開放性損傷
眼科医受診前の眼外傷管理
1. 眼科医受診前の眼外傷管理とは
Section titled “1. 眼科医受診前の眼外傷管理とは”眼外傷の初期評価は、多くの場合、救急医・一般内科医・プライマリケア医などの非眼科医が担う。体系的アプローチを採用することで、視機能を脅かす病態を早期に特定し、予後を最適化できる。
トリアージの基本原則は2段階である。まず生命を脅かす状態(頭蓋内損傷・気道閉塞等)を優先し、次に視機能を脅かす状態に対応する。眼科医への紹介前に適切な初期処置を行うことが視力予後に直結する。
眼外傷の疫学的特徴は以下の通りである。
- 2008年の米国統計では救急外来受診の眼損傷が約64万件(10万人あたり209件)に上る。
- 外傷の44.6%が家庭内で発生し、44.4%が打撲傷または角膜上皮剥離である。
- 発生率は小児で高く20歳代でピーク、その後加齢とともに低下する。
- 若年・男性が主なリスク因子である。
- 眼球開放性損傷の世界的な発生率は10万人あたり3.5〜4.5である。1)
眼外傷は力学的外傷と非力学的外傷に大別される。力学的外傷はさらに機械的損傷(開放性・閉鎖性)に分類される。バイタルサインのチェック(意識・呼吸・血圧・脈拍・体温)は初期評価の必須項目である。
米国では2008年に約64万件(10万人あたり209件)の救急外来受診が眼損傷によるものとされる。発生した外傷の44.6%が家庭内で起きており、打撲傷や角膜上皮剥離が全体の44.4%を占める。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
- 眼痛:眼球開放性損傷では突然の激しい疼痛が生じる。
- 視力低下・視力喪失:開放性損傷で突然生じる場合は緊急度が高い。
- 光視症・飛蚊症・視野欠損:網膜剥離を示唆する症状である。
- 複視:眼窩骨折による外眼筋絞扼で生じる。
- 流涙:異物や化学外傷で顕著となる。
初期評価で確認すべき主な臨床所見を以下に示す。
眼球開放性損傷の所見
- 瞳孔変形:虹彩脱出・嵌頓による不整瞳孔。
- 前房の深化または浅層化:前房内容の脱出や隅角破綻を示唆。
- 硝子体脱出:重篤な開放性損傷の所見。
- 低眼圧:開放性損傷の重要な示唆所見。鈍的外傷でも、低眼圧・結膜出血・浮腫・前房出血・硝子体出血があれば開放性眼外傷を疑う。
眼球閉鎖性損傷の所見
神経学的所見
- rAPD(相対的瞳孔求心路障害):スウィンギングライトテスト(交互点滅対光反射試験)で患眼が散瞳する。視神経損傷・硝子体出血・網膜剥離を示唆する重要所見。ペンライト程度の弱い光のほうが検出に優れる。
- Marcus-Gunn瞳孔:片側視神経障害の所見。
- 赤色反射の消失:網膜剥離を示唆する。
眼窩所見
- 眼窩骨折:垂直方向の眼球運動制限(下直筋絞扼)、複視、眼窩下神経領域の感覚異常。内直筋絞扼では水平方向の運動制限を生じる。偽デュアン後退症候群(内側壁骨折で外転試行時の眼球後退や眼瞼裂狭小化)も認めることがある。
- 眼窩コンパートメント症候群:眼球突出、眼筋麻痺、眼瞼周囲浮腫、硬い眼瞼が特徴的所見。
その他の重要所見
- シェーファー徴候(tobacco dust):前部硝子体内の茶色色素細胞。網膜裂孔を示唆する。
- 初診時視力5/200未満:眼球開放性損傷において最も重要な負の予後因子である。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”眼外傷の発生機転は多様であり、損傷の種類によって病態と予後が大きく異なる。
分類体系として Birmingham Eye Trauma Terminology(BETT)と Globe and Adnexal Trauma Terminology が使用される。1)
損傷部位は以下の3区域(Zone)に分類される。1)
| 区域 | 範囲 | 特徴 |
|---|---|---|
| Zone I | 角膜〜角膜縁 | 角膜に限局 |
| Zone II | 角膜縁〜強膜後方5mm | 前部強膜を含む |
| Zone III | 強膜後方5mm以降 | 後部強膜・視神経周囲 |
鈍的外傷の主な原因:スポーツ(野球・ゴルフ・ボクシング・サッカー等)、交通事故(エアバッグ)、転落、花火。
化学外傷の原因物質と機序:アルカリは脂肪酸を鹸化し液化壊死を起こし深部へ浸透する。角膜縁幹細胞に達すると治癒が著しく障害される。酸はタンパク質変性による凝固壊死でバリアを形成し、深部浸透が制限される。そのためアルカリ外傷のほうが一般に重篤になりやすい。
若年患者の眼窩骨折リスク:骨の弾力性が高い小児では外眼筋の絞扼リスクが高く、外科的緊急事態となりやすい。
一般的にアルカリのほうが重篤になりやすい。アルカリは液化壊死を生じて深部へ浸透し、角膜縁幹細胞に達すると治癒が障害される。酸は凝固壊死によるバリアで浸透が制限されるが、高濃度では同様に重篤な損傷を引き起こす。
4. 診断と検査方法(初期評価)
Section titled “4. 診断と検査方法(初期評価)”体系的な初期評価が視機能予後を左右する。
基本的視機能検査
Section titled “基本的視機能検査”- 視力測定:両眼を必ず測定する。初診時の視力5/200未満は眼球開放性損傷における最も重要な負の予後因子である。
- rAPD検査:スウィンギングライトテストを実施する。ペンライト程度の弱い光で陽性検出率が高い。
- 対座法視野検査:粗大な視野障害を簡易に確認できる。
眼圧(IOP)測定
Section titled “眼圧(IOP)測定”眼球開放性損傷が除外された場合にのみ実施する。正常値は11〜21 mmHgである。
- 高眼圧の原因:前房出血、外傷性緑内障、眼窩コンパートメント症候群。
- 低眼圧:眼球開放性損傷を強く示唆する。
前房出血の精査
Section titled “前房出血の精査”診断のために以下の検査を組み合わせる。
- 問診・視力検査・対光反応・眼圧測定・細隙灯顕微鏡検査。
- Seidel試験:フルオレセイン染色下での房水漏出確認。角膜穿孔の有無を評価。
- 超音波生体顕微鏡・前眼部OCT:隅角解離・毛様体解離・毛様体浮腫の観察が可能。ただし超音波生体顕微鏡は穿孔性眼外傷では感染・眼球圧迫の危険があり禁忌。
- 隅角鏡検査:再出血リスクがあるため受傷後1〜2週間は避ける。
- CT検査(軸位断・冠状断):眼窩骨折・眼窩内出血・直筋絞扼・異物検出に第一選択の画像診断法。金属性異物が疑われる場合はMRI禁忌。
- X線検査:眼内・眼窩内の金属検出に有用。Waters法・眼窩投影法・Comberg法が用いられる。
- 超音波検査(Bモード):眼底透見不能な場合に網膜剥離・脈絡膜出血の把握に有用。
- POCUS(ポイントオブケア超音波):閉鎖性損傷で網膜観察が困難な場合、高感度・高特異度で網膜剥離を診断できる。
その他の検査
Section titled “その他の検査”- 強制眼球運動試験(forced duction test):外眼筋絞扼の同定に用いる。上転制限があればCTで確認できなくても絞扼を疑うべきである。
- 化学外傷のpH検査:リトマス試験紙で結膜円蓋部のpHを測定する。目標値はpH 7.0〜7.4。
5. 標準的な治療法(眼科医受診前の初期管理)
Section titled “5. 標準的な治療法(眼科医受診前の初期管理)”緊急度に応じた分類と初期管理の要点を示す。
眼窩コンパートメント症候群
緊急度:超緊急(90分以内に永久的視力喪失)
処置:外眥切開(lateral canthotomy)+下外眥靭帯切断(inferior cantholysis)による緊急減圧。臨床診断で判断し、即時処置が必要。
眼球開放性損傷
緊急度:緊急(速やかに眼科紹介)
処置:眼圧を上昇させる手技の回避。アイシールドで保護(眼球への圧迫不可)。異物除去は延期。制吐薬・鎮痛薬投与、NPO、頭側30度挙上。ミダゾラムは眼圧を上昇させずに鎮静可能。広域抗菌薬投与と破傷風免疫の確認。
化学外傷
緊急度:準緊急(直ちに洗眼開始)
処置:来院前から流水500mL以上の洗眼を指示。来院後は等張生理食塩水または乳酸リンゲル液でpH 7.0〜7.4になるまで持続洗浄。眼瞼痙攣時はモーガンレンズを使用。円蓋部の残存異物がpH安定を妨げることがあるため除去が必要。
前房出血
緊急度:準緊急(眼科的評価が必要)
処置:ベッド頭側30〜45度挙上、アイシールド装着、安静。NSAIDs・アスピリンは血小板抑制作用により出血増加のリスクがあるため回避。抗凝固療法中止のリスク・ベネフィットは内科医と協議する。
眼窩骨折の管理
Section titled “眼窩骨折の管理”急性期の管理と手術適応は以下の通りである。
- 急性期保存的管理:鼻をかむことの禁止(眼窩気腫予防)。ステロイドで眼窩浮腫を軽減。副鼻腔疾患が顕著な場合は眼窩蜂窩織炎予防に抗菌薬を使用。
- 手術適応:以下のいずれかを満たす場合。
- 眼窩底骨折時の嘔吐や徐脈では他科との連携が必要な場合がある。
外傷性前房出血の薬物療法(日本の処方)
Section titled “外傷性前房出血の薬物療法(日本の処方)”日本では安静により自然吸収を待つことが基本方針である。小児や前房出血のニボーが1/3〜1/2を超える場合は入院が望ましい。
| 薬剤 | 用法 |
|---|---|
| アトロピン点眼液(1%) | 1日1回就寝前 |
| リンデロン点眼液(0.1%) | 1日4回 |
| アドナ錠(30mg) | 3錠 分3 毎食後 |
| チモブトール点眼液(0.5%)※ | 1日2回(眼圧上昇時) |
眼瞼裂傷の管理
Section titled “眼瞼裂傷の管理”- 眼科紹介が必要な場合:全層裂傷、眼窩脂肪脱出、眼瞼縁・涙道系関与、剥脱を伴う外傷。
- 内眼角の裂傷:涙小管断裂が疑われる場合は縫合せず早期手術を依頼する。
- 表在性裂傷(25%以内):6-0シルクまたはプレインガット縫合糸で再接合可能。眼瞼裂創は6-0ナイロン糸で端々縫合する。修復は受傷後12〜36時間以内が最適。
- 犬咬傷:大量洗浄、壊死組織デブリドマン、好気性・嫌気性菌カバーの抗菌薬、狂犬病・破傷風の曝露後予防が必要。
外傷性視神経症の管理
Section titled “外傷性視神経症の管理”診断は受傷後24〜48時間以内に行う。治療選択肢の有効性については議論がある。
- ステロイドパルス療法:プレドニン換算1,000mg×2〜3日、または大量ステロイド(プレドニゾロン換算80〜100mg)+高張浸透圧薬(グリセオール・D-マンニトール 300〜500mL)3〜7日間。
- 高用量ステロイド禁忌:頭蓋内出血を伴う患者では禁忌。
- 視神経管開放術:適応には異論が多く、視神経管の著明な変形や骨片変位の症例を除き有用性は不明確。
- 受傷後に光覚弁消失が短時間で回復しないものは治療に反応しにくい。
網膜剥離の管理
Section titled “網膜剥離の管理”直ちに眼科医へ紹介する。
- 開放性眼外傷に伴う網膜剥離:硝子体手術が第一義的治療。
- 非開放性眼外傷で透見性良好な場合:強膜バックリング手術を考慮する。
眼窩は閉鎖空間であり、急性出血や軟部組織腫脹により眼窩内圧・眼圧が急速に上昇する。これが視神経の動脈灌流圧を超えると、90分以内に永久的な視力喪失に至る。外眥切開+下外眥靭帯切断による緊急減圧が唯一の有効な対処法である。
アスピリンやNSAIDsは血小板の機能を抑制し、再出血のリスクを高める。前房出血の急性期には必ずこれらの薬剤を避け、鎮痛が必要な場合はアセトアミノフェンを選択する。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”化学外傷の機序
Section titled “化学外傷の機序”アルカリは脂肪酸を鹸化して液化壊死を起こし、角膜深部へ浸透する。角膜縁幹細胞に達すると上皮再生が障害される。酸はタンパク質変性による凝固壊死でバリアを形成し、深部浸透を自己制限する。
前房出血の機序
Section titled “前房出血の機序”眼球打撲により前後方向の圧縮と赤道方向の伸展が生じ、「外傷の7つの輪」を損傷する。鈍的外力が前房内圧を上昇させ、角膜輪部が伸展されると房水が後方・隅角部へ移動し、虹彩・毛様体の血管が損傷して出血する。
眼窩コンパートメント症候群の機序
Section titled “眼窩コンパートメント症候群の機序”閉鎖空間である眼窩内の急性出血・軟部組織腫脹により眼窩内圧・眼圧が急速に上昇する。これが視神経の動脈灌流圧を超えると、90分以内に永久的な視力喪失に至る。
眼窩骨折の機序
Section titled “眼窩骨折の機序”2つの機序が複合する。バックリング説は力が骨を介して伝達され骨壁が破綻するという機序であり、ハイドロリック説は力が眼球を介して伝達され眼内圧上昇により骨壁が破綻するという機序である。若年患者は骨の弾力性が高く眼窩壁が割れにくいため、開放骨折より外眼筋の絞扼(グリーンスティック骨折型)が生じやすい。
網膜剥離の機序
Section titled “網膜剥離の機序”眼球打撲により圧縮→前後方向リバウンド減圧が生じ、硝子体が網膜を牽引して裂孔が形成される。外傷は硝子体を液化させ、液化硝子体が網膜裂孔から網膜下に貯留して剥離に至る。開放性眼外傷では直接的な網膜裂隙、または嵌頓硝子体ゲルによる二次的牽引が主な機序である。非開放性眼外傷では鈍的圧力による硝子体基底部の大きな網膜裂孔が特徴的である。
外傷性視神経症の機序
Section titled “外傷性視神経症の機序”直接的外傷性視神経症(稀):穿通物体が視神経を直接損傷する。間接的外傷性視神経症:鈍的外傷による視神経管変形→視神経の剪断→腫脹→神経血管束圧迫→虚血悪化という経過をたどる。
外傷後のネオアンチゲン曝露により両眼性肉芽腫性ぶどう膜炎を発症する稀だが重篤な合併症である。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”一次修復のタイミングと眼内炎リスク
Section titled “一次修復のタイミングと眼内炎リスク”McMasterら(2025)は16研究・10,874眼を対象としたシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。1) 24時間以内の一次修復は24時間以降と比較して眼内炎リスクを低下させることが示された。特に穿通性損傷・眼内異物(IOFB)損傷でエビデンスが強い。視力予後については研究間の異質性が高くエビデンスレベルは「very low」に格下げされた。IOFB除去タイミングの眼内炎率への影響については、4研究・2,216例を解析したが1研究のみが有意な関連を報告した。
大規模災害における眼外傷対応
Section titled “大規模災害における眼外傷対応”Kheirら(2021)はベイルート港爆発事故における39患者48眼の眼外傷を報告した。2) 破片(shrapnel)ベースの損傷が主体で、53.8%が手術介入を要した。最終の最高矯正視力が20/200未満の症例が14.5%(7眼)に達し、光覚なしの4眼は全例が眼球摘出または内容除去術を要した。大規模災害における包括的な眼外傷対応戦略の重要性を強調している。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- David McMaster, James Bapty, Lana Bush, Giuseppe Serra, Theo Kempapidis, Scott F. McClellan, Fasika A. Woreta, Grant A. Justin, et al. Early versus Delayed Timing of Primary Repair after Open-Globe Injury. Ophthalmology. 2025;132(4):431-441. doi:10.1016/j.ophtha.2024.08.030.
- Wajiha Jurdi Kheir, Shady T. Awwad, Alaa Bou Ghannam, Ali A. Khalil, Perla Ibrahim, Elza Rachid, Nasrine Anais El Salloukh, Madeleine Yehia, et al. Ophthalmic Injuries After the Port of Beirut Blast—One of Largest Nonnuclear Explosions in History. JAMA Ophthalmol. 2021;139(9):937. doi:10.1001/jamaophthalmol.2021.2742.