1.96% | 病理学的解析7) |
性差として男性(1.4%)が女性(0.6%)より多く、60歳以上の高齢者に好発する。5)
糖尿病との合併はしばしば指摘されてきた。しかし、Beaver Dam・Blue Mountains・UCLA研究のいずれにおいても有意な関連は確認されていない。5)6)7) 片眼性が主体であることも、全身疾患との関連に疑問を呈する根拠となっている。
古くから糖尿病との合併が指摘されてきた。しかし、Beaver Dam Eye Study、Blue Mountains Eye Study、UCLA剖検コホートの3つの大規模研究いずれも有意な関連を確認できていない。5)6)7) 片眼性が主体であることも、全身疾患との直接的な因果関係に疑問を呈している。

通常は無症状である。中等度の混濁があっても飛蚊症を自覚しないことが多く、視力は良好で治療不要なことが多い。高度混濁でも視力が保たれていることが特徴であり、眼底の観察が困難なほどの高度な星状硝子体症でも視力良好で治療が不要なことが多い。
稀に後部硝子体剥離(PVD)の発生を契機として急性視力低下を生じる。機序は星状体が前方硝子体に集中し、眼の結節点(nodal point)付近の混濁密度が上昇して視軸を遮断するためである。3)
Marlow らの6眼ケースシリーズでは、全例が急性ないし亜急性の視力低下を呈した。術前矯正視力(BCVA)の平均は20/150(範囲 20/25〜20/2500)で、後部硝子体剥離進行に伴う平均低下量は logMAR 0.70 であった。3)
細隙灯顕微鏡による前部硝子体の観察は必須である。眼球を動かしてもらい、硝子体の動きを観察する。細隙灯顕微鏡では、黄白色で球状の粗な粒子が硝子体中に浮遊する所見を認める。
眼球運動とともに可動性を呈するが、静止すると元の位置に戻る。これは硝子体が液化していないため、星状体が硝子体線維に固着したまま動きに追随する現象である。星状体は大きな粒子であり、白血球との区別は容易である。
硝子体液化はきたしていないことが多く、後部硝子体剥離を生じていない例が多い。網膜との癒着が強固で後部硝子体剥離が生じにくい特性がある。AH眼で後部硝子体剥離が発生した場合、異常な硝子体網膜接着によりvitreoschisis(硝子体分離)を伴いやすい。3)
Marlow らの6眼中3眼で完全後部硝子体剥離が、3眼で部分後部硝子体剥離(vitreoschisis)が確認された。3)
高度混濁での注意点:増殖糖尿病網膜症例では網膜光凝固術がしばしば困難であり、硝子体手術も難易度の高いことがある。
加齢が最大のリスク因子である。一般に60歳以上の高齢者にみられる。そのほか以下の要因との関連が報告されている。
細隙灯顕微鏡による前部硝子体の観察は必須である。眼球を動かしてもらい、硝子体の動きを観察することで診断ができる。硝子体中の特徴的な黄白色球状混濁を確認し、眼球運動で可動性を示しながら静止で元位置に戻る所見が診断の鍵となる。カルシウム結晶由来の大きな粒子であり、診断は比較的容易である。
各検査の特性を以下に示す。
| 検査法 | 特性 | 有用な場面 |
|---|---|---|
| OCT | AHの影響少ない(830nm波長) | 硝子体網膜界面評価 |
| FA | AH下でも撮影可 | 糖尿病網膜症合併例 |
| 超音波Bモード | 後方エコー欠損なし高輝度焦点 | 眼底透見不能時 |
最重要の鑑別は閃輝性硝子体融解症(synchysis scintillans)との区別である。
星状硝子体症(AH)
粒子形状:球状
組成:カルシウム・リン脂質、ムコ多糖
硝子体状態:非液化、ゲル状態を保つ
静止時の挙動:元の位置に戻る
症状:通常無症状
発症背景:加齢性変性
閃輝性硝子体融解症(SS)
その他の鑑別疾患として、硝子体アミロイドーシス、硝子体出血、硝子体炎(ぶどう膜炎)、眼内リンパ腫などがある。
通常は飛蚊症を自覚せず視力は良好なため、治療を必要としないことが多い。混濁が強くても視力が保たれていることが多く、手術対象となることは少ない。
治療フローは以下のとおりである。
視力障害を生じる場合に手術適応となる。混濁が強く視力障害を生じる場合は硝子体手術を行う。後部硝子体剥離に伴う急性視力低下例では、硝子体手術が治癒的に視力を回復させる。3)
硝子体手術の適応と成績
適応:混濁が強く視力障害を生じる場合
手術方式:23G または 25G 経結膜硝子体手術3)
視力回復経過:術後1ヶ月で2眼が基線視力に回復、3ヶ月で全眼が回復3)
最終最高矯正視力:平均 20/35(範囲 20/20〜20/200)3)
術後合併症:報告なし3)
白内障手術時の注意点
AH眼の硝子体手術では、硝子体の液化が生じにくく後部硝子体皮質と網膜の癒着が病的に強いため、慎重な操作が必要である。増殖糖尿病網膜症を合併する場合は網膜光凝固が困難となり、硝子体手術の難易度も高くなる。
Saeed らは、70歳男性の白内障手術中(I/A操作時)に黄白色球状体が前房に移動した1例を報告した。嚢破損・チン小帯損傷なし。I/Aで吸引・除去し、IOLを嚢内に挿入した。術後視力は 20/20 で4年後も良好であった。1)
Desai らは、白内障手術後2ヶ月で前房内黄色結晶塊・IOP 35 mmHg・前房浅小化を呈した70歳男性を報告した。悪性緑内障によるAH前房移動と診断した。前房洗浄+硝子体生検+虹彩-チン小帯-硝子体切除術を施行し、翌日IOP は 17 mmHg に改善した。後嚢欠損やチン小帯脆弱がなくても、房水逆流でAH前房移動が起きうることを示した。2)
硝子体手術で硝子体ごと星状体を除去するため、術後の再発は報告されていない。Marlow らの6眼全例で術後3ヶ月以内に基線視力が回復し、合併症も認めなかった。3)
星状体(asteroid body)が硝子体のコラーゲン線維内に沈着し、硝子体の変性を生じると考えられている。主成分はカルシウム含有リン脂質・ムコ多糖(またはリン酸カルシウム)である。硝子体コラーゲン線維への沈着が基本病態であり、糖尿病との関連が指摘されているものの、大規模疫学研究では否定されている。5)6)7)
電子分光イメージングではCa・P・Oが均一分布し、ヒドロキシアパタイトに構造的・元素的に類似することが示されている。免疫蛍光顕微鏡では星状体周囲にコンドロイチン-6-硫酸が検出され、レクチン金標識によりヒアルロン酸特異的炭水化物が内部マトリックスの一部を構成することが確認されている。プロテオグリカンとグリコサミノグリカン(GAG)側鎖が生体鉱物化(biomineralization)プロセスの調節に関与していると考えられている。8)
硝子体は液化していないことが多く、網膜との癒着が強固で後部硝子体剥離が生じにくい。しかし一旦後部硝子体剥離が発生すると、異常な硝子体網膜接着によりvitreoschisis(硝子体皮質分離)を伴う異常後部硝子体剥離となりやすい。3)
Marlow らの6眼中3眼で部分後部硝子体剥離(vitreoschisis)が確認された。vitreoschisisが生じると、星状体を含む前方硝子体が眼の結節点付近に集中し視力障害が顕在化する。3)
Topilow らの病理学的解析では、AH眼の81%で硝子体ゲルが顕微鏡的に正常であり、19%で中等度の液化(syneresis)が確認された。1)
術中のAH前房移動は、硝子体液化(syneresis)とチン小帯微小間隙を介した星状体の前方移動によると考えられている。1) 術後遅発性には悪性緑内障による房水逆流が前方移動を引き起こす別機序も存在する。2) 後嚢欠損やチン小帯脆弱がない状態でもAH前房移動が生じうる点が重要である。1)2)
swept-source OCT(SS-OCT、中心波長1050nm)は従来のSD-OCT(840nm)と比較して深達度が高く、AH眼における硝子体・脈絡膜・網膜の詳細な評価に寄与する可能性がある。星状体による光散乱の影響を受けにくい特性が期待されており、AH合併糖尿病網膜症や黄斑疾患のモニタリングへの応用が検討されている。
swept-source biometry(IOLMaster 700等)は1050nm波長を用いるため、AH眼における眼軸長測定精度を改善できる可能性がある。従来の光学式生体計測では星状体による干渉が眼軸長誤差の原因となりうるが、長波長化と信号処理の改善により計測成功率の向上が期待されている。白内障手術を予定するAH患者における術前精密検査の選択として注目される。
ocriplasmin(マイクロプラスミン)などの硝子体溶解酵素は、硝子体黄斑牽引症候群や黄斑円孔に対して承認されているが、AHに対する適応は確立されていない。AHでは硝子体が非液化状態であるため、薬理学的アプローチの有効性・安全性は現時点では不明であり、さらなる研究が必要である。