非肉芽腫性前部ぶどう膜炎(最多)
微塵状角膜後面沈着物(KP):細かい微塵状の沈着物が特徴的。羊脂状(mutton-fat)KP は乾癬性ぶどう膜炎ではまれ。
前房細胞・フレア:中等度の炎症。HLA-B27 陽性例に比べると再燃サイクルが長いことが多い。
虹彩後癒着:慢性・反復例で形成。散瞳薬の早期投与で予防できる。
乾癬(psoriasis)は IL-23/Th17 軸を中心とする慢性免疫介在性皮膚疾患で、世界人口の1〜3%が罹患する。最も一般的な病型は尋常性乾癬(斑状乾癬)で、全乾癬の80%を占める。皮膚病変だけでなく、関節・眼・代謝などの多彩な全身合併症を生じる多臓器疾患である。
乾癬患者中のぶどう膜炎有病率は2〜9%とされる1)。全ぶどう膜炎に占める乾癬性ぶどう膜炎の割合は0.7%未満と報告されており2)、比較的まれな疾患である。デンマークの大規模コホート研究では、乾癬患者は非乾癬者に比べ前部ぶどう膜炎の発症リスクが有意に高く(HR 2.13; 95%CI 1.83–2.49)、乾癬性関節炎合併例ではさらにリスクが上昇した(HR 4.42; 95%CI 3.61–5.41)7)。
乾癬性ぶどう膜炎は男性にやや多く、平均発症年齢は40歳前半で、尋常性乾癬が最多、次いで乾癬性関節炎に合併する。HLA-A2 陽性例が多い。多くが非肉芽腫性前部ぶどう膜炎であり、関節症性乾癬ではしばしば前房蓄膿を伴う。ステロイド治療への反応は良好であるが、再発しやすく長期管理が必要である。
乾癬の眼症状はぶどう膜炎のほかにドライアイ(マイボーム腺機能不全によるものが多い)、眼瞼炎、結膜炎、上強膜炎、白内障なども含まれるが、本記事では乾癬性ぶどう膜炎を中心に解説する。
急性発症が多く、充血・眼痛・羞明・霧視が主症状である。前房蓄膿を伴う重症例では強い眼痛と著明な視力低下を呈する。後眼部病変(黄斑浮腫・硝子体炎)が合併した場合は飛蚊症・視力低下が徐々に出現する。症状はフレア(皮膚病変の再燃)と連動して出現することも多い。
ぶどう膜炎以外の眼症状(ドライアイ、眼瞼炎)は眼乾燥感・異物感・灼熱感・眼瞼縁の充血・鱗屑として自覚される。
非肉芽腫性前部ぶどう膜炎(最多)
微塵状角膜後面沈着物(KP):細かい微塵状の沈着物が特徴的。羊脂状(mutton-fat)KP は乾癬性ぶどう膜炎ではまれ。
前房細胞・フレア:中等度の炎症。HLA-B27 陽性例に比べると再燃サイクルが長いことが多い。
虹彩後癒着:慢性・反復例で形成。散瞳薬の早期投与で予防できる。
関節症性乾癬合併例
前房蓄膿:HLA-B27 関連と類似した粘稠性・不整形の白色沈着。高眼圧・角膜浮腫を伴うことがある。
急性発症・再発性:脊椎関節症パターンの再発性 AAU として出現しやすい。
重症化リスク:眼圧上昇・角膜帯状変性・続発緑内障など合併症リスクが高まる。
後眼部病変
ぶどう膜炎以外の眼合併症
乾癬性ぶどう膜炎117例(前部99例、中間部3例、後部10例、汎ぶどう膜炎5例)の解析では、合併症として硝子体混濁41.1%(65/117例)、白内障29.7%(47/117例)、後部硝子体剥離25.9%(41/117例)、眼圧上昇17%(27/117例)、ドライアイ13.3%(21/117例)が報告された1)。乾癬性関節炎に合併するぶどう膜炎では、視力 ≤0.5 に至る頻度が乾癬のみ合併例より高かった9)。
乾癬性関節炎(PsA)合併例では前房蓄膿を伴う重症の前部ぶどう膜炎が出現しやすく、強直性脊椎炎に合併する HLA-B27 関連の急性前部ぶどう膜炎(AAU)に類似したパターンをとります8)。再発性であることが多く、続発緑内障・黄斑浮腫・角膜帯状変性などの合併症リスクが高まるため、免疫抑制薬や生物学的製剤による全身治療が必要になる場合があります。
乾癬性ぶどう膜炎の発症には免疫・遺伝・環境因子が複合して関与する。
軸性乾癬性関節炎(仙腸関節炎・脊椎炎)を合併する患者ではぶどう膜炎の累積発症リスクが特に高く10)、整形外科・皮膚科・眼科の多科連携が特に重要になる。
典型的な皮膚所見(境界明瞭な紅斑性鱗屑斑)・Auspitz 現象(鱗屑除去後の点状出血)・Koebner 現象(外傷部への皮疹出現)により診断する。皮膚病変が軽微または間欠的な場合、爪病変(爪点状陥凹・爪甲剥離・油滴状変色)が手がかりとなる。
ぶどう膜炎診療ガイドライン推奨の基本スクリーニングを実施する2):
| 疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| HLA-B27 関連 AAU(強直性脊椎炎等) | 脊椎・仙腸関節炎あり、乾癬皮膚病変なし |
| ベーチェット病 | 口腔アフタ・外陰部潰瘍・HLA-B51・ニボー形成する前房蓄膿 |
| サルコイドーシス | 羊脂状 KP・肺門リンパ節腫脹・高 ACE 値・肉芽腫性炎症 |
| IBD 関連ぶどう膜炎 | 腸管症状(Crohn 病・潰瘍性大腸炎)・IBD 確定診断あり |
| 反応性関節炎 | 先行感染(尿道炎・腸炎)・尿道炎・関節炎の3徴 |
| 感染性ぶどう膜炎 | 感染症スクリーニング陽性(梅毒・結核・ヘルペス等) |
乾癬と HLA-B27 関連 AAU が共存することもあり(乾癬患者の約5〜10%が HLA-B27 陽性8))、皮膚科診断と HLA 型検査を組み合わせた総合判断が必要である。
乾癬性ぶどう膜炎の治療は皮膚科・整形外科・眼科の連携のもと、段階的に行う。
乾癬性ぶどう膜炎の全身治療は乾癬の治療に準じて行い、皮膚科医にコンサルトしながら実施する。
| 薬剤クラス | 代表薬 | ぶどう膜炎への効果 |
|---|---|---|
| TNF-α阻害薬 | アダリムマブ(ヒュミラ®)、インフリキシマブ(レミケード®) | 乾癬+ぶどう膜炎の双方に有効4)。アダリムマブは非感染性ぶどう膜炎に保険適用(160mg→80mg→40mg/2週間隔) |
| IL-17阻害薬 | セクキヌマブ(コセンティクス®)、イキセキズマブ(トルツ®) | 乾癬・乾癬性関節炎に有効だが、ぶどう膜炎を新規発症・増悪させるリスクあり5) |
| IL-23阻害薬 | グセルクマブ(トレムフィア®)、リサンキズマブ(スキリージ®) | ぶどう膜炎への懸念が少ない選択肢5)。ぶどう膜炎合併乾癬での使用報告蓄積中 |
| IL-12/23阻害薬 | ウステキヌマブ(ステラーラ®) | 乾癬+ぶどう膜炎への報告蓄積中。IL-12経路の遮断がぶどう膜炎に効果をもつ可能性 |
TNF-α阻害薬の中では、アダリムマブが非感染性ぶどう膜炎に対する唯一の保険適用(2019年取得)を有する4)。インフリキシマブは適応外使用として難治例に用いられる。
乾癬の根幹病態は、形質細胞様樹状細胞→骨髄系樹状細胞→IL-23→Th17 細胞の活性化カスケードにある。Th17 細胞が産生する IL-17A/F・IL-22 が皮膚角化細胞の過剰増殖を誘導し、さらなる免疫細胞を動員する正のフィードバックループを形成する。眼組織においても同様の炎症回路が稼働する3)。
ぶどう膜炎患者では涙液・房水中の IL-23・IL-17 濃度が健常者より有意に高値を示す6)。IL-23 は Th17 細胞の長期記憶形成に関与し、慢性再発性の炎症パターンを促進する。TYK2/JAK/STAT 経路を介した炎症性遺伝子の転写促進も重要な病態機序である。
腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)が T 細胞の活性化パターンを変化させ、皮膚・眼・関節での炎症を促進する。皮膚常在菌(黄色ブドウ球菌等)の組成変化も乾癬病態に関与する。腸管バリア機能の破綻により腸内細菌抗原が全身循環に曝露され、全身性の免疫活性化が起こる。
腱付着部炎(enthesitis)は脊椎関節症全体に共通する病変で、乾癬・IBD・ベーチェット病・強直性脊椎炎すべてで認められる。腱付着部・皮膚・眼には共通の自己抗原(コラーゲン・プロテオグリカン)が存在し、これへの免疫応答が眼炎症につながるという「enthesitis-uveitis axis」仮説が提唱されている。これにより乾癬性関節炎合併例で特にぶどう膜炎が多い理由が説明される。
IL-17A は眼の免疫特権維持に一定の役割をもつとされる。IL-17 阻害により腸管バリア機能が変化し、腸内細菌抗原の全身曝露が増加する可能性が指摘されている。また、IL-17 経路の遮断によって Th1 系が相対的に亢進し、眼内炎症が増悪するとの仮説もある5)。一方、IL-23 阻害薬は IL-17 の上流を遮断しつつ、腸管・眼の免疫バランスをより生理的な状態に保つ可能性がある。
HLA-A2 陽性は、日本の乾癬性ぶどう膜炎患者に多く観察される。MHC class Ⅰ 分子(HLA-A2)を介した CD8+ T 細胞の眼内活性化が病態に関与する可能性があり、日本人特有の遺伝的背景が乾癬性ぶどう膜炎の臨床像に影響していると考えられている。
ウパダシチニブ(JAK1 阻害薬)・デュークラバシチニブ(TYK2 阻害薬)の乾癬・乾癬性関節炎・ぶどう膜炎への効果が臨床試験で検討されている。JAK 阻害薬はぶどう膜炎の炎症回路である Th17/IFN-γ 経路を包括的に遮断する機序をもつ。TYK2 阻害薬は IL-23 シグナルを選択的に抑制し、乾癬に対して高い臨床効果を示している。これらがぶどう膜炎合併乾癬に及ぼす影響の前向き研究が待たれる。
乾癬性ぶどう膜炎のリスク予測に向けた MHC class Ⅰ 関連 T 細胞応答のバイオマーカー探索が進んでいる。HLA-A2 を標的とした個別化医療(精密医療)への応用が期待される。
光干渉断層血管撮影(OCTA)を用いた研究で、臨床的に炎症がない乾癬患者でも網膜毛細血管密度の低下や流量変化が検出される可能性が報告されている。将来的に疾患重症度分類や治療効果判定のツールとなることが期待される。
ドライアイとぶどう膜炎はTh1リンパ球の関与・IL-17/Th17の発現・マトリックスメタロプロテアーゼの活性化・マクロファージ・樹状細胞の浸潤など複数の分子シグナル経路を共有する1)。乾癬患者では両疾患の共存が想定以上に高頻度である可能性が指摘されており、前部ぶどう膜炎患者においてドライアイ(涙液減少型・蒸発亢進型の双方)を積極的に検索することが推奨されている。