この疾患の要点
蝶形骨縁髄膜腫は外クモ膜髄膜上皮細胞から発生する緩徐進行性の頭蓋底腫瘍であり、頭蓋内から眼窩 へ進展する腫瘍の中で最も高頻度である。
好発年齢は平均50歳、女性が約8割を占める。
腫瘍の位置(内側型・中間型・外側型)によって症状が異なり、内側型では視力 障害、中間型では眼球突出 が主体となる。
MRIによる硬膜テイル(dural tail)の確認と68Ga-DOTATATE PET/CTによるソマトスタチン受容体イメージングが診断・鑑別に有用である。
治療の柱は手術切除と放射線療法であり、肉眼的全摘出率は約50%にとどまる。
WHO分類によるグレード(I〜III)が再発率・治療方針を決定する。
完全摘出後の10年再発率は22%、亜全摘後10年再発率は70%超であり、長期経過観察が必要である2) 。
蝶形骨縁髄膜腫(sphenoid wing meningioma, SWM)は、外クモ膜髄膜上皮細胞から発生する緩徐進行性の腫瘍で、蝶形骨縁(小翼・大翼)を起始部とする。頭蓋内から眼窩へ進展する腫瘍の中で最も高頻度であり、全頭蓋内髄膜腫の11〜20%を占める。髄膜腫は原発性脳腫瘍の1/3以上を占める最も頻度の高い頭蓋内腫瘍であり1) 、症候性髄膜腫の年間発生率は人口10万人あたり約2例とされる。
形態学的に球状(globoid)と扁平状(en plaque)の2形態に大別される。球状型はさらに位置に基づき3群に分類される。
分類 別称 特徴 内側型 clinoidal type 全体の約半数。視神経 管浸潤で視力障害 中間型 alar type 慢性進行性眼球突出。甲状腺眼症 と誤診されやすい 外側型 pterional type 大きくなるまで無症状。頭蓋内圧亢進で発見
内側型は前方視路・頭蓋内動脈・海綿静脈洞 を巻き込むため、罹患率・死亡率・再発率が他の型より高い。好発年齢は平均50歳で、女性が約8割を占め、20歳代と50歳代にピークがある。
Q 蝶形骨縁髄膜腫の「扁平状(en plaque)」とはどのような形か?
A 扁平状(en plaque)型は腫瘍が蝶形骨縁に沿って広く薄く広がる形態で、骨肥厚(hyperostosis)を伴いやすい。球状型と異なり境界が不明瞭なため、完全摘出が困難な場合が多い。
症状は腫瘍の位置と進展方向によって異なる。
眼球突出 :慢性進行性に出現。中間型(alar type)で特に目立つ。甲状腺眼症との鑑別が必要。
視力低下 :内側型(clinoidal type)で視神経管浸潤を伴う場合に出現。
複視 ・眼球運動障害 :上眼窩裂や海綿静脈洞への進展時に生じる。
眼瞼下垂 ・眼瞼浮腫 :眼窩内進展例で認められる。
頭痛・嘔吐 :外側型(pterional type)での頭蓋内圧亢進症状。
痙攣(seizure) :一部の患者に見られる8) 。
前頭葉症状 :巨大腫瘍では無気力・遂行機能障害など行動変容型前頭側頭型認知症様の神経認知障害を呈しうる4) 。
眼球突出(proptosis) :球後腫瘍では正面方向への突出。眼窩内容積増大による。
眼球偏位・外転障害 :外転神経が最も早期に障害されやすい。
視神経乳頭浮腫または萎縮 :頭蓋内圧亢進または視神経直接圧迫による。
相対的求心性瞳孔 障害(RAPD ) :視神経圧迫時に検出される。
結膜 浮腫(chemosis)・眼瞼浮腫 :静脈還流障害を反映する。
眼神経筋強直症 :稀な合併症。腫瘍による動眼神経圧迫により間欠的不随意内転をきたす5) 。
Q 中間型(alar type)が甲状腺眼症と誤診されやすいのはなぜか?
A 中間型は慢性進行性の眼球突出を主症状とし、甲状腺機能異常を伴わない場合でも甲状腺眼症と臨床所見が類似するためである。画像検査(CT・MRI)での骨肥厚や腫瘤の確認が鑑別に不可欠である。
蝶形骨縁髄膜腫は外クモ膜髄膜上皮細胞から発生するが、確定的な環境的リスク要因は明らかでない。
NF 2遺伝子変異 :最も一般的な遺伝子変異は22q上のNF2遺伝子欠失。腫瘍抑制因子マーリン(merlin)をコードする。孤発性髄膜腫の約60%にNF2変異が認められる。
性ホルモン受容体 :プロゲステロン受容体が髄膜腫に発現し、女性に多い(約8割)理由と考えられている。
関連症候群 :神経線維腫症2型(多発髄膜腫)、ゴーリン症候群、ルビンスタイン・テイビ症候群。
高グレード化のリスク因子 :非頭蓋底部位・65歳以上・男性(リスク約2倍)。
悪性変化に関わる分子マーカー :TERTプロモーター変異・CDKN2A/B欠失はWHO Grade 3の定義的変異。H3K27me3喪失は予後不良と関連1) 。
蝶形骨縁髄膜腫の診断にはCTとMRIを組み合わせて評価する。
検査 主な所見 CT 等〜軽度高吸収、造影後均質強増強、骨肥厚・石灰化 MRI T1/T2等〜軽度高信号、Gd後強増強、硬膜テイル
CT所見 :等吸収〜軽度高吸収。ヨード造影後に均質で強い造影効果を示す。骨肥厚(hyperostosis)や石灰化を伴う傾向がある。
MRI所見 :T1・T2ともに脳灰白質に比して等〜軽度高信号。ガドリニウム造影後に強く均質に増強される。硬膜テイル(dural tail)の存在は線維性骨形成異常症との鑑別に有用である。
骨シンチグラフィ :99mTc-パーテクネテートが髄膜腫に集積する。
平均年間成長率 :1〜3 mm。
68Ga-DOTATATE PET/CT :ソマトスタチン受容体2型への結合を利用した分子イメージング。髄膜腫の診断・放射線治療計画・経過観察に有用。海綿静脈洞静脈瘤など血管性病変との鑑別に特に価値があり、組織診断なしに定位放射線手術を検討する際の評価として推奨される3) 。
線維性骨形成異常症(硬膜テイルなし)
海綿静脈洞静脈瘤(DOTATATE PET陰性)3)
転移性腫瘍
Q MRI以外に髄膜腫の鑑別に有用な画像検査はあるか?
A 68Ga-DOTATATE PET/CTがソマトスタチン受容体の発現有無によって髄膜腫と血管性病変を鑑別できる。ソマトスタチン受容体を発現しない海綿静脈洞静脈瘤ではPETが陰性となり、組織診断なしで放射線手術の適応を判断する際に重要な情報を提供する3) 。
治療の選択肢は経過観察・手術・放射線療法・化学療法の4つであり、腫瘍の大きさ・部位・症状・WHOグレード・患者の全身状態を総合して判断する。
無症候性の高齢患者や複数の内科的問題を抱える患者に適切な選択肢となる。
治療の主体は手術による腫瘍摘出である。視神経管浸潤例では視機能回復が困難な場合が多い。肉眼的全摘出率は約50%で、術後合併症率は1〜18%である。WHOグレードIの5年無再発生存率は88%。
Simpson分類 :切除範囲の標準的な評価指標。Grade Iでの摘出が理想だが、神経血管構造を巻き込む内側型では困難なことが多い。
意図的不完全切除 :神経血管構造巻き込み例では不完全切除が術後の生活の質に好ましい影響を与えるとする報告(53例)がある。
脳脊髄液ドレナージ :内側腫瘍・血管巻き込み・浮腫を伴う蝶形骨縁髄膜腫に対して術前腰椎ドレーン留置を行うことで、リトラクターレス手術が可能となる。10例連続で合併症なしとの報告がある8) 。
頭蓋外進展例への対応 :眼窩・側頭下窩・翼口蓋窩へ進展した再発例では、Weber-Ferguson切開と拡大翼状突起アプローチを組み合わせた一期的手術で肉眼的全摘が可能である2) 。
術後血管攣縮 :巨大内側の蝶形骨縁髄膜腫では、術後に上床突起上部内頸動脈の血管攣縮が発生しうる7) 。
骨再建のコンセンサスは得られていないが、拍動性眼球陥凹 ・髄膜瘤形成・側頭筋萎縮の予防を目的として施行されることがある。再建材料はチタンメッシュ・内板頭蓋骨移植・ポリメチルメタクリレート(PMMA)が用いられる。
腫瘍切除後に放射線照射を行い、再増殖に対しては手術を繰り返す。定位放射線手術や定位放射線治療も試みられている。
定位放射線手術(SRS) :全線量1回照射。手術不適応例の代替として有効。局所制御率92〜100%。
分割定位放射線治療(FSRT)・強度変調放射線治療(IMRT) :視神経・視交叉 近傍の腫瘍に使用。
粒子線治療(陽子線治療 ) :重篤な合併症リスクの高い部位に適用されることがある。
退形成性髄膜腫への外部放射線療法 :亜全摘後に60〜66 Gy/30〜33回の外部照射を行う。Goldsmithの報告では良性髄膜腫の亜全摘後5年無増悪生存率は89%、悪性では48%1) 。
ミフェプリストンをはじめ多くの薬剤が試みられたが、顕著な全身毒性に対し腫瘍退縮はわずかまたは認められない。ヒドロキシ尿素との併用療法が評価中である。
Q 手術で完全に腫瘍を摘出できない場合、放射線療法は有効か?
A 亜全摘後の補助放射線療法は有効であり、定位放射線手術や分割定位放射線治療の局所制御率は92〜100%に達する。良性髄膜腫の亜全摘後5年無増悪生存率は89%と報告されており1) 、不完全切除例に対する補助放射線療法の組み合わせは標準的な治療戦略の一つである。
起源は外クモ膜髄膜上皮細胞(outer arachnoid meningeal epithelial cells)である。病理学的特徴として以下が挙げられる。
渦巻き構造(whorls) :好酸性細胞質を持つ類上皮型細胞の特徴的配列。
砂腫体(psammoma bodies) :同心円状の石灰化小体。
核所見 :空胞・偽封入体を伴う卵円形核。
グレードI(良性)
頻度 :全髄膜腫の約90%。
病理 :骨浸潤があっても脳実質には浸潤しない。分泌型・微小嚢胞型・明細胞型・リンパ形質細胞豊富型などのサブタイプを含む。
再発率 :5年7〜10%、10年22%(全摘後)。
グレードII(非定型)
病理 :頻繁な有糸分裂・核/細胞質比の上昇を特徴とする。
臨床的意義 :グレードIより再発率・悪性化リスクが高い。
グレードIII(退形成性)
病理 :高度な有糸分裂(20/10 HPF以上)・壊死・脳実質浸潤。Ki-67上昇。肉眼的に灰赤色で悪性の細胞形態を示す1) 。
予後 :補助療法なしの生存期間<2年。補助療法ありで中央値5年1) 。
1663例の大規模後方視的研究では、90%がWHO グレードI、10%がグレードII/IIIであり、非頭蓋底部位・65歳以上・男性がWHO高グレードのリスク因子と報告されている。
蝶形骨縁から上下眼窩裂を介して眼窩内に進展する。視神経管・海綿静脈洞への浸潤により眼症状が出現する。頭蓋外進展例では眼窩・側頭下窩・翼口蓋窩・副鼻腔へ及ぶことがあり、卵円孔や翼口蓋管を通じた進展も報告されている2) 。
髄膜腫ではプロゲステロン受容体・上皮膜抗原(EMA)・ソマトスタチン受容体2a(細胞質発現)が陽性となることが多い。TERTプロモーター変異・CDKN2A/B欠失はGrade 3の定義的変異であり、H3K27me3の喪失は予後不良と関連する1) 。
ソマトスタチン受容体2型を標的とした分子イメージングは、従来の形態画像では困難だった髄膜腫と血管性病変の鑑別を可能にする。
Ofori-DarkoとMcClelland(2025)は、MRIで蝶形骨縁髄膜腫が疑われた27歳男性において、68Ga-DOTATATE PET/CTでソマトスタチン受容体陰性を確認したことで海綿静脈洞静脈瘤と再診断し、定位放射線手術を回避した症例を報告した3) 。組織診断なしに放射線治療適応を評価する際の重要性が示されている。
現在、術後変化との鑑別や放射線治療ターゲット画定の精度向上への応用が進められている3) 。
従来の開頭術の代替として、内視鏡的経眼窩アプローチが蝶形骨縁・蝶形眼窩髄膜腫の低侵襲手術として注目されている。骨肥厚を伴う症例でも有効との報告がある6) 。
Foulshamら(2022)は、経眼窩内視鏡アプローチによる蝶形骨縁髄膜腫切除後に多層黄斑 出血(Terson症候群様)が生じた症例を報告し、低侵襲手術においても術後視覚合併症に注意が必要であることを示した6) 。
再発性・高グレード髄膜腫に対して以下の標的療法が検討されている。
血小板由来成長因子(PDGF)・VEGF・上皮成長因子(EGF)・MAPK経路を標的とした血管新生阻害の生体外研究が有望な結果を示している。抗血管新生薬・マルチキナーゼ阻害薬・ソマトスタチン受容体標的療法が進行性・高グレード髄膜腫の安定化に用いられているが、反応は一貫していない4) 。
Grigoreanら(2026)は、巨大右蝶形骨縁髄膜腫により行動変容型前頭側頭型認知症様の神経認知障害を呈した70歳女性を報告した4) 。Simpson Grade I切除後に前頭葉機能が回復し、腫瘍量・血管源性浮腫・白質路圧迫の複合効果による可逆的な前頭葉ネットワーク障害の概念が提唱されている。
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