放射線性ONM
頭蓋内放射線照射:最多の原因。トルコ鞍・傍トルコ鞍領域腫瘍の治療後に多い。
放射線療法中の化学療法:シスプラチン、フルオロウラシルの併用が関与する場合がある。
発症までの期間:照射後2ヶ月〜18年と幅広い。
眼神経筋強直症(Ocular Neuromyotonia; ONM)は、1つまたは複数の外眼筋に間欠的かつ持続的な強直性痙攣(tonic spasms)が生じる稀な眼運動障害である。発作性の斜視・複視を繰り返す。損傷した神経による不随意な神経放電と筋肉の弛緩遅延が発作を引き起こす機序が想定されている。
ほとんどの症例は片側性で、主に成人に発生する。動眼神経(第III脳神経)または外転神経(第VI脳神経)が最も多く侵される。典型例はトルコ鞍・傍トルコ鞍領域の腫瘍に対する放射線治療後に発症し、照射から発症までの期間は2ヶ月〜18年と幅がある1)。
非放射線性ONMは稀だが、放射線照射歴のない患者でも発生する。球後(peribulbar)ブロックを契機とした発症例も報告されている1)。
放射線照射歴のある成人に多く、主にトルコ鞍・傍トルコ鞍領域の腫瘍(下垂体腫瘍など)の治療後に発症する。片側性が多く、照射から数ヶ月〜18年後と幅広い時期に出現する1)。

球後ブロック後の症例(Zhang 2025)では、60代男性が左眼翼状片手術の数週間後に間欠的な垂直複視を発症した。症状は朝・夕に目立ち、日中も散発的に出現(特に運転中)し、発症以降安定していた1)。
罹患筋の作用方向に数秒〜10秒間注視させると眼が固定され、第一眼位に戻ろうとすると痙攣・複視が誘発される。この「注視誘発性眼位固定」が臨床診断の鍵となる。
放射線性ONM
頭蓋内放射線照射:最多の原因。トルコ鞍・傍トルコ鞍領域腫瘍の治療後に多い。
放射線療法中の化学療法:シスプラチン、フルオロウラシルの併用が関与する場合がある。
発症までの期間:照射後2ヶ月〜18年と幅広い。
非放射線性ONM
血管性・髄膜性の神経圧迫:脳神経への直接的な圧迫が機序となる。
自己免疫疾患:重症筋無力症、甲状腺疾患に合併する例がある。
球後ブロック:局所麻酔による神経損傷。Zhang et al.(2025)が文献上初めて報告した1)。
その他の稀な原因として、ビタミンB12またはD欠乏症、脳幹脱髄、ボツリヌス毒素注射、白内障手術なども報告されている。
球後(peribulbar)ブロック後の垂直斜視では、下直筋損傷のリスクが関連している。局所麻酔による針の損傷および/または局所麻酔薬が外眼筋を支配する神経線維に影響を与え、エファプス伝達を生じさせる可能性がある。
ONMは臨床的に診断できる。病歴への十分な注意と、第一眼位および数秒間の側方注視後の眼の状態を観察する徹底的な眼運動検査が基本となる。
主要な鑑別疾患を以下に示す。
| 疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 上斜筋ミオキミア | 上斜筋の律動的れん縮。健康な若年成人に多い |
| 輻湊けいれん | 発作性両眼内転。調節けいれん・縮瞳を伴う |
| 眼筋型重症筋無力症 | 易疲労性、日内変動あり。テンシロンテストで改善 |
| 動眼神経周期性麻痺 | 周期的な眼瞼下垂・縮瞳の変化 |
| グレーブス病(初期) | 眼球突出、眼窩炎症所見 |
膜安定化薬が標準治療である。
治療開始時および6週間フォローアップ時に肝機能・腎機能・全血算を確認する。
薬物療法に抵抗する例や長期服薬が困難な例では手術が考慮される。
Zhang et al.(2025)の症例では、左下直筋3.5mm後転術(調節縫合)を施行し、術後4ヶ月で複視が著明に改善した。立体視140秒角、Worth 4 Dot遠近融合が得られ、下方注視延長でも偏位の増悪は認めなかった1)。
膜安定化薬は中止すると再発が多いことが知られている1)。副作用が問題となる場合はラコサミドへの変更や斜視手術の検討が選択肢となる。
ONMの基本機序は、放射線損傷・圧迫性疾患・微小血管障害などによる分節性の脳神経脱髄が引き起こすエファプス伝達(ephaptic transmission)である。
エファプス伝達とは、脱髄した隣接する神経線維間で信号の混線(クロストーク)が生じ、シナプスを介さず側面接触に沿って神経インパルスが伝達される現象である。これが強直性収縮の持続・反復を説明する1)。
その他に提唱されている機序を以下に示す。
甲状腺関連眼窩疾患では、炎症性変化と動眼神経・筋細胞の密集がONMを引き起こす。筋内膜の炎症細胞浸潤とムコ多糖沈着が神経の興奮性を高め、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体が直接的な脱髄を招く可能性がある。
球後ブロック後のONMでは、針の損傷および/または局所麻酔薬が外眼筋を支配する神経線維を損傷してエファプス伝達を生じさせた可能性がある。カルバマゼピンへの治療反応がこの仮説を支持する1)。
脱髄した神経線維間のエファプス伝達により、特定の筋を活性化する注視で隣接する損傷神経にも信号が伝わり、持続的な強直性収縮が生じる1)。眼が「固定された」状態になるのはこのためである。
Zhang et al.(2025)は、球後局所麻酔後に発症したONMを文献上初めて報告した1)。球後ブロックが新たなONM発症原因として提唱されており、球後ブロック後の垂直斜視例の一部にONMメカニズムが関与している可能性がある。測定値のばらつきとして見逃されている症例が存在すると著者らは指摘している。
Bodi et al.(2024)は、ONMの臨床的特徴、診断、転帰に関する研究を報告した2)。ONMの自然軽快は稀であり、長期的な管理が必要とされることが示された。
前向き研究は球後ブロック後垂直斜視の希少性と異質性から実施が困難であるが、ONMメカニズムの関与を正確に評価するためのさらなる検討が求められている1)。