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腫瘍・病理

網膜・網膜色素上皮複合過誤腫

1. 網膜・網膜色素上皮複合過誤腫とは

Section titled “1. 網膜・網膜色素上皮複合過誤腫とは”

網膜・網膜色素上皮複合過誤腫は、網膜および網膜色素上皮のグリア細胞・血管組織・色素上皮細胞から構成される稀な良性過誤腫である。過誤腫とは、本来その部位に存在する成熟組織が無秩序に増殖した良性局所性過剰発育を指す。

1973年にGassが初めて7症例の報告とともに本疾患を命名した。その後1984年にSchachatらが黄斑学会研究委員会と共同で60例を系統的にレビューし、さらにShieldsらが連続77症例の大規模シリーズを発表した。

疫学的特徴として、主に小児期に診断され、診断年齢中央値は7.5歳である。腫瘍の平均径は7.6mm、厚さ1.9mmと報告されている2)。ほぼ全例が片眼性・単発性で生じる。性別については研究間で差異があり、Schachatらでは男女ほぼ同等(31:29)、FontらおよびShieldsらでは男性優位(70%、68%)であった。白人に多いとされる。

日本の眼科学教科書では、純粋に網膜色素上皮のみの単純性過誤腫から、グリア細胞増生を伴う混合性過誤腫までのバリエーションが記載されており、通常は先天性かつ非遺伝性の疾患とされている。

Q この腫瘍は悪性化することがあるか?
A

網膜・網膜色素上皮複合過誤腫は良性過誤腫であり、悪性化の報告はない。ただし脈絡膜メラノーマ網膜芽細胞腫と臨床像が類似するため、誤診を防ぐためにも正確な診断が重要である。

  • 視力低下:最も多い症状。全症例の40〜50%に認められる。
  • 斜視:28〜38%に認められる。軽微な腫瘍でも再発性外斜視の原因となりうる7)
  • 無症状:23%の症例では自覚症状がなく、偶然発見される。
  • その他:まれに飛蚊症、眼痛、白色瞳孔が生じる。視力低下と斜視の同時発症は約4%にとどまる7)

部位別では乳頭傍76%、黄斑部17%、周辺部7%の頻度で生じる4)。腫瘍は暗褐色・緑色・黄色・灰色・オレンジ色を呈し、色素沈着を伴って隆起する。

腫瘍部位による初診時視力の違いは顕著である。

部位平均視力20/200以下の割合
黄斑部20/32069%
黄斑外20/8025%

主な臨床所見を以下に示す。

  • 血管変化:牽引による導入血管の直線化、腫瘍内血管の蛇行・コルク抜き状変形。
  • 硝子体網膜界面変化:網膜前膜(epiretinal membrane, ERM)形成が83〜90%と非常に高頻度。中心窩牽引は黄斑部腫瘍の100%、黄斑外腫瘍の42%に認められる7)
  • 合併症網膜分離症脈絡膜新生血管(約6%)8)黄斑円孔硝子体出血網膜剥離
Q どのような場合に視力予後が悪いか?
A

黄斑部に腫瘍がある場合は予後不良で、平均視力は20/320と黄斑外(20/80)より著しく低い。4年間の追跡で黄斑部腫瘍の60%が視力3ライン以上低下するのに対し、黄斑外腫瘍では13%にとどまる。

CHRRPEの病因は不明であり、先天性と考えられているが出生時の報告例はない。Pujariらは、網膜色素上皮になる運命の未分化異所性前駆細胞が分化を完了できず、神経感覚網膜内で増殖・蓄積するという仮説を提唱している3)

組織学的にはメラノサイト・血管・グリア細胞が様々な割合で混在する2)。亜型としては血管優位型(赤色調)、メラノサイト優位型(黒色調)、グリア優位型(白色調)がある2)

網膜前膜形成の機序については、グリア細胞と網膜色素上皮細胞が筋線維芽細胞様の網膜前細胞にトランス分化し、硝子体網膜界面を変化させて網膜前膜形成を引き起こすと考えられている2)

日本の眼科学教科書では、通常は先天性非遺伝性であるが、ときに神経線維腫症1型および2型に随伴すると記載されている。

  • 神経線維腫症2型(最も関連が強い):22番染色体長腕(22q11.1〜q13.1)に責任遺伝子が存在し、両側聴神経腫が特徴。色素上皮性過誤腫や網膜前膜の合併が散見される。両眼性の網膜・網膜色素上皮複合過誤腫が2歳・7か月での初発所見となり、その後NF2遺伝子(エクソン13・8)の切断型変異が確認されたという小児2例の報告がある10)
  • 神経線維腫症1型:17q11.2に責任遺伝子。有病率は3,000〜5,000人に1人。通常神経線維腫症1型では網膜病変は稀だが、まれに過誤腫を合併する。
  • その他の関連疾患:ゴーリン・ゴルツ症候群、ポーランド異常、鰓弓眼顔面症候群、鰓弓耳腎症候群、若年性鼻咽頭血管線維腫、結節性硬化症1)
Q 神経線維腫症の検査は必要か?
A

神経線維腫症2型との関連が最も強いため、特に両側性病変や神経線維腫症の家族歴がある場合は神経線維腫症2型のスクリーニング(脳MRIおよび遺伝子検査)を検討すべきである。神経線維腫症1型やその他の全身症候群との関連も報告されており、全身評価が推奨される。

網膜・網膜色素上皮複合過誤腫の診断には複数の検査を組み合わせたマルチモーダルイメージングが重要である3)

  • 蛍光眼底造影(FA):早期に色素による蛍光ブロックを認め、後期には蛇行拡張した血管からの漏出が観察される2)
  • 光干渉断層計(OCT):網膜前膜(83〜90%に合併)、網膜襞・線条を詳細に描出できる。
  • OCT血管造影(OCTA:表層・深層毛細血管叢およびchoriocapillarisの血管異常を非侵襲的に描出できる2)
  • 超音波検査:プラーク状腫瘍として描出。脈絡膜陥凹や石灰化がないため、メラノーマや網膜芽細胞腫との鑑別に有用である8)
  • MRI:プラーク状病変で、T1W/T2Wで視神経と等信号を示し、わずかな造影増強を認める。腫瘤状の網膜芽細胞腫やメラノーマとの鑑別に有用である4)

光干渉断層計では本疾患に特異的な複数の所見が確認できる。

内層優位の所見

ミニピーク(mini-peaks):内層網膜の鋸歯状外観。外層の乱れを伴わない点が特徴。特発性網膜前膜との鑑別に有用。

シャークティースサイン:外顆粒層の三角形状過反射変化。Arrigoら(2019)が命名。軽微な本疾患でも確認できる7)

全層の所見

マキシピーク(maxi-peaks):全層にわたる網膜襞。

オメガサイン:マキシピークのより広く深いバリエーション。黄斑部の本疾患と特発性網膜前膜の鑑別において特に有用1)2)

ダブルレチナサイン:網膜が折り重なる新所見。欠損部にグリア増殖が充填する1)

その他の補助検査として、**強調深度イメージングOCT(EDI-OCT)**では腫瘍直下の脈絡膜が対側眼より平均37%薄いことが確認されており7)MP-1マイクロペリメトリでは術前の低感度領域が網膜前膜付着部位を示し、手術予測因子として活用できる2)

Dedaniaらは位置・特徴・OCT所見の3軸による体系的分類を提唱し、管理方針の決定に使用されている8)9)

  • 位置:後極部(Zone 1)/ 中間周辺部(Zone 2)/ 遠位周辺部(Zone 3)
  • 特徴:牽引(A)/ 網膜分離症(B)/ 網膜剥離(C)
  • OCT所見:網膜前膜(1)/ 部分層網膜色素上皮関与(2)/ 全層網膜色素上皮関与(3)

主要な鑑別疾患を以下に示す。日本の眼科学教科書では脈絡膜悪性黒色腫との最大の鑑別点として、網膜栄養血管の存在と多量の硬性白斑の沈着が挙げられている。

  • 脈絡膜メラノーマ:隆起が大きく均一な形状、超音波でA型低内反射。
  • 脈絡膜母斑:扁平で非隆起性。
  • 網膜色素上皮腺腫/腺癌:急速な増大、滲出性変化。
  • メラノサイトーマ:視神経乳頭に集中する濃黒色病変。
  • 網膜芽細胞腫:小児に多い。石灰化を伴うことが多く、白色瞳孔が特徴。
  • トキソカラ症:炎症所見、ガラス体混濁を伴う。
Q OCTで特徴的な所見は何か?
A

ミニピーク(内層網膜の鋸歯状外観)、マキシピーク・オメガサイン(全層の網膜襞)、シャークティースサイン(外顆粒層の三角形過反射変化)が特徴的な所見である。これらは本疾患と特発性網膜前膜の鑑別にも有用である。

網膜・網膜色素上皮複合過誤腫の治療方針は腫瘍部位・病期・視力・年齢・症状に基づき個別に決定される。安定例は定期的なマルチモーダル画像によるフォローアップが基本である3)

経過観察

適応:安定した非黄斑部腫瘍、無症状例、視力良好例。

フォローアップ:マルチモーダル画像(光干渉断層計、フルオレセイン蛍光眼底造影、OCT血管造影)による定期的な評価。

弱視治療:若年期発症のため極めて重要。健眼遮蔽などを早期から実施する。

手術介入

適応:網膜前膜形成による進行性視力低下、牽引性網膜剥離、脈絡膜新生血管合併例。

術式:網膜前膜剥離を伴う硝子体手術(経毛様体扁平部硝子体切除術)が主体。

小児例:早期手術+術後弱視治療の組み合わせが重要。

小児期発症の本疾患では弱視を合併することが多く、早期の弱視治療が視力予後に直結する。Schachatらの報告では視力改善を示した症例の大多数が弱視治療を受療していた。全遮蔽3週間の実施で20/50→20/30への改善が得られた症例も報告されている7)

網膜前膜剥離を伴う硝子体手術

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網膜前膜を伴う本疾患に対する硝子体手術は、複数の研究で一定の有効性が確認されている。

報告症例数術後視力改善率
Zhang X ら(2023)集約2)43例(13研究)90.7%(39/43)
Sun ら(2020)2)15例93.3%(14/15)
自家プラスミン酵素補助(Cohn ら)2)11例72.7%(8/11)

術中には染色剤を用いて網膜前膜および内境界膜を視認化する。van der Sommenら(2021)はトリアムシノロンによる硝子体可視化とインフラシアニングリーンによる内境界膜染色を組み合わせた完全硝子体手術を報告し、術前視力1.3 LogMAR→術後0.8 LogMAR、48ヶ月安定を達成した5)

周辺部の本疾患に伴う牽引性網膜剥離では、硝子体皮質膜の牽引が主因の場合は網膜前膜剥離ではなく硝子体牽引膜剥離で対応する。タンポナーデ不要で網膜復位が得られる場合もある。Holekampら(2021)の報告では術後18ヶ月で視力20/40→20/16への回復が得られた9)

  • 脈絡膜新生血管合併時抗VEGF療法または光線力学的療法を考慮する5)8)
  • 血管増殖性腫瘍合併時:腫瘍切除とレーザー/冷凍凝固・ジアテルミーを組み合わせる5)
Q 手術でどの程度視力が改善するか?
A

13の小規模研究を集約した検討では、43例中39例(90.7%)で術後視力改善が得られている2)。ただし、長期嚢胞様黄斑浮腫や膜の腫瘍内入り込みがある場合は予後が不良となる。小児例では術後の弱視治療が視力予後の改善に不可欠である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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網膜・網膜色素上皮複合過誤腫の組織学的特徴は、無秩序なグリア組織、増殖する網膜色素上皮の索状物・管状構造、および多数の血管の混在である。亜型は優位な組織成分によって異なる外観を示す。

本疾患の発症には2つの仮説が提唱されている1)

  1. 網膜色素上皮と網膜組織の過剰増殖(疾患名が示す通りの機序)
  2. 異常漏出血管が一次病変であり、網膜変化は二次的に生じるという機序

LedesmaGilらの仮説では、腫瘍増殖は段階的に内層網膜から外層網膜へと進行し、各層への関与に伴い血管構造が障害されると考えられている1)

網膜前膜形成の分子機序は以下の通りである2)

  • グリア細胞と網膜色素上皮細胞が筋線維芽細胞様の網膜前細胞にトランス分化する。
  • これが硝子体網膜界面を変化させ、網膜前膜を形成する。
  • 網膜前膜の収縮により網膜襞・牽引性網膜分離・牽引性網膜剥離が生じる。

患眼の腫瘍直下の脈絡膜は対側眼より平均37%薄いことが確認されている7)。これは腫瘍による脈絡膜組織の代替または圧排による変化と考えられている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Naseripourら(2023)は7歳女児の本疾患症例において、OCTで網膜が折り重なる新所見「double retina sign」を初めて報告した1)。この所見は網膜欠損部にグリア増殖が充填することで生じ、omega signとの同時確認例でもあった。3年間の経過観察で視力は安定していた。

shark-teeth sign(外顆粒層の三角形状過反射変化)はArrigo ら(2019)が命名した所見であり、軽微で見逃されやすい本疾患の早期診断に貢献する可能性がある2)7)

van der Sommenら(2021)は、血管増殖性腫瘍を伴う本疾患症例において、vitreous wiping法による完全な硝子体皮質残留除去を含む術式を報告した5)。硝子体皮質残留が術後の増殖硝子体網膜症の足場となりうる可能性が指摘されており、完全除去の意義が注目されている。

片側性網膜色素上皮異形成との関係

Section titled “片側性網膜色素上皮異形成との関係”

Zhuら(2022)は、片側性網膜色素上皮異形成(unilateral retinal pigment epitheliopathy, URPED)と本疾患の臨床的類似性を報告した6)。乳頭傍の本疾患と片側性網膜色素上皮異形成が同一疾患のスペクトラム(forme fruste)である可能性が提唱されており、今後の症例蓄積による検討が必要とされている。

網膜前膜手術の適応基準と最適な手術時期の標準化、ランダム化比較試験によるエビデンスの構築が今後の主要課題である2)。現状では小規模な後方視的研究のみであり、治療効果の正確な評価には限界がある。


  1. Naseripour M, Safi S, Jabarvand M, et al. Double retina sign: A new OCT finding in combined hamartoma of the retina and retinal pigment epithelium. J Curr Ophthalmol. 2023;35:318-322.
  2. Zhang X, Xu H, Guo Y, et al. Description and surgical management of epiretinal membrane due to combined hamartoma of the retina and retinal pigment epithelium. Adv Ophthalmol Pract Res. 2023;3:196-206.
  3. Ludovico I, Carnevale A, Piscitelli G, et al. Combined hamartoma of the retina and retinal pigment epithelium: A literature review and case series. Cureus. 2025;17:e81234.
  4. Waelti S, Morland A, Schneider J, et al. Combined hamartoma of retina and retinal pigment epithelium – MRI features of a rare paediatric intraocular tumour. BJR Case Rep. 2021;7:20210034.
  5. van der Sommen CM, Henkes HE, Diessen van BJ, et al. Surgery for combined hamartoma of the retina and retinal pigment epithelium. Case Rep Ophthalmol. 2021;12:836-842.
  6. Zhu Z, Zhao H, Wang T, et al. Common clinical features of unilateral retinal pigment epitheliopathy and combined hamartoma of retina and retinal pigment epithelium. BMC Ophthalmol. 2022;22:193.
  7. Abramowicz S, Mochizuki K, Matsumoto K, et al. Subtle combined hamartoma of the retina and retinal pigment epithelium causing recurrent exodeviation. Case Rep Ophthalmol. 2022;13:562-570.
  8. Li KX, Schocket CM, Callaway NF. Secondary choroidal neovascularization in combined hamartoma of the retina and retinal pigment epithelium. J VitreoRetinal Dis. 2022;6:399-403.
  9. Holekamp KE, Holekamp NM. Vitrectomy for tractional retinal detachment due to combined hamartoma of the retina and retinal pigment epithelium. J VitreoRetinal Dis. 2021;5:354-358.
  10. Grant EA, Trzupek KM, Reiss J, et al. Combined retinal hamartomas leading to the diagnosis of neurofibromatosis type 2. Ophthalmic Genet. 2008;29(3):133-138.

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