この疾患の要点
視神経鞘髄膜腫(ONSM)は視神経 の鞘(髄膜)から発生する良性腫瘍で、全髄膜腫の約1〜2%、全眼窩腫瘍 の約10%を占める。
40〜60歳代の中年女性に好発し、数年単位で緩徐に進行する無痛性の片眼性視力 低下をきたす。
MRIで視神経 周囲が電車軌道状に造影されるtram-track signが特徴的な画像所見であり、典型例では生検不要である。
眼底所見として視神経乳頭 浮腫・乳頭蒼白化・optociliary shunt vessels(乳頭周囲の側副血管)が認められる。
視機能低下が緩徐な場合は経過観察を選択し、進行時または頭蓋内進展時に定位放射線治療(ガンマナイフ・サイバーナイフ等)を行う。
有用な視力 が残存する場合の外科的切除は視力 喪失リスクが高く、一般的に非推奨である。
神経線維腫症 2型(NF 2)への合併が知られており、特に小児例では注意が必要である。
視神経鞘髄膜腫(optic nerve sheath meningioma; ONSM)は、視神経 の鞘部分にあたる髄膜から発生する腫瘍である。眼窩腫瘍 の中では比較的まれで、全髄膜腫の約1〜2%、全眼窩腫瘍 の約10%、視神経 腫瘍の約33%にみられる。多くは成人、特に中年女性に発生する。
発生様式は大きく2つに分かれる。眼窩 内の視神経 鞘から直接生じる「眼窩 内原発型」と、頭蓋内で発生した髄膜腫が視神経 管を経由して眼窩 内に進展する「頭蓋内進展型」である。この2型の区別が管理方針の決定に重要である。
腫瘍の組織型は複数あり、以下の3型に大別される。
髄膜上皮腫型(meningothelial型) :最も多い。渦紋配列が特徴
線維芽細胞型(fibrous型) :紡錘形細胞の増生
移行型(transitional型) :上記2型の中間的所見
全体の約20%が悪性所見(細胞異型・有糸分裂増加・壊死など)を示すとの報告がある。WHO分類では大部分がGrade I(良性)に相当するが、Grade II(非定型)・Grade III(悪性)も存在する。
Q
視神経鞘髄膜腫は悪性ですか?
A
多くは良性(WHO Grade I)であるが、約20%が悪性所見を示すとの報告がある。まれに浸潤性・悪性の特徴を示し、再発率が高くなることがある。小児例では成人と比べて悪性化や頭蓋内進展のリスクが高い。
視神経鞘髄膜腫のtram-track signを示す造影MRI(軸位断)
Badr MA, et al. Bilateral Optic Nerve Sheath Meningioma with Intracanalicular and Intracranial Component in a 25-year-old Saudi Patient. Middle East Afr J Ophthalmol. 2008;15(3):138-141. Figure 2. PM
CI D: PMC3040919. License: CC BY.
造影T1強調軸位断MRIで、左視神経 鞘に沿う線状の造影効果(黒矢印)が視神経 を挟んで両側に走るtram-track signを示す(パネルA);パネルB〜Eは頭蓋内進展を示す冠状断・矢状断像である。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱うtram-track signに対応する。
最も特徴的なのは緩徐な片側性の視力 低下であり、数ヶ月から数年にわたる慢性的な経過をたどる。疼痛は通常伴わない。
視力 低下 :最多の主訴。数年単位で進行し、初診時の視力 はさまざまである
視野障害 :中心感度低下・求心性視野欠損 ・傍中心暗点 など多様なパターン
眼球突出 :腫瘍の増大に伴い、軽度の眼球突出 をきたすことがある
眼球運動障害 :腫瘍が大きい場合に眼球運動の軽度制限が生じることがある
腫瘍の増大に伴い、眼底所見は以下のように変化する。
初期 :視神経乳頭 の浮腫(腫瘍による視神経 血流障害を反映)
長期経過後 :乳頭浮腫 が軽減し、視神経萎縮 (乳頭蒼白化)に移行
optociliary shunt vessels(乳頭毛様短絡血管) :乳頭周囲にみられる側副血管で、腫瘍による網膜 中心静脈の慢性圧迫に対する代償性血管形成である。ONSMにおける特徴的な眼底所見の一つとして知られる。
乳頭縁を通過し、太い径を示す
蛍光眼底造影 (FAG )では色素漏出を伴わない
約20〜60%の症例で認められる
相対的求心性瞳孔異常 (RAPD )が陽性となることが多い。色覚低下を伴う場合もある。
画像診断はONSMの確定に最も重要であり、以下のパターンが知られる。
CT/造影MRIの主な画像パターン :
パターン 特徴 管状型(tram-track sign) 視神経 全長にわたる円柱状腫大・二重線状造影球状型 矢に刺さったリンゴ様に視神経 周囲を球状に取り囲む 偏在型 視神経 の片側に瘤状に偏位して増大
腫瘍の一部に石灰化を伴うことがある(CTが検出に優れる)。造影MRIでは腫瘍は均一かつ強い増強効果を示す。
Q
tram-track signとはどのような所見ですか?
A
tram-track signは、造影CT・MRIの軸位断で視神経 の両側に腫瘍が2本の線状(電車軌道様)陰影として描出される特徴的な画像所見である。腫瘍が視神経 を取り囲んで増殖する一方、内部の視神経 自体は保存されているために生じる。ONSMに高い特異性を有し、典型例では生検なしで画像診断が可能である。
ONSMは眼窩腫瘍 の中では比較的まれな疾患である。
全髄膜腫の約1〜2%を占める
全眼窩腫瘍 の約10%、視神経 腫瘍の約33%にみられる
好発年齢は40〜60歳代(中年)
女性に多い(女性:男性=約3:1との報告あり)
神経線維腫症 2型(NF 2)との合併 :NF 2はONSMの関連遺伝性疾患として知られる。NF 2遺伝子は第22染色体長腕(22q12)に位置し、merlinタンパクをコードする。merlinの機能喪失が腫瘍発生に関与すると考えられている。小児ONSM例ではNF 2合併の割合が高く、両側性・多発性髄膜腫のリスクに注意が必要である。
その他、電離放射線への曝露が髄膜腫一般のリスク因子として報告されている。
造影MRI(第一選択) :ガドリニウム造影剤と脂肪抑制法を組み合わせた眼窩 MRIが最も有用である。
T1強調像:外眼筋 よりやや低信号
T2強調像:脂肪とほぼ同程度の信号(視神経膠腫 との鑑別点)
造影後:均一かつ強い増強効果
tram-track sign・doughnut sign(冠状断で腫瘍が視神経 を環状に包む)
頭蓋内進展の評価にも不可欠
CT :石灰化の検出はCTが優れる。tram-track signはCTでも確認可能。視神経 管への病変波及がある場合は視神経 管拡大を認める。
眼底検査 ・視野検査 ・OCT :視神経乳頭 の形態、optociliary shunt vessels、網膜神経線維層 (RNFL )厚の評価に用いる。視野検査 により障害パターンを把握する。
以下の疾患との鑑別が重要である。
疾患 鑑別のポイント 視神経膠腫 小児・NF1 合併が多い。T2高信号で視神経 の均一腫大・蛇行(downward kinking)が特徴。造影効果は軽度〜多様 視神経炎 急性・亜急性の視力 低下。疼痛(眼球運動痛)あり。造影MRIで視神経 内の増強効果 眼窩偽腫瘍 (IgG4関連眼窩炎症 等)ステロイド への反応性。IgG4関連では涙腺・眼窩 軟部組織の炎症を伴う場合が多い視神経周囲炎 急性または亜急性経過。視神経 鞘の炎症性肥厚 リンパ腫 全身リンパ腫の眼窩 浸潤も考慮。組織検査で確定
NF 2が疑われる場合は、両側性聴神経鞘腫・多発性髄膜腫の精査を行う。
生検の原則 :典型的な画像所見(tram-track sign等)が認められる場合、生検は通常不要である。視神経 とONSMは軟膜血流を共有しており、生検を含む手術操作は視神経 を損傷するリスクが高い。有用な視力 が残存する場合は手術的介入を避けるべきである。6)
Q
視神経膠腫との違いは何ですか?
A
視神経膠腫 は小児に多く、NF1 (神経線維腫症1型 )との合併が特徴的であるのに対し、視神経鞘髄膜腫は中年女性に好発しNF 2との関連が知られる。画像上、膠腫は視神経 が均一に腫大して蛇行(downward kinking)し、T2強調像で高信号を示す。一方、視神経鞘髄膜腫は視神経 鞘(外周部)が造影されてtram-track signを呈し、視神経 軸索は内部に保存されている点が大きな鑑別点である。
ONSMの治療方針は視機能の状態と腫瘍の進行度に応じて決定される。
視機能低下が緩徐または軽微な場合は、定期的な検査による慎重な経過観察を選択する。
画像検査(MRI/CT):6ヶ月〜1年ごと
視力 ・視野・OCT の定期測定
明確な悪化兆候がなければ介入を急がない
初診時視力 良好で安定している症例では長期にわたる経過観察が可能
視機能低下が進行する場合、または腫瘍が頭蓋内に進展する場合は、定位放射線治療が第一選択となる。視機能の温存と腫瘍増大の抑制が期待できる。2) 3)
分割定位放射線治療(fSRT)
分割照射(fractionated stereotactic radiotherapy) :視神経 への障害を軽減する利点がある。
線量 :50〜54 Gy/25〜30回が標準的。視野安定・改善率83〜100%と報告される。3) 5)
ガンマナイフ(GKRS)
定位放射線手術 :単回照射で急峻な線量低下が可能。
腫瘍制御率90%以上と報告される。外向性腫瘍での線量集中性が有利とされる。1)
サイバーナイフ
ロボット支援定位照射 :形状の複雑な腫瘍にも対応可能。
ガンマナイフと同等の腫瘍制御率が報告されている。4)
放射線治療後の視機能温存率は70〜95%、腫瘍制御率は90%以上とされる。2) 3) 治療前の視力 が良好な症例ほど予後が良い。
放射線治療の主な副作用 :
有用な視力 が残存している場合、外科的切除は原則として非推奨である。腫瘍と視神経 は軟膜血流を共有しており、切除による視力 喪失のリスクが非常に高い。
手術が考慮される場合 :
完全失明眼で重度の眼球突出 ・外見変形がある場合
腫瘍が頭蓋内に進展し、対側視神経 や視交叉 への波及リスクがある場合
保存的治療(放射線治療)の効果が得られない進行性の頭蓋内進展型
頭蓋内進展例では脳神経外科との連携のもと、開頭術と放射線治療の組み合わせを検討する。
ONSMは視神経 鞘を構成する髄膜(特にくも膜帽細胞)から発生する。視神経 は眼球後方から視神経 管を経て頭蓋内へ続き、その全長にわたって硬膜・くも膜・軟膜からなる鞘で包まれる。腫瘍はこの鞘の細胞から発生し、視神経 を同心円状に取り囲むように増殖する。
NF 2遺伝子(22q12) :merlinタンパクをコードし、細胞増殖の抑制に関与する。機能喪失変異が発生すると腫瘍抑制機能が失われ、髄膜腫の発生に至る
免疫組織化学 :EMA陽性・PR(プロゲステロン受容体)陽性・SSTR2A陽性が特徴的。Ki-67はGrade Iでは低値(2〜3%)
WHO分類 :Grade I(良性)が大多数。Grade II(非定型性、核分裂4〜19個/10HPF+脳浸潤等)、Grade III(悪性、核分裂20個以上/10HPF)と段階的に悪性度が上昇する
腫瘍は視神経 鞘に沿って伸展し、視神経 を外側から圧迫する。これにより以下の経路で視機能障害が生じる。
直接圧迫 :視神経 軸索の機械的な圧迫・伸展
血流障害 :軟膜血管の圧迫による視神経 軸索への虚血
中心静脈閉塞 :慢性的な網膜 中心静脈圧迫→乳頭浮腫 →optociliary shunt vessels形成
腫瘍が眼窩 内に限局する場合は生命予後は良好であるが、視神経 管・頭蓋内へ進展した場合は対側視路や視交叉 への影響が生じ予後が悪化する。
ONSMは良性腫瘍であり、自然経過は数年から数十年単位の緩徐進行が特徴である。
眼窩 内限局型 :生命予後は良好。しかし無治療では徐々に視力 が低下し、最終的に失明に至ることがある
定位放射線治療後 :視機能温存率70〜95%、腫瘍制御率90%以上との海外報告がある2) 3)
頭蓋内進展型 :対側視神経 ・視交叉 への波及があれば両眼性視力 障害をきたし、予後不良となりうる
NF 2合併型 :多発性髄膜腫のリスクがあり、長期的な経過観察が不可欠
治療後は定期的なMRI・視野・視力検査 により再増大の有無をモニタリングする。
陽子線治療 (proton beam radiotherapy) :散乱線量が低く晩期毒性の軽減が期待される。特に小児例では二次発癌リスク軽減の観点から選択肢として検討されることがある。7)
ソマトスタチン受容体イメージング(Ga-68 PET/CT) :髄膜腫はソマトスタチン受容体(SSTR2A)を高発現する。機能画像による腫瘍活動性評価への応用が研究されている。
ミフェプリストン(抗プロゲステロン薬) :髄膜腫のPR陽性に着目した薬物療法として難治例での使用が研究されているが、標準治療としては確立されていない。4)
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