質的判定
スリットランプによる視神経検査
1. スリットランプによる視神経検査とは
Section titled “1. スリットランプによる視神経検査とは”緑内障における視神経乳頭の臨床評価は、OCTなどの画像解析装置が普及した現在においても、診断と経過観察の中心的手段である1)。視神経乳頭の形態変化や網膜神経線維層欠損(RNFLD)は、視野障害に先行して出現することがあり、早期発見における重要な所見となる。
検査は体系的に行うことが重要であり、以下の観察ポイントを網羅する「7つのステップ」が提唱されている。
- 陥凹(cup)の評価
- 色調(color)の評価
- 輪郭(contour)の評価
- ISNTルールの確認
- 乳頭サイズの測定
- 血管所見の評価
- 乳頭周囲萎縮(PPA)の評価
視神経乳頭の形態変化は、拡大立体視で観察することが重要である1)5)。散瞳下の観察が推奨されるが、乳頭出血などの顕著な所見は非散瞳下でも確認可能である1)。
画像解析装置はあくまで補助的手段であり、測定精度の限界やアーチファクトの影響を受ける2)。強度近視眼は通常の正常眼データベースに含まれず、異なる機種間で測定値の比較もできない2)。最終的な診断は、臨床所見・画像解析・視野検査を総合して判断する必要がある2)。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”緑内障性視神経障害の初期〜中期では、患者が自覚症状を訴えることは少ない。視野障害が進行して中心視野に及ぶまで視力低下を自覚しないことが多い。
視神経乳頭の評価は、質的判定と量的判定に大別される2)。
量的判定
C/D比:垂直陥凹径/垂直乳頭径。正常は0.3以内2)
R/D比:リム幅/乳頭径。0に近いほどリムが薄い2)
DM/DD比:中心窩-乳頭中心間距離/乳頭径。2.4〜3.0が正常。乳頭サイズの推定に用いる2)
左右差:水平C/D比の左右差0.2超は正常者の3%以下2)
緑内障性視神経障害を示す所見
Section titled “緑内障性視神経障害を示す所見”緑内障性視神経障害を示唆する身体所見は以下の通りである3)。
- 陥凹の垂直方向伸長:神経網膜リム幅の減少を伴う
- 陥凹の拡大:乳頭サイズに対して不釣り合いに大きい場合に注目する
- リムの局所的・びまん性菲薄化:上極・下極が好発部位
- 乳頭出血:リム・傍乳頭網膜神経線維層・篩状板に生じる
- 中心血管の鼻側偏位:陥凹拡大に伴い血管が鼻側に偏位する
- 周縁血管の露出(baring):かつてリム上にあった血管が陥凹内に移動する
- リムの蒼白を伴わない陥凹拡大:陥凹の程度を超えた蒼白は非緑内障性を示唆する
- 網膜神経線維層のびまん性・局所的菲薄化:網膜血管径より太いスリット状・楔状欠損は緑内障性変化の可能性が高い
- βゾーン乳頭周囲萎縮:緑内障眼の約80%に認められる
ISNTルール
Section titled “ISNTルール”正常眼では、神経網膜リム幅は下方(Inferior)>上方(Superior)>鼻側(Nasal)>耳側(Temporal)の順に厚い3)5)。この法則からの逸脱は緑内障性変化を疑う根拠となる。緑内障患者の約80%で下方・上方のリム菲薄化が認められ、ISNTルールに従わない3)。ただし、正常眼でもISNTルールに従うのは45%未満との報告もある3)。
網膜神経線維層欠損(RNFLD)
Section titled “網膜神経線維層欠損(RNFLD)”網膜神経線維層欠損は乳頭陥凹や視野欠損に先行して出現することがあり、早期の緑内障性眼底変化として重要である。網膜血管径より太いスリット状・楔状の欠損が観察される場合、緑内障性変化の可能性が高い。
網膜神経線維層の観察は、無赤色光(red-free光)を用いると容易になる1)3)5)。細隙灯顕微鏡では、低倍率の無赤色光、または高倍率の細い明るい白色ビームを乳頭周囲約2乳頭径以内で使用する5)。焦点を主要網膜血管のわずか前方に合わせると、線維束が放射状の銀白色条線として観察される。
ラミナドットサイン
Section titled “ラミナドットサイン”陥凹内に篩状板の細孔が露出して見える状態をラミナドットサインと呼ぶ。陥凹の深化を示す所見であり、緑内障による神経線維の脱落を反映している。
緑内障患者の多くに、経過中のいずれかの時点で乳頭出血が認められる5)。耳上側・耳下側のリムに好発する。持続期間は通常2〜4ヵ月と短く、消失後に局所的リムのノッチングが出現する。正常眼圧緑内障では発生リスクが3〜5倍高い。乳頭出血は意識的に探さないと見落とされやすいため、立体乳頭写真の定期撮影が鋭敏な検出法となる。
正常眼のC/D比は0.3以内であり、0.7を超えるものは全体の約5%にすぎない2)。垂直C/D比0.7以上、または両眼の左右差0.2以上は緑内障を疑う所見である2)。ただし、大きな乳頭では生理的陥凹も大きいため、乳頭サイズ(DM/DD比)を考慮して判断する必要がある2)。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”視神経乳頭の観察には十分な拡大が必要であり、直像鏡法が推奨される2)。直像鏡は解像度に優れ、倍率15倍の拡大正立像が得られる。ただし観察視野が狭く、立体視は得られない。
red-free光を使用するとコントラストが向上し、乳頭出血や網膜神経線維層欠損の検出に有用である3)4)。14Dや20Dレンズによる倒像鏡検査は乳頭像が小さくなりすぎるため、視神経乳頭の詳細な観察には不向きである2)。
細隙灯顕微鏡法
Section titled “細隙灯顕微鏡法”視神経乳頭と網膜神経線維層の立体的観察に最も適した方法である2)。
- 直接法:Goldmann型三面鏡の中央部分を用いて細隙灯顕微鏡下に行う。スリットビームにより陥凹の広がりと深さを強拡大で観察する2)
- 間接法:78D・90Dなどの前置レンズを用いて行う。像は倒像となる2)。非接触で比較的容易に施行できるため、日常臨床で広く用いられる
スリットビームの長さを1mmまたは2mmに設定して乳頭上にあて、普段から正常な垂直径の感覚を把握しておくことが推奨される。
直像鏡の利点
高倍率:15倍の拡大で詳細な観察が可能
高解像度:微細な所見を捉えやすい
簡便性:特別な準備なく施行できる
前置レンズ法の利点
眼底写真撮影法
Section titled “眼底写真撮影法”眼底変化の記録と経過観察に有効であり、立体写真の撮影が望ましい2)。乳頭部の記録には画角30°程度、網膜神経線維層の記録には画角45°以上の撮影が適している2)。カラー立体写真は乳頭出血の検出にも優れた方法である3)4)。
無赤色眼底観察法
Section titled “無赤色眼底観察法”網膜神経線維層欠損の検出には無赤色光による眼底撮影が推奨される2)。日本人の眼底では通常のカラー写真でも網膜神経線維層の観察が比較的容易であるが、わずかな欠損の検出には無赤色光が有用である。青成分のみを抽出した白黒変換画像を用いると、網膜神経線維層欠損の有無だけでなく幅まで評価可能となる。最大透過率が495nm付近のフィルターを使用する2)。
三次元眼底画像解析法(OCT)
Section titled “三次元眼底画像解析法(OCT)”OCTは現在最も普及した三次元眼底解析装置であり、緑内障診断に広く応用されている2)3)。
- 乳頭周囲網膜神経線維層厚:乳頭中心から直径約3.4mmの円周スキャンで測定する2)。全体および各セクターの平均厚を搭載された正常眼データベースと比較する
- 黄斑部網膜内層厚:網膜神経節細胞複合体厚、または神経節細胞層+内網状層厚を測定するプログラムがある2)
- Bruch膜開口部-最小リム幅(BMO-MRW):乳頭形状の新しい定量法として注目されている
OCTの結果は撮影画像の質やアーチファクトに影響を受ける2)。強度近視眼は通常の正常眼データベースに含まれないため、結果の解釈に注意を要する2)。異なる機種間では測定値の直接比較ができない点にも留意する2)。
緑内障診断基準
Section titled “緑内障診断基準”垂直C/D比とR/D比の判定結果に基づく診断基準を以下に示す2)。
| 判定 | 基準 | 条件 |
|---|---|---|
| 緑内障 | 乳頭所見のみ | C/D≧0.9、R/D≦0.05、左右差≧0.3 |
| 緑内障疑い | 精査要 | C/D≧0.7、R/D≦0.1、左右差≧0.2 |
上記の量的判定に加え、対応する視野異常の有無を総合的に判断する2)。最終的な診断は質的・量的所見を組み合わせて行うべきである2)。
視神経損傷蓋然性スケール(DDLS)
Section titled “視神経損傷蓋然性スケール(DDLS)”検者間・検者内の再現性を向上させるため、DDLSと呼ばれる定量的評価システムが提案されている。乳頭サイズ(小<1.50mm、平均1.50〜2.00mm、大>2.00mm)、リム最狭部のリム幅/乳頭径比、リム消失範囲(角度)を考慮し、客観的な評価を目指す。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”緑内障性視神経障害の機序
Section titled “緑内障性視神経障害の機序”緑内障では、網膜神経節細胞の障害に伴い、その軸索である網膜神経線維が脱落する。これにより、視神経乳頭陥凹の拡大、リムの菲薄化、網膜血管の鼻側偏位、網膜神経線維層欠損などの構造的変化が生じる。
初期の異常は、びまん性の菲薄化または局所的な欠損のいずれかとして出現しうる5)。緑内障性変化は通常、上極と下極のリムから始まり、陥凹の垂直方向への伸長として認められる。進行すると局所的なノッチングが生じ、さらに進行するとリムの一部が消失する。
陥凹と蒼白の関係
Section titled “陥凹と蒼白の関係”緑内障性視神経障害では、陥凹の拡大(cup)がリムの蒼白化(pallor)に先行する。これを「cupとpallorの不一致」と呼ぶ。一方、非緑内障性視神経萎縮では、リムの蒼白化が陥凹拡大より先行する。この違いが両者の鑑別における最も有効なポイントである。
非緑内障性視神経障害との鑑別
Section titled “非緑内障性視神経障害との鑑別”鑑別を要する疾患は以下の通りである。
- 近視性乳頭:傾斜乳頭、コーヌス、乳頭周囲萎縮により緑内障性変化の判定が困難になる。-8D以下の近視では乳頭形状に正常眼との明らかな差はないが、-12Dを超えると縦長の程度が強くなる
- 生理的大陥凹:大きな乳頭では生理的陥凹も大きくなるため、DM/DD比で乳頭サイズを評価したうえで判断する
- 先天異常:乳頭低形成、乳頭コロボーマ、視神経乳頭小窩、傾斜乳頭症候群。乳頭のサイズ・色調の異常、陥凹・突出、乳頭周囲の網膜萎縮の有無を注意深く観察する
- 非緑内障性視神経萎縮:リムの蒼白化がリムの消失に先行する点が最も有効な鑑別点。陥凹は浅く比較的滑らかで、乳頭周囲萎縮の出現・拡大は通常認められない
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”OCT angiography(OCTA)
Section titled “OCT angiography(OCTA)”OCTAを用いて網膜表層・深層の血流を非侵襲的かつ簡便に評価可能である2)。進行した緑内障ほど網膜表層血流が低下していることが知られており、構造変化に加えて血流評価が緑内障診断に寄与する可能性がある。
AIによる眼底写真解析
Section titled “AIによる眼底写真解析”眼底写真を用いたAIによる緑内障自動診断の研究が進展している。将来的には客観的かつ自動的な進行判定が可能になると期待されている。従来の眼底写真による視神経乳頭評価は主観的な判断に依存するという問題点があったが、AIの導入によりこの課題の克服が見込まれる。
前視野緑内障の診断
Section titled “前視野緑内障の診断”臨床的に検出できる視野障害が出現する以前の段階の緑内障性視神経症(前視野緑内障)においては、画像解析装置による診断が主体となる2)。OCTでは、緑内障で最も早期から変化が生じる部位のひとつである黄斑部の網膜神経節細胞層を中心とした網膜内層の変化を検出でき、OCTにより初めて診断される緑内障も増加している2)。
進行評価プログラム
Section titled “進行評価プログラム”各社のOCTには経時変化を評価するプログラムが搭載されており、乳頭周囲網膜神経線維層厚や黄斑部内層厚の経時的変化をトレンド解析として評価できるようになっている。また、ステレオ眼底カメラに搭載された乳頭形状解析ソフトにより、立体写真から乳頭形状パラメーター(陥凹容積、リム容積、偏心率、傾斜率など)を自動算出し、経時的な変化を定量的にモニタリングする方法も利用可能である。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Pazos M, Traverso CE, Viswanathan A; European Glaucoma Society. European Glaucoma Society - Terminology and guidelines for glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025;109(Suppl 1):1-212. doi:10.1136/bjophthalmol-2025-egsguidelines. PMID:41026937.
- 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
- Gedde SJ, Vinod K, Wright MM, et al. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2021 Jan;128(1):P71-P150. doi:10.1016/j.ophtha.2020.10.022. PMID:34933745.
- Gedde SJ, Kolomeyer NN, Challa P, Chopra V, Vinod K, Bowden EC, et al. Primary Open-Angle Glaucoma Suspect Preferred Practice Pattern®. Ophthalmology. 2026;133(4):P104-P152. doi:10.1016/j.ophtha.2025.12.028. PMID:41665582.
- European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2021 Jun;105(Suppl 1):1-169. doi:10.1136/bjophthalmol-2021-egsguidelines. PMID:34675001.