この疾患の要点
片頭痛 は15歳以上の8.4%に発症し、女性(12.9%)が男性(3.6%)の約3倍多い。
閃輝暗点は両眼性・同名性で、ジグザグ状の光が中心から周辺へ20〜30分で拡大・消失する。
前兆を伴う症例の90%以上に視覚性前兆が認められ、典型例では閃輝暗点に続いて頭痛が出現する。
一過性黒内障 は片眼性で1〜5分持続する陰性症状であり、閃輝暗点との鑑別が重要である。
亜型として網膜 片頭痛 ・片麻痺性片頭痛 ・反復性有痛性眼筋麻痺性神経障害(RP ON)などがある。
急性期にはトリプタン製剤・NSAIDs、予防にはロメリジン塩酸塩・β遮断薬 ・トピラマートが用いられる。
前兆のある片頭痛 は脳卒中のリスク因子であり、RP ONではMRIで動眼神経の造影増強を認める。
片頭痛 は血管性頭痛の1つで、外頸動脈分枝の拡張によって生じる発作性の頭痛疾患である。拍動性の頭痛が反復し、前兆を伴うものと伴わないものに大別される。閃輝暗点は片頭痛 に先行する視覚性前兆の代表であり、血管れん縮→後頭葉視覚領域の一過性虚血によって生じるジグザグ模様の光として古典的に説明されてきた。現在は皮質拡延性抑制(CSD)が主流の発症機序として理解されている(§6 参照)。
悪心・羞明 ・音過敏・視覚前兆を伴い、4〜72時間持続する。反復性(月15日未満)と慢性(月15日以上×3ヶ月継続)に分類される。
15歳以上の人口の8.4%が片頭痛 に罹患する。
男性3.6%、女性12.9%で、30歳代が最多である。
推定生涯有病率は16%で、女性は男性の約2倍である1) 。
世界で3番目に多い疾患であり、50歳以下の障害原因の第1位を占める1) 。
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)における片頭痛 の亜型を示す。
1.1 前兆のない片頭痛 :最も多い亜型。視覚前兆を伴わない。
1.2 前兆のある片頭痛 :
1.2.1 典型的前兆を伴う片頭痛 (1.2.1.1 頭痛を伴うもの・1.2.1.2 頭痛を伴わないもの)
1.2.2 脳幹性前兆を伴う片頭痛
1.2.3 片麻痺性片頭痛 (1.2.3.1 家族性片麻痺性片頭痛 FHM)
1.2.4 網膜 片頭痛
1.3 慢性片頭痛 :月15日以上×3ヶ月以上継続する頭痛。
1.4 片頭痛 の合併症 :片頭痛 性脳梗塞(1.4.3)などを含む重篤な合併症群。
1.6 片頭痛 に関連する周期性症候群 :小児期の周期性嘔吐など。
頭痛を伴わない視覚前兆 :高齢の片頭痛 既往者に多い。TIAや後頭葉てんかん との鑑別が重要。
基底型片頭痛 (脳幹性前兆を伴う片頭痛 ) :めまい・運動失調・耳鳴り・複視 を伴う。
網膜 片頭痛 :一過性単眼性視覚障害。一過性の網膜 動脈虚血を伴う。
片麻痺性片頭痛 :可逆的な運動脱力を伴う前兆。有病率0.01%。家族性(CACNA1A・ATP1A2・SCN1A遺伝子変異)と散発性に分類される2) 。
反復性有痛性眼筋麻痺性神経障害(Recurrent Painful Ophthalmoplegic Neuropathy:RP ON)は、旧称「眼筋麻痺性片頭痛 」であり、ICHD-3で改称された。片頭痛 よりも脱髄・炎症性ニューロパチーとしての性格が強いことが改称の理由である。
頭痛と同側の眼筋麻痺を発作として繰り返す稀な疾患で、発生率は100万人あたり0.7人である。主に10歳未満の小児に発症し、初発年齢の中央値は8歳と報告されている。成人発症も認められ、プール解析165例では平均発症年齢22.1歳、34.2%が18歳以上での発症であった6) 。動眼神経(第III)が最多で、外転神経(第VI)・滑車神経(第IV)がこれに続く。
Q
片頭痛で眼の症状が出るのはなぜですか?
A
皮質拡延性抑制(CSD)と三叉神経 血管系の関与が主な原因である。CSDは後頭部の視覚野から始まる神経細胞の脱分極波であり、閃輝暗点を引き起こす。また、三叉神経 血管系の活性化によりCGRP ・サブスタンスPなどの炎症性物質が放出され、血管拡張・神経原性炎症が羞明 や頭痛を引き起こす。
羞明 (光過敏) :片頭痛 患者で最も多い眼科症状。光により頭痛が悪化する。ほぼ常に両側性。
視覚前兆(閃輝暗点) :ジグザグ状・鋸歯状・三日月型のちらつく光が視野中心から周辺へ拡大・移動する。20〜30分で消失し、その後に拍動性頭痛が後続することが多い。両眼性・同名性が特徴。前兆を伴う症例の90%以上に視覚性前兆が認められる。
発作頻度 :月1回〜週2回と患者ごとに幅がある。発生した痛みは1〜2時間でピークに達し、悪心・嘔吐を伴うことが多い。
視覚残留(パリノプシア) :視界から消えた物体の残像が残る。前兆のある片頭痛 で多く認められる。
ビジュアルスノー :テレビの砂嵐のような小粒子が全視野に拡散する。数年間持続しうる。ビジュアルスノー症候群(VSS )患者の60%が片頭痛 を併発する。
不思議の国のアリス症候群 (AIWS) :小視症・大視症・自己身体部位の変容。5〜14歳男性と16〜18歳女性に多い。
良性発作性片側性瞳孔 散大(BEUM) :間欠的な霧視 ・「頭がぼんやりする」感覚を伴う。
Q
閃輝暗点と一過性黒内障はどう違いますか?
A
主な違いは視覚症状の性質・眼の片側性・持続時間の3点である。閃輝暗点はジグザグの光という陽性症状で両眼性、20〜30分(最長60分)持続する。一過性黒内障 は暗転・灰色化という陰性症状で片眼性、1〜5分(最長10分)の短時間で消失する。一過性黒内障 は頸動脈や眼動脈の塞栓症に起因することがあり、見逃してはならない。
眼科的徴候を呈する亜型別の臨床所見を以下に示す。
網膜片頭痛
単眼性視力 喪失 :可逆的な単眼性の視力 低下または消失。
暗点 :「C」字型・着色・閃輝・拡大する暗点。少なくとも2回のエピソードで診断する。
TMVLの除外 :重篤な原因(動脈炎、塞栓症)を必ず鑑別する。
片麻痺性片頭痛
運動脱力 :片側性の可逆的な運動麻痺が前兆として出現する。
多様な前兆 :視覚・感覚・言語症状を伴う。各症状は5〜60分持続する。
ICHD-3基準 :5分以上かけて進展し、前兆に伴うか60分以内の頭痛が続く2) 。
RPON(眼筋麻痺性神経障害)
第III脳神経障害 :動眼神経が最多(小児)。眼瞼下垂 ・眼球運動障害 ・散瞳 。
MRI所見 :急性期に動眼神経の局所的な造影増強・肥厚を認める。文献レビュー52例ではMRI第III神経増強75%・神経腫脹76%が報告されている6) 。
反復性 :2回以上の発作が確定診断に必要。発作を繰り返すごとに回復が不完全になる例がある9) 。
基底型片頭痛
脳幹症状 :めまい・構音障害・運動失調・耳鳴り・難聴を伴う。
複視 :典型的前兆として両側性の感覚異常や意識変容を伴うことがある。
失神 :重症例では一時的な意識消失が起こりうる。
頭痛 :片側性で眼窩 周囲・眼窩 後部に最も強い。数日〜1週間程度持続することが多く、典型的片頭痛 (72時間未満)より長い傾向がある。必ずしも片頭痛 様でなくてよい(ICHD-III基準)。患者の最大1/3では片頭痛 の古典的特徴を伴わない。
随伴症状 :光過敏65%、悪心66%、嘔吐69%(Gelfandらの系統的レビュー)。
複視 ・眼瞼下垂 :眼筋麻痺の発現に伴い出現する。
前兆(aura)の欠如 :視覚・感覚・言語の前兆は報告されておらず、典型的片頭痛 との重要な鑑別点である。
頭痛の発症から眼筋麻痺の出現まで、直後〜最大14日間の時間差がある。眼筋麻痺は通常2週間〜3ヶ月で自然消失するが、反復発作後は不完全回復となる例もある。長年の再発例では54%に持続性眼運動麻痺が生じる9) 。
動眼神経(第III)
眼瞼下垂 :上眼瞼挙筋麻痺による下垂。
眼球運動制限 :内転・上転・下転の制限。
散瞳 ・対光反射低下 :瞳孔 運動線維の関与が多い。ただしMcMillianら39例のレビューでは23%で瞳孔 温存。
外転神経(第VI)
外転麻痺 :外転制限による内斜視 。
成人ではRP ONで最も多く侵される脳神経である。
滑車神経(第IV)
下転・内旋制限 :垂直複視 が主訴となる。
代償性の反対側への頭位傾斜を認める。比較的稀な侵犯。
painful ophthalmoplegic neuropathy abduction deficit
Nonpharmacologic Management of Recurrent Painful Ophthalmoplegic Neuropathy: A Case Report. Cureus. 2025 May 28; 17(5):e84387. Figure 2. PM
CI D: PMC12178448. License: CC BY.
Attempting leftward gaze. The left eye remains fixed in neutral due to left cranial nerve VI (abducens) palsy, while the right eye fully adducts. Image obtained and shown with patient consent. Arrow added for emphasis
典型的な片頭痛 では眼科検査(視野検査 を含む)は通常正常である。片頭痛 発作中にOCTA (光干渉断層血管撮影 )を施行すると脈絡膜 血管密度の著明な低下と中心窩 無血管域(FA Z)の拡大が認められる。
Q
眼筋麻痺はどのくらいで治りますか?
A
通常は2週間〜3ヶ月で自然消失するが、発作を繰り返すごとに回復が不完全になる例がある。長年の再発例では54%に持続性眼運動麻痺が生じたと報告されている9) 。発症後自然に改善するが、発作ごとに持続時間が長くなり永続化する例もある。
生活習慣 :月経周期(月経関連片頭痛 )、ストレス、不規則な睡眠。
食事 :アルコール(特に赤ワイン・ビール)・MS G・カフェイン・熟成チーズ・アスパルテーム・チョコレート。
薬剤 :経口避妊薬・エストロゲン療法・鼻閉改善薬・オピオイド・SSRI。
感覚刺激 :天候変化・特定の音・臭い・光。光は急性片頭痛 を悪化させる最も一般的な誘因。
人口統計学的因子 :女性・肥満・糖尿病・頭部外傷・ストレス。
慢性化リスク :急性期治療薬の過多使用(鎮痛薬≧月15日、トリプタン≧月10日)・急性期治療の不備。
遺伝的要因 :家族性片麻痺性片頭痛 ではCACNA1A・ATP1A2・SCN1A遺伝子変異(常染色体優性遺伝 )2) 。
脳卒中リスク :前兆のある片頭痛 は脳卒中のリスク因子となる。経口避妊薬・喫煙を併用する45歳未満の女性でリスクが特に高い。
片頭痛 の既往 :本人または家族の片頭痛 既往が高頻度にみられる。
感染の先行 :ウイルス性胃腸炎後の発症例10) や鼓膜炎後の発症例8) が報告されている。感染が免疫介在性ニューロパチーを誘発する可能性がある。
妊娠 :妊娠19週での発症・産後5日目の自然寛解例が報告されており、ホルモン・生理学的変化との関連が示唆される7) 。
地域差・遺伝的多様性 :ナイジェリア集団では異常ヘモグロビンとの関連も報告されている。
予防・日常のケア
頭痛ダイアリーをつけ、誘因・頻度・持続時間を記録しましょう。
アルコール・カフェイン過多・特定の食品など自分の誘因を特定して回避しましょう。
睡眠リズムを整え、ストレス管理を心がけましょう。
閃輝暗点は必ずしも頭痛を伴わないため、片頭痛 という診断に過度に拘らず長期的な管理が重要です。
急性期治療薬を過度に使用すると頭痛が慢性化しやすくなります。用法・用量を守って使用してください。
Q
片頭痛を悪化させる食品や薬剤には何がありますか?
A
食品では赤ワイン・ビール・チョコレート・熟成チーズ・MS G(グルタミン酸ナトリウム)・アスパルテームなどが誘因として知られる。薬剤では経口避妊薬・エストロゲン療法・鼻閉改善薬・オピオイド・SSRIが片頭痛 を誘発・悪化させることがある。誘因は個人差が大きいため、頭痛ダイアリーによる自己観察が重要である。
片頭痛 の診断は病歴・身体診察・ICHD-3基準に基づいて行う。典型的症状では画像診断は不要である。診断支援ツールとしてID-Migraine・VARS・MIDAS質問票・MS Q 2.1がある1) 。
片頭痛 が疑われる場合は、まず脳血管障害や腫瘍性疾患などの器質的疾患をCTやMRIで除外する。次に血管れん縮を抑制する薬剤を処方して、発作がこの薬剤で頓挫できるかを確認して診断をつける。
画像診断(脳MRI/CT)の適応は以下の場合に限る。
説明のつかない異常な神経学的所見
40歳以降の新規発症・進行性悪化
片頭痛 性脳梗塞の疑い
突然の激しい頭痛(くも膜下出血の除外が必要)
完全な眼科的検査(視力 ・視野・眼球運動・対光反射・眼底検査 ・細隙灯検査)を実施する。RP ONでは、MRIで脳神経の限局性肥厚と造影効果が特徴的な所見となる3) 。
以下の3点を比較することで鑑別できる。
項目 閃輝暗点 一過性黒内障 視覚症状の性質 陽性(ジグザグの光) 陰性(暗転・灰色化) 眼の片側性 両眼性・同名性 多くは片眼性 持続時間 20〜30分(60分以内) 1〜5分(10分以内)
RP ONの国際頭痛分類第3版(ICHD-III)による診断基準は以下の通りである。
A . 基準Bを満たす少なくとも2回の発作
B . (1) 片側性頭痛、(2) 同側の第III・IV・VI脳神経のうち1本以上の不全麻痺を伴う
C . 眼窩 ・傍鞍部・後頭蓋窩の病変を適切な検査で除外
D . 他のICHD-3診断でより適切に説明されない
MRIは診断に最も重要な検査である。特徴的所見は動眼神経脳槽部の局所的造影増強と肥厚で、文献レビュー52例ではMRI第III神経増強75%・神経腫脹76%が報告されている10) 。ただし、急性期の25〜81%ではMRI正常となる場合もある。造影増強は通常7〜9週間で消失するが、2〜4年持続する例もある。
初回発作からTOF-MRAを含む完全MRI評価が推奨される5) 。瞳孔 運動機能が関与する動眼神経麻痺 では、後大脳動脈(PCA)動脈瘤除外のためのMRAが特に重要である。
RP ONと類似した症状を呈する疾患との鑑別が重要である。
疾患 鑑別のポイント Tolosa-Hunt症候群(THS ) MRIで海綿静脈洞 壁肥厚。ステロイド に劇的反応 動眼神経シュワノーマ 造影増強が12週以上持続(RP ONは12週以内に消失)11) 重症筋無力症 日内変動・疲労性。アイスパック試験・抗AChR抗体 後交通動脈瘤 散瞳 を伴う動眼神経麻痺 。MRA/CTAで緊急評価前兆を伴う片頭痛 眼筋麻痺が72時間以内に消失(RP ONは2週間以上)
緊張型頭痛・群発頭痛 :頭痛の性状・随伴症状による鑑別。
TIA・後頭葉てんかん :頭痛を伴わない視覚前兆との鑑別。
外傷・感染症・先天性疾患に続発する頭痛 :二次性頭痛の除外が必要。
臨床検査としては、髄液検査(通常正常。悪性腫瘍・MS との鑑別)5) 、および糖尿病・感染症・炎症・自己免疫疾患を除外するための血液検査を行う。
Q
MRIで異常がなくてもRPONの可能性はありますか?
A
ある。急性期の25〜81%ではMRI所見が正常な場合もある5) 。MRI正常のRP ONでは、まずNSAIDで経過観察し反応をみる方法も報告されている。ただし、反復発作例・持続例では必ずMRI再検査を行い、他の器質的病変を除外することが重要である。
片頭痛 の治療には予防薬・前兆時(アウラ出現時)に使用する薬剤・発作時に使う薬があり、これを使い分ける。
軽度発作にはNSAIDs・ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩・経口トリプタン製剤が有効である。重症発作には経口トリプタン製剤が用いられる。
NSAIDs(イブプロフェン・アスピリン) :トリプタンより副作用が軽微。
トリプタン(スマトリプタン25〜100mg) :NSAIDsより有効性が高い。トリプタン+NSAIDsの併用は単剤より2時間疼痛消失率が高い1) 。スマトリプタンは経口・皮下注・点鼻薬が利用可能である。
ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩(ジヒデルゴット) :軽度〜中等度の発作に有効。
ラスミジタン :5-HT1F受容体作動薬。急性期治療の新規薬剤1) 。
アウラが出現した際には、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩を早期に使用する。片頭痛 発作の早期段階での投与が効果を高めるため、アウラを感知した時点での速やかな投与が重要である。
ロメリジン塩酸塩(ミグシス) :カルシウム拮抗薬。予防薬として広く用いられる。
ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩(ジヒデルゴット) :予防薬としても使用される。
β遮断薬 :メトプロロール200mg/日・プロプラノロール80mg×2/日が最もエビデンスが高い1) 。
トピラマート :発作頻度の減少とQOL改善が報告されている1) 。
アミトリプチリン :プロプラノロール・トピラマートより有効とする解析がある1) 。
バルプロ酸・ベラパミル・ガバペンチン :予防効果が報告されている1) 。
ボツリヌス毒素 :慢性片頭痛 に対してプラセボより優位な効果を示す1) 。
リボフラビン(ビタミンB2)・マグネシウム・CoQ10 :酸化ストレス ・神経過興奮性への補完的アプローチ1) 。
片麻痺性片頭痛 2) :
標準化された治療ガイドラインは存在しない。急性期にはNSAIDs・非麻薬性鎮痛薬を用いる。予防にはβ遮断薬 ・カルシウム拮抗薬・三環系抗うつ薬・抗てんかん薬 を用いる。頻回発作には長時間作用型ベラパミルまたはラモトリギンが使用される。
発症後自然に改善するが、発作ごとに持続時間が長くなり永続化する例もあることから、積極的な抗炎症療法が勧められている。
副腎皮質ステロイド が最も一般的な急性期治療である。プール解析ではステロイド 投与76例中96.2%が急速改善を示した6) 。動眼神経麻痺 の炎症性病変に対してはプレドニゾロン50〜60mg/日をまず3日間投与し、早期減量で再燃に注意しながら漸減する。
主なステロイド レジメンを以下に示す。
レジメン 用法・用量 報告 メチルプレドニゾロン(小児) 25〜30 mg/kg/日(最大1 g/日)×5日間 Frattini 20235) 、Nandana 20219) メチルプレドニゾロン(成人) 250 mg×4回/日×3日→プレドニゾン60 mg漸減 Koo 20246) デキサメタゾン(静注) 13.2 mg×12日間 Takemoto 20218)
ステロイド への反応はTolosa-Hunt症候群ほど劇的ではないことが多い。
MRI正常のRP ONでは、まずNSAID(イブプロフェン10 mg/kg/回×3回/日)で経過観察する選択肢もある。イブプロフェンで48時間以内に完全回復した報告がある5) 。
頻繁な再発がある場合、以下の予防薬を検討する。
Ca拮抗薬 :フルナリジン5 mg/日9) 、ベラパミル
β遮断薬 :プロプラノロール
三環系抗うつ薬 :アミトリプチリン25 mg+バルプロ酸Na 500 mgの組み合わせで1年間再発なしの報告あり6)
抗てんかん薬 :バルプロ酸・ガバペンチン・トピラマート10)
治療における注意点
トピラマート誘発性急性閉塞隅角 (TiAAC)に注意 :片頭痛 適応での処方例が59.7%を占める。75.3%が女性で、平均発症はトピラマート開始後14.1日(平均眼圧 41mmHg)。毛様体 脈絡膜 滲出による水晶体 虹彩 隔膜の前方移動が原因。発症時は即座にトピラマートを中止し、局所眼圧 下降薬と散瞳薬 を投与する。平均回復日数は3.9日4) 。
片麻痺性片頭痛 ではトリプタン・エルゴタミンが禁忌 :血管収縮作用による脳卒中リスク上昇のため使用してはならない2) 。
RP ON ステロイド 投与中は眼圧 上昇に注意 :Takemotoらの報告ではデキサメタゾン投与中に両眼22 mmHgの眼圧 上昇を認め、0.5%チモロールマレイン酸塩点眼により改善した8) 。ステロイド 長期投与例では定期的な眼圧測定 が必要である。
Q
予防薬のトピラマートは眼に副作用がありますか?
A
トピラマートは片頭痛 予防薬として広く使用されるが、投与開始後2週間前後に急性閉塞隅角 (TiAAC)を引き起こすことがある。毛様体 脈絡膜 滲出によって水晶体 虹彩 隔膜が前方移動し、眼圧 が急激に上昇する。目の痛み・視力 低下・霧視 が生じた場合は速やかに眼科を受診し、処方医へも連絡する必要がある4) 。
Q
RPONに予防薬はありますか?
A
フルナリジン・ベラパミルなどのCa拮抗薬、プロプラノロールなどのβ遮断薬 、バルプロ酸・ガバペンチン・トピラマートなどの抗てんかん薬 が予防薬として使用されている。30%に永続的後遺症のリスクがあることから、頻繁な再発がある場合は積極的な予防療法を検討することが重要である6) 。
片頭痛 の基本機序は髄膜・血管・三叉神経 支配領域の刺激であり、外頸動脈分枝の拡張が引き金となる1) 。
ストレス・食品・ホルモンなどの誘因 → 脳幹の血管調節異常 → 末梢血管拡張 → 三叉神経 ニューロンへの伸展シグナル → CGRP ・インターロイキンなどの炎症性・血管活性物質の産生 → さらなる拡張と血管透過性亢進 → 組織浮腫というカスケードが形成される1) 。
関与する神経伝達物質はサブスタンスP・一酸化窒素・CGRP である。中脳水道周囲灰白質(PAG)・青斑核(LC)・縫線核(DRN)が片頭痛 の病態に関与する脳部位として挙げられる。
古典的には脳血管れん縮→後頭葉視覚領域の一過性虚血によって閃輝暗点が生じると説明されてきた。現在は皮質拡延性抑制(Cortical Spreading Depression: CSD)が視覚前兆の主要機序として広く支持されている2) 。
後頭部に起源する神経細胞の脱分極波が前方へと伝播する。脱分極によってカリウム濃度が上昇し、興奮性アミノ酸の放出がさらに拡延を増強する。CSDにより後頭部の視覚野が一時的に機能不全となることが閃輝暗点の発生に対応する。
基底型片頭痛 :脳幹におけるCSDが関与する。
網膜 片頭痛 :網膜 におけるCSD(ただし皮質メカニズムを示唆するエビデンスも多く、「網膜 片頭痛 」は誤称との指摘もある)。
片麻痺性片頭痛 :軟膜血管からの血管原性漏出が三叉神経 血管系を刺激し、前兆としての片麻痺を引き起こす2) 。
羞明 :錐体駆動の網膜 経路 → 光感受性視床ニューロン+皮質過剰興奮のメカニズムによる。
AIWSおよびビジュアルスノー :AIWSは視路の一時的虚血に起因する。ビジュアルスノーは副視覚野(舌状回・ブロードマン19野)の高代謝が関与する。
RP ONの発症機序については複数の仮説が提唱されており、現在も議論が続いている。
脱髄・炎症説(主流)
Lance & Zagami :反復性脱髄性ニューロパチー・神経炎説。MRIでの動眼神経造影増強がその根拠とされる。
Carlow仮説 :三叉神経 の眼神経枝からの神経ペプチドカスケードがWillis動脈輪に無菌性炎症性血管反応を誘発。繰り返す脱髄・再髄鞘化によりSchwann細胞のオニオンバルブ増殖が生じる8) 。
虚血説
Ambrosettoら :片頭痛 時のvasa nervorumの血管痙攣→血液神経関門の可逆的虚血性破壊→血管性浮腫(MRI造影増強・肥厚を説明)。
Vijayanら :ICA壁浮腫→細小血管開口部閉塞→境界域梗塞型損傷。ShinらのSPECT研究でPCA穿通枝領域の可逆的同側虚血が確認されている。
神経血管圧迫説
Buiら :MRAで左後大脳動脈(PCA)の鋭いループによる動眼神経出口部圧迫を確認した13歳男児例を報告10) 。
圧迫説への反論:(1) 23%で瞳孔 温存、(2) 発作中の頸動脈造影で血管狭窄は実証されず、(3) RP ONの回復は圧迫解除後より緩徐である。
これらの仮説のうち、脱髄・炎症説が現在の主流である。CI DPやMS ・MOGAD の再発寛解型パターンとの類似が指摘されているが、CSF検査は通常正常であり、ウイルス感染・免疫介在性ニューロパチーの直接証拠は得られていない。
自然発症片頭痛 発作中にOCTA で脈絡膜 血管密度の著明な低下とFA Zの拡大が認められる。脈絡膜 循環が網膜 循環より発作中に脆弱であることを示唆する所見である。
家族性片麻痺性片頭痛 に関連する遺伝子はCACNA1A(カルシウムチャネル)・ATP1A2(Na/Kポンプ)・SCN1A(ナトリウムチャネル)の3種が知られる2) 。TREK遺伝子(二孔カリウムチャネル)の変異は静止膜電位の調節障害と神経過興奮性に関与する1) 。
フレマネズマブ・エレヌマブ・ガルカネズマブはFDA承認の慢性片頭痛 予防薬である1) 。
抗CGRP mAbsのメタ分析では、50%レスポンダー率が有意に改善し、月間片頭痛 日数と急性期薬の使用量が減少することが示されている。ベネフィット・リスクプロファイルはプロプラノロール・トピラマートより優れるとの広い合意がある1) 。
ガルカネズマブは負荷量240mg皮下注 → 120mg/月×5ヶ月のレジメンで頭痛の重症度・頻度・持続時間が改善した。注射部位の掻痒・発疹が主な副作用として報告されている1) 。
ウブロゲパント(ubrogepant)は2019年にFDA承認された経口急性期治療薬である。前兆の有無を問わず使用できる1) 。アトゲパント(atogepant)は経口予防薬として開発されている。
トナベルサットはベンゾピラン系新規分子であり、グリア細胞-ニューロン間のギャップ結合コミュニケーションを阻害してCSDを抑制する。39例のRCT(Goadsby et al. 2009)において、前兆のある片頭痛 の予防に有効であることが示されているが、現時点ではFDA未承認である1) 。
二孔カリウムチャネル(TREK)の変異は静止膜電位の調節障害を来たし、神経の過興奮性につながる。TREKの活性化・阻害を標的とした治療研究が進行中である1) 。
Takemotoら(2021)は、ステロイド 誘発性眼圧 上昇に対して投与した0.5%チモロールマレイン酸塩点眼により、数日で複視 が著明改善し眼瞼下垂 ・眼球運動障害 が完全消失した14歳女児例を報告した8) 。局所チモロールが三叉神経 血管系の神経ペプチド介在性抑制を通じてRP ONに効果を発揮した可能性が考察されている。眼圧 上昇がなくてもβブロッカー点眼が有効な可能性があり、今後の探索的研究が期待される。
Kooら(2024)はLiuらのプール解析に基づき、現行のICHD-III診断基準を「少なくとも2回の片側性頭痛発作(眼筋麻痺とほぼ同時〜15日前)」+「脳神経麻痺の臨床所見またはMRI増強」とする修正診断基準を提案した6) 。成人発症例や非典型例の包括に向けた議論が続いている。
Castillo-Guerreroら(2024)は妊娠中の内眼筋麻痺性片頭痛 (両側散瞳 のみで外眼筋 麻痺なし)を報告した7) 。産後5日目の自然寛解が確認され、ホルモン・生理学的変化が発症に関与する可能性が示唆されている。
抗GQ1b抗体症候群との関連が報告されており、ステロイド に即効する再発例では非定型抗GQ1b抗体症候群の検索が推奨される5) 。また高解像度MRAによる神経血管圧迫の評価が小児RP ON診断において重要性を増しており、PCAによる動眼神経出口部圧迫が一部の症例で確認されている10) 。
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