単発型
形状:単一の平坦で円形の過色素性病変。
色調:薄灰色〜茶色〜黒色。境界は平滑または鋸歯状。
部位:通常は赤道部に位置し、上耳側四半部に多い。
大きさ:100μmから視神経乳頭径数個分まで多様。
ラクナ:低色素性ラクナを含むか、脱色素ハローに囲まれる。経時的にゆっくり拡大。
上層網膜:正常に見える。

先天性網膜色素上皮肥大は、網膜色素上皮の先天性過誤腫(hamartoma)である。1975年にBuettnerによって命名された。
一般的な検眼受診者における有病率は1.2%である。性差・人種差はない。眼底の中間周辺部に多い平坦で境界明瞭な孤発性色素性病変であり、病変内にラクナ(脱色素斑)を含む。非常にゆっくりと拡大し、5年で80%の例で拡大がみられる。最も多い部位は赤道部網膜、特に耳側周辺部である。乳頭近傍(juxtapapillary)への出現は1%未満と稀である1)。
ICD-10はQ14.1(網膜の先天奇形)に分類される。
先天性網膜色素上皮肥大には以下の3つのバリアントがある。
家族性大腸腺腫症は常染色体優性遺伝のがん症候群である。未治療の場合、ほぼ全例が中年期までに大腸癌を発症する。10歳前後からポリープが発生し、15歳前後から大腸癌が発生する。40歳で50%、60歳でほぼ100%の患者に大腸癌が発症する。非定型先天性網膜色素上皮肥大は家族性大腸腺腫症の最も早期かつ最も高頻度の結腸外症状であり、家族性大腸腺腫症患者の最大90%に認められる。
家族性大腸腺腫症の関連サブタイプとして以下がある。
通常は良性で、自然消退も悪性化もほとんど起こらない。ただし、まれに先天性網膜色素上皮肥大から結節状の色素性腺腫・腺癌が発生する報告がある。また非定型先天性網膜色素上皮肥大は家族性大腸腺腫症と関連し、家族性大腸腺腫症は未治療の場合ほぼ全例が中年期までに大腸癌を発症する。定期的なフォローアップと必要に応じた大腸内視鏡検査が重要である(詳細は「標準的な治療法」の項参照)。
先天性網膜色素上皮肥大はほぼ例外なく無症状であり、定期的な眼科検査で偶然発見される。まれに病変が中心窩まで進展した場合に視力低下を生じうる。
バリアントによって臨床所見が異なる。3バリアントの特徴を以下に示す。
単発型
形状:単一の平坦で円形の過色素性病変。
色調:薄灰色〜茶色〜黒色。境界は平滑または鋸歯状。
部位:通常は赤道部に位置し、上耳側四半部に多い。
大きさ:100μmから視神経乳頭径数個分まで多様。
ラクナ:低色素性ラクナを含むか、脱色素ハローに囲まれる。経時的にゆっくり拡大。
上層網膜:正常に見える。
集簇型(Bear tracks)
形状:クラスター状に配置された複数の病変(各クラスター最大30個)。
大きさ:各病変100〜300μm。周辺部ほど大きくなる傾向。
分布:眼底の1つの扇形領域または四半部に限定。典型的には暗灰色〜黒色。
ラクナ・ハロー:ハローやラクナを欠く。動物の足跡(bear tracks)に似る。
両眼性:片眼性または両眼性(両眼性はまれ)。機能的影響は通常なし。
非定型(FAP関連)
大きさ:単発型より小さい(直径50〜100μm)。
形状:楕円形、紡錘形、コンマ形、魚の尾の形など不整形。
分布:眼底全体に無秩序に分布。
両側性:患者の78%で両側性。家族性大腸腺腫症との関連を示唆する最重要特徴。
ラクナ:大きな病変にはラクナを含み、脱色素ハローやサテライト病変に囲まれることがある。
家族性大腸腺腫症との関連:家族性大腸腺腫症の家系で多発性・両眼性の場合、ほぼ確実に家族性大腸腺腫症に関連する。
組織学的には、肥大した網膜色素上皮細胞内に大きなメラノソームが密に詰まった単層構造を示す(細胞の過形成と肥大の複合)。ラクナ領域ではグリア細胞が網膜色素上皮・視細胞層を置換し、ブルッフ膜が肥厚する。病変上の視細胞層は加齢とともに変性し、外網膜層が消失する。脈絡膜・脈絡膜毛細血管板・網膜内層は不変である2)。
単発型は単一・円形でラクナを持つ大型病変、集簇型は複数の小病変がクラスターを形成し動物の足跡に似る(bear tracks)。非定型は小型・不整形で眼底全体に両側性に分布し、家族性大腸腺腫症との関連を強く示唆する。両側性・多発性・不整形という3特徴の組み合わせが家族性大腸腺腫症との関連の鑑別に特に重要である3)。
先天性網膜色素上皮肥大は先天性の過誤腫であり、胎生期の網膜色素上皮発生過程の異常によると考えられているが、孤発型の単発型・集簇型では特定の遺伝子変異は同定されていない。
家族性大腸腺腫症に関連する非定型先天性網膜色素上皮肥大における原因は、第5染色体長腕(5q21-q22)に位置するAPC(adenomatous polyposis coli)遺伝子の変異である。家族性大腸腺腫症は常染色体優性遺伝、高い浸透率を示す。
APC遺伝子変異の部位と先天性網膜色素上皮肥大の表現型の関係は以下の通りである。
家族性大腸腺腫症(Gardner症候群)では、APC遺伝子変異による骨腫や軟部組織腫瘍とともに、幼少期から眼底に暗褐色の色素斑が80%の頻度で出現する。
家族性大腸腺腫症の家系の第一度近親者(リスク群)には、10歳からの眼底スクリーニングが推奨されている。先天性網膜色素上皮肥大の家族性大腸腺腫症マーカーとしての平均特異度は89%、平均感度は79%と報告されている3)。眼科的検査・大腸内視鏡・遺伝子検査の三本柱によるアプローチが推奨される。
診断は通常臨床的に行われ、追加検査は一般に不要である。眼底の特徴的な色素性病変を確認することで診断できる。隆起性病変はなく、他の腫瘍との鑑別は比較的容易である。カラー眼底写真が記録・経過観察に有用であり、広角走査型レーザー検眼鏡がスクリーニングツールとして推奨される。
主要な画像検査所見を以下にまとめる。
| 検査 | 色素部 | ラクナ部 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| FAF | 低自発蛍光 | 無蛍光(網膜色素上皮萎縮) | モダリティによりラクナが偽の過蛍光を示す場合あり |
| FA | 蛍光遮断 | 透過蛍光 | 蛍光漏出なし |
| SD-OCT | 網膜色素上皮帯が過反射・肥厚、視細胞層消失 | 網膜色素上皮層の菲薄化・欠損、光透過性亢進 | 病変下脈絡膜厚は正常 |
| Bスキャン超音波 | 平坦・超音波上不可視 | — | 脈絡膜メラノーマとの重要鑑別点 |
詳細な所見は以下の通りである。
主要な鑑別疾患の特徴を以下にまとめる。
| 疾患 | 形状・隆起 | 超音波所見 | 鑑別のポイント |
|---|---|---|---|
| 脈絡膜メラノーマ | ドーム状/ボタン型・隆起性 | Bスキャン:脈絡膜挖掘あり | Aスキャン中低反射、血管拍動 |
| 脈絡膜母斑 | 平坦〜軽度隆起 | 中〜高エコー | 境界不明瞭、ドルーゼン合併 |
| 先天性網膜色素上皮肥大 | 平坦 | 超音波上不可視 | 鮮明な暗色素病変、ラクナ |
その他の鑑別疾患には、メラノサイトーマ、炎症後瘢痕(トキソプラズマなど)、網膜色素上皮増殖、網膜色素上皮腺腫・腺癌、鎌状赤血球症のblack sunburst病変、CGARPES(ホッキョクグマの足跡:集簇型先天性網膜色素上皮肥大に類似)などがある1,2)。先天性網膜色素上皮肥大に続発する腺腫・腺癌の報告もある。また脈絡膜悪性黒色腫との鑑別において、網膜栄養血管の存在と多量の硬性白斑の沈着が鑑別のポイントとなる。
一般に積極的な介入は不要であり、無症候性のものは経過観察が基本である。定期的なフォローアップを推奨する1,2)。
まれな合併症に対する対応として以下が報告されている。
先天性網膜色素上皮肥大は家族性大腸腺腫症の非侵襲的・迅速・早期の表現型スクリーニングマーカーである3)。
28研究・4451人を分析した系統的レビューでは、以下のデータが報告されている3)。
スクリーニングの推奨事項は以下の通りである。
一般に経過観察で十分であり、定期的なフォローアップが推奨される。ただしサイズの急速な増大や結節状変化の出現時は腺腫・腺癌への変化を疑い精査が必要となる。脈絡膜新生血管などまれな合併症が生じた場合は光線力学療法などの対症的治療を考慮する1)。先天性網膜色素上皮肥大そのものへの治療は通常不要である。
先天性網膜色素上皮肥大の組織学的特徴は、肥大した網膜色素上皮細胞の単層構造であり、巨大メラノソームが細胞内に密に充填される。
家族性大腸腺腫症に関連する非定型先天性網膜色素上皮肥大では、限局的なメラニン顆粒の形態異常がみられ、一般集団の先天性網膜色素上皮肥大とは微視的に異なる。網膜色素上皮の肥大に加えて増殖も伴い、網膜浸潤・網膜血管変化を示す。多層構造や網膜全層関与がある場合もある。腫瘍様の性状を呈するが、臨床的には良性である3)。
病変の経時的変化は以下の通りである。
APC遺伝子は第5染色体長腕(5q21-q22)に位置する腫瘍抑制タンパク質をコードする。疾患の重症度と結腸外症状の有無は変異部位と関連する。コドン1597などの特定変異ではデスモイド腫瘍など他の結腸外症状と関連し、先天性網膜色素上皮肥大は伴わないことが示されている3)。
先天性網膜色素上皮肥大の46〜83%が少なくとも3年のフォローアップで拡大する。まれに先天性網膜色素上皮肥大の病変から結節状の色素性腺癌が発生する報告がある。未治療の結節状病変が有茎性腫瘍へ進行し、漿液性網膜剥離を伴った症例も報告されている。また、先天性網膜色素上皮肥大内に発生した周辺部の網膜色素上皮腫瘍に、黄斑前膜や嚢胞状黄斑浮腫が頻繁に合併するとされる。
Alshalanら(2025)は乳頭近傍(juxtapapillary)の先天性網膜色素上皮肥大の2例を報告した1)。69歳女性(左眼、約7乳頭面積、ほぼ全周性)と50歳女性(右眼、約6乳頭面積、上方)を対象とし、眼底自発蛍光(病変全体の低自発蛍光)、フルオレセイン蛍光眼底造影(蛍光遮断+ラクナ部の透過)、SD-OCT(網膜色素上皮帯の肥厚・過反射+外層構造消失、Bスキャンで平坦)によるマルチモーダルイメージングで確定診断した。乳頭近傍の出現頻度は1%未満とされる。
Qiuら(2022)は、PRPH2遺伝子変異(c.828+2T>C)によるretinitis punctata albescens(RPA)と多発型先天性網膜色素上皮肥大を合併した39歳中国人女性の症例を報告した4)。左眼のみに集簇型先天性網膜色素上皮肥大を認め、網膜電図で暗順応後のb波減弱を示した。家族内解析では母・息子・娘にも同変異が確認されたが眼底所見は多様であった。PRPH2遺伝子は光受容体特異的膜糖タンパクをコードし、杆体・錐体外節の形態形成に必須である。先天性網膜色素上皮肥大とPRPH2遺伝子変異の因果関係はいまだ未確立である。
家族性大腸腺腫症の先天性網膜色素上皮肥大スクリーニングにAIを活用する可能性が示唆されている3)。糖尿病網膜症スクリーニングにおけるAI活用の先例があり、大規模集団での先天性網膜色素上皮肥大による家族性大腸腺腫症のリスク層別化への応用が期待される。