この疾患の要点
基底層ドルーゼン(キューティキュラードルーゼン)は加齢黄斑変性 スペクトラムの一型であり、網膜色素上皮 (RPE )基底膜とブルッフ膜 の間に多数の小型黄色ドルーゼン が蓄積する。
典型的AMD より若年(平均57.9歳)に発症し、患者の60〜92.1%が女性である。1)
蛍光眼底造影 (FA )での”stars-in-the-sky”パターン、OCT での”saw-tooth”(鋸歯状)パターンが特徴的な所見である。1)
CFH遺伝子変異(p.Tyr402His)との強い関連があり、補体 代替経路の異常が病態の基盤となる。1)
ドルーゼン そのものの治療法はなく、合併症(脈絡膜新生血管 ・地図状萎縮 )の早期発見と適切な治療が鍵となる。
若年患者では膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)などの腎疾患を合併することがあり、全身的評価が必要な場合がある。1)
基底層ドルーゼン(basal laminar drusen; BLD)は、1977年にGassが眼底に多数の小型黄色ドルーゼン が散在するとして初めて記述した疾患概念である。蛍光眼底造影 (FA )上の”stars-in-the-sky”パターンが特徴とされる。1)
当初はRPE 基底膜の結節状肥厚として”basal laminar drusen”と命名されたが、その後の研究によりRPE の基底膜とブルッフ膜 内膠原層の間に沈着すること、すなわち通常の軟性ドルーゼン と同じ局在にあることが明らかとなった。これにより”cuticular drusen”(キューティキュラードルーゼン)という名称が現在は推奨されている。1)
加齢黄斑変性 (AMD )スペクトラムに属するが、典型的加齢黄斑変性 と異なる以下の特徴を持つ。
発症年齢 :平均57.9 ± 13.4歳と比較的若年
性差 :患者の60〜92.1%が女性。女性である確率は通常加齢黄斑変性 比で約5倍1)
ドルーゼン の大きさ :50〜75μm径の小型で均一なドルーゼン 1)
分布 :後極部から周辺部、乳頭周囲に及ぶことがある
Q
基底層ドルーゼンと加齢黄斑変性は同じ病気か?
A
加齢黄斑変性 スペクトラムの一部ではあるが、比較的若年・女性優位の発症、特徴的な”stars-in-the-sky”や”saw-tooth”のイメージング所見、CFH遺伝子変異との強い関連など、独自の特徴を持つ。加齢黄斑変性 の前駆病変としても位置づけられており、長期観察で黄斑 合併症に進行することがある。1)
Egle Preiksaitiene; Viktorija Gurskytė; Violeta Mikštienė; Rasa Strupaitė-Šileikienė; Ramūnas Dzindzalieta; Gunda Petraitytė. Evidence for the Pathogenicity of a CFH Variant in a Multigenerational Family with Cuticular Drusen. Medicina (Kaunas). 2025 Sep 11; 61(9):1649 Figure 2. PMCID: PMC12472062. License: CC BY 4.0 (
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ ).
発端者の右眼(A)および左眼(B)の眼底写真では、後極部に多数の小型で硬い黄色ドルーゼン を認める。
初期には自覚症状に乏しく、ほとんどの患者は晩年まで無症状のまま経過する。黄斑部 にドルーゼン が存在しても、網膜 外層の障害が生じなければ無症状である。
長期にわたりドルーゼン が存在すると、RPE 機能障害から網膜 外層障害へと進行する。中心窩 に及ぶと以下の症状が出現する。
散瞳 下眼底検査 では、網膜 全体に多数の小さな黄色いドルーゼン が観察される。RPE の下に複数の硬性の隆起した黄白色ドルーゼン として認識される。
臨床表現型は3つに分類される。1)
Phenotype 1
分布 :黄斑部 に集中する型。
合併症リスク :GAの5年推定発生率12.9%と3型中最も低い。
Phenotype 2
分布 :後極部に散在し、末梢・鼻側へ拡大する型。
合併症リスク :GAの5年推定発生率38.7%。MNVリスクも高い。
Phenotype 3
分布 :大型ドルーゼン (>200μm)が混在する型。
合併症リスク :GAの5年推定発生率43.6%と最も高い。
主な臨床所見を以下に示す。
大型ドルーゼン (>200μm)の合併 :25〜59.3%に認め、60歳以上では色素異常を伴う1)
乳頭周囲への進展 :63.3〜75.3%に認められる1)
色素性RPE 変化 :最も一般的な合併所見(47.5%)
OCT 所見 :RPE -BLの三角形の隆起、“saw-tooth”(鋸歯状)パターンが特徴的1)
OCT では3つのタイプに分類される。1)
Type 1(33%) :浅いRPE -BL隆起
Type 2(49%) :鋸歯状パターン(most typical)
Type 3(18%) :mound(丘状)パターン
基底層ドルーゼンの病因は完全には解明されていない。現在明らかとなっているリスク要因を以下に示す。
遺伝的要因
CFH遺伝子 p.Tyr402His変異 :最も強い関連が確認されている。histidine allele頻度はcuticular drusen加齢黄斑変性 患者で70%と、通常加齢黄斑変性 (55%)より高い1)
CFH遺伝子の稀なバリアント :患者の8.8%に同定される。p.Arg1210Cysはcuticular drusenに特異的と推定される1)
FBLN5遺伝子変異 :関連が報告されている1)
加齢黄斑変性 共通の高リスクSNPs :CFH, ARMS2, CFB, C2, C3, APOEとの関連がある1)
性差・家族歴
患者の60〜92.1%が女性であり、女性であることが独立したリスク因子となる1)
BLD患者の44〜53%に加齢黄斑変性 の家族歴がある
全身疾患との関連
MPGN(膜性増殖性糸球体腎炎)type II :補体 代替経路の異常が眼と腎臓の両方で類似した沈着物を引き起こす。長期のMPGN患者(>16ヶ月)全員にdrusen様沈着が認められる1)
C3糸球体腎炎 :類似の眼所見が報告されている1)
緻密沈着物病(dense deposit disease)患者の80%にcuticular drusenが認められる
予防・日常のケア
視力 に変化がなくても、若年(50歳代)から定期的な眼底検査 を受けてください。
AMD や基底層ドルーゼンの家族歴がある場合は、特に早期からの眼科的フォローアップが重要です。
腎疾患(MPGNなど)の診断がある場合は、眼科的検査も受けることをお勧めします。
自宅でのアムスラーチャートによるセルフモニタリングが、合併症の早期発見に有用です。
Q
腎臓の病気と関連があるのはなぜか?
A
CFH遺伝子変異による補体 代替経路の異常が、眼(RPE -ブルッフ膜 間)と腎臓(糸球体基底膜)の両方に類似の沈着物を形成するためである。特に若年患者(5〜30歳)ではMPGNや非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)のスクリーニングが推奨される。1)
診断には複数のイメージングモダリティを組み合わせる。眼底写真(CFP)・SD-OCT ・FA ・眼底自発蛍光 (FAF )のうち3つ以上での確認が推奨される。1)
各検査の典型的所見を以下に示す。
検査法 典型的所見 特記事項 眼底写真(CFP) 多数の小黄色ドルーゼン 後極〜周辺に散在 FA ”starry-sky”パターン 動静脈相に多数の過蛍光点1) FAF 中心低自発蛍光+過蛍光リム 存在例62%、非存在例100%の正確な同定率1) SD-OCT RPE -BLの三角形隆起・“saw-tooth”3タイプに分類1)
ICG造影 (ICGA ) :早期過蛍光を呈するが、約50%でドルーゼン が検出できない。1)
鑑別診断のポイント
硬性ドルーゼン ・軟性ドルーゼン :大きさや形状、OCT 所見で鑑別。硬性ドルーゼン は均一で辺縁が明瞭、軟性ドルーゼン はより大型で辺縁不明瞭1)
網状偽ドルーゼン (reticular pseudodrusen) :OCT ・FAF での分布パターンが異なる
常染色体優性ドルーゼン :家族歴と遺伝子検査で鑑別
パターン黄斑 ジストロフィ・Best病 :電気生理検査や遺伝子検査が有用
色素上皮剥離(PED )との鑑別 :OCT で隆起RPE 内部が低反射→色素上皮剥離、高反射→ドルーゼン
ドルーゼン そのものを消失させる治療法は確立されていない。孤立性の基底層ドルーゼンに対しては治療適応がなく、定期的な経過観察が基本となる。
合併症の発生頻度として以下が報告されている。1)
脈絡膜新生血管 (MNV/CNV ) :12.5%に検出。76.7%が1型MNV。Phenotype 2, 3でリスクが高い
地図状萎縮 (GA) :18.5〜25%。60歳以下でも9.2%に発生
卵黄状病変 :白人24.2%、アジア人1.2%。MNV合併30%
合併症別の治療方針を以下に示す。
CNV合併時
抗VEGF薬 硝子体内注射 :第一選択。ラニビズマブ ・アフリベルセプト ・ブロルシズマブ などを使用。
光動力学的療法(PDT ) :抗VEGF薬 が無効または適応外の場合に考慮。
GA合併時
有効な治療法なし :進行を止める確立した方法はない。
継続観察 :CNV 発現の早期発見を目的に定期検査を継続する。
卵黄状病変
経過観察 :自然消退することがある。
CNV 合併例 :抗VEGF薬 の適応を検討。
サプリメントについて
基底層ドルーゼン患者に対するAREDS(Age-Related Eye Disease Study)サプリメントの有効性は確立されていない。一般的なAREDS処方例として、オキュバイトプリザービジョン2(3錠 分3)やサンテルタックス20+ビタミン&ミネラル(3錠 分3)などがある。
自己モニタリング
アムスラーチャートを使った日常的なモニタリングにより、変視症 ・中心暗点 の変化を早期に検出できる。
治療における注意点
ドルーゼン そのものの治療法がないため、合併症(脈絡膜新生血管 ・GA)の早期発見が最重要である。
MNVはPhenotype 2, 3で特にリスクが高く、これらの表現型では観察間隔を短縮することを検討する。1)
若年患者(60歳以下)でもGAは9.2%に発生するため、年齢による油断は禁物である。1)
若年発症例(5〜30歳)ではMPGNやaHUSのスクリーニング検査も推奨される。
Q
治療法はあるのか?
A
ドルーゼン そのものを消失させる治療法は現時点では存在しない。CNV が合併した場合は抗VEGF薬 硝子体内注射 や光動力学的療法(PDT )が適応となる。GAには確立された治療法がなく、継続的な経過観察が重要である。詳細は「標準的な治療法」の項 を参照。
基底層ドルーゼンは、RPE 基底膜とブルッフ膜 内膠原層の間に蓄積する多形性物質である。その構成成分は膜様残渣物・非エステル化コレステロール・補体 などからなる。
形成メカニズム
RPE はリポ蛋白の排泄機能を担うが、加齢とともにその代謝回転が悪化する。変性した細胞外基質が蓄積し、ドルーゼン の基盤が形成される。CFH遺伝子変異(特にTyr402His)による補体 カスケードの過剰活性化がこの過程を加速させる。1)
ドルーゼン のライフサイクル
Cuticular drusenは動的な存在であり、成長・癒合・退縮のサイクルを繰り返す。1)
成長・癒合期 :個々のドルーゼン が拡大し、隣接するドルーゼン と融合する
退縮期 :RPE の異常が蓄積し、ドルーゼン が消退→RPE 萎縮→地図状萎縮 へと進行
血管新生 :Bruch膜の破綻をきっかけに脈絡膜 からの新生血管 が侵入(CNV 形成)
卵黄状病変の経過
卵黄状病変(vitelliform lesion)は以下の順序で進行する。1)
Vitelliform material形成
脈絡膜 血管の過透過性亢進
RPE 萎縮
脈絡膜 菲薄化
Q
なぜ若い人にも発症するのか?
A
CFH遺伝子の稀なバリアント(p.Arg1210Cysなど)の保有者はより若年で発症する傾向がある。CFH遺伝子変異による補体 代替経路の慢性的な過剰活性化が、通常のAMD より早期にドルーゼン 形成を引き起こすと考えられている。1)
補体 経路を標的とした治療
CFH遺伝子変異による補体 代替経路の異常が病態基盤であることから、補体 経路を標的とした化合物が活発に研究されている。全身投与は副作用リスクが高いため、局所(眼内)投与が有望なアプローチとして注目されている。
マルチモーダルイメージングによる予後予測
マルチモーダルイメージングの進歩により、合併症リスクの高い患者の早期同定が可能となりつつある。1) Phenotype分類(1〜3)は予後予測に有用であり、Phenotype 2, 3はGAおよびMNVの高リスク群として特に厳重な経過観察が求められる。1)
個別化医療の可能性
遺伝子解析の進歩により、CFH遺伝子をはじめとするAMD 関連遺伝子のバリアントに基づいた個別化医療の実現が期待されている。特に稀なバリアント(p.Arg1210Cys等)の保有者では、早期スクリーニングや介入のターゲットとなりうる。
Fragiotta S, Fernández-Avellaneda P, Breazzano MP, Scuderi G. Clinical Manifestations of Cuticular Drusen: Current Perspectives. Clinical ophthalmology (Auckland, N.Z.). 2021;15:3877-3887. doi:10.2147/OPTH.S272345. PMID:34584401; PMCID:PMC8464647.
van de Ven JP, Boon CJ, Smailhodzic D, Lechanteur YT, den Hollander AI, Hoyng CB, et al. Short-term changes of Basal laminar drusen on spectral-domain optical coherence tomography. Am J Ophthalmol. 2012;154(3):560-7. PMID: 22626619.
Russell SR, Mullins RF, Schneider BL, Hageman GS. Location, substructure, and composition of basal laminar drusen compared with drusen associated with aging and age-related macular degeneration. Am J Ophthalmol. 2000;129(2):205-14. PMID: 10682974.
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