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小児眼科・斜視

視神経乳頭コロボーマ

視神経乳頭コロボーマは、視神経乳頭に異常な拡大と境界明瞭な白色陥凹を呈する先天異常である。胎生7週に閉鎖するとされる眼杯裂(胎生裂)の閉鎖不全(コロボーマ)によって生じる。網膜血管は1か所から起始せず、陥凹縁や陥凹内のさまざまな部位から起始する。

眼杯裂の閉鎖不全が後部(視神経側)に限局して起こった場合に視神経コロボーマが生じる。前方から後方にかけてより広範な閉鎖不全があれば、虹彩脈絡膜コロボーマのスペクトラムを形成する。コロボーマ全体の中で視神経乳頭コロボーマは眼杯裂閉鎖不全の後端に相当し、虹彩コロボーマ(前端)から連続するスペクトラムの一部であるが、視神経乳頭単独での限局型も存在する。

ICD-10コードはH47.319(視神経)である。

朝顔症候群との鑑別が重要である。朝顔症候群では乳頭中心部にグリア増殖組織がみられ、血管が放射状に走行する。視神経乳頭コロボーマではグリア増殖はなく、陥凹が下方優位であり血管は陥凹縁や陥凹内の様々な部位から起始する点で鑑別できる。

Q 視神経乳頭コロボーマと朝顔症候群はどう違うか?
A

視神経乳頭コロボーマは下方優位の境界明瞭な白色陥凹を呈し、血管は陥凹縁や陥凹内のさまざまな部位から起始する。グリア増殖組織はみられない。朝顔症候群では乳頭中心部にグリア増殖組織が存在し、血管が乳頭周縁から放射状に走行する。両者とも視神経乳頭の先天異常であるが、眼底所見で鑑別が可能である。

視神経乳頭コロボーマの眼底写真。乳頭部に白色調の大きな陥凹性異常を認める。
視神経乳頭コロボーマの眼底写真。乳頭部に白色調の大きな陥凹性異常を認める。
Shah PK, et al. Aicardi syndrome: the importance of an ophthalmologist in its diagnosis. Indian J Ophthalmol. 2009. Figure 1a. PMCID: PMC2683450. License: CC BY.
眼底写真で、視神経乳頭部に白色調で大きくえぐれたような陥凹性病変を認め、視神経乳頭コロボーマを示している。乳頭鼻側には境界明瞭な淡色病変もみられ、先天性眼底異常の所見が示されている。

視力は乳頭黄斑線維束がコロボーマに巻き込まれているか、その程度によって決まる。1.0を超えるものから不良例まで程度はさまざまであるが、視神経の異常のために黄斑部に障害がなくとも視力は低下している例が多い。

  • 視力低下:乳頭黄斑線維束の巻き込み程度に依存する。視力不良例では廃用性斜視を呈することがある。
  • 視野欠損:乳頭下方のコロボーマに対応して上方視野欠損を生じることが多い。
  • 斜視視力不良例では廃用性斜視が続発する。

眼底では下方を中心とした視神経乳頭や眼球下方の網脈絡膜の欠損が起こる。血管の走行異常を伴い、網膜中心動脈は乳頭後方で分岐しているため多数の網膜動脈が乳頭から出ているようにみえる。乳頭上方のリムは残存することが多く、全体が陥凹している場合も典型的には上方に比較して下方が強い。

乳頭領域が陥凹し、乳頭は欠如ないし部分欠損し、周囲の脈絡膜網膜色素上皮RPE)・強膜も菲薄である。乳頭領域の陥凹より下方に、胎生裂閉鎖不全による網脈絡膜萎縮・紋理所見が存在する。

視神経乳頭コロボーマは合併範囲によって以下に分類される。

  • 視神経乳頭コロボーマ単独型:眼杯裂の後部限局の閉鎖不全による。
  • 脈絡膜コロボーマ合併型:より広範囲の眼杯裂閉鎖不全を示す。
  • 虹彩毛様体コロボーマ合併型:前端から後端まで連続する広範型。
  • Fuchsコロボーマ:軽微型であり、乳頭下方にコーヌスに類似した萎縮病変を示す。視力は比較的保たれることが多い。
  • 虹彩コロボーマ脈絡膜コロボーマをしばしば合併する。
  • 脈絡膜コロボーマを合併し陥凹領域が広い場合には小眼球を呈することがある。
  • 漿液性網膜剥離:視神経乳頭コロボーマ単独でも合併しうる。
  • 裂孔原性網膜剥離:複雑な網脈絡膜コロボーマ合併例では続発することがある。
  • 強膜濾過による低眼圧強膜欠損部位から房水が漏出する症例も報告されている7)

有病割合は3〜8/100,000と報告されている。片眼性と両眼性は同程度とされ、孤発例が多いが、しばしば家族歴がある。常染色体優性・常染色体劣性・X連鎖性など多様な遺伝形式が報告されている4)

コロボーマ全体の遺伝学的診断率は30%未満にとどまる5)。遺伝子変異が同定されない孤発例も多く、環境要因や複数の修飾遺伝子の関与が想定されている。

胎生裂(眼杯裂)は胎生4週に神経外胚葉から眼杯が形成される際に腹側に生じる。5週で完成し、6週から閉鎖が開始される。閉鎖は赤道部付近から前方(虹彩側)と後方(視神経側)に向かって進行し、7週に完了する。後方の閉鎖不全が限局すると視神経コロボーマが生じる。

遺伝子関連疾患備考
PAX2コロボーマ症候群(renal coloboma syndrome)眼球腹側の決定・胎生裂閉鎖に関与1)
CHD7CHARGE症候群第8染色体(8q12.2)、指定難病
FZD5症候性コロボーマ+小角膜Wntシグナル伝達経路受容体2)

視神経乳頭コロボーマは以下の全身症候群に合併しうる。

  • CHARGE症候群コロボーマ(C)・心奇形(H)・後鼻孔閉鎖(A)・成長障害(R)・生殖器低形成(G)・外耳異常(E)の頭文字を取った多臓器奇形症候群。CHD7遺伝子が原因遺伝子であり、指定難病に認定されている。
  • Aicardi症候群:脳梁欠損・てんかん・精神発達遅滞を伴う。女児に多い。コロボーマは脈絡網膜に多数の空白(lacunae)として現れることが多い。
  • コロボーマ症候群:PAX2遺伝子変異による。腎尿路形成異常を合併する。腎機能障害の長期フォローが必要である。PAX2のc.76delGフレームシフト変異が巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)家系で同定されており、表現型スペクトラムは従来考えられていたより広い1)
Q 視神経乳頭コロボーマに全身合併症はあるか?
A

CHARGE症候群(CHD7遺伝子変異による多臓器奇形・指定難病)、Aicardi症候群(脳梁欠損・てんかん・女児優位)、腎コロボーマ症候群(PAX2変異、腎尿路形成異常)などの全身症候群を合併しうる。両眼性の場合や全身所見がある場合は小児科コンサルト・遺伝カウンセリングが推奨される。

検眼鏡所見のみで診断が可能である。乳頭下方優位の境界明瞭な白色陥凹と特徴的な血管走行異常(陥凹縁・陥凹内からの多数の血管起始)が診断の要点である。確定診断にはエコー検査・MRI・CT・光干渉断層計OCT)を用いる。

孤発例が多いとされるが家族歴がある場合もあるため、家族歴の丁寧な聴取が必要である。

頭蓋内奇形の合併(脳梁欠損等)の検索のため頭部MRI/CTが必要である。CHARGE症候群Aicardi症候群等の全身合併症がないかを確認するために小児科へのコンサルトを行う。

検査目的
眼底検査散瞳乳頭形態・血管走行・網膜剥離の評価
OCT光干渉断層計視神経乳頭構造・黄斑構造の詳細評価
超音波検査(Bモードエコー)眼底透見不良例の網膜剥離検索
視野検査視野欠損パターンの評価(上方視野欠損等)
頭部MRI脳梁欠損・脳瘤等の中枢神経合併症検索
腎エコーコロボーマ症候群のスクリーニング
遺伝子検査PAX2・CHD7等の変異検索(両眼性・症候性の場合)
鑑別疾患鑑別ポイント
朝顔症候群(morning glory syndrome)乳頭中心にグリア増殖組織、血管は放射状走行。コロボーマでは下方優位陥凹でグリア増殖なし
乳頭周囲ぶどう腫(peripapillary staphyloma)乳頭を取り囲む強膜の後方膨隆。コロボーマは乳頭自体の欠損
乳頭部PFV/PHPV(原始硝子体動脈遺残)硝子体索・網膜ひだを伴う。コロボーマとは眼底所見が異なる
巨大乳頭症(megalopapilla)乳頭径が大きいが形態は正常に近い。陥凹・血管走行異常なし5)
視神経低形成乳頭が小さい(DM/DD比≧3.2)。コロボーマは乳頭が拡大・陥凹
緑内障視神経萎縮進行性の陥凹拡大・眼圧上昇。コロボーマは非進行性で眼圧正常

視神経乳頭コロボーマ自体は先天性の構造異常であり、根治的治療法はない。合併症の有無と種類に応じた対症療法が中心となる。

非進行性の先天異常であるため、漿液性網膜剥離などの合併症がなければ定期的な眼底観察を継続する。小児期は半年〜1年ごとの散瞳検眼鏡検査が推奨される。

漿液性網膜剥離の治療に定まった見解はなく、自然消退する症例も報告されている。数か月程度の経過観察をすることもある。経過観察後に改善がなければ手術的介入を検討する。

陥凹部の構造異常により硝子体液が網膜下腔に流入する機序が想定されており、陥凹とくも膜下腔の交通による髄液流入の可能性も示唆されている。

裂孔原性網膜剥離には硝子体手術と陥凹周囲への光凝固を行う。術後の視力予後は必ずしも良好ではない。

フィブリン糊を用いた網膜復位術がコロボーマ関連網膜剥離に施行され、コロボーマ辺縁の網膜裂孔周囲にフィブリン糊を塗布して接着を強化する手法が報告されている3)。最終視力20/50への改善が得られた症例もある。

視力不良例、特に片眼性の場合は屈折矯正と遮閉療法(健眼遮蔽)を行う。小児期の早期介入が重要である。ただし視神経自体の構造異常による視力低下では弱視治療の効果に限界がある。

Q 視神経乳頭コロボーマに伴う網膜剥離はどう治療するか?
A

漿液性網膜剥離は自然消退することもあるため、まず数か月の経過観察を行う。裂孔原性網膜剥離には硝子体手術と陥凹周囲への光凝固を行う。近年ではフィブリン糊を併用した接着強化の報告もある。ただし術後の視力予後は必ずしも良好ではない。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

眼杯は胎生4週に神経外胚葉から形成される。眼杯の腹側に胎生裂(眼杯裂)が生じ、硝子体動脈が通過する。この裂は5週に完成し、6週から閉鎖が開始される。閉鎖は赤道部付近から始まり前方(虹彩側)と後方(視神経側)に向かって進行し、7週に完了する。後方の閉鎖不全が限局すると視神経コロボーマが生じる。

閉鎖過程には上皮間葉転換(EMT)が関与する。胎生裂辺縁の神経網膜上皮細胞が基底膜を分解し間葉系形質を獲得して融合する。この過程の障害がコロボーマを引き起こす6)

PAX2遺伝子は眼球腹側の決定に関与し、胎生裂の閉鎖に関与すると考えられている。PAX2変異により腎コロボーマ症候群が生じる。PAX2のc.76delGフレームシフト変異がFSGS家系で同定されており、腎コロボーマ症候群の表現型は従来考えられていたより広い1)

FZD5遺伝子はWntシグナル伝達経路の受容体をコードする。機能低下型変異によりWntシグナルのリガンド依存性活性化が障害され、胎生裂閉鎖不全と小角膜が生じる。劣性遺伝形式をとる2)

CHD7遺伝子はクロマチンリモデリング因子をコードし、神経堤細胞の分化・遊走に関与する。変異によりCHARGE症候群が発症する。

陥凹部の構造異常により硝子体液が網膜下腔に流入する機序が想定されている。陥凹とくも膜下腔の交通による髄液流入の可能性も示唆されており、漿液性網膜剥離の治療が困難な一因とされている。

視神経乳頭コロボーマは非進行性の固定した先天異常である。網膜剥離の合併が視力予後を悪化させる主な要因となる。裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術後も視力予後は期待できないことが多い。

PAX2変異の表現型スペクトラム拡大

Section titled “PAX2変異の表現型スペクトラム拡大”

Huら(2024)はPAX2のc.76delGフレームシフト変異が巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)家系で同定されたことを報告した1)。腎コロボーマ症候群の表現型は従来考えられていたよりも広く、視神経乳頭コロボーマ症例では腎機能スクリーニングの重要性が改めて示された。コロボーマを認める患者における腎機能評価の適応を広げることが示唆される。

Cortes-Gonzalezら(2024)はFZD5のホモ接合性ミスセンス変異(p.M160V)が症候性眼コロボーマと小角膜を引き起こすことを報告した2)。劣性遺伝形式でWntシグナルのリガンド依存性活性化が障害されることが機能解析で確認された。コロボーマの遺伝学的診断率は30%未満であり、新規原因遺伝子の同定が診断向上に寄与することが期待される。

Jainら(2024)はコロボーマ関連網膜剥離にフィブリン糊併用網膜復位術を施行し、最終視力20/50への改善を報告した3)コロボーマ辺縁の網膜裂孔周囲にフィブリン糊を塗布して接着を強化する手法は、従来の硝子体手術+光凝固に対する補助的選択肢として注目される。症例数の蓄積と長期成績の検証が今後の課題である。

  1. Hu X, Lin W, Luo Z, Zhong Y, Xiao X, Tang R. Frameshift Mutation in PAX2 Related to FSGS. Mol Genet Genomic Med. 2024;12:e70006.

  2. Cortes-Gonzalez V, Rodriguez-Morales M, Ataliotis P, et al. Homozygosity for a hypomorphic mutation in FZD5 causes syndromic ocular coloboma with microcornea. Hum Genet. 2024;143:1509-1521.

  3. Jain KS, Upadhyaya A, Raval VR. Fibrin-glue-assisted retinopexy for coloboma-associated retinal detachment. Indian J Ophthalmol. 2024.

  4. Pang CP, Lam DS. Differential occurrence of mutations causative of eye anomalies in families and sporadic patients with ocular coloboma. Hum Mutat. 2005;25(4):330.

  5. Onwochei BC, Simon JW, Bateman JB, Couture KC, Mir E. Ocular colobomata. Surv Ophthalmol. 2000;45(3):175-194.

  6. Chang L, Blain D, Bertuzzi S, Brooks BP. Uveal coloboma: clinical and basic science update. Curr Opin Ophthalmol. 2006;17(5):447-470.

  7. Scemla B, Duroi Q, Duraffour P, Souedan V, Brezin AP. Transscleral filtration revealing a chorioretinal coloboma. Am J Ophthalmol Case Rep. 2021;21:101003.

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