この疾患の要点
ドイン蜂巣状網膜ジストロフィ(DHRD)は、EFEMP1遺伝子のR345W変異を原因とする常染色体優性遺伝 の網膜 ジストロフィである。
後極部・乳頭周囲から血管弓に沿って放射状に配列するドルーゼン が特徴的な所見である。
加齢黄斑変性 (AMD )と臨床的に類似し、両者はドルーゼン ・ブルッフ膜 肥厚・RPE 萎縮・補体 活性化という共通の病態を持つ。
40〜50代に視力 低下・変視症 などの症状が出現し、進行期には脈絡膜新生血管 (CNV M)が合併することがある。
確定診断にはEFEMP1遺伝子検査が有用である。
CNV Mに対しては抗VEGF硝子体内注射 が治療選択肢となる。
ナノ秒レーザー(2RT)による治療は症例報告レベルで機能改善が報告されているが、標準治療としての確立には至っていない。
ドイン蜂巣状網膜ジストロフィ(Doyne Honeycomb Retinal Dystrophy; DHRD)は、後極部・乳頭周囲に白色のドルーゼン 様沈着物が放射状に配列する常染色体優性遺伝 の網膜 ジストロフィである。別名「マラッティア・レベンティネーゼ(Malattia Leventinese; MLVT)」「家族性優性ドルーゼン 」とも呼ばれる。OMIM番号は#126600である。1)
1899年、英国の眼科医Robert Doyneが4姉妹にこの所見を認め、「蜂巣状パターン」として初めて記載した。1925年にはスイスのVogtがLeventine渓谷で同一表現型を報告し、「マラッティア・レベンティネーゼ」と命名した。1999年、StoneらはDHRDとMLVTの両家系においてEFEMP1 遺伝子の同一変異(R345W)を同定し、両者が同一疾患であることを証明した。
原因遺伝子は染色体2p16.1に位置するEFEMP1 (EGF-containing fibulin-like extracellular matrix protein 1)で、fibulin 3タンパク質をコードする。2) このミスセンス変異Arg345Trp(R345W)がブルッフ膜 と網膜色素上皮 (RPE )の間に異常沈着物を引き起こし、ドルーゼン 形成をもたらす。1) 加齢黄斑変性 とドルーゼン ・ブルッフ膜 肥厚・RPE 萎縮・補体 活性化を共通の病態として持つ。1)
Q
DHRDと加齢黄斑変性はどう違うのか?
A
加齢黄斑変性 は加齢を主因とする多因子疾患で、高齢者に発症する。一方DHRDはEFEMP1のR345W変異という単一遺伝子変異が原因で、若年から中年(40〜50代)に症状が出現し、家族歴を伴う常染色体優性遺伝 をとる。ドルーゼン の分布は後極部・乳頭周囲の放射状配列が特徴的である。両者はドルーゼン 形成・ブルッフ膜 変化・RPE 萎縮という共通の病態経路を持つため、DHRDは加齢黄斑変性 の研究モデルとしても注目されている。
Kaiyan Zhang; Xuyang Sun; Yingying Chen; Qionglei Zhong; Lin Lin; Yuan Gao; Fanlin Hong. Doyne honeycomb retinal dystrophy/malattia leventinese induced by EFEMP1 mutation in a Chinese family. BMC Ophthalmol. 2018 Dec 12; 18:318. Figure 3. PM
CI D: PMC6292057. License: CC BY.
OCT scanning. A hyperreflective thickening was noticed beneath the RPE accompanied by wavy uplift (a: right eye; b:left eye)
初期は無症状で経過することが多い。40〜50代になると以下の症状が出現する。
霧視 ・中心視のぼやけ :コントラスト知覚の低下を伴うことがある。1)
変視症 :中心部のゆがみとして自覚される。
暗点 :中心または傍中心暗点 として出現する。
色覚異常 :進行期に認められる。
視力 低下 :CNV Mが合併すると著明な視力 低下をきたす。進行期には視力 20/200以下となることがある。2)
早期〜中期所見
後極部・乳頭周囲のドルーゼン :血管弓に沿った早期発症のドルーゼン 。放射状配列が特徴的。1)
2種類のドルーゼン 形態 :大きな円形ドルーゼン と小さな放射状ドルーゼン の2種類が認められる。2)
OCT 所見 :RPE /ブルッフ膜 複合体のびまん性変化を示す。神経感覚層は比較的保たれる。ドルーゼン 様PED ・ダブルレイヤーサインが確認される。1) 2)
進行期所見
ドルーゼン 融合・色素変化 :ドルーゼン が融合し、RPE に色素異常が生じる。2)
RPE 萎縮・瘢痕化 :中心部の地図状萎縮 へ進行することがある。2)
CNV M合併 :まれだが視力 低下の主因となる。線維血管性PED を呈することがある。2)
網膜電図 振幅低下 :全視野網膜電図 で振幅低下が確認される。1)
マルチモーダルイメージングによる評価が診断と経過観察に有用である。2) 眼底自発蛍光 (FAF )では、ドルーゼン 部に高自発蛍光、RPE 萎縮部に低自発蛍光を認める。2) フリッカー閾値検査(FDT )では視野感度の低下が検出される。1)
Q
症状の重症度には個人差があるか?
A
同一家系内でも重症度には差がある。一部の症例では進行期まで良好な視力 が維持される一方、CNV Mを合併した症例では急激な視力 低下をきたすことがある。定期的な眼底検査 によるCNV Mの早期発見が重要である。
DHRDは単一遺伝子変異による常染色体優性遺伝 疾患である。以下に遺伝子情報を示す。
遺伝子情報の概要を以下に示す。
項目 内容 原因遺伝子 EFEMP1 (2p16.1)変異 エクソン10・R345W 遺伝形式 常染色体優性 コードタンパク fibulin 3
EFEMP1はEGF含有フィブリン様細胞外マトリックスプロテイン1をコードし、ブルッフ膜 の細胞外マトリックス成分として機能する。R345W変異によりタンパク質の折りたたみ異常が生じ、RPE とブルッフ膜 の間に基底層沈着物が蓄積する。1) また、EFEMP1変異はEGFRシグナルの抑制を通じてコレステロール排出に関わるCES1を阻害し、脂質蓄積を促進すると考えられている。加齢黄斑変性 とDHRDのマウスモデルでは補体 活性化の亢進も認められる。1)
予防・日常のケア
DHRDは遺伝性疾患のため、発症そのものを予防する方法は現時点では存在しません。
EFEMP1変異が確定した患者の子供や兄弟姉妹は、眼科スクリーニングの受診をお勧めします。
定期的な眼底検査 を受け、CNV Mの早期発見に努めましょう。
視力 変化・歪みを感じた場合はすぐに眼科を受診してください。
DHRDの診断は若年発症・家族歴・特徴的なドルーゼン 分布のパターン認識から始まる。2) マルチモーダルイメージングによる評価と遺伝子検査の組み合わせが確定診断に有用である。2)
パターン認識 :若年(40〜50代)発症・両眼対称性・後極部〜乳頭周囲の放射状ドルーゼン 分布が診断の手がかりとなる。2)
OCT :RPE /ブルッフ膜 複合体変化・ドルーゼン 様PED ・ダブルレイヤーサイン・神経感覚層の保持を確認する。2)
眼底自発蛍光 (FAF ) :ドルーゼン の高自発蛍光・RPE 萎縮部の低自発蛍光パターンを評価する。2)
遺伝子検査 :NextSeq 550(Illumina)を用いた次世代シーケンシングでEFEMP1変異を確定する(20×以上のカバレッジ)。ACMGガイドラインに基づき、c.1033C>T(R345W)は病原性変異(PM2・PP3・PP5基準)と分類される。1)
類似した眼底所見を示す疾患との鑑別が重要である。
疾患 特徴 鑑別ポイント 加齢黄斑変性 高齢発症・多因子 発症年齢・家族歴なし Sorsby変性 TIMP3変異 網状ドルーゼン スターガルト病 ABCA4変異 黄斑部 フレックII型MPGN 全身性疾患 腎機能異常を伴う
Q
遺伝子検査は確定診断に必ず必要か?
A
臨床所見が典型的な場合(若年発症・両眼対称性の後極部ドルーゼン ・家族歴)は、遺伝子検査なしでも臨床診断は可能である。しかし確定診断・家族スクリーニング・遺伝カウンセリング を目的とする場合には、EFEMP1のR345W変異確認が推奨される。
DHRDには現時点で確立された疾患修飾療法はない。治療方針はCNV M合併の有無によって異なる。
定期的な経過観察 :眼底検査 ・OCT により、CNV Mの早期発見を目的とした経過観察を行う。
視覚リハビリテーション :進行期で視力 低下が著しい場合は、視覚リハビリテーション や移動訓練が提供される。2)
抗VEGF硝子体内注射 がCNV M合併例に対する治療選択肢となる。ラニビズマブ (0.5mg)の硝子体内注射 が用いられ、注射後に視力 改善と漿液性網膜剥離 (SRF)の消失が報告されている。2)
Parameswarappa and Raniが報告した44歳女性(DHRD)は、1型脈絡膜新生血管 膜を合併し、ラニビズマブ 1回注射後にBCVAが20/40から20/30に改善し、SRFの消失を認めた。2) 光線力学療法(PDT ・verteporfin)によるCNV M治療の報告もある。2)
治療における注意点
現時点では大規模RCTによって有効性が確立された治療法はない。
抗VEGF治療の反応性は個人差があり、繰り返し注射が必要となる場合がある。
CNV Mの自然経過での進行も起こり得るため、治療後も定期的な経過観察が必要である。
Q
ナノ秒レーザー(2RT)治療は受けられるか?
A
2RT(ナノ秒パルスレーザー)はDHRDに対する新規治療として症例報告で機能改善が報告されているが、現時点では研究段階の治療であり、標準治療として確立されていない。詳細は「最新の研究と今後の展望」の項 を参照されたい。
EFEMP1(EGF-containing fibulin-like extracellular matrix protein 1)はブルッフ膜 の細胞外マトリックス成分として機能する。1) R345W変異によりタンパク質の異常折りたたみが生じ、RPE とブルッフ膜 間に基底層沈着物が蓄積する。1) この沈着物がドルーゼン 形成の基盤となる。
DHRDと加齢黄斑変性 は以下の病態経路を共有する。1)
ドルーゼン 形成 :ブルッフ膜 への異常物質沈着
ブルッフ膜 肥厚 :膜の構造的変化による透過性低下
RPE 萎縮 :栄養障害による色素上皮変性
補体 活性化 :両疾患のマウスモデルで補体 系亢進が確認されている
EGFRシグナルへの影響として、EFEMP1 R345W変異はEGFR経路を過剰抑制し、コレステロール排出に関わるCES1の発現を低下させる。これにより脂質蓄積が促進され、ドルーゼン 形成につながると考えられている。
電気生理学的検討では、全視野網膜電図 で振幅低下が認められ、桿体・錐体双方の機能障害が示唆される。1) FDT 視野検査 では視野感度の有意な低下が確認される。1)
Q
DHRDはなぜ加齢黄斑変性研究に役立つのか?
A
DHRDは加齢黄斑変性 と同一の分子・病態経路(ブルッフ膜 変化・RPE 萎縮・補体 活性化)を持ちながら、単一遺伝子変異(R345W)によって発症するため、病態の因果関係を明確に解析できる。加齢黄斑変性 はゲノム・環境の多因子疾患であり機序解析が困難だが、DHRDモデルはその共通機序を研究するのに適したシステムとなる。
2RT(2-minute Retina Treatment)は超低エネルギーのナノ秒パルスレーザー(400μm径・3ナノ秒・532nm・0.15〜0.45mJ)を用いる非侵襲的治療法である。RPE のデブリドマンと創傷治癒反応を介した層再形成を促進する機序が想定されている。1)
Cusumanoら(2023)は、DHRD患者3例(41〜46歳)を対象に2RT治療を施行し、最長30ヶ月のフォローアップを報告した。1) 主な結果は以下の通りであった。
視力 :Case 1で2〜10文字の改善を認めた
FDT 視野感度 :Case 2でOD MD −12dBからの改善、Case 3でOS MD −9dBからの改善を認めた
全視野網膜電図 振幅 :Case 1・2で有意な増加が確認された
安全性 :治療関連有害事象は認められなかった(ただしCase 1の24ヶ月時に嚢胞様黄斑浮腫 が出現)
また、桿体特異的な網膜電図 改善(全視野ERG 改善あり・多焦点網膜電図 変化なし)が認められ、桿体系を主標的とした作用機序が示唆される。1) さらに未治療の僚眼にも機能改善が見られた症例があり、全身的な間接誘導効果の可能性が考察されている。1)
本報告はケースシリーズ(3症例)のエビデンスレベルにとどまり、大規模RCTは未実施である。繰り返しレーザーセッションの有効性・最適プロトコールの確立が今後の課題とされている。1)
Cusumano A, Falsini B, D’Ambrosio M, et al. Long-term structural and functional assessment of Doyne honeycomb retinal dystrophy following nanosecond 2RT laser treatment: a case series. Case Rep Ophthalmol. 2023;14:626-639.
Parameswarappa DC, Rani PK. Utility of pattern recognition and multimodal imaging in the diagnosis and management of doyne honeycomb retinal dystrophy complicated with type one choroidal neovascular membrane. BMJ Case Rep. 2021;14:e237635. doi:10.1136/bcr-2020-237635. PMID:33526522; PMCI D:PMC7852973.
Tsang SH, Sharma T. Doyne Honeycomb Retinal Dystrophy (Malattia Leventinese, Autosomal Dominant Drusen). Adv Exp Med Biol. 2018;1085:97-102. PMID: 30578491.
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