BVMD
ベスト卵黄状黄斑ジストロフィ:最も一般的なサブタイプ。常染色体優性遺伝。小児〜青年期(3〜15歳)に発症。有病率1/5,000〜1/67,000。古典的「目玉焼き」状黄斑病変が特徴。
ベスト病(Best disease)は、目玉焼き状(卵黄状)の黄斑病変で知られる黄斑ジストロフィである。ベストロフィノパチー(bestrophinopathy)はBEST1遺伝子(旧称VMD2)の変異により引き起こされる遺伝性網膜疾患群の総称であり、ベスト病(BVMD)はその最も一般的なサブタイプにあたる。網膜色素上皮(RPE)を主に障害し、卵黄状物質の黄斑への蓄積を特徴とする。
1883年にJ.E. Adamsが初めて報告し、1905年にFriedrich Bestが常染色体優性遺伝の家族性疾患として詳細に記述した。
BEST1遺伝子は染色体11q12.3に位置し、11エキソンで構成される。585アミノ酸の膜貫通タンパク質(Best1)をコードし、RPE基底側細胞膜に局在するホモ五量体構造のCa²⁺活性化塩化物チャネル(CaCC)として機能する9)。bestrophin(ベストロフィン)は網膜色素上皮(RPE)細胞の細胞膜におけるCl⁻イオン輸送に関与するイオンチャネルタンパク質である。現在250以上の病原性変異が報告されており、遺伝性網膜ジストロフィ(IRD)患者全体の3.9%〜7.8%でBEST1変異が検出される。小児IRD患者に限ると18〜36%に達する10)。
小学校低学年頃に視力低下を主訴に受診するのが普通であるが、中年以降の初診も決して珍しくない。初診時の視力は0.1〜0.5程度であり、視力・眼底所見に左右差がみられることが多い。
ベストロフィノパチーの主要サブタイプは以下の4つである。
BVMD
ベスト卵黄状黄斑ジストロフィ:最も一般的なサブタイプ。常染色体優性遺伝。小児〜青年期(3〜15歳)に発症。有病率1/5,000〜1/67,000。古典的「目玉焼き」状黄斑病変が特徴。
ARB
常染色体劣性ベストロフィノパチー:常染色体劣性遺伝。4〜40歳に発症。両眼対称性の多巣性網膜下黄色沈着物。遠視・眼軸長短縮を伴い、閉塞隅角緑内障リスクがある。有病率約1/1,000,000。
AVMD
成人発症型卵黄状黄斑ジストロフィ:30〜50歳で発症。BVMDより病変が小さく進行が緩徐。
ADVIRC
常染色体優性硝子体網膜脈絡膜症:卵黄状病変を欠く。赤道から鋸状縁にかけての色素帯が特徴。有病率約1/1,000,000。
BVMDは常染色体優性遺伝だが、不完全浸透と多様な表現型を示す。変異遺伝子を持っていても発症しない場合がある。一方、ARBは常染色体劣性遺伝であり、両親がともに保因者の場合に子どもが発症する確率は25%となる。いずれの場合も遺伝カウンセリングの受診が推奨される。
BVMDは小児期〜青年期(3〜15歳が典型的)に発症する。初期は視力への影響は最小限で、眼底所見の劇的さに比して視力は良好に保たれることが特徴である。視力は卵黄期までは比較的良好であるが、病変が崩れ始めると低下することが多い。
BVMDには6つの臨床病期がある。以下の表に病期別の眼底所見と視力の目安を示す。
| 病期 | 眼底所見 | 視力 |
|---|---|---|
| I 前卵黄状期 | RPE変化のみ/正常 | 正常 |
| II 卵黄状期 | 「目玉焼き」状病変 | 正常〜軽度低下 |
| III 偽蓄膿期 | リポフスチン層形成 | II期と同等 |
| IV 卵黄破裂期(炒り卵期) | スクランブルエッグ状 | 同等〜軽度低下 |
| V 萎縮期 | RPE/網膜萎縮 | 20/30〜20/200 |
| VI CNV期 | 脈絡膜新生血管 | ≦20/200 |
第I期(前卵黄状期)は視力正常でEOGのみ異常を示す。第II期(卵黄状期)では古典的な「目玉焼き」状の卵黄状病変が出現し、30%の患者に異所性病変を認める。第III期(偽蓄膿期)では黄色物質が重力により下方にのみ沈着して偽蓄膿様の所見を呈する。第IV期(卵黄破裂期)は病変が崩れた「スクランブルエッグ」状の外観を呈し、いわゆる「炒り卵期」とも称される。第V期(萎縮期)では中心RPEおよび網膜の萎縮が生じる。第VI期(CNV期)では約20%の患者に脈絡膜新生血管が発生する。なお、視力低下は成人になってから生じることが多く、0.1より悪くなることはまれである。
すべての症例がすべての病期を順に経るわけではなく、経過は個人差が大きい。
マルチモーダルイメージングによる追加所見として以下が知られている1)。
ARBの臨床所見9):両眼対称性の多巣性網膜下黄色沈着物、FAFで過自発蛍光、OCTで網膜下液・網膜内嚢胞・視細胞外節の伸長、眼軸長短縮による閉塞隅角緑内障リスク、網膜電図正常、EOGの光ピーク消失。
初期のBVMDでは、錐体視細胞がまだ機能を維持しているためである。OCT上でONL厚やEZの完全性が保たれている間は視力は維持される。眼底所見と視力の乖離はBVMDの臨床的特徴であり、診断の手がかりとなる。
ベストロフィノパチーの原因遺伝子はBEST1(VMD2)である9)。遺伝形式は基本的に常染色体優性(BVMD)であるが、近年常染色体劣性の病態(ARB)も存在することが明らかになっている。BVMDは常染色体優性遺伝であり、不完全浸透と多様な表現型を特徴とする。ARBは常染色体劣性遺伝であり、ホモ接合または複合ヘテロ接合変異によって発症する9)。
代表的な変異として以下が報告されている。
卵黄状パターンはBEST1以外の遺伝子変異でも生じることがあり、鑑別が必要な遺伝子としてPRPH2、IMPG1、IMPG2、THRBが報告されている3), 7)。特にTHRB遺伝子(甲状腺ホルモン受容体β)の変異が卵黄状黄斑ジストロフィを引き起こすことが報告されており、家族内表現型の多様性が高い3)。
ARBでは遠視・眼軸長短縮を伴うことが多く、閉塞隅角緑内障の発症リスクに注意が必要である9)。
ベストロフィノパチーの診断には、電気生理学的検査・形態学的検査・遺伝子検査を組み合わせる。
EOG
OCT/FAF
OCT:病変の局在・組成を評価。病変型分類(vitelliform/mixed/SRF/atrophy)に有用。EZ破壊が視力低下と最も強く相関。FAF:病期に応じた自発蛍光の変化を確認。
OCTA
各検査の詳細を以下に述べる。
BVMDおよびベストロフィノパチーに対する根治的治療法は現時点で存在しない。対症療法・ロービジョンケアが主体となる。治療の主目標は合併症(特にCNV)の早期発見と対処、および視機能の維持である。
滲出性MNV(脈絡膜新生血管)が確認された場合は抗VEGF療法の適応となる。萎縮期に出現したCNVに対して抗VEGF療法が選択肢となる。非滲出性MNVへの治療は萎縮変化を加速する可能性があるため、無治療経過観察が推奨される1)。
抗VEGF治療の結果を以下の表に示す。
| 症例 | 薬剤・回数 | 転帰 |
|---|---|---|
| 12歳女児・脈絡膜新生血管 | ベバシズマブ | 20/125→20/206) |
| 12歳男児・MNV | ラニビズマブ2回 | 2年間MNV退縮8) |
| 28歳女性・CME | アフリベルセプト3回 | 20/20、15ヶ月維持5) |
特に注目すべき報告として、ラニビズマブ(0.5mg/0.05mL)2回投与後にMNVが退縮し、2年間にわたり安定が維持された症例がある8)。また同症例ではラニビズマブ注射後に卵黄状沈着物の一時的な消退が観察された。これは初めての報告である8)。
ARBに合併した囊胞様黄斑浮腫(CME)に対しては、アフリベルセプト2.0mg/0.05mL 3回投与で視力20/20への回復が得られ、15ヶ月間維持された5)。
視力予後はそれほど悪くない。左右どちらかの眼は矯正視力0.5以上を保つことができる例が多く、萎縮期に至っても社会的視覚機能を保持できる患者が少なくない。ただしCNVが合併した場合は急速な視力低下をきたすため、定期的な眼科検査によるCNVの早期発見が重要となる。
現時点では根治的治療法はなく、合併症への対処が中心となる。CNV合併時は抗VEGF療法が有効で、視力改善の報告がある。遺伝子治療については、犬モデルでAAVベクターによる治療が劇的な効果を示しており、Phase 1/2臨床試験が計画されている。詳細は「最新の研究と今後の展望」の項を参照。
Best1はRPE基底側細胞膜に存在するホモ五量体であり、中央にイオン細孔を形成する9)。Ca²⁺活性化塩化物チャネル(CaCC)として機能し、RPEのイオン輸送・液体ホメオスタシスに関与する9)。
犬モデルの研究から、RPE頂位微絨毛の発達不全が錐体外節の被覆不全を引き起こし、微小剥離が生じることが明らかになっている2)。この微小剥離は光に反応して動的に変化し、明所で拡大・暗所で縮小することが確認された2)。
リポフスチンの蓄積はBEST1遺伝子異常の一次的影響ではなく、視細胞とRPEの接着喪失の結果として生じる1)。RPEのポンプ機能の喪失が卵黄状物質の蓄積を促進する主要な原動力となる1)。
ブルッフ膜への機械的・虚血的・酸化ストレスが継続的にかかることでVEGFが産生され、MNVが発生すると考えられている8)。滲出性MNVは急速に成長するのに対し、非滲出性MNVは緩徐な経過をたどる1)。
犬のベスト病モデルを用いた遺伝子治療研究が大きな進展を遂げている。
AAV2/2-hVMD2-cBEST1ベクターを用いた遺伝子治療をBVMDの犬モデルに施行した研究では、偽前房蓄膿期の病変が2週間以内に縮小し、RPEと視細胞の接触回復とインターフェースの修復が確認された2)。治療効果は33ヶ月以上にわたり安定して維持された2)。
この結果に基づき、Phase 1/2ヒト臨床試験が計画されている2)。遺伝子治療は現時点では前臨床段階であり、ヒトへの応用は今後の臨床試験の結果を待つ必要がある。
OCTA(光干渉断層血管撮影)の普及により、従来の蛍光眼底造影(FA)やICGAでは検出困難だった静止型(非滲出性)MNVが検出可能となった4)。これによりベスト病患者でのMNV有病率の推定値は最大65%に上方修正されており1)、疾患の自然経過の理解が大きく変化しつつある。
THRB遺伝子(甲状腺ホルモン受容体β)の変異が卵黄状黄斑ジストロフィを引き起こすことが報告され、BEST1遺伝子変異陰性の患者の一部を説明しうる新たな知見となっている3)。また、IMPG2変異がARBとAVMDの両方の表現型を引き起こしうることも明らかにされており7)、遺伝的原因の多様性が解明されてきている。
OCTを用いた病変型分類(vitelliform型・mixed型・SRF型・atrophy型)が体系化され1)、疾患進行の予測や治療適応の判断に活用される基盤が整いつつある。EZ(視細胞楕円体帯)の完全性が視力予後の最も重要な予測因子として同定されている1)。