眼底写真
所見:弓状突起を伴う分葉状の白色網膜内腫瘍
特徴:黄斑部に多いが鋸状縁まで及ぶことがある。網膜色素上皮の先天性肥大の病変が黄斑から鋸状縁にかけて認められる場合がある。

良性分葉状内顆粒層増殖(Benign Lobular Inner Nuclear Proliferations; BLIPs)は、網膜の内顆粒層から発生する良性の網膜内腫瘍である。網膜色素上皮の先天性肥大(congenital hypertrophy of the retinal pigment epithelium, CHRPE)を伴うことがある。
2022年にAaron Nagiel博士、Christian J. Sanfilippo博士、Michael Javaheri博士らによるBLIPコンソーシアムが4症例をもとに初めて報告した疾患概念である。1) その後、Pastor-Idoateら(2016年)が「診断と治療の課題(Diagnostic and Therapeutic Challenge)」として報告していた1症例が、遡って本疾患に該当することが判明した。2)
過誤腫(hamartomatous)的な性質を持ち、良性で視機能への影響はないと判断されている。1) 性別による偏りは報告されていない。病因は不明であり、報告症例数は現時点で数例のみと極めてまれな疾患である。
2022年にBLIPコンソーシアムにより初めて4症例が報告され、Ophthalmology誌に2023年掲載された疾患概念である。1) 以前に別の疾患として報告された症例が遡って本疾患に該当すると判明した例もある。2)
患者は通常、無症状である。視力障害はほとんどの症例で認められない。病変が黄斑部に認められることもあるが、症状を呈さないことが特徴である。
ほとんどの症例で視力障害は認められない。黄斑部に病変があっても通常は無症状であり、30年間の長期経過観察後も視力低下が認められなかった症例が報告されている。3)
マルチモーダルイメージングにより、以下の特徴的な所見が得られる。
病因は不明であり、特定されたリスク要因はない。性別による偏りも報告されていない。性質上は過誤腫と考えられており、遺伝子検査(全エクソーム解析)が行われたが、相関関係は未特定である。1)
BLIPsに伴って認められることがある網膜色素上皮の先天性肥大については、教科書的に以下が知られている。網膜色素上皮の先天性肥大は眼底の中間周辺部に多くみられる平坦で境界明瞭な孤発性色素性病変であり、ラクナと呼ばれる脱色素斑を有する。非常にゆっくりと拡大し、5年で80%の例に拡大が見られる。性差・人種差はなく、病変上の網膜は外層が消失して菲薄化が著明である。本病変が多発する場合は家族性大腸ポリポーシス(familial adenomatous polyposis, FAP)やGardner症候群に関連する可能性がある。
BLIPsの診断はマルチモーダルイメージングの組み合わせにより行われる。特に光干渉断層計が最も重要な検査である。
眼底写真
所見:弓状突起を伴う分葉状の白色網膜内腫瘍
特徴:黄斑部に多いが鋸状縁まで及ぶことがある。網膜色素上皮の先天性肥大の病変が黄斑から鋸状縁にかけて認められる場合がある。
眼底自発蛍光
BLIPs部:軽度の低自発蛍光
網膜色素上皮の先天性肥大部:顕著な低自発蛍光。両者で程度が異なる点が診断の参考となる。
光干渉断層計
所見:内顆粒層の均質高反射分葉状病変
特徴:En face OCTで「ボール・アンド・スパイク」形状。隣接層の圧迫はあるが浸潤なし。
OCT血管造影
所見:血流信号の欠如
意義:固有血管系を持たないことを示す。血管新生を伴う悪性腫瘍との鑑別に有用。
BLIPsは以下の網膜腫瘍と鑑別する必要がある。1)
光干渉断層計が最も重要であり、内顆粒層に位置する均質高反射の分葉状病変を確認する。1) En face OCTでの「ボール・アンド・スパイク」形状、OCT血管造影での血流信号欠如が診断を補強する。FA漏出なし・眼底自発蛍光低自発蛍光の組み合わせが特徴的な画像所見を構成する。
BLIPsは良性で視力障害を引き起こさず、安定した状態を維持するため、介入は不要である。経過観察のみが推奨される。1)
薬物療法・手術療法は存在しない。短期的なフォローアップで病変の安定性が示されており1)、Shah & Charbel Issaは30年間の長期経過観察後も安定していた症例を報告している。3)
良性・安定した腫瘍であり、介入は不要で経過観察のみが推奨される。1) 最長30年の安定性が報告されており、視力低下や合併症を引き起こさないことが確認されている。3)
BLIPsは内顆粒層から発生する過誤腫性の増殖と考えられている。以下にその画像所見上の特徴をまとめる。
| 検査 | 所見 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| 光干渉断層計 | 内顆粒層の均質高反射分葉 | 発生部位の同定 |
| OCT血管造影 | 血流信号欠如 | 血管新生なし |
| FA | 漏出なし | 固有血管系の欠如 |
病変は固有の血管系を持たない(FAで漏出なし、OCT血管造影で血流信号なし)。1) 病変は均質で、空洞化や高反射斑を伴わない。隣接する網膜層を圧迫するが浸潤はしない。網膜内液、出血、滲出物を引き起こさない。1)
全エクソーム解析では遺伝子相関は未同定である。1) 網膜色素上皮の先天性肥大との関連が示唆されるが、機序は不明である。
BLIPsは2022年に初めて報告された、現在も症例集積と疾患理解が進行中の疾患である。報告された症例は以下の通りである。
| 報告者 | 年 | 症例数 |
|---|---|---|
| Sanfilippo et al. | 2023 | 4例 |
| Pastor-Idoate et al. | 2016(遡及) | 1例 |
| Shah & Charbel Issa | 2024 | 1例(30年経過) |
Sanfilippo CJらは2022年、BLIPコンソーシアムとして4症例を報告した。1) マルチモーダルイメージングによる病変の特徴づけが行われ、4名中3名で血液の全エクソーム解析が実施された。性質上は過誤腫と判断され、短期経過観察での安定性が示された。
Shah M & Charbel Issa P(2024)は、30年間の長期安定性を示した症例を報告した。3) 長期経過でも視力低下や病変増大を認めなかったことは、BLIPsの良性かつ静的な性質を裏付ける重要な知見である。
今後の課題は、病因の解明、遺伝子的背景の特定、網膜色素上皮の先天性肥大との関連機序の解明である。症例報告の蓄積により、BLIPsの全体像がより明確になることが期待される。
Sanfilippo CJ, Javaheri M, Handler S, Berry JL, Cobrinik D, Deardorff MA, Sun M, Schmidt RJ, Barkmeier AJ, Nagiel A. Benign Lobular Inner Nuclear Layer Proliferations of the Retina Associated with Congenital Hypertrophy of the Retinal Pigment Epithelium. Ophthalmology. 2023;130(3):265-273.
Pastor-Idoate S, Heimann H, Keane PA, Balaskas K, Lujan BJ. Diagnostic and Therapeutic Challenges. Retina. 2016;36(9):1796-1801.
Shah M, Charbel Issa P. Long-Term Stability of Benign Lobular Inner Nuclear Layer Proliferations. JAMA Ophthalmol. 2024;142(6):e236065.