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緑内障

線維柱帯切開術・低侵襲緑内障手術(MIGS)

1. 線維柱帯切開術・低侵襲緑内障手術(MIGS)とは

Section titled “1. 線維柱帯切開術・低侵襲緑内障手術(MIGS)とは”

線維柱帯切開術トラベクロトミー)は、房水流出路のなかで流出抵抗が最も高い傍Schlemm管内皮組織を切開し、房水流出障害を改善させ眼圧下降を得る手術である。濾過手術線維柱帯切除術)と比較して術中・術後の合併症が少ない一方、眼圧下降効果では濾過手術に劣る。

従来の線維柱帯切開術結膜切開・強膜弁作製を要する眼外法(ab externo)であった。近年、低侵襲緑内障手術(minimally invasive glaucoma surgery: MIGS)と呼ばれる低侵襲な手技が臨床に導入され、線維柱帯切除術の適応より早期を対象として行われるようになった1)MIGSはab interno(眼内側)から行う非ブレブ形成手技群であり、正常な解剖・生理への侵襲を最小限に抑える3)

MIGSの定義的特徴は以下の5項目に集約される3)

  1. 高い安全性: 低眼圧脈絡膜剥離などの重篤合併症リスクが低い
  2. 正常解剖への最小侵襲: 生理的流出機構を強化する
  3. Ab internoアプローチ: 角膜切開創から眼内側で施行する
  4. 有効性: 少なくとも20%の眼圧下降または1剤の薬剤減量を達成する
  5. 迅速な回復: 追加のダウンタイムが最小限である

緑内障手術の中での位置づけとして、房水流出路再建術(線維柱帯切開術MIGS)は、薬物治療やレーザー治療で十分な眼圧下降が得られない症例に適応される1)。主な対象病型は原発開放隅角緑内障正常眼圧緑内障落屑緑内障ステロイド緑内障発達緑内障(小児緑内障)である。落屑緑内障ステロイド緑内障では原発開放隅角緑内障よりも高い眼圧下降効果が得られる。

緑内障治療は薬物治療(第1選択)→レーザー治療SLT等)→観血的手術の順に段階的に行われる1)。観血的手術のうち、線維柱帯切除術が最も広く行われる濾過手術であるが、流出路再建術(線維柱帯切開術MIGS)は線維柱帯切除術の適応よりも早期に介入できる点が大きな利点である1)。進行した緑内障や目標眼圧が低い症例では、依然として線維柱帯切除術チューブシャント手術が必要となる。

結膜下にブレブを形成するデバイス(XEN Gel Stent、PreserFlo MicroShuntなど)は安全性・有効性プロファイルが異なるため、MIGSではなくMIBS(minimally invasive bleb surgery)に分類される3)

白内障手術併用眼内ドレーンの承認経緯は以下のとおりである2)

  • iStent(チタン製、ヘパリンコーティング): 2016年承認。右眼用・左眼用あり。ディスポーザルのインサーターにセットされている
  • iStent inject W(チタン製): 2019年10月31日承認。弾丸状ステント2個を1眼に留置。左右眼の区別はない。2024年7月11日より単独手術でも使用承認
  • Hydrus(ニチノール製、三日月型): 2024年6月6日承認。ステント1個をデリバリーシステムで装填。左右眼の区別はない

従来、初期〜中期の開放隅角緑内障に対する白内障手術との同時手術としてはトラベクロトーム(金属プローブ)を用いた眼外法が行われてきた2)。しかし眼外法では結膜を切開する必要があり、追加で線維柱帯切除術などの濾過手術が必要になった場合に結膜の瘢痕が手術の支障になることが多かった2)。この問題を解決するため、隅角鏡で観察しながら前房側から行う流出路再建術(ナイロン糸、ハンドピース、フック、ブレード等)が開発され、結膜に手術瘢痕を作らず手術可能となった2)

欧州連合では2004年にiStent、2010年にiStent inject W、2011年にHydrusが承認されており、米国FDAでは2012年にiStent、2018年にiStent inject WとHydrusが承認されている2)

Q MIGSと従来の緑内障手術はどう違いますか?
A

MIGSは眼の内側(ab interno)から小さな切開で行うため、回復が早く合併症リスクが低いのが特徴です。一方、線維柱帯切除術などの従来手術は眼圧をより大きく下げられますが、低眼圧や感染などの重篤な合併症リスクがあります。MIGSは軽度〜中等度の緑内障に適しており、結膜を温存するため将来の濾過手術の成功率を損ないません。進行した緑内障で低い目標眼圧が必要な場合は従来手術が選択されます。担当医と相談してください。

マイクロ鉗子によるTM剥離・GATT縫合糸挿入・blanching効果・トリパンブルー染色の術中4段階
マイクロ鉗子によるTM剥離・GATT縫合糸挿入・blanching効果・トリパンブルー染色の術中4段階
Rao A, Mukherjee S. Intraoperative predictors for clinical outcomes after microinvasive glaucoma surgery. PLoS One. 2023;18(11):e0293212. Figure 1. PMCID: PMC10635545. License: CC BY 4.0.
AはマイクロMIGS線維柱帯帯状切除)でマイクロ鉗子が線維柱帯を剥離する工程、BはGATT(隅角鏡補助下経管腔的線維柱帯切開術)でProlene縫合糸をSchlemm管に通す工程、CはSchlemm管開放後の集合管blanching効果、Dはトリパンブルーによる線維柱帯染色を示す。本文「術式の分類と手技」の項で扱うGATT・眼内法における前房角操作の個別ステップに対応する。

緑内障手術は濾過手術房水流出路再建術、瞳孔ブロック解消手術、毛様体破壊術の4つに大別される1)房水流出路再建術に含まれる術式は、アプローチと使用器具により以下の3群に分類される。

  1. 線維柱帯切開術(眼外法): トラベクロトームをSchlemm管に挿入し前房内へ回旋する従来法
  2. 線維柱帯切開術(眼内法): 隅角鏡直視下でマイクロフック・KDB・Trabectome・縫合糸などにより線維柱帯を切開するMIGS
  3. 白内障手術併用眼内ドレーン: iStent inject W・HydrusをSchlemm管に留置するステント型MIGS

眼外法(トラベクロトーム)

アプローチ: ab externo(結膜切開・強膜弁作製)

手技: ピロカルピン点眼で縮瞳後、輪部結膜を切開し強膜を露出する。4mm強膜弁を作製し、Schlemm管を同定・外壁切開する。U字型金属プローブ(トラベクロトーム、曲率直径13〜17mm)をSchlemm管に挿入し、回旋させてSchlemm管内壁と線維柱帯を切開する。10-0ナイロン糸で強膜弁・結膜を縫合する。

特徴: 二重強膜弁法を用いる施設もある。白内障手術との同時施行で成績が改善する。結膜切開が必要なため、将来の濾過手術に影響しうる。

眼内法(MIGS流出路再建術)

アプローチ: ab interno(角膜小切開、結膜温存)

手技: 白内障手術後に粘弾性物質を注入する。患者の顔を術者と反対方向に35°傾け、顕微鏡を35°傾ける。隅角鏡下に線維柱帯を確認し、マイクロフック(μフック)またはKDB等を前房内に挿入する。強膜岬を指標として線維柱帯を約120°切開する。Schlemm管からの逆流血をI/Aで除去し、前房を形成して終了する。

特徴: 結膜に手術瘢痕を作らず、濾過手術を温存できる。直視下操作のため確実性・安全性が高い1)

眼内ドレーン(ステント型MIGS)

アプローチ: ab interno(角膜切開、結膜温存)

手技(iStent inject W): 角膜切開創からインサーターを挿入し、線維柱帯にトロカールを押しつけ、リリースボタンで弾丸状チタン製ステント2個を切り離す。逆流性出血を確認する2)

手技(Hydrus: ニチノール製8mm三日月型デバイスをデリバリーシステムでSchlemm管内に約90°にわたり留置する。Schlemm管を4〜5倍に拡張する足場として機能する9)

特徴: 白内障手術との併用が原則だが、iStent inject Wは2024年7月より単独手術も承認された2)

術式使用器具切開/留置範囲結膜温存白内障同時施行
眼外法トラベクロトミートラベクロトーム(金属プローブ)約120°不可
マイクロフック(μフック/TMH)谷戸氏ab internoマイクロフック約120°通常必要
KDB(Kahook Dual Blade)二連刃ブレード3〜5時間分可(単独も可)
Trabectome高周波電極ハンドピース最大180°可(単独も可)
GATTカテーテル/縫合糸最大360°可(単独も可)
OMNI可撓性マイクロカテーテル360°(粘弾性拡張+切開)
ABiC(ab interno canaloplasty)iTrackマイクロカテーテル360°粘弾性拡張
iStent inject Wチタン製弾丸状ステント×22箇所留置原則同時/単独可
Hydrusニチノール製三日月型Schlemm管90°原則同時

高周波電極でSchlemm管内壁と線維柱帯組織を電気焼灼して切開する術式である(2004年FDA承認)。灌流・吸引を内蔵したハンドピースを1.6mm角膜切開創から挿入する。フットプレートで隣接組織を保護しながら、0.8mWから出力を開始し、最大180°の線維柱帯を処理する。外壁への熱伝導は約1.2℃と最小限に抑えられている。粘弾性物質は不使用。術後成績は線維柱帯切開術と同等であり、白内障手術との同時施行で成績が改善する。メタアナリシス(5,091患者)では、2年成功率は単独46%、CE-IOL併用85%であった4)前房出血は最大100%で生じるが、多くは術後数日で消退する5)

GATT(隅角鏡補助下経管腔的線維柱帯切開術)

Section titled “GATT(隅角鏡補助下経管腔的線維柱帯切開術)”

マイクロカテーテルまたはProlene縫合糸をSchlemm管に挿入し、全周(360°)にわたり線維柱帯を切開する術式である。2014年にFellmanとGroverにより報告された。縫合糸を用いれば低コストで実施可能である。

手技は、まず隅角切開によりSchlemm管を開放し、カテーテルまたは縫合糸をSchlemm管内に挿入して全周を通過させる。その後、求心的に牽引して線維柱帯を切開する。術後は眼圧30mmHg以上に維持する管理が求められる。

メタアナリシス(537眼)では、平均眼圧低下9.81mmHg、薬剤1.67剤減少を示した4)。合併症は前房出血12.5〜80.6%、眼圧スパイク1.9〜32.3%、一過性低眼圧4.5〜6.5%であった4)毛様体脈絡膜剥離が前眼部OCTで47.7%に検出されるが、多くは無症候性で自然消退する4)

180°処置(ヘミGATT)と360°処置の比較では、120〜180°で用量反応閾値に達するとされ、残りの範囲を将来の再介入に温存できるという利点がある。下方セグメントの方が流出路活性が高い傾向にある。

可撓性マイクロカテーテルを180°ずつ2回挿入し、粘弾性物質によるSchlemm管拡張(viscodilation)と線維柱帯切開を1デバイスで行う。GEMINI Studyでは1年時に84.2%が20%以上の眼圧下降を達成した4)

iTrackマイクロカテーテルを用いてSchlemm管と集合管を360°にわたり粘弾性物質で拡張する手技である。線維柱帯の切開は行わず、管腔の病的変化(虚脱)を改善する4)

Q どの術式を選べばよいですか?
A

術式の選択は緑内障の病型・重症度、白内障手術の同時施行の有無、術者の経験により異なります。メタアナリシスでは線維柱帯切開・切除術(KDB、GATTなど)がステント型(iStent等)よりも眼圧下降・薬剤減少に優れるとされますが5)、安全性プロファイルも術式ごとに異なります。落屑緑内障ステロイド緑内障では流出路再建術の成績が特に良好です。担当の眼科専門医と相談のうえ、最適な術式を選択してください。

緑内障の手術治療は眼圧下降のために行う1)。薬物治療やレーザー治療によっても十分な眼圧下降が得られない症例や、薬物による副作用やアドヒアランスが不良で眼圧下降が得られないと予想される症例が適応となる1)

流出路再建術(線維柱帯切開術MIGS)は、線維柱帯切除術より早期の適応として行われるようになっている1)

白内障手術併用眼内ドレーンの選択基準2)

Section titled “白内障手術併用眼内ドレーンの選択基準2)”

白内障同時手術の場合:

除外基準:

  • 水晶体振盪またはZinn小帯断裂を合併
  • 認知症等で術後隅角鏡検査の協力が困難
  • 小児
  • 角膜内皮細胞密度1,500個/mm²未満
  • ステント材質へのアレルギー

iStent inject W単独手術の適応(2024年7月承認)2):

術式の選択は個々の患者に合わせて行う必要がある7)。以下の要因を総合的に判断する。

  • 目標眼圧: mid-teens程度で許容できるか、あるいはlow-teens以下が必要か。後者には濾過手術が必要
  • 病期と進行速度: 初期〜中期が主な適応。進行期では不十分な可能性がある
  • 緑内障の病型: 落屑緑内障ステロイド緑内障では流出路再建術の成績が特に良好
  • 結膜温存の必要性: 将来の濾過手術を温存したい場合、結膜を切開しない眼内法・ステント型が有利
  • 白内障の有無: 白内障合併例では同時施行が標準的であり、眼内ドレーンの使用が可能
  • 術者の経験: 十分な隅角手術の経験が必要であり、安易に行うことは厳に慎むべきとされる1)
  • 前房出血への許容度: iStentはブレードを用いた術式より前房出血が少ないとの報告があり、術後の前房出血を避けたい症例では眼内ドレーンが選択肢となりうる2)
  • 閉塞隅角緑内障: 隅角が閉塞しており流出路再建術の対象にならない(ただし近年は適応拡大の動きがある3)
  • 強膜静脈圧上昇疾患(Sturge-Weber症候群など): 線維柱帯MIGSの効果が上強膜静脈圧で制限されるため禁忌
  • 隅角に先天異常のある緑内障: 隅角構造が不明瞭でステント留置の安全性が担保できない
  • 血管新生緑内障: 線維柱帯への新生血管が流出路再建の効果を阻害し、奏効率が低い

水晶体再建術を100件以上経験し、かつ観血的緑内障手術を10件以上経験のある医師で、各社の講習会を受講した医師が施行する2)

Q 白内障手術と同時に受けられますか?
A

多くのMIGS白内障手術(水晶体再建術)との同時施行が可能であり、併用により単独MIGSよりも良好な眼圧下降と低い再手術率が得られます6)iStent inject WやHydrusは原則として白内障手術との併用で使用されますが、iStent inject Wは2024年7月より単独手術も承認されました2)。マイクロフックやKDB、GATT、Trabectomeは単独でも施行可能ですが、白内障合併例では同時施行が標準的です。担当の眼科専門医にご相談ください。

NIDEK GS-1全周ゴニオスコープによるHydrus留置後360°隅角像とiStent inject W近接像
NIDEK GS-1全周ゴニオスコープによるHydrus留置後360°隅角像とiStent inject W近接像
Weich C, Zimmermann JA, Storp JJ, Merté R-L, Eter N, Brücher VC. Comparison of the Intraocular Pressure-Lowering Effect of Minimally Invasive Glaucoma Surgery (MIGS) iStent Inject W and Hydrus—The 12-Month Real-Life Data. Diagnostics. 2025;15(4):493. Figure 1. PMCID: PMC11854837. License: CC BY 4.0.
AはHydrus留置後の全周ゴニオスコープ(NIDEK GS-1)像で鼻側にステント近位端を認め、BはiStent inject Wの2ポート開口部を線維柱帯内に確認する近接隅角像である。本文「治療成績と合併症」の項で扱うデバイス位置評価・術後隅角鏡検査の意義に対応する。

眼外法(トラベクロトーム)の成績

Section titled “眼外法(トラベクロトーム)の成績”

術後眼圧は16〜20mmHgの範囲で推移することが多い。原発開放隅角緑内障に対する期待眼圧は、トラベクロトミー単独で術後5年18mmHg、20mmHg以下へのコントロール率は5年で約50%である。線維柱帯切除術と比較して術後成績を左右するような集約的な術後管理は必要ではなく、視力の回復が早く、惹起乱視が少なく、高次収差が発生しにくいなどの利点がある。

水晶体再建術との同時手術は線維柱帯切開術の成績を改善する効果があるため、白内障を併発している症例では同時手術が選択されることが多い。

病型別の成績は以下のとおりである。

  • 落屑緑内障ステロイド緑内障: 原発開放隅角緑内障よりも眼圧下降効果が高い。ステロイド緑内障では長期にわたる良好な眼圧コントロールが期待できる非常に有効な術式
  • 原発小児緑内障: 期待眼圧は術後18年で17〜18mmHg。生後2か月以降の発症で成功率96%。ただしAxenfeld-Rieger症候群、Sturge-Weber症候群を合併する場合や、角膜径が13mmを超える場合は予後が不良
  • 発達緑内障全体: 早発型(生後1〜2歳)の隅角切開術で成功率94%。生後1か月未満や2歳以降の発症例では成功率38%に低下

MIGS全体では15〜50%の眼圧下降を達成し、薬剤使用量を0.4〜1.8剤減量させる6)白内障手術との併用は単独白内障手術と比較して追加2〜2.8mmHgの眼圧下降をもたらし、2年時の再手術率は3%対24%と大幅に低い6)。一部のシリーズでは22.6〜80%の患者が薬剤フリーを達成している6)

メタアナリシス(875眼、23研究)では、1年時の加重平均眼圧低下は7.71mmHg(95%CI: 5.16-10.26)、薬剤減少は1.57剤(95%CI: 1.17-1.96)であった5)。サブグループ解析では、線維柱帯切開・切除術(AIT)がiStent内視鏡下毛様体光凝固術に対して眼圧下降(p<0.02)・薬剤減少(p<0.01)の両面で有意に優れていた5)

白内障手術自体にも眼圧下降効果があるため、MIGSの純粋な効果と白内障手術の効果を完全に分離することは困難である3)7)。RCTの結果からは、CE-IOL+MIGS群における眼圧下降・薬剤減量の約2/3がCE-IOL単独の効果であり、MIGSの追加効果は約1/3と推定されている4)

ステント型デバイスの成績

iStent inject W + CE-IOL: 24ヶ月時に75.8%が20%以上の眼圧下降を達成(CE-IOL単独群は61.9%、p=0.005)8)

Hydrus + CE-IOL(HORIZON試験): 24ヶ月時に77.3%が20%以上の眼圧下降を達成(CE-IOL単独群は57.8%、p<0.001)。無薬物達成率78% vs 48%9)

Hydrus vs iStent(COMPARE試験、単独手術): 眼圧18mmHg以下の累積成功率はHydrus 35.6% vs iStent 10.5%(p=0.001)。薬剤フリー率はHydrus 46.6% vs iStent 24.0%10)

線維柱帯切開・切除術の成績

KDB + CE-IOL vs iStent + CE-IOL: 1年成功率93.7% vs 83.3%(p=0.04)。平均眼圧15.4 vs 16.1mmHg11)

マイクロフック + CE-IOL vs CE-IOL単独: 眼圧下降率51.5% vs 20.1%(p<0.001)。完全成功率90.3% vs 0%12)

Trabectome(メタ解析、5,091患者): 成功率は単独46%、CE-IOL併用85%(2年)4)

GATT(メタ解析、537眼): 平均眼圧低下9.81mmHg、薬剤1.67剤減少4)

MIGSは全体として従来の濾過手術より良好な合併症プロファイルを示す5)。メタアナリシスでは低眼圧複視・感染の報告がなく、全タイプのMIGSが安全性に優れる5)

合併症MIGS全体眼外法GATTHydrusiStent
前房出血24.9%5)必発(2〜3日消退)12.5〜80.6%0.5〜36.0%1.2〜1.9%
一過性眼圧上昇4.9%5)3ヶ月まで持続しうる1.9〜32.3%0.5〜20%1〜33.3%
術後炎症3.31%5)
デバイス閉塞1.1〜12.2%1〜13.2%
デバイス位置不良1.1%3〜18%
局所性PAS8.7〜20.0%1.8%
Descemet膜剥離0.5%
  • トラベクロトームの誤挿入: Schlemm管への正確な挿入が困難な場合に生じる早期穿孔
  • 毛様体解離: プローブが上脈絡膜腔に迷入
  • Descemet膜下剥離・血腫
  • 前房出血: Schlemm管内壁穿破に伴い必発であるが、通常2〜3日で自然消退する。高眼圧が持続する場合は角膜血染症の可能性があるため前房洗浄を行う

Hydrusでは位置不良により虹彩炎嚢胞様黄斑浮腫前房出血・高眼圧を呈するUGH(ぶどう膜炎-緑内障-前房出血)症候群の報告がある13)。留置後6ヶ月以上経過すると虹彩組織の癒着により摘出が困難となるため、早期の異常認識が重要である13)

マイクロフック後の稀な合併症

Section titled “マイクロフック後の稀な合併症”

マイクロフックトラベクロトミー後に毛様体脈絡膜剥離と遷延性低眼圧(1〜4mmHg、2ヶ月以上持続)を呈した2症例が報告されている。両症例とも硝子体手術ガスタンポナーデにより解消された14)。また、マイクロフック後の毛様体解離が5ヶ月後に自然閉鎖し、閉鎖時に急性眼圧上昇(42mmHg)を認めた後に正常化した症例も報告されている。前眼部OCTAS-OCT)が隅角鏡よりも毛様体解離の検出に優れていたとされ、術後の隅角評価にAS-OCTを活用する有用性が示されている。

Q MIGSの合併症は重篤ですか?
A

MIGSの合併症は一般的に軽度で一過性です。前房出血が最も多いですが、通常は数日で自然に消退します。低眼圧・感染・複視といった従来手術で懸念される重篤な合併症はMIGSではほとんど報告されていません5)。ただし、デバイスの位置不良により追加手術が必要になる場合があります。術後は担当医の指示に従い定期的に受診してください。

  • 隅角鏡検査: 必須。Shaffer分類で隅角の開放度を確認し、隅角所見をカルテに記載する2)
  • 角膜内皮細胞密度: 1,500個/mm²以上であることが必要2)
  • 視野検査: MD値-12dBより良好であること(眼内ドレーンの場合)。固視点近傍10°以内に絶対暗点がないこと
  • 超音波生体顕微鏡UBM: 発達緑内障では隅角形成異常の程度を評価
  • 眼圧測定: ベースライン眼圧の反復測定が推奨される7)
  • 前房出血: Schlemm管内壁穿破に伴い必発である。術直後は視力障害をきたすが、ほとんどが2〜3日で消退し、2週間以内に自然吸収する。出血により高眼圧が持続する場合は角膜血染症(角膜実質にヘモグロビンが沈着する不可逆的変化)の可能性があるため、前房洗浄を行う
  • 眼圧スパイク: 術後3ヶ月まで30mmHg以上の高眼圧が持続することがある。「眼圧スパイク」と呼ばれる現象である。対処として以下の薬剤を使用する:
    • ピロカルピン1〜2%点眼(縮瞳により隅角を開放)
    • 0.5%チモロール等のβ遮断薬点眼
    • アセタゾラミド250mg内服(炭酸脱水酵素阻害薬
    • 20%マンニトール点滴(浸透圧利尿薬、急性期の緊急対応)
  • 惹起乱視: 強膜弁作製に伴い乱視が生じることがある。眼内法(MIGS)では惹起乱視が少なく、高次収差も発生しにくいという利点がある
  • 術後点眼: 抗菌薬点眼・ステロイド点眼を約1〜2ヶ月使用する

白内障手術に準じた術後管理を行う1)線維柱帯切除術のような術後成績を左右する集約的な術後管理は必要ではなく、視力の回復が早い。

  • レボフロキサシン等の抗菌薬点眼:1日3回
  • ジクロフェナク等の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)点眼:1日3回
  • 0.1%ベタメタゾン等のステロイド点眼:1日3回
  • 前房出血はほぼ必発であるが、翌日〜数日で改善する症例が多い
  • 術後1日目・1週間後・1ヶ月後・3ヶ月後・6ヶ月後・1年後に定期検査を行う
  • 視力検査眼圧測定を定期的に実施2)
  • 角膜内皮細胞数検査でデバイスの長期安全性を評価(CyPass Micro-Stentの市場撤退の前例から、角膜内皮の経時的変化は特に注意が必要)
  • 隅角鏡でステントの位置を確認(位置不良の早期発見が重要)
  • 患者カードを交付し、術後の経過観察の重要性を説明
  • デバイスの閉塞や周辺虹彩前癒着PAS)の有無を定期的に評価する

6. 病態生理学・房水流出路の仕組みと作用原理

Section titled “6. 病態生理学・房水流出路の仕組みと作用原理”

房水毛様体で産生され、後房から瞳孔を通り前房に流入する。前房からの流出経路は主に2つ存在する。

線維柱帯流出路(conventional pathway) が全房水流出の約80〜90%を担う主経路であり、以下の構造を順に通過する。

  1. 線維柱帯: ぶどう膜網・角強膜網・傍管内皮組織の3層構造。開放隅角緑内障では特に傍管内皮組織の細胞外マトリックスが増加し、流出抵抗が上昇する
  2. Schlemm管: 内径約200〜400μmの環状リンパ管様構造。眼圧上昇により管腔が虚脱し、さらに流出抵抗が増大する
  3. 集合管: Schlemm管から約25〜35本が分岐し外方へ導く。集合管の開口部の分布は不均一であり、部位によって流出能が異なる
  4. 強膜静脈: 最終的に静脈系へ合流する。上強膜静脈圧は約8〜10mmHgであり、MIGS眼圧下降の理論的下限を規定する

ぶどう膜強膜流出路(unconventional pathway)毛様体筋間隙を通り脈絡膜上腔へ流出する経路で、全房水流出の約10〜20%を担う。

房水流出抵抗の大部分は**傍Schlemm管内皮組織(juxtacanalicular tissue)**とSchlemm管内壁に存在する。開放隅角緑内障ではこの部位の抵抗が病的に増大しており、すべてのMIGS術式はこの抵抗を直接的あるいは間接的に低減することで眼圧下降を得る。

  • 眼外法(トラベクロトーム): Schlemm管外壁を露出し、プローブで内壁を前房側へ突き破るように回旋して線維柱帯を切開する。強膜側からSchlemm管に物理的にアクセスする方法である
  • 眼内法(マイクロフック・KDB): 前房側から隅角鏡直視下に線維柱帯とSchlemm管内壁を切開または帯状切除する。流出抵抗の最大部位を直接除去する
  • Trabectome: 高周波電極で線維柱帯を焼灼・除去し、Schlemm管を露出させる
  • GATT: 縫合糸またはカテーテルによりSchlemm管を240〜360°にわたり切開する。広範囲の流出路開放が可能
  • ステント(iStent inject W): 線維柱帯内にチタン製ステントを留置し、前房からSchlemm管へのバイパス経路を形成する
  • Hydrus: 8mmニチノール製足場でSchlemm管を約90°にわたり4〜5倍に拡張し、管腔の開存を維持する
  • ABiC: 粘弾性物質によりSchlemm管と集合管を360°拡張し、管腔の虚脱を改善する。線維柱帯の切開は行わない

線維柱帯を標的とするMIGS眼圧下降効果は、Schlemm管から遠位の流出抵抗と強膜静脈圧(約8〜10mmHg)によって制限される3)。このため、術後眼圧がmid-teens(15mmHg前後)以下に低下することは稀である3)。Hagen-Poiseuille則に基づくと、管腔内の流量は内径の4乗に比例し長さに反比例するため、ステントの内腔径や線維柱帯切開の範囲が流量を決定する重要な因子となる。

一方、濾過手術線維柱帯切除術チューブシャント)は房水結膜下腔に排出するため、上強膜静脈圧の制約を受けず、より低い目標眼圧(10mmHg以下)を達成できる。このことが、進行緑内障で低い目標眼圧が必要な症例にはMIGSが不十分となる理論的根拠である。

線維柱帯切開術の効果は切開範囲に依存するが、120〜180°を超えると用量反応閾値に達するとされる。房水流出は隅角の全周で均一ではなく、特に鼻側・下方セグメントの流出路活性が高い。集合管の分布密度も部位によって異なり、流出路が豊富なセグメントを選択的に切開することで効率的な眼圧下降が期待できる。このため180°の処置(ヘミGATT等)でも十分な効果が得られる場合がある。

MIGSを含むすべての緑内障手術において、眼圧下降効果は経時的に減弱する傾向がある3)。ステント型デバイスでは周辺虹彩前癒着やデバイス閉塞が起こりうる。線維柱帯切開術では炎症反応に起因する線維血管膜の形成や瘢痕化により、切開部位の再狭窄が生じることがある。このため、緑内障は生涯にわたる疾患であり、単一の手術で完治するものではない3)MIGS結膜切開を伴わないため、将来の濾過手術線維柱帯切除術チューブシャント)の成功率を損なわないという重要な利点がある3)

ピロカルピンは最も古い眼圧下降薬の一つであるが、MIGS後に流出効果の維持を期待して使用されることがあり、低侵襲緑内障手術後の管理においても重要な位置づけを占める。1〜2%ピロカルピン点眼はMIGS後の初期に隅角の開放を維持し、前房出血の早期消退にも寄与するとされる。

MIGS研究における臨床エンドポイントの報告方法は統一されておらず、異なる研究間の比較が困難であった4)。AAO Glaucoma PPP Committeeは、2年時点のKaplan-Meier生存分析による累積成功率を主要評価項目とすることを推奨している4)

単独MIGSの成功基準: 眼圧21mmHg以下かつベースラインから20%以上低下、緑内障薬剤増加なし、追加手術なし、光覚喪失なし、低眼圧なし4)

CE-IOL併用MIGSの成功基準: 薬剤1剤以上の減量(眼圧上昇なし)、または眼圧21mmHg以下かつ20%以上低下4)

2年時累積成功率の最小臨床的有意差(MCID)として、単独MIGS≥50%、CE-IOL併用MIGS≥65%が提案されている4)

従来、閉塞隅角緑内障MIGSの禁忌とされてきたが、近年はより多くの患者がMIGSの恩恵を受けられるとの考えから、この見解は変化しつつある3)

MIGS後の患者報告アウトカムに関する研究は限られているが、視覚機能・生活の質・眼表面の健康の改善を示唆する予備的知見が得られている6)。薬剤負担の軽減は患者の眼表面の改善や治療アドヒアランス向上に寄与する可能性がある6)

40研究のレビューでは、MIGS-phaco併用で22.6〜80%の患者が薬剤フリーとなり、点眼薬による眼表面障害(角膜上皮障害・結膜充血マイボーム腺機能不全など)の軽減が生活の質の改善に寄与すると考えられている6)。特に多剤併用(3剤以上)中の患者では、MIGS後の薬剤減量による恩恵が大きい。標準化された患者報告アウトカム指標の開発と多様な人種集団を対象とした研究が今後の課題である6)

CyPass Micro-Stent(脈絡膜上腔MIGS)は5年後の角膜内皮細胞減少が判明し、2018年に市場から自主撤退した先例がある3)MIGS全般にわたり、長期の安全性・費用対効果・薬剤非依存率に関するデータの蓄積が今後の課題である3)7)

Freeman-Sheldon症候群に合併した若年性開放隅角緑内障に対しKDBを施行し、眼圧が40mmHgから10mmHgに低下、27ヶ月にわたり15mmHg未満で安定した報告がある。MIGSの従来適応を超えた特殊な病型への拡大が検討されている。

KDBによる線維柱帯切除と深層強膜切除術の併用では、術後眼圧が上強膜静脈圧以下に低下したことで大量の前房出血とフィブリン塊を生じ、周辺虹彩前癒着や集合管閉塞に至った症例が報告されている。眼圧を大幅に下降させる手技同士の併用には注意が必要であり、KDB単独の眼圧下降率約28.4%に対し、併用群では有意な上乗せ効果は得られなかったとされる。

  • ELIOS: 高精度の非熱的レーザーを用いて線維柱帯に10個のマイクロチャネルを作成する新技術である。冷温レーザーにより組織の線維化を最小限に抑え、8年にわたる眼圧下降維持が報告されている。術後1年時点で80%の患者が薬物治療を中止できたとされる
  • MIMS(低侵襲ミニ強膜切開術): ステントを使用しないab externoの濾過手術で、300μmの三角形刃を備えた600μm針で強膜角膜ドレナージ管を永久的に作成する。結果は有望であるが現在も研究段階にある
Q MIGS後に再手術は必要ですか?
A

MIGSの効果はすべての緑内障手術と同様に時間とともに減弱する可能性があります。単独MIGSでは2年時に最大24%で再手術が必要となったとの報告があります6)白内障手術との併用では再手術率が3%と大幅に低下します6)MIGS結膜を温存するため、将来的に線維柱帯切除術チューブシャントなどの追加手術が必要になった場合にもその成功率を損なわないという利点があります。

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