乳幼児期(0〜3歳)
子どもの視力低下に気づくためのサイン(Signs of Vision Problems in Children)
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 子どもの視力低下に気づくためのサインとは
Section titled “1. 子どもの視力低下に気づくためのサインとは”乳幼児は視覚の発達期にあるが、発達に問題があっても本人に自覚はなく、高度の視覚障害でもなければ家族も気がつかないことが多い。乳児の斜視を例にとると、「いずれ治る」といった言い伝えもあり、受診が遅れることがある。こうした受診の遅れを予防するために、乳幼児健診は重要な意義をもつ。
視機能は3〜4歳までにおおよそ成人値に近い状態に達する。この時期に発見された弱視(特に外見でわからない屈折異常弱視や不同視弱視)は治療によく反応し、就学までに正常視力に達する可能性が高い。
弱視の有病率は約1〜5%と報告されている1)。早期発見・治療が視力予後を大きく左右するため、保護者・養育者・学校関係者が視力問題のサインを理解しておくことが重要である。
年齢別の視力低下の疫学
Section titled “年齢別の視力低下の疫学”裸眼視力が1.0未満の者の割合は増加傾向にある。中学校・高等学校では「裸眼視力1.0未満の者」が最も高い罹患率となっている(学校保健統計、平成26年度)。
| 学校種別 | 裸眼視力1.0未満 | 裸眼視力0.3未満 |
|---|---|---|
| 幼稚園 | 26.53% | 0.97% |
| 小学校 | 30.16% | 8.14% |
| 中学校 | 53.04% | 24.97% |
| 高等学校 | 62.89% | 35.84% |
幼稚園での視力検査実施率は48.3%と50%以下にとどまっており(日本眼科医会、平成20年調査)、幼稚園段階での視力異常の拾い上げが十分でない現状がある。
小学校で約30%、中学校で約53%が裸眼視力1.0未満である(学校保健統計)。弱視は約1〜5%に認められ1)、視力矯正では改善できない視力不良として早期発見が特に重要である。三歳児健診や学校健診の受診率を高めることが視力問題の早期発見につながる。
2. 年齢別・場面別の気づきのサイン
Section titled “2. 年齢別・場面別の気づきのサイン”
幼児期(3〜6歳)
学童期(6歳〜)
テレビに近づく・片目をつぶる・頭を傾けるなどの行動サインを日常的に観察する。三歳児健診および学校健診の結果(A〜D判定)にも注意し、B〜D判定の場合は早期に眼科を受診する。特に、瞳孔の白色化・急激な視力低下・眼のずれは緊急性が高い可能性があるため即日受診が望ましい。不同視弱視は外見ではわからず健診でも見落とされやすいため、片眼ずつの視力確認が重要である。
3. 弱視の基礎知識と早期発見の重要性
Section titled “3. 弱視の基礎知識と早期発見の重要性”弱視(amblyopia)とは、眼に器質的疾患がないにもかかわらず、矯正視力が不良の状態をいう。視覚の感受性期に適切な視覚刺激が与えられないことで視皮質の発達が障害される。
弱視の原因別分類
Section titled “弱視の原因別分類”| 弱視の型 | 主な原因 | 特徴 |
|---|---|---|
| 屈折異常弱視 | 両眼性の高度遠視・強度近視・乱視 | 完全矯正眼鏡が治療の中心 |
| 不同視弱視 | 左右眼の屈折値差(遠視差1D程度でも発症) | 外見では気づきにくく健診で見落とされやすい |
| 斜視弱視 | 斜視眼の中心窩抑制 | 偏心固視を伴うことが多い |
| 形態覚遮断弱視 | 先天白内障・眼瞼下垂などによる視路遮断 | 片眼性は特に重篤。早期手術が必須 |
| 微小斜視弱視 | 10Δ以下の小角度斜視 | 見逃されやすく注意が必要 |
弱視のリスク因子として、未熟児・発達遅滞・1親等以内の弱視家族歴がある場合はリスクが高い。
早期発見が重要な理由
Section titled “早期発見が重要な理由”視機能の感受性期(生後〜6〜8歳頃)に治療を開始しないと弱視が固定し、回復が困難になる。3〜4歳での発見・治療開始で就学までに正常視力に達する可能性が高い。一方、不同視弱視は外見からわからず、学校健診でも片眼ずつ検査しないと見落とされやすい点に注意が必要である。
心因性視覚障害との鑑別
Section titled “心因性視覚障害との鑑別”心理的ストレスにより一時的な視力障害が生じることがある(心因性視覚障害)。視力は中等度の低下が多く、「黒板の字が見えない」「教科書が読めない」と訴えるが、眼に器質的異常は認められない。Goldmann動的視野検査でらせん状視野や管状視野がみられるのが特徴であり、弱視との鑑別が重要である。
視機能の感受性期(小学校低学年頃まで)に治療を開始すれば、正常視力に達する可能性が高い。3〜4歳での発見が理想的で、就学前に治療を開始した場合の予後が最も良好である。感受性期を過ぎると回復困難になるため、三歳児健診・学校健診での早期発見と、B〜D判定後の速やかな眼科受診が重要である。
4. 健診制度と検査のしくみ
Section titled “4. 健診制度と検査のしくみ”
平成3年より三歳児健診に視聴覚健診事業が加えられた。3歳児は言葉でのコミュニケーションが可能で、視力を自覚的に答えられる年齢となっている。視機能の異常の発見にきわめて大きな意義がある。
三歳児健診の視覚検査の流れ:
- 一次検査(家庭):絵視力表などの視力検査キットを使用。保護者が自宅で実施する
- 二次検査(健診会場):問診・精密検査(視力・眼位・眼底)
近年、フォトスクリーナー(Spot Vision Screener等)の導入が進み、屈折異常・斜視の検出精度が向上している2)。自治体によって導入状況は異なるが、乳幼児健診への普及が期待されている。
学校健診の視力判定(3・7・0方式)
Section titled “学校健診の視力判定(3・7・0方式)”学校健診では3・7・0方式(0.3、0.7、1.0の3視標)による視力検査が行われる。0.7は「教室のどこからでも黒板の字が一応見える最低視力」であり、0.3は「教室の最前列でもこれ以下では黒板の字が見にくい」とされている。
| 判定 | 視力区分 | 意味・対応 |
|---|---|---|
| A | 1.0以上 | 健常視力 |
| B | 0.9〜0.7 | 眼科受診を推奨 |
| C | 0.6〜0.3 | 眼科受診・指示に従うよう指導 |
| D | 0.3未満 | 同上(早急な受診が必要) |
学校健診ではさらに、眼位・眼球運動検査が行われる。遮閉試験・遮閉-遮閉除去試験・輻湊検査により斜視・斜位の疑いを評価し、受診を勧奨する。色覚検査は必須項目ではないが、本人・保護者の同意のもとで実施可能である。
5. 受診後の流れと治療
Section titled “5. 受診後の流れと治療”眼科受診の流れ
Section titled “眼科受診の流れ”眼科では以下の検査が行われる:
- 裸眼視力・矯正視力の測定(片眼ずつ)
- 屈折検査(他覚的屈折測定)
- 眼位検査(遮閉試験など)
- 眼底検査
弱視が疑われる場合は、アトロピンまたはシクロペントラートによる調節麻痺下屈折検査が必須となる。調節麻痺により小児の過剰調節(仮性近視・調節性遠視)の影響を除外し、真の屈折値を測定できる。
完全矯正眼鏡の常用がすべての弱視治療の基本である。屈折異常弱視は眼鏡矯正のみで改善する例が多い。
**健眼遮閉(アイパッチ)**は弱視眼を強制使用する治療法で、弱視の重症度・年齢に応じて遮閉時間を設定する:
**アトロピン点眼(ペナリゼーション)**は健眼に0.5〜1%アトロピンを点眼して近見視力を低下させる方法で、眼鏡遮閉に準じる効果を示す。
屈折異常への対応
Section titled “屈折異常への対応”小児の屈折矯正は原則として眼鏡が第一選択である。コンタクトレンズ使用率は小学生0.2%・中学生6.4%・高校生26.6%(平成21年調査)と増加傾向にあるが、安全性の高い酸素透過性ハードレンズまたは1日使い捨てソフトレンズが推奨される。
6. 子どもの視力発達のメカニズム
Section titled “6. 子どもの視力発達のメカニズム”視機能発達と感受性期
Section titled “視機能発達と感受性期”視機能は生後急速に発達し、3〜4歳までにほぼ成人値に近い水準に達する。この発達が著しい時期を感受性期(critical period:生後〜6〜8歳頃)と呼ぶ。感受性期に適切な視覚刺激が与えられないと、視皮質(第一次視覚野V1)の発達が障害され、矯正視力不良(弱視)が固定する。
弱視の発症機序:視覚刺激不足または不均等な視覚入力 → 視皮質(V1)のシナプス形成・可塑性の障害 → 矯正視力の不良(弱視)
屈折の発達と近視化
Section titled “屈折の発達と近視化”乳幼児は正常で+2〜+3D程度の遠視(生理的遠視)を有する。成長に伴い眼軸延長により遠視が減少していく(正視化:emmetropization)。この正視化が過剰に進行すると近視となる。近業の増加や屋外活動不足が近視の進行を加速させることが知られている4)。
学童期以降、近視は進行しやすい時期にある。定期的な眼科受診で屈折の変化を把握し、必要に応じて眼鏡処方の更新・近視進行抑制治療を検討することが重要である。
7. 近視進行抑制と最新の知見
Section titled “7. 近視進行抑制と最新の知見”近視は世界的に急増しており、2050年までに世界人口の約50%が近視になるとの予測がある5)。高度近視(−6D以上)では網膜変性・緑内障・網膜剥離のリスクが増大するため、小児期からの進行抑制が重要な課題となっている。
屋外活動の推奨:1日2時間以上の屋外活動が近視の発症・進行を抑制するRCTデータがある4)。自然光に含まれる高照度・高色温度の光刺激がドーパミン分泌を促し眼軸延長を抑制すると考えられている。
低濃度アトロピン点眼:0.01〜0.05%の低濃度アトロピン点眼が近視進行を約50〜60%抑制するとするRCTデータがある。LAMP studyでは0.05%アトロピンが0.025%・0.01%より有効であることが示された6)。散瞳・羞明などの副作用は低濃度では軽微である。
オルソケラトロジー:夜間就寝中に特殊設計のハードコンタクトレンズを装用し、角膜形状を矯正して日中の裸眼視力を確保する治療法である。ROMIO studyでは2年間の近視進行抑制効果が確認された7)。微生物角膜炎のリスクがあるため定期的な眼科検査が必須となる。
多焦点ソフトコンタクトレンズ:近視進行抑制のエビデンスが蓄積されており、3年間のRCTで有意な抑制効果が報告されている8)。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Multi-ethnic Pediatric Eye Disease Study Group. Prevalence of amblyopia and strabismus in African American and Hispanic children ages 6 to 72 months. Ophthalmology. 2008;115(7):1229-1236.
- Arnold RW. Amblyopia risk factor prevalence. J Pediatr Ophthalmol Strabismus. 2013;50(4):213-217.
- Pediatric Eye Disease Investigator Group. A randomized trial of atropine vs patching for treatment of moderate amblyopia in children. Arch Ophthalmol. 2002;120(3):268-278.
- He M, Xiang F, Zeng Y, et al. Effect of time spent outdoors at school on the development of myopia among children in China: a randomized clinical trial. JAMA. 2015;314(11):1142-1148.
- Holden BA, Fricke TR, Wilson DA, et al. Global prevalence of myopia and high myopia and temporal trends from 2000 through 2050. Ophthalmology. 2016;123(5):1036-1042.
- Yam JC, Jiang Y, Tang SM, et al. Low-concentration atropine for myopia progression (LAMP) study: a randomized, double-blinded, placebo-controlled trial of 0.05%, 0.025%, and 0.01% atropine eye drops in myopia control. Ophthalmology. 2019;126(1):113-124.
- Cho P, Cheung SW. Retardation of myopia in Orthokeratology (ROMIO) study: a 2-year randomized clinical trial. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2012;53(11):7077-7085.
- Chamberlain P, Peixoto-de-Matos SC, Logan NS, et al. A 3-year randomized clinical trial of MiSight lenses for myopia control. Optom Vis Sci. 2019;96(8):556-567.