この疾患の要点
眼外傷はWHOの推定で毎年約160万人の失明原因となる重要な疾患である。
急性外傷期は周囲軟部組織の腫脹・意識障害により眼球の身体診察が困難となるため、画像診断が不可欠である。
画像診断の主なモダリティは超音波検査・UBM ・OCT ・CT・MRIであり、それぞれ適応と禁忌が異なる。
開放性眼球損傷では超音波検査は相対的禁忌であり、一次閉鎖術を先行させることが推奨される。
磁性体の眼内異物 が疑われる場合はMRI絶対禁忌であり、まずCTで評価する。
UBM は前眼部深部(虹彩 裏面・毛様体 )の描出に優れ、前眼部OCT は非接触で穿通性外傷でも施行可能である。
血腫のMRI信号は経時的に変化し、病期推定に活用できる。
眼球損傷は視覚障害の重要な原因である。WHOの推定では、眼外傷により毎年約160万人が失明し、約1,900万人が片眼失明または視力 低下をきたす。
開放性眼球損傷の推定発生率は10万人あたり3.5〜4.5であり、外傷後視力 障害の中でも迅速な初期評価が重要である1) 。
急性外傷期では、周囲軟部組織の腫脹・鎮静・意識障害により眼球の身体診察が困難となる。このため画像診断が損傷範囲の評価に重要な役割を担う。
主な画像診断技術として以下が用いられる。
超音波検査(USG) :非侵襲的で中間透光体混濁時に有用
超音波生体顕微鏡 (UBM ) :前眼部の高解像度断層像
光干渉断層計 (OCT ) :前眼部・後眼部の非接触断層像
蛍光眼底造影 (FFA)・ICG・眼底自発蛍光 :網膜 ・脈絡膜 の循環評価
単純X線 :金属異物スクリーニング
CT :眼窩 骨折・異物・眼球破裂 の評価
MRI :軟部組織の詳細描出(磁性体異物は禁忌)
Q
眼外傷の画像診断はなぜ必要なのか?
A
急性外傷期には周囲の軟部組織腫脹、鎮静、意識障害により眼球の直接診察が困難となることが多い。画像診断により損傷範囲・異物の位置・眼球構造の破綻を評価し、治療方針の決定に不可欠な情報を得ることができる。
眼痛 :前房出血 による眼圧 上昇を伴う場合は強い疼痛を生じる
視力 低下 :前房出血 ・硝子体出血 ・網膜 損傷により生じる
充血 ・流涙 :炎症・組織損傷に伴い出現する
複視 :眼窩 骨折による外眼筋 の嵌頓・麻痺で生じる
眼瞼腫脹 :眼窩 周囲への出血・浮腫により開瞼困難となることがある
異物感 :角結膜異物 ・眼表面損傷による
診察では以下の所見を系統的に確認する。
爆発外傷(ベイルート港爆発の報告)での損傷頻度は、眼表面疾患54.2%、眼瞼裂傷 41.6%、眼窩 骨折29.2%、前房出血 18.8%、開放性眼球損傷20.8%であった2) 。
外傷の種類と頻度を以下に示す。
鈍的外傷 :全眼外傷の最大97%を占める
開放性眼外傷 :鋭利な刃物・釘などによる穿孔と、ボール・拳などによる眼球破裂 に大別される
眼窩内異物 :成人では労務作業時や酩酊時、小児では箸などを持ったまま転倒した場合に多い
眼窩吹き抜け骨折 では眼球・外眼筋 ・眼窩 内容の合併損傷を伴うことがある
交通事故・鋭的外傷 では重篤な眼損傷を伴いやすい
各画像診断モダリティの主な対象と特徴を以下に示す。
モダリティ 主な対象 主な特徴・利点 USG 硝子体 ・網膜 ・脈絡膜 ・IOFB 非侵襲・安価・非電離放射線 UBM 前眼部深部(虹彩 ・毛様体 ) 高周波・深達度5mm・接触式 前眼部OCT 角膜 ・隅角 ・毛様体解離 非接触・穿通性外傷でも可 後眼部OCT 黄斑 ・網膜 ・脈絡膜 μmレベルの断層解像度 CT 眼窩 骨折・異物・眼球破裂 骨・金属異物の描出に優れる MRI 軟部組織・血腫の経時変化 電離放射線なし・磁性体禁忌
1956年にMundtとHughesがAモードを、1958年にBaumとGreenwoodがBモードを導入した。7.5〜12MHzプローブを使用し、非侵襲的・非電離放射線・安価・容易に実施可能である。
開放性眼球損傷では相対的禁忌 であり、一次閉鎖術を先行させることが強く推奨される。やむを得ず行う場合はプローブの滅菌が不可欠である。
各構造の所見は以下の通りである。
前房 :前房出血 ・隅角後退 ・毛様体解離 の検出。イマージョン法・ウォーターバルーン法で異物検出が可能
水晶体 :有無・位置・完全性を評価する。外傷性白内障 の20〜30%に硝子体 網膜 異常が合併する
硝子体 :硝子体出血 が最頻所見。動的Bモード(kinetic B-scan)でPVD と網膜剥離 の鑑別が可能
網膜 :全剥離では視神経乳頭 と鋸状縁 に付着する三角形像を呈する。Aモードで音波が垂直方向のとき100%スパイクを示す
脈絡膜 :周辺部の滑らかで厚いドーム状の膜として描出される。360度脈絡膜 剥離ではkissing choroidals(ホタテ貝様外観)を呈する
強膜 :後部強膜 破裂の間接徴候として硝子体 陥頓・PVD ・牽引索・網膜 /脈絡膜 の肥厚/剥離・上強膜 出血を認める
眼内異物 (IOFB ) :金属・ガラスは高反射率でシャドーイングを生じる。木材などの柔らかい材料は検出が困難
前房出血 が多く眼底透見不能の場合に超音波検査を行う。シリコーンオイル またはガス注入眼では良好な画像が得られない。
1990年代初頭にFosterとPavlinが開発した。高周波30〜60MHzで深達度4〜5mm・解像度50μmの高解像度断層像を作成する。
角膜浮腫 ・混濁がある状況でも虹彩 離断・隅角後退 ・毛様体解離 ・チン小帯 断裂・強膜 裂傷・異物・上皮迷入 を描出できる。CTやUSGで見落とされがちな小さく浅い非金属異物の検出・局在診断に有用である。
外傷性白内障 の術前にチン小帯 欠損を評価することで、硝子体 脱出・核落下 防止のための術前計画が立てられる。
仰臥位でオキシブプロカイン点眼麻酔後、アイカップまたはメンブレン方式(UD-8060)で施行する。
UBM
深達度 :4〜5mm。虹彩 裏面・毛様体 まで描出可能。
接触式 :検査中に接触が必要。穿通性外傷では施行に注意を要する。
角膜 混濁 :角膜 混濁の有無にかかわらず前眼部を観察できる。
前眼部OCT
非接触 :1310nm長波長光を使用。穿通性外傷でも施行可能。
解像度 :角膜 表層・隅角 の高解像度画像を取得できる。
限界 :色素組織を透過できず、虹彩 後部色素上皮より深部は画像化不能。
1310nm長波長光を使用する非接触検査であり、穿通性眼外傷 でも実施可能である。デスメ膜剥離 ・隅角 閉塞・角膜実質 内異物(深さ最大6mm)・毛様体解離 裂隙・角膜 裂傷・水晶体 脱臼を描出できる。毛様体解離 による低眼圧 で隅角鏡検査 が困難な場合の代替手段となる。
830nm短波長光を使用する。ベルリン浮腫・外傷性黄斑円孔 ・網膜 前/黄斑下出血 ・網膜剥離 ・脈絡膜破裂 ・剥離・RPE 裂孔・外傷性網膜分離症 の診断・評価に有用である。
FFA :RPE 外側血液網膜関門 の破壊によるフルオレセイン 漏出を描出する。脈絡膜破裂 に続発する脈絡膜新生血管 (CNV )の評価にも有用である。外傷後の「胡椒塩(salt-and-pepper)様」外観は網膜 機能の局所的喪失・暗点を示す
ICG :脈絡膜 血管に沿った局所的充盈遅延・渦静脈周囲の漏出を描出する。外傷性脈絡膜破裂 に続発する脈絡膜新生血管 の特定に有用である
眼底自発蛍光 :損傷RPE 領域を眼底検査 ・眼底写真単独と比較してより明確に描出できる
偽陰性・偽陽性が多く現代では役割は限定的である。ただし金属異物スクリーニングでは補助的に用いられる。異物の位置測定にはWaters法・眼窩 投影法・Comberg法が用いられる。
CTは眼窩 骨折・眼窩内異物 ・眼球破裂 の評価で中心的な検査である。冠状断を含む多断面評価により、骨折範囲、外眼筋 、眼窩 内容を確認する。
CTの主な適応と特記事項は以下の通りである。
眼球破裂 :眼球の変形・駆逐性出血 ・小眼球をCTで確認できる
穿孔性眼外傷 :問診・前眼部写真・CTによる眼内異物 画像で診断可能
眼窩 部異物刺入 :出血や空気の存在で最深到達部位が予測可能。疑う場合はまずCTを撮影する
視神経 管損傷 :骨条件での撮像を依頼する
植物・木片異物 :CT値が経時的に変化する(乾燥木片は低density、体内で湿ると上昇)
撮影面 :Reid基準線(RB line)で撮影すると視神経 〜視神経 管が1つの水平面で観察可能
3D画像 :顔面骨折では病態把握に有用
CTで金属(磁性体)を疑う異物が残存する場合はMRI禁忌となる。若年者への繰り返し撮影では被曝に注意する。ヨード造影剤によるアナフィラキシー・急性腎不全のリスクがあり、eGFR < 45 mL/min/1.73m²の患者では造影CT施行時に十分な予防策が必要である。
軟部組織の観察にCTより優れ、電離放射線を使用しない。眼窩底骨折 での脱出脂肪の検出、軟部組織ヘルニア・後方進展の描出に優れる。磁性体異物疑いでは絶対禁忌 であり、異物の移動・発熱により重症化するリスクがある。植物異物は水分含有量が少ないと描出できない時期がある。撮像時間が長く、閉所恐怖症や可用性の制限が障壁となりうる。
眼球のMRI信号特性を以下に示す。
部位 T1信号 T2信号 前房 ・硝子体 低信号 高信号 水晶体 やや高信号 低信号 網脈絡膜 やや高信号 低信号 強膜 低信号 低信号
Q
開放性眼球損傷で超音波検査は行えるか?
A
開放性眼球損傷では超音波検査は相対的禁忌である。一次閉鎖術を先行させることが強く推奨される。やむを得ず施行する場合はプローブの滅菌が不可欠であり、プローブを強く押さえないよう注意する。代替としてCT検査を選択することも推奨される。
Q
金属異物が疑われる場合にMRIは行えるか?
A
磁性体異物が疑われる場合はMRI絶対禁忌である。異物の移動や発熱により重症化するリスクがある。まずCTで異物の性状・位置を評価し、磁性体でないことが確認されてからMRIを検討する。
本疾患は「画像診断」が主題であるため、各外傷への対応において画像診断が治療方針決定にどう寄与するかを記述する。
開放性眼球損傷 :創閉鎖を第一次手術とする。CTで眼球の変形・眼内異物 を確認し、術前計画を立てる
眼内異物 (IOFB ) :USGまたはCTで位置・材質を評価する。可及的速やかに摘出することで感染と眼球内容脱出を防ぐ
眼窩内異物 :まずCTで評価し、可能な限り早急(できれば当日)に摘出する。出血や空気の分布から最深到達部位を予測できる
外傷性前房出血 :隅角鏡検査 は再出血リスクがあり受傷後1〜2週間は避ける。UBM または前眼部OCT で隅角 解離・毛様体解離 を評価する
脈絡膜破裂 :保存的経過観察。脈絡膜新生血管 の発生をFFA/ICGで評価し、中心窩 から200μm以上離れた黄斑部 の脈絡膜新生血管 にはレーザー光凝固 を検討する
外傷性視神経 障害 :早期に視機能を評価し、視神経 管損傷を疑う場合はCTの骨条件で骨片・変形を確認する。特に間接型では、ステロイド 療法や視神経 管開放術が経過観察を上回る視機能改善をもたらすかは確立していない3) 。投与法の一例として、31例の無作為化比較試験ではメチルプレドニゾロン250mgを6時間ごとに3日間静注し、その後プレドニゾロン1mg/kgを14日間内服したが、3か月後の視力 改善はプラセボ群と有意差を認めなかった4) 。治療選択肢の詳細は外傷性視神経症 を参照。
外傷性網膜剥離 :開放性では嵌頓硝子体 ゲルの牽引解除を目的とした比較的緊急性のある硝子体手術 を行う。非開放性で透見良好なら強膜 バックリング 手術を検討する
CT・MRI施行時の注意点
金属異物(磁性体)疑いではMRI絶対禁忌
ヨード造影剤によるアナフィラキシー・急性腎不全に注意する
eGFR < 60 mL/min/1.73m²の慢性腎臓病患者では造影CT施行時に注意が必要
eGFR < 30の患者でGd造影剤を使用した場合、NSF(腎性全身性線維症)のリスクがある(死亡率20〜30%)
若年者への繰り返しCT撮影では被曝量に配慮する
外力による急激な前房 内圧上昇→角膜輪部 伸展→房水 の後方・隅角 部への移動→虹彩 ・毛様体 損傷というメカニズムで前眼部損傷が生じる。眼球破裂 (鈍的)では、眼球内圧上昇と衝撃波により角膜輪部 に平行した間接的強膜 開放創が形成され、赤道部後方に多い。
脈絡膜 は伸展性に乏しく、眼球打撲による外圧で後極部(特に視神経乳頭 周囲)に円周状の破裂を生じる。外傷性視神経 障害は介達外力が視神経 管に作用し、視神経 実質内の血管原性浮腫(脳浮腫と同様の病態)をきたす。必ずしも視神経 管骨折とは関係しない。
超音波(USG)の原理 :Aモードは一方向振幅変調(1956年Mundt・Hughes)、Bモードは断層輝度表示(1958年Baum・Greenwood)。両者は相補的に使用する
UBM の原理 :高周波35〜50MHzにより深達度約5mmで高解像度断層像を取得する。角膜 から毛様体 までの前眼部構造を対象とする
OCT の原理 :低コヒーレンス干渉法を用いる。軸方向解像度3〜20μm。後眼部OCT は830nm、前眼部OCT は1310nmの光を使用する
血腫のMRI信号は以下のように変化する。
病期 時期 T1信号 T2信号 超急性期 〜1日(Oxy Hb) 等〜低信号 高信号 急性期 1〜3日(Deoxy Hb) 低信号 低信号 亜急性期 3日〜1ヶ月(Met Hb) 高信号 高信号 慢性期 1ヶ月〜(Hemosiderin) 低信号 低信号
開放性眼球損傷の一次修復時期については、早期修復と遅延修復を比較した研究が集積されている1) 。画像診断は異物、眼球形態、眼窩 骨折を術前に整理し、修復方針を決める補助情報となる。
ベイルート港爆発の報告は、爆発災害で眼表面損傷、眼瞼裂傷 、眼窩 骨折、前房出血 、開放性眼球損傷が同時多発することを示した2) 。救命処置が優先される急性期でも、系統的な眼科評価体制が必要である。
MRI矢状断は眼窩吹き抜け骨折 の後方進展を把握する補助情報となりうるが、撮像時間・環境の制約から急性期の第一選択ではない。被曝のないMRIの活用範囲は、金属異物の除外後に慎重に判断する。
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