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神経眼科

視神経鞘減圧術

視神経鞘減圧術(optic nerve sheath decompression; ONSD)は、視神経鞘窓形成術(optic nerve sheath fenestration; ONSF)とも呼ばれ、同一の外科手技を指す。視神経を包む硬膜にスリットまたは窓(開窓部)を作成し、蜘蛛膜下腔のCSFを流出させることで視神経への圧力を局所的に軽減する。CPTコード67570が割り当てられている。

最も一般的な適応は特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)であり、内科的治療不応例の約25%が外科的介入を要する。その他、脳静脈洞血栓症、クリプトコッカス髄膜炎、全トランス型レチノイン酸(ATRA)誘発性偽脳腫瘍1)、もやもや病4)なども適応となりうる。

疫学(IIH):IIHの年間発生率は米国で1.15/10万人。女性は1.97/10万と男性(0.36/10万)より高く、18〜44歳に最多(2.47/10万)。肥満の世界的増加に伴いIIHの有病率も上昇している。

出来事
1853年Turck と Coccius が乳頭浮腫を初報告
1872年De Wecker がONSDを初報告(神経網膜炎の治療として)
1964年Hayreh が視神経鞘切開後の乳頭浮腫消失を実証
1973年Galbraith & Sullivan が内側経結膜アプローチを開発
1988年Tse らが外側眼窩アプローチを拡張
2001年Pelton & Patel が上内側眼瞼縁切開アプローチを報告
Q 視神経鞘減圧術と視神経鞘窓形成術は異なる手術ですか?
A

どちらも同一の外科手技を指す。呼称の違いのみであり、視神経硬膜にスリットまたは窓を作成してCSFを流出させる操作は同じである。英語のONSD(optic nerve sheath decompression)とONSF(optic nerve sheath fenestration)が日本語でそれぞれ「減圧術」「窓形成術」と訳されることから生じる混乱である。

optic nerve sheath decompression bilateral disc edema
optic nerve sheath decompression bilateral disc edema
Papilledema With Intracranial Hypertension and Ectopic Orbital Calcification During Hemodialysis: A Case Report. Cureus.; 17(3):e80284. Figure 1. PMCID: PMC11977438. License: CC BY.
(A) Fundus photography at the initial visit showing optic disc swelling and redness in both eyes; (B) Autofluorescence showing no signs of optic disc drusen

ONSD適応となる頭蓋内圧亢進(特にIIH)では以下の症状が出現する。

  • 頭痛:体位変動性の拍動性頭痛が典型的。日常生活に支障をきたすことがある。
  • 一過性視覚暗転:数秒の視力消失が体位変換時に生じる。IIHに特徴的な症状。
  • 拍動性耳鳴り:心拍に同期した耳鳴り。頭蓋内圧亢進の特徴的症状。
  • 視力低下:主観的な視力低下。IIHでは初期は軽度だが、進行すると顕著になる。
  • 水平複視外転神経麻痺による水平方向の二重視。
  • 光視症・眼窩後部痛:眼窩内の不快感や閃光感。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 乳頭浮腫:IIHの最重要所見。両側性の視神経乳頭腫脹が典型的である。
  • 外転神経(第6脳神経)麻痺:頭蓋内圧亢進の偽性局在徴候。内斜視・水平複視を引き起こす。
  • RAPD(相対的瞳孔求心路障害):視神経障害が非対称な場合に陽性となる。ATRA誘発性偽脳腫瘍例では右眼RAPDが確認されている1)
  • 視野異常:生理的盲点拡大が初期所見。進行すると周辺視野狭窄・全般的感度低下が出現する。
  • 光干渉断層計(OCT)所見:乳頭周囲網膜神経線維層(pRNFL)肥厚。重症例では300μmを超えることがある1)

重症型(Fulminant IIH)の特徴:数週間以内の急速な視力低下、pRNFL 300μm超、初回腰椎穿刺の平均CSF開放圧54.1 cm H₂O(範囲29〜70)が特徴的である。Humphrey視野の平均偏差 < -7 dBの場合は視力回復が乏しい。

ONSFが最も多く行われるIIHのリスク因子を以下に示す。

  • 肥満:最大のリスク因子。5〜10%の体重減少でも有意な症状改善が期待できる。
  • 女性・若年:女性に圧倒的に多く(女性:男性 ≒ 5:1)、18〜44歳が好発年齢。
  • 内分泌疾患:アジソン病、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などが関与する。
  • 薬剤性:ビタミンA・レチノイド(ATRA を含む1))、テトラサイクリン系、成長ホルモン、ステロイド離脱が誘因となる。
  • 人種:黒人(2.05/10万)>白人(1.04)>ヒスパニック(0.67)>アジア/太平洋諸島(0.16)の順に高い。
  • 貧血:鉄欠乏性貧血がIIHと関連することが報告されている。
  • 遺伝的要因:染色体5、13、14番上に候補領域が同定されているが、メンデル遺伝パターンは確立されていない。

頭蓋内圧亢進の他の原因(もやもや病4)、脳静脈洞血栓症、感染症、占拠性病変など)でもONSFが適応となりうる。

Q IIH以外にも視神経鞘減圧術を行う疾患はありますか?
A

IIH以外にも、脳静脈洞血栓症、クリプトコッカス髄膜炎、もやもや病に伴う頭蓋内圧亢進、ATRA(全トランス型レチノイン酸)誘発性偽脳腫瘍症候群などが適応となりうる。もやもや病の症例では保存的治療に不応の頭蓋内圧亢進に対してONSFが施行され、視力回復が報告されている。

以下の全項目を満たすことが必要である。

  1. 頭蓋内圧亢進の症候(頭痛、嘔気、一過性視覚暗転、乳頭浮腫)
  2. 外転神経麻痺以外の局在神経徴候なし
  3. 患者は覚醒・意識清明
  4. 正常なCT/MRI所見(静脈洞血栓症の除外を含む)
  5. 腰椎穿刺開放圧 >250 mm H₂O(成人)、正常なCSF組成
  6. 他に頭蓋内圧亢進の原因なし
  • 眼底検査:乳頭浮腫の有無・程度の評価。Frisén分類によるグレーディングが有用。
  • 視野検査(Humphrey自動視野計):盲点拡大、周辺視野狭窄、全般的感度低下。経過観察の指標にもなる。
  • OCT:pRNFL厚の定量評価。重症度指標および経過観察に有用。
  • 脳MRI/MRV:占拠性病変・水頭症・静脈洞血栓症の除外。IIHに特徴的な所見として空のトルコ鞍、横静脈洞狭窄、視神経鞘拡張、後部強膜の平坦化が挙げられる。
  • 腰椎穿刺:開放圧測定(≧250 mm H₂O)とCSF組成の確認。診断と同時に一時的な治療としての役割も持つ。
  • 蛍光眼底造影:乳頭浮腫と乳頭ドルーゼンの鑑別に有用。

鑑別診断:静脈洞血栓症、貧血、閉塞性睡眠時無呼吸、薬剤性(テトラサイクリン、ビタミンA等)、内分泌異常。急性視力低下を伴う場合は悪性高血圧、髄膜炎、視神経炎(MOG、NMOSD等)、視神経浸潤(白血病、リンパ腫)との鑑別が重要である。

  • 減量:最も重要な疾患修飾療法。5〜10%の体重減少で乳頭浮腫・視野の有意な改善が得られる。低ナトリウム減量食との組み合わせが推奨される。
  • アセタゾラミド:第一選択薬(炭酸脱水酵素阻害薬)。CSF産生を減少させICPを低下させる。劇症型では500 mg×3回/日から開始し、3〜4 g/日まで急速漸増することがある。
  • トピラマート:アセタゾラミド不耐時の代替薬。ICPを低下させ視機能を改善する。
  • フロセミド:利尿薬。CSF産生を減少させる補助的薬剤。
  • メチルプレドニゾロン静注(1 g/日×3日):劇症型に限り使用。北米の小児例で報告があるが、英国では成人劇症型への通常使用は推奨されていない。

適応:頭痛が軽度で、顕著な乳頭浮腫と進行性・切迫性の視力低下がある場合。視力保護が主目的であり、頭痛治療には無効である。

手術アプローチ:主に3種類のアプローチが用いられる。

内側経結膜

使用頻度:59%と最も多い。

利点:最短経路。美容的に優れる。

欠点斜視リスク・手術時間が長い。

上内側眼瞼縁切開

使用頻度:31%。

利点:最短手術時間。顕微鏡不要。

欠点:経路が長い・眼瞼下垂リスクあり。

外側眼窩切開

使用頻度:10%と最も少ない。

利点:視神経の良好な可視化が可能。

欠点毛様体神経節損傷リスクあり。

手術成績(メタアナリシス:19研究、1159観察)3)

転帰指標改善率95%CI
視力改善41.09%29〜55%
視野改善76.34%61〜87%
乳頭浮腫改善97%84〜100%

経結膜アプローチの視野改善率(86%)はその他のアプローチ(57%)より有意に高い(p=0.018)。視力改善率はアプローチ間で有意差なし(p=0.715)3)

片側手術で両側効果:片側ONSFを行っても対側の乳頭浮腫が改善する。特発性頭蓋内圧亢進症9例(全例女性)の片側ONSF後2年追跡では全例で両側の視力改善が確認された2)

合併症リスク:全体で10〜15%。最も重篤な合併症は中心網膜動脈閉塞または中心網膜静脈閉塞による視力喪失(1〜2%)。他に複視(22.2%)、結膜下出血(44.4%)、眼窩蜂巣炎(11.1%)が報告されているが、いずれも一過性であることが多い2)

  • 腰椎腹腔シャント(LPS):特発性頭蓋内圧亢進症に対する一次的外科介入として広く用いられる。ICPを低下させ頭痛改善にも有効(短期的)。
  • 脳室腹腔シャント(VPS):ICPを効率的に低下させる。合併症としてシャント不全・感染・転位がある。

静脈洞狭窄と圧較差が証明された薬物不応例に有用な可能性がある。術後6ヶ月間の抗血小板療法が必要。エビデンスレベルはまだ低く、英国でRCT(シャント vs ステント)が進行中である。

肥満が主因の場合、従来治療抵抗例でも高い成功率が報告されている。体重3〜15%減で寛解報告あり。劇症型には推奨されない。

Q 片側の手術で両眼に効果がありますか?
A

片側ONSFで対側の乳頭浮腫も改善することが確認されている。特発性頭蓋内圧亢進症9例を対象とした2年追跡の研究では全例で両側の視力改善が報告されている。片側施行後に対側の視力保護効果が期待できる点は本術式の重要な特徴の一つである。

Q 手術後に再び症状が出ることはありますか?
A

32%の患者で臨床的再発が報告されている。再発した場合は追加の外科的治療(再手術・シャント術・ステント留置術)が必要になることがある。定期的な眼科検査による経過観察が重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

頭蓋内圧亢進による視神経障害

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視神経の蜘蛛膜下腔は中枢神経系の蜘蛛膜下腔と連続している。ICP上昇が視神経の全長に沿って視神経乳頭に伝達されると、以下の機序で障害が生じる。

  1. 神経内圧上昇 → 軸索輸送障害 → 軸索内腫脹
  2. 腫脹が視神経灌流を障害 → 視神経乳頭・視神経の虚血
  3. 虚血の進行 → 視力喪失

視力喪失のパターンは初期に盲点拡大として始まり、進行性の周辺視野欠損へと移行する。

ONSFが視神経を保護するメカニズムは2段階に分けられる。

  • 直接的な圧力軽減:硬膜切開によるCSF流出。
  • 長期的な維持効果:切開部位の線維化・瘢痕形成によるCSF再蓄積の防止。後毛様体動脈の血流増加も報告されており、視神経乳頭灌流の改善に寄与すると考えられる。

重要な点:ONSFはICPを低下させない。視神経の局所的な保護効果のみを発揮するため、頭痛などの全身症状に対する効果は期待できない。

特発性頭蓋内圧亢進症の病態生理

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特発性頭蓋内圧亢進症における頭蓋内圧亢進の正確なメカニズムは完全には解明されていない。CSF動態の調節障害と代謝・ホルモン因子の関与が考えられている。特発性頭蓋内圧亢進症は肥満とは独立した全身性代謝疾患として注目されつつあり、アンドロゲン調節障害の関与も示唆されている。

ATRAはビタミンA誘導体であり、脈絡叢のRAR受容体を刺激してCSF産生を増加させる。蜘蛛膜顆粒でのCSF吸収障害も関与すると推測されている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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メタアナリシスの最新知見(2024年)

Section titled “メタアナリシスの最新知見(2024年)”

Prokop ら(2024)は19研究・1159観察を対象とした系統的レビューとメタアナリシスを行い、ONSFの視覚的転帰を包括的に評価した3)。視力改善率41.09%(95%CI: 29〜55%)、視野改善率76.34%(95%CI: 61〜87%)、乳頭浮腫改善率97%(95%CI: 84〜100%)を報告した。診断後6ヶ月を超える手術遅延では視野転帰が著しく悪化(OR 0.06、95%CI 0.005〜0.70)。32%で臨床的再発が認められた。

Latif ら(2023)は特発性頭蓋内圧亢進症9例(全員女性、平均年齢24歳)に片側内側経結膜アプローチによるONSFを施行し、2年追跡した2)。術前BCVA(logMAR)は良眼0.5±0.28、悪眼1.0±0.57。術後1週での改善(良眼0.27±0.32、p=0.001)は2年後も維持(良眼0.30±0.30、p=0.002)された。全例で片側手術による両側効果を確認。66.67%で頭痛改善・薬剤漸減に成功した。

Hokazono ら(2023)はATRA(45 mg/m²)誘発性偽脳腫瘍症候群(腰椎穿刺開放圧42 cm H₂O)の32歳女性に対し、ATRA減量・アセタゾラミド2 g/日と右眼ONSFの併用療法を施行した1)。6ヶ月後に両眼20/20・視野正常・乳頭浮腫消失・外転神経麻痺消失という完全回復を達成した。

Barh ら(2021)はもやもや病(左ICA狭窄+左MCA閉塞)に伴う頭蓋内圧亢進(開放圧75 cm H₂O)を示した13歳女児に右眼ONSFを施行した4)。保存的治療(マンニトール、アセタゾラミド、トピラマート)に不応であったが、術後1ヶ月で右眼3/60・左眼6/24に改善し、両側乳頭浮腫も消退した。6ヶ月後は右眼6/36・左眼6/24を維持した。

低侵襲で手術時間短縮、筋離断不要が利点とされる新しいアプローチである。組織損傷の低減が期待されるが、標準化には至っていない3)

  • 標準化された手術手技の確立
  • 最適な手術タイミングの決定(早期介入のエビデンス強化)
  • 手術アプローチ間の前向き比較研究
  • 患者固有の転帰予測因子の同定
  • ONSF vs シャント vs ステントのRCT(英国で進行中)
  • GLP-1受容体作動薬(エキセナチド)のIIHに対するRCT

  1. Hokazono K, Cunha LP, Preti RC, Zacharias LC, Monteiro MLR. Optic nerve sheath fenestration as adjuvant treatment for severe pseudotumor cerebri syndrome induced by all-trans retinoic acid. Case Rep Ophthalmol. 2023;14:326-330.

  2. Latif S, Rizwan A, Khan AA, Zahra S. Optic nerve sheath fenestration for salvaging acutely threatened vision in Idiopathic Intracranial Hypertension - A two-year completed follow up. Pak J Med Sci. 2023;39(6):1853-1857.

  3. Prokop K, Opchowska A, Siekiewicz A, Lisowski L, Mariak Z, Lyso T. Effectiveness of optic nerve sheath fenestration in preserving vision in idiopathic intracranial hypertension: an updated meta-analysis and systematic review. Acta Neurochir. 2024;166:476.

  4. Barh A, Mukherjee B, Ambika S. Optic nerve sheath fenestration for visual rehabilitation in moyamoya disease. Saudi J Ophthalmol. 2020;34:223-226.

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