この疾患の要点
網膜動脈分枝閉塞症(BRAO )は網膜 中心動脈の分枝が閉塞し、支配領域に虚血性網膜 障害を生じる疾患である。
動脈閉塞から約100分で網膜 に不可逆的変化が始まるため、可能な限り早期の対応が求められる。
無痛性の急性単眼視野欠損 で突然発症する。鼻側分枝や耳側末梢閉塞では無症状のことがある。
原因の大多数は頸動脈・心臓由来の塞栓であり、高血圧・動脈硬化・糖尿病などの全身疾患を背景に発症する。
BRAO 患者の約25%に発症1週間以内の脳梗塞合併が認められ、全身の塞栓源検索と脳卒中評価が緊急に必要である。
急性期には亜硝酸アミル吸入、アセタゾラミド 静注、ウロキナーゼ投与などが行われる。
BRAO の80%は最終的に視力 0.5以上を維持するが、黄斑部 が障害された場合は視力 予後が不良となる。
網膜動脈閉塞症 は、網膜 動脈の閉塞による網膜 の虚血と壊死によって重篤な視機能障害をきたす疾患である。閉塞部位により以下の3型に分類される。
網膜中心動脈閉塞症 (CRAO ) :網膜 中心動脈の閉塞。最重症型であり、視力 転帰は不良で指数弁以下になることが多い。
網膜動脈分枝閉塞症(BRAO ) :分枝の閉塞。視力 予後は閉塞部位により大きく異なる。網膜動脈閉塞症 全体の約38%を占める5) 。
毛様網膜動脈閉塞症 :毛様動脈の閉塞。
BRAO では黄斑部 の障害の程度が視力 を大きく左右する。黄斑 が障害されなければ視力 は低下しないが、閉塞領域に相当する視野が欠損する。閉塞が鼻側の動脈に起こった場合や、耳側でも周辺部の場合には自覚症状のない例も多い。一方、綿花様白斑 のみがみられるような細動脈の閉塞でも、黄斑 に近ければ暗点を自覚する。
BRAO は閉塞の持続性により2つのサブタイプに分類される。
永久性BRAO :閉塞が持続し、網膜 虚血変化が固定化される。
一過性BRAO :自然に閉塞が解除され、網膜 所見が消退する。一過性黒内障 (amaurosis fugax)として現れることがある。
網膜動脈閉塞症 はごく早期の対応が視力 予後を左右する緊急性の高い疾患である。CRAO の発生率は年間10万人に約1人、外来患者1万人に1人と推定される。CRAO の平均発症年齢は60代前半であり、男性に多く、片眼に発症することが多い。1〜2%は両眼に発症することがあり、両眼発症では巨細胞性動脈炎 (GCA)を疑う必要がある5) 。日本での発症率は欧米と比較してやや低い。
無症状の網膜 塞栓は49歳以上の一般集団の約1.4%に認められる(Blue Mountains Eye Study)5) 。
2013年のAHA/ASA(米国心臓協会/脳卒中協会)改訂版脳卒中定義では、網膜 虚血はCNS(中枢神経系)梗塞の一型として明示的に位置づけられた5) 。CRAO 患者の約30%、BRAO 患者の約25%に、発症から1週間以内に脳梗塞の合併が認められる。症候性RAO 患者の脳卒中リスクは発症前2週間〜発症後1か月が最も高い5) 。
Q
網膜動脈分枝閉塞症は脳卒中と関係があるか?
A
BRAO は脳卒中の眼所見として現れる場合があり、BRAO 患者の約25%に発症1週間以内の脳梗塞合併が認められる。AHA/ASAは網膜 虚血をCNS梗塞に含めており、発症後は神経科・循環器科と連携した全身評価が不可欠である。頸動脈超音波・心エコーなどの塞栓源検索を迅速に行う必要がある。
González DP, et al. Occlusive retinal vasculopathy with macular branch retinal artery occlusion as a leading sign of atypical hemolytic uremic syndrome - a case report. BMC Ophthalmol. 2021. Figure 2. PM
CI D: PMC7847162. License: CC BY.
蛍光眼底造影 では、右眼黄斑 耳側の毛細血管漏出と毛細血管拡張(a)、左眼黄斑 上方の網膜 動脈分枝閉塞に伴う虚血性低蛍光(b)、後期相の毛細血管漏出と視神経乳頭 の染色(c-d)が認められる。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う低蛍光領域に対応する。
BRAO は典型的に無痛性の急性視野欠損 で発症する。
無痛性の急性視野欠損 :痛みを伴わない突発性の視野欠損 が最も特徴的である。
単眼性の視野障害 :閉塞した分枝の支配領域に対応する視野が欠ける。
視力 低下 :黄斑部 への分枝が閉塞した場合に顕著となる。鼻側分枝や耳側末梢の閉塞では視力 が保たれ、自覚症状のない例も多い。
暗点の自覚 :綿花様白斑 のみがみられるような細動脈閉塞でも、黄斑 に近ければ暗点を自覚する。
前駆症状 :一過性黒内障 (amaurosis fugax)を繰り返したのちに発症する例もある。
症例として、49歳女性がフェンテルミン内服中に急性無痛性視野欠損 を訴えたが矯正視力 は20/20に保たれていた1) 。22歳男性ではレーザーポインター照射後にカーテン様の上方視野欠損 が生じた3) 。61歳男性では経皮的冠動脈形成術(PTCA)中に上方視野欠損 を生じ、視力 は6/36に低下した2) 。
網膜 白濁 :閉塞した動脈の狭細化と、その支配領域の網膜 混濁がみられる。虚血性細胞腫脹による。
綿花様白斑 (cotton wool spot) :神経線維層の微小梗塞を反映する白色病変。
網膜 塞栓 :症例の62%で眼底に塞栓が可視化され、そのうち98%は耳側に位置する5) 。コレステロール塞栓(Hollenhorst plaque)が最多である5) 。
混濁の消退 :網膜 混濁はCRAO と同様に4〜6週後に消失し、網膜 厚も肥厚から菲薄化へ移行する。検眼鏡的に一見正常にみえるが、閉塞領域の視野欠損 は残存する。この「見た目正常・機能残存」が患者説明上の重要ポイントである。
数珠状血流(beading)・分節状血流(fragmentation) :閉塞動脈では微小血柱がゆっくり流れる特徴的所見がみられる。
OCT 所見(時系列変化) :急性期には閉塞領域の網膜 内層(神経線維層から内顆粒層まで)が肥厚し高反射となる(細胞内浮腫による)。発症から数日経過して網膜 混濁が軽減しても、OCT では内層の高反射が残っていることが多い。数か月経過すると閉塞領域の網膜 内層が薄くなるが、網膜 外層の層構造は保たれる。慢性期のOCT では内層のみならず外層まで逆行性萎縮をきたし層構造が確認困難となることがある。p-MLM(paracentral middle layers maculopathy)サインは双極細胞のシナプスの急速な腫脹を反映する2) 。
OCTA 所見 :表層網膜 毛細血管の灌流欠如が可視化される。永久性BRAO では閉塞後9年を経ても表層網膜 の無灌流が持続することが報告されている1) 。
蛍光眼底造影 (FA ) :閉塞動脈と対応する静脈の充盈遅延がみられる。腕網膜 循環時間は通常12秒前後であるが、閉塞時には30秒以上になることが多い3) 。血管壁の不整やフルオレセイン の漏出も観察される。
網膜電図 (ERG ) :視細胞 は脈絡膜 栄養により生存するためa波は正常であるが、双極細胞やミュラー細胞の障害によりb波は減弱あるいは消失し、陰性型ERG を示す。a波正常はすなわち視細胞 の生存を意味し、b波減弱は内顆粒層(双極細胞・ミュラー細胞)の機能障害を示す所見として網膜 虚血の深さ評価に用いられる。
BRAO の視力 予後を下表に示す5) 。
分類 初診時20/40以上 追跡時20/40以上 永久性BRAO 74% 89% 一過性BRAO 94% 100%
Q
BRAOで視力は戻るか?
A
BRAO の80%は最終的に矯正視力 0.5以上を維持する。永久性BRAO では追跡時に89%が20/40以上を保つ5) 。一過性BRAO では100%が20/40以上である。ただし黄斑部 への分枝が閉塞した場合は視力 予後が不良となる可能性がある。視野欠損 は混濁が消失した後も残存することが多い点を患者に説明する必要がある。
BRAO の原因の大多数は塞栓性である。高血圧・動脈硬化・糖尿病などの全身疾患のある高齢者に発症しやすい。内頸動脈のアテロームや心疾患によって形成された心腔内血栓が塞栓子となる。血管炎・感染症・外傷・血管れん縮なども原因となりうる。若年者では血液凝固系の異常・心疾患・先天異常・網膜血管炎 がみられることが多い。
主な塞栓の種類と由来を以下に示す。
塞栓の種類 主な由来 コレステロール/フィブリン 頸動脈・大動脈弓 石灰化塞栓 石灰化心臓弁 医原性塞栓 PTCA・血管内治療 美容フィラー ヒアルロン酸注入(顔面注入後)
PTCAによる血栓塞栓症として発症した症例2) 、神経血管内治療によるプラーク離開として発症した症例4) も報告されている。美容目的の皮膚フィラー注入(ヒアルロン酸等)による網膜 動脈閉塞が増加しており注目されている5) 。
血管攣縮 :片頭痛 、コカイン、シルデナフィル使用などが血管攣縮を引き起こし、BRAO の原因となることがある。
血管炎 :ベーチェット病 、巨細胞性動脈炎 (GCA)など。50歳以上ではGCAを積極的に鑑別する5) 。動脈炎性CRAO はCRAO 患者の約4%を占め、予後が最も不良である。GCA疑い時には頭痛・頭皮圧痛・顎跛行などの症状を確認し、赤血球沈降速度・CRP を迅速に測定する。
凝固異常 :抗リン脂質抗体症候群、血栓性素因など。若年者では血液凝固系の精査が特に重要である。
Susac症候群 :脳症・感音難聴 ・BRAO の三徴を特徴とする自己免疫疾患5) 。
薬剤性 :交感神経作動薬フェンテルミン(37.5 mg/日)との関連が報告されている1) 。
レーザーポインター傷害 :波長450〜495 nmの青色レーザーに3秒間曝露されたBRAO 症例が世界で初めて報告された3) 。
全身的なリスク因子として以下が挙げられる。
高血圧 :最も重要な修正可能リスク因子5)
脂質異常症 :患者の約60%が少なくとも1つの未診断の血管危険因子を有し、脂質異常症が最多
HDLコレステロール低値 :独立したリスク因子5)
糖尿病
喫煙
心房細動 5)
高BMI
閉塞性睡眠時無呼吸症候群
Q
薬を服用していてもBRAOになることがあるか?
A
フェンテルミン(食欲抑制薬)はノルエピネフリン再取り込み阻害作用により血管収縮・血管攣縮を引き起こし、BRAO を誘発した症例が報告されている1) 。コカイン、シルデナフィル、フィラー注入なども原因となりうる5) 。既往症や服用薬を眼科医・内科医に必ず伝えることが重要である。
BRAO の診断は眼底所見を基本とし、複数の画像検査と全身評価を組み合わせて行う。緊急性が高く、診断にかかる時間は極力短くする必要がある。
各検査で得られる主な所見を以下に示す。
検査法 主な所見 OCT 急性期: 内層高反射・肥厚→慢性期: 内層菲薄化(外層保存) FA 閉塞動脈の充盈遅延、腕網膜 循環時間30秒以上(通常12秒) ERG a波正常(視細胞 生存)・b波減弱(内層障害)→陰性型ERG OCTA 表層網膜 毛細血管の無灌流領域 (非侵襲的)
眼底鏡検査 :分枝動脈支配域の網膜 白濁、閉塞動脈の狭細化・白線化、綿花様白斑 、塞栓の可視化を確認する。血管内に血液を認めない場合もある。
OCT :急性期の内層肥厚・高反射(細胞内浮腫)から慢性期の内層菲薄化(虚血性萎縮)への移行を評価する。急性期ではPAMM (paracentral acute middle maculopathy)を認めることがある5) 。数週間で網膜 および脈絡膜 の菲薄化を呈する。外層の保存は視細胞 の生存を示す重要な所見である。
OCTA :表層網膜 毛細血管の無灌流領域 を非侵襲的に描出する1, 4) 。慢性期でも灌流欠如が持続することがある1) 。
蛍光眼底造影 (FA ) :閉塞動脈の充盈遅延・充盈欠如、血管壁の不整、フルオレセイン の漏出、網膜 内循環時間の遅延を評価する3) 。腕網膜 循環時間は通常12秒前後であるが、30秒以上に延長することが多い。
視野検査 :閉塞支配領域に対応した視野欠損 を確認する。
網膜電図 (ERG ) :a波正常・b波減弱の陰性型ERG パターンにより内層網膜 の虚血を評価する。a波正常は視細胞 の生存を示し、b波減弱は双極細胞・ミュラー細胞の障害を示す。
急性症候性RAO は脳卒中センターへの即時紹介が推奨される5) 。CRAO やBRAO 、一過性黒内障 は脳梗塞とリスク因子(動脈硬化・頸動脈病変・心房細動・弁膜症など)を共有しており、遭遇した場合には脳梗塞やその発症リスクに関する評価を速やかに行う。
頸動脈超音波 :狭窄・プラークの評価。症候性頸動脈狭窄(50〜99%)では頸動脈内膜剥離術が内科的治療より良好な転帰を示す5) 。
心エコー・心電図 :心臓塞栓源の検索、心房細動の検出。
血液検査 :赤血球沈降速度・CRP (巨細胞性動脈炎 の除外)、血算・凝固系(血液疾患の除外)。50歳以上ではGCAを積極的に鑑別する5) 。GCAが強く疑われる場合には全身ステロイド 投与を緊急に検討する5) 。
MRI/CT :無症候性脳梗塞の評価。
一方、無症状のBRAO や偶発的に発見された網膜 塞栓では、緊急の脳卒中評価を支持するエビデンスは現時点でないとされる5) 。
動脈閉塞から約100分で網膜 に不可逆的変化が始まる。CRAO は発症直後の治療が好ましいが、発症から1日以内の症例であれば積極的に治療を行うべきとされる。BRAO でも発症早期で視力 障害があるものはCRAO と同様の治療を行う。
血管拡張薬
亜硝酸アミル :0.25 mL/バイアルを破砕し、被覆に吸収させて鼻孔から吸入(血圧低下に注意・保険適用外)。
硝酸イソソルビド舌下 :血管拡張を促す。
カーボゲン吸入 :95%酸素+5%CO₂混合ガスの吸入。
薬物療法
ウロキナーゼ :初期1日量6万〜24万単位、以後は漸減し約7日間投与。脳出血・全身出血傾向に注意。
ダイアモックス 注 :500 mg 1日1回静脈注射(保険適用外)。眼圧 低下により網膜 動脈拡張を促す。
オバルモン錠 :5 μg×6錠 分3 食後(血流改善目的)。
全身評価・管理
塞栓源検索 :頸動脈超音波・心エコー・凝固系検査などを緊急施行する。
脳卒中センター紹介 :急性症候性RAO は脳卒中との関連が高く、即時紹介が推奨される5) 。
抗血小板療法 :禁忌がなければAHA脳卒中ガイドラインに準じて推奨される。
急性期には症状に応じて以下の治療が行われる。
眼球マッサージ・前房穿刺 :眼球を間欠的に圧迫し眼圧 を低下させて塞栓の末梢移動を促す。前房穿刺 (27G針で0.1〜0.4 mL除去)も眼圧 低下を目的に行われる。ただし、保存的治療(眼球マッサージ、前房穿刺 、カーボゲン)は有意な効果が証明されていない点に留意する5) 。
星状神経節ブロック :眼血流の改善を目的に施行される場合がある。
亜硝酸アミル吸入 :0.25 mL/バイアルを破砕して吸入させる。血管拡張作用により網膜 血流の改善を図る(保険適用外)。
アセタゾラミド (ダイアモックス )静注 :500 mg静注。炭酸脱水酵素阻害薬 として眼圧 を低下させ、網膜 動脈の拡張を促す(保険適用外)。
ウロキナーゼ静注 :初期1日量6万〜24万単位、以後漸減し約7日間投与する。脳出血や全身的な出血傾向に注意が必要である。
オバルモン錠(リマプロストアルファデクス) :5 μg×6錠 分3 食後。プロスタグランジンE₁誘導体であり、末梢血流改善を目的とする。
血管攣縮が原因の場合にはカルシウム拮抗薬が有効な場合がある2) 。
t-PA製剤は血栓に特異的に吸着し作用するため、効果・副作用の両面で優れており、現時点で急性期CRAO に対してはt-PA療法が最善の治療の一つとされる。アルテプラーゼ(アクチバシン®)は脳梗塞・心筋梗塞への適応を持つが、CRAO に対しては未承認である。複数施設において適応外使用の承認を経て静注療法が行われている。
CRAO の自然経過での視力 回復率は10〜20%であるが、発症早期に血栓溶解療法を行うことで40%前後まで上昇するとされる。発症4.5時間以内の静脈内(IV)tPA投与が転帰改善と関連する可能性がメタ解析で示されている5) 。
一方、EAGLEスタディ(RCT)では動脈内(IA)tPAは保存的治療と比較して視力 改善に有意差がなく、頭蓋内出血(ICH)の安全性懸念が指摘された4) 。現時点ではBRAO /CRAO に対する動脈内・静脈内の線溶療法のエビデンスは不十分とされている5) 。
高圧酸素療法は一部の小規模後方視的研究で軽度の効果が示唆されているが、Cochraneレビューではエビデンスは不確実と結論されている5) 。
新生血管 のモニタリング :閉塞後に虹彩新生血管 ・網膜 新生血管 が生じることがある。CRAO では最大20%に虹彩新生血管 が発生し、通常発症後30〜60日に出現する5) 。新生血管緑内障 (NVG )の発症に注意し、汎網膜光凝固 (PRP )が適応となる5) 。発症後4か月程度は定期的な眼科検査が重要である。
全身的管理 :全身性アテローム性動脈硬化の危険因子(高血圧、脂質異常症、肥満、閉塞性睡眠時無呼吸症候群)のコントロールが重要である。食事療法、定期的な運動、禁煙も推奨される。
BRAO の80%は最終的に矯正視力 0.5以上を維持する。永久性BRAO では追跡時に89%が20/40以上を保つ5) 。一過性BRAO では100%が20/40以上である。
CRAO の視力 転帰は不良であり、自然に視機能が回復する可能性はCRAO 患者の約18%程度にとどまる。4〜6週後に網膜 混濁は消失するが、早期治療が有効でない限り視機能は回復しない。BRAO では閉塞血管が再疎通しても視野欠損 は通常残存するが、黄斑部 の障害がなければ視力 そのものは保たれる。
治療における注意点
動脈閉塞から約100分で不可逆的変化が始まる。可能な限り早期の対応が必要である。
亜硝酸アミル吸入は血圧低下のリスクがあり、血圧モニタリング下に使用する。保険適用外である。
ウロキナーゼは脳出血・全身出血のリスクがあり、慎重な投与管理が必要である。
眼球マッサージ・前房穿刺 は発症超早期にのみ意義があり、自然経過より予後を改善するという確実なエビデンスはない5) 。
t-PA療法は現時点でBRAO に対する標準治療として確立されておらず、ICHなどの重篤な合併症リスクを伴う。
新生血管 合併症は発症後30〜60日に好発するため、定期的な眼底・眼圧 検査による経過観察を継続する必要がある。
Q
発症したらどれくらい早く受診すべきか?
A
動脈閉塞から約100分で網膜 の虚血性変化が不可逆となり始める。発症1日以内であれば積極的に治療を試みるのが一応の目安であるが、治療開始が早いほど予後が良好となる。CRAO の場合、発症100分以内であれば視力 改善率が高い。また脳卒中リスクがBRAO 患者の約25%と高いため、症状出現後は直ちに眼科・救急を受診し、神経科との連携を取ることが重要である。
網膜 動脈は網膜 内層2/3(神経線維層〜内顆粒層)を栄養する。網膜 外層にある視細胞 は脈絡膜 血管からの栄養を受けるため生存する。BRAO では閉塞した分枝の支配域のみ内層網膜 が虚血に陥り、外層は脈絡膜 から酸素・栄養を受けて保存される。ERG でa波が保たれ(視細胞 生存)、b波が減弱する(双極細胞・ミュラー細胞障害)のはこの解剖学的特性を直接反映した所見である。
短後毛様動脈の分枝である毛様網膜 動脈(cilioretinal artery)は全眼の約32%に存在し、乳頭黄斑 束付近の網膜 を栄養する。CRAO が起こっても毛様網膜 動脈が温存されれば、乳頭黄斑 束付近の網膜 機能が維持され、中心視力 が保たれることがある。
RAO の最も一般的な原因は血栓塞栓症であり、中心網膜 動脈の内腔が最も狭くなる部分、すなわち視神経 の硬膜鞘を貫通する部分で発生することが多い。塞栓は頸動脈や心臓のプラークに由来する。
Hollenhorst plaqueはコレステロール結晶からなり、頸動脈や大動脈弓の動脈硬化プラークから遊離して網膜 動脈の分岐部(bifurcation)に嵌頓する5) 。閉塞した動脈は著しく狭細化・白線化し、血管内に血液を認めない場合もある。
動脈閉塞から約100分で重篤な網膜 障害が生じる。超急性期(〜2時間)は眼底がほぼ正常に見えることがあるが、OCT では内層高反射が開始する。急性期(2時間〜数日)は網膜 白濁が明瞭化し、動脈狭細化、OCT 内層肥厚・高輝度が顕著となる。亜急性期(1〜6週)では混濁が消退し、虹彩 ・網膜 新生血管 出現の可能性がある。慢性期(6週以降)では内層菲薄化、外層まで逆行性萎縮が進み、視神経乳頭 蒼白化が生じる。慢性高血圧の状態では不可逆変化が生じるまでの時間が最大240分に延長するとの報告がある4, 2) 。
フェンテルミン :ノルエピネフリン再取り込みを阻害して交感神経系を賦活化し、血管収縮・血管攣縮を引き起こす1) 。
レーザーポインター :熱的・光化学的・光機械的傷害が血管壁障害を引き起こす3) 。
巨細胞性動脈炎 (GCA) :動脈炎性CRAO はCRAO 患者の約4%を占め、最も予後が不良である。
Sanoら(2025)は徳島赤十字病院において、発症24時間以内のCRAO 患者を対象にPGE₁の早期投与効果を後方視的に検討した6) 。PGE₁群(n=4)にはアルプロスタジルアルファデクス40 μgを250 mL生理食塩水に溶解し、125 mL/hで1日2回(80 μg/日)5日間静注し、その後リマプロストアルファデクス10 μgを1日3回(30 μg/日)1か月以上経口投与した。従来治療群(n=6)と比較して、1か月時点の最良矯正視力 (BCVA)はPGE₁群が有意に良好であった。ベースラインの最大網膜 厚(MRT)が1か月後BCVAと負の相関を示し、予後予測因子となる可能性が示唆された。有害事象は両群ともに観察されなかった6) 。
PGE₁は血管拡張作用に加え、酸化ストレス と炎症の軽減による神経保護作用を持つとされる。サンプルサイズが小さく前方視的RCTが必要であるが、既存治療の確実な有効性が示されていない中で注目される知見である。
2013年のAHA/ASA改訂定義で網膜 虚血がCNS梗塞として認定されたことにより5) 、急性RAO に対する脳卒中プロトコールの適用を支持する動きが加速している。脳卒中センターへの即時紹介と、脳梗塞に準じた全身管理の体制構築が進められている。
発症4.5時間以内のIV tPA投与が視力 回復率の向上と関連する可能性がメタ解析で報告されているが、EAGLEスタディではIA tPAの有効性は示されず安全性懸念も指摘されており4) 、IV tPAに関しても十分なRCTエビデンスが不足している5) 。
OCTA 技術の進歩により、表層網膜 の灌流欠如を発症後9年以上にわたって追跡可能となった1) 。急性期の灌流欠如パターンが長期予後の予測因子となる可能性が研究されている。
眼窩 超音波で石灰化塞栓を検出する「スポットサイン」は感度83%・特異度100%と報告されており4) 、非侵襲的な急性期診断補助として注目されている。
一部の小規模後方視的研究で効果が示唆されているが、Cochraneレビューでは非動脈炎性CRAO に対する介入全般のエビデンスは不確実と結論されている5) 。
PGE₁療法
日本発の報告 :CRAO に対しPGE₁(アルプロスタジル80 μg/日×5日)で1か月後BCVAが有意に改善6) 。
予後予測 :ベースラインMRT(最大網膜 厚)が1か月後視力 と負の相関。有害事象なし。
tPAの現状
EAGLE試験 :IA tPAは保存的治療と比較して視力 改善効果なく、ICHリスクあり4) 。
IV tPA :発症4.5時間以内で視力 回復率向上の可能性(メタ解析)だが、RCTエビデンス不十分5) 。
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