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神経眼科

眼神経筋強直症

眼神経筋強直症(Ocular Neuromyotonia; ONM)は、1つまたは複数の外眼筋に間欠的かつ持続的な強直性痙攣(tonic spasms)が生じる稀な眼運動障害である。発作性の斜視・複視を繰り返す。損傷した神経による不随意な神経放電と筋肉の弛緩遅延が発作を引き起こす機序が想定されている。

ほとんどの症例は片側性で、主に成人に発生する。動眼神経(第III脳神経)または外転神経(第VI脳神経)が最も多く侵される。典型例はトルコ鞍・傍トルコ鞍領域の腫瘍に対する放射線治療後に発症し、照射から発症までの期間は2ヶ月〜18年と幅がある1)。

非放射線性ONMは稀だが、放射線照射歴のない患者でも発生する。球後(peribulbar)ブロックを契機とした発症例も報告されている1)。

Q 眼神経筋強直症はどのような人に多いか?
A

放射線照射歴のある成人に多く、主にトルコ鞍・傍トルコ鞍領域の腫瘍(下垂体腫瘍など)の治療後に発症する。片側性が多く、照射から数ヶ月〜18年後と幅広い時期に出現する1)。

ocular neuromyotonia induced adduction
Bilateral oculomotor ocular neuromyotonia: a case report. BMC Neurol. 2018 Sep 3; 18:137. Figure 2. PMCID: PMC6120096. License: CC BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/).
右動眼神経の眼神経筋強直症。正面位では正位であった(a)。左方視を30秒続けた後(b)、右内直筋の不随意収縮が生じ、両眼を正面位に戻す際に右内斜視となった(c)。右内斜視は約2分間続いた後、自然に消失した(d)。
  • 発作性複視:自然に、あるいは側方注視(偏位眼位)の後に発生する一過性の複視。
  • 発作の持続時間:エピソードは数秒から数分間持続する。
  • 診察中に再現されないこともある:症状は間欠性であるため、受診時に発作がみられないことがある。

球後ブロック後の症例(Zhang 2025)では、60代男性が左眼翼状片手術の数週間後に間欠的な垂直複視を発症した。症状は朝・夕に目立ち、日中も散発的に出現(特に運転中)し、発症以降安定していた1)。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 注視誘発性眼位固定:罹患筋の作用方向に注視した後、眼がその位置で固定(stuck)される。第一眼位に戻ろうとすると痙攣や持続的な複視が誘発される。
  • 長時間注視テスト:10秒程度の偏位注視で誘発可能であり、診断の鍵となる。
  • 眼球運動制限・疲労性の欠如:duction(単眼運動)の制限や疲労性は認めない。
  • 斜視量の変動:近見では正位でも、遠見で間欠的な斜視が最大25Δまで増大する例がある1)。
Q 眼神経筋強直症の発作はどのようにして確認するか?
A

罹患筋の作用方向に数秒〜10秒間注視させると眼が固定され、第一眼位に戻ろうとすると痙攣・複視が誘発される。この「注視誘発性眼位固定」が臨床診断の鍵となる。

放射線性ONM

頭蓋内放射線照射:最多の原因。トルコ鞍・傍トルコ鞍領域腫瘍の治療後に多い。

放射線療法中の化学療法:シスプラチン、フルオロウラシルの併用が関与する場合がある。

発症までの期間:照射後2ヶ月〜18年と幅広い。

非放射線性ONM

血管性・髄膜性の神経圧迫:脳神経への直接的な圧迫が機序となる。

自己免疫疾患:重症筋無力症、甲状腺疾患に合併する例がある。

球後ブロック:局所麻酔による神経損傷。Zhang et al.(2025)が文献上初めて報告した1)。

その他の稀な原因として、ビタミンB12またはD欠乏症、脳幹脱髄、ボツリヌス毒素注射、白内障手術なども報告されている。

球後(peribulbar)ブロック後の垂直斜視では、下直筋損傷のリスクが関連している。局所麻酔による針の損傷および/または局所麻酔薬が外眼筋を支配する神経線維に影響を与え、エファプス伝達を生じさせる可能性がある。

ONMは臨床的に診断できる。病歴への十分な注意と、第一眼位および数秒間の側方注視後の眼の状態を観察する徹底的な眼運動検査が基本となる。

  • 長時間注視誘発テスト:罹患筋の作用方向に10秒程度注視させる。注視誘発性眼位固定が確認されれば診断を強く支持する。
  • 脳MRI(ガドリニウム造影):二次的原因の除外のために施行する。腫瘍・血管病変・脱髄病変の評価を行う1)。
  • 甲状腺機能検査:潜在的な甲状腺機能障害を除外するために推奨される。
  • その他:筋電図、眼球電図、眼球運動のビデオ撮影、筋生検で痙攣をさらに分析できる。

主要な鑑別疾患を以下に示す。

疾患鑑別のポイント
上斜筋ミオキミア上斜筋の律動的れん縮。健康な若年成人に多い
輻湊けいれん発作性両眼内転。調節けいれん・縮瞳を伴う
眼筋型重症筋無力症易疲労性、日内変動あり。テンシロンテストで改善
動眼神経周期性麻痺周期的な眼瞼下垂・縮瞳の変化
グレーブス病(初期)眼球突出、眼窩炎症所見

膜安定化薬が標準治療である。

  • カルバマゼピン(第一選択薬):神経膜上のチャネルと相互作用し、活動電位の発火頻度を減少させエファプス伝達を低下させる。100mg 1日2回から開始し、症状に応じて調節する1)。
  • ガバペンチン・フェニトイン:カルバマゼピンと同様の膜安定化機序。代替薬として使用される。
  • ラコサミド:カルバマゼピンに副作用を経験した患者の代替薬。交差反応のリスクが低く副作用も少ない。
  • ビタミン補充:ビタミンB12またはD欠乏が原因の場合、補充後に症状が消失することがある。
  • フレネルプリズム:複視の対症療法として使用する。薬物療法との併用が可能である1)。

治療開始時および6週間フォローアップ時に肝機能・腎機能・全血算を確認する。

薬物療法に抵抗する例や長期服薬が困難な例では手術が考慮される。

  • 斜視手術(後転術):罹患筋の弱化手術。7つの報告13例のうち7例が後転術後に発作性痙攣が消失したと報告されている1)。
  • 短縮術・プリケーション(強化手術):発作を悪化させる可能性があり、原則として避ける。
  • 微小血管減圧術:血管による神経圧迫が原因の例で有効な場合がある。

Zhang et al.(2025)の症例では、左下直筋3.5mm後転術(調節縫合)を施行し、術後4ヶ月で複視が著明に改善した。立体視140秒角、Worth 4 Dot遠近融合が得られ、下方注視延長でも偏位の増悪は認めなかった1)。

Q カルバマゼピンをやめると症状は再発するか?
A

膜安定化薬は中止すると再発が多いことが知られている1)。副作用が問題となる場合はラコサミドへの変更や斜視手術の検討が選択肢となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

ONMの基本機序は、放射線損傷・圧迫性疾患・微小血管障害などによる分節性の脳神経脱髄が引き起こすエファプス伝達(ephaptic transmission)である。

エファプス伝達とは、脱髄した隣接する神経線維間で信号の混線(クロストーク)が生じ、シナプスを介さず側面接触に沿って神経インパルスが伝達される現象である。これが強直性収縮の持続・反復を説明する1)。

その他に提唱されている機序を以下に示す。

  • カリウムチャネル機能不全:神経細胞膜の過興奮により軸索が異常発火する。
  • 逆行性変性と中枢再編成:脱神経による神経伝達の変化、神経核における運動出力パターンの再編成が関与する。
  • 反射神経回路仮説(Eggenberger):反射(reflection)と軸索の発芽(sprouting axons)が組み合わさり、反転した信号を増幅させる異常な反射回路を形成する。

甲状腺関連眼窩疾患では、炎症性変化と動眼神経・筋細胞の密集がONMを引き起こす。筋内膜の炎症細胞浸潤とムコ多糖沈着が神経の興奮性を高め、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体が直接的な脱髄を招く可能性がある。

球後ブロック後のONMでは、針の損傷および/または局所麻酔薬が外眼筋を支配する神経線維を損傷してエファプス伝達を生じさせた可能性がある。カルバマゼピンへの治療反応がこの仮説を支持する1)。

Q なぜ特定の方向を見ると発作が起きるのか?
A

脱髄した神経線維間のエファプス伝達により、特定の筋を活性化する注視で隣接する損傷神経にも信号が伝わり、持続的な強直性収縮が生じる1)。眼が「固定された」状態になるのはこのためである。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Zhang et al.(2025)は、球後局所麻酔後に発症したONMを文献上初めて報告した1)。球後ブロックが新たなONM発症原因として提唱されており、球後ブロック後の垂直斜視例の一部にONMメカニズムが関与している可能性がある。測定値のばらつきとして見逃されている症例が存在すると著者らは指摘している。

ONMの臨床的特徴・予後に関する大規模研究

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Bodi et al.(2024)は、ONMの臨床的特徴、診断、転帰に関する研究を報告した2)。ONMの自然軽快は稀であり、長期的な管理が必要とされることが示された。

前向き研究は球後ブロック後垂直斜視の希少性と異質性から実施が困難であるが、ONMメカニズムの関与を正確に評価するためのさらなる検討が求められている1)。


  1. Zhang JJ, Nguyen MTB, Gaier ED. Ocular neuromyotonia after peribulbar block. Journal of AAPOS : the official publication of the American Association for Pediatric Ophthalmology and Strabismus. 2025;29(1):104096. doi:10.1016/j.jaapos.2024.104096. PMID:39746535; PMCID:PMC11885024.
  2. Bodi TB, Klaehn LD, Kramer AM, Bhatti MT, Brodsky MC, Eggenberger ER, et al. Ocular Neuromyotonia: Clinical Features, Diagnosis, and Outcomes. American journal of ophthalmology. 2024;263:61-69. doi:10.1016/j.ajo.2024.02.003. PMID:38369222.

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