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ぶどう膜炎

炎症性腸疾患関連ぶどう膜炎(Inflammatory Bowel Disease Associated Uveitis)

1. 炎症性腸疾患関連ぶどう膜炎とは

Section titled “1. 炎症性腸疾患関連ぶどう膜炎とは”

炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease; IBD)は、クローン病(Crohn’s disease)と潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis; UC)を含む。いずれも厚生労働省の指定難病(特定疾患)である。

クローン病は口腔から肛門に至る全消化管に非連続性・全層性の肉芽腫性炎症を来す疾患で、回盲部に好発する。若年成人に発症し、慢性下痢・腹痛・発熱・痔瘻などの腸管症状に加え、眼・関節・皮膚・肝胆道に多彩な腸管外病変を生じる。潰瘍性大腸炎は大腸(特に直腸)の粘膜・粘膜下層に潰瘍を形成する非特異性炎症性疾患で、連続性に口側へ進展し、粘血便・下痢・発熱を主症状とする。両疾患とも寛解と再燃を繰り返す慢性経過を辿る。

IBD 関連ぶどう膜炎は脊椎関節症スペクトラム(強直性脊椎炎・反応性関節炎・乾癬性関節炎・IBD 関連)の一形態として位置づけられる。ぶどう膜炎診療ガイドラインの疫学集計では、全ぶどう膜炎中 IBD 関連は 0.6〜0.7%程度を占め1)、稀ではあるが腸管疾患を持つ患者では常に念頭に置くべき合併症である。

眼合併症頻度は潰瘍性大腸炎で10%以下、クローン病では5〜15%に急性前部ぶどう膜炎(AAU)が認められる。HLA-B27 との関連が強い症例では再発性 AAU を呈しやすい1)。近年は生物学的製剤の普及により、腸管と眼を同時に制御できる症例が増加している2)

Q クローン病や潰瘍性大腸炎で眼の病気が起こることはありますか?
A

はい、起こります。クローン病では5〜15%に急性前部ぶどう膜炎が合併し、潰瘍性大腸炎でも眼合併症が10%以下にみられます。充血眼痛羞明が急に出現した場合は速やかに眼科を受診してください。

急性前部ぶどう膜炎では充血眼痛羞明霧視が急に出現する。後眼部病変では飛蚊症変視症視力低下が生じる。腸病変活動期に眼症状が先行する症例もある。

前眼部(最多)

急性前部ぶどう膜炎(AAU):最多の眼合併症。線維素析出・前房細胞・フレアを認める。

前房蓄膿:HLA-B27 陽性例で出現。ベーチェット病とは異なりニボー形成が少ない。

虹彩後癒着:反復する炎症で生じる。散瞳薬の早期使用で予防する。

角膜辺縁潰瘍:活動性 IBD に合併することがある。

続発合併症

帯状角膜変性:反復する前部炎症後に角膜輪部に石灰沈着。

併発白内障:慢性炎症およびステロイド長期使用による。

続発緑内障虹彩後癒着周辺虹彩前癒着瞳孔閉鎖による眼圧上昇。

囊胞様黄斑浮腫網膜上膜:慢性炎症の晩期合併症。

クローン病では両眼性・再発性の AAU が多い。腸病変の活動性と並行して眼炎症が再燃するが、寛解期にも眼病変が出現しうる点が重要な特徴である。腸管症状に眼症状が先行する症例も存在し、初発眼科受診時に IBD が未診断のケースも少なくない。

Q 腸の症状と眼の症状は連動して悪化しますか?
A

多くの場合、腸病変の活動期に眼炎症も再燃しますが、腸病変が落ち着いている寛解期にも眼の炎症が独立して起こることがあります。眼の症状だけで判断せず、消化器内科との連携が大切です。

IBD 関連ぶどう膜炎の発症には遺伝的素因・免疫異常・環境因子が複合して関与する。

  • HLA-B27 陽性:HLA-B27 陽性例で AAU リスクが著しく高まる。強直性脊椎炎合併でさらに上昇する1)
  • 脊椎関節症の重複:IBD 患者の約5〜10%に強直性脊椎炎・乾癬性関節炎などの脊椎関節症を合併し、眼病変リスクが上昇する
  • 腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis):腸管免疫の恒常性を乱す因子として注目されている
  • 喫煙:クローン病のリスク因子(潰瘍性大腸炎は逆相関)
  • 免疫異常(Th1/Th17 系):腸管粘膜と眼で共通する Th17 系サイトカインの過剰活性化が関与する
  • 薬剤性因子ステロイド長期使用による後嚢下白内障続発緑内障に注意

IBD 関連ぶどう膜炎の確定診断には消化器内科での腸管評価(内視鏡検査・生検)が必須である1)。眼科所見に特異性はなく、除外診断と全身評価の組み合わせが基本となる。

ぶどう膜炎診療ガイドラインが推奨する基本スクリーニング1)

  • HLA-B27(脊椎関節症合併評価)
  • 胸部 X 線(サルコイドーシス除外)
  • 梅毒血清反応(RPR/TPHA)
  • QFT-3G または T-SPOT(結核除外)
  • 血清 ACE・リゾチーム(サルコイドーシス
  • 抗核抗体(ANA)・ANCA
  • 腸管評価のため消化器内科紹介
  • 細隙灯顕微鏡前房細胞・フレア・角膜後面沈着物(KP)・虹彩後癒着を評価
  • 隅角虹彩前癒着・隅角閉塞を確認(続発緑内障評価)
  • 眼底検査FA網膜血管炎・囊胞様黄斑浮腫の評価
  • OCT:囊胞様黄斑浮腫漿液性網膜剥離の定量評価
  • 超音波 B モード:後部強膜炎の評価
疾患鑑別のポイント
腸管型ベーチェット病粘膜潰瘍の形態(深い穿孔性潰瘍)・口腔アフタ・HLA-B51
HLA-B27 関連 AAU(原発性)脊椎・仙腸関節炎の有無・IBD 診断なし
サルコイドーシス肉芽腫性ぶどう膜炎・肺門リンパ節腫脹・高 ACE 値
反応性関節炎(Reiter 症候群)先行感染・関節炎・尿道炎の3徴
乾癬性ぶどう膜炎皮膚病変・爪病変・HLA-A2
感染性眼内炎急速な経過・硝子体混濁
Q クローン病のぶどう膜炎はベーチェット病と区別できますか?
A

鑑別のポイントは腸管潰瘍の形態と口腔アフタの性状です。クローン病は非連続性の縦走潰瘍、ベーチェット病は深い穿孔性の単発潰瘍を形成します。HLA-B51 はベーチェット病に関連します。眼所見では、ベーチェット病前房蓄膿はニボーを形成して移動しやすい特徴があります。

IBD 関連ぶどう膜炎の治療は眼局所治療と全身治療(腸管・眼の同時制御)の2本立てで行う。

急性前部ぶどう膜炎の標準治療1):

  • ステロイド点眼:ベタメタゾンリン酸エステル Na 0.1%(リンデロン®)点眼 1日4〜6回。炎症消退に合わせて漸減
  • 散瞳薬:トロピカミド・フェニレフリン配合(ミドリン P®)点眼 1日3〜4回(虹彩後癒着予防)
  • 難治例トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-A® 20mg)テノン囊下注射、またはデキサメタゾンリン酸エステル Na(デカドロン® 2mg)結膜下注射
  • 閉塞隅角化した場合レーザー虹彩切開術・周辺虹彩切除術1)

全身治療(腸管病変と眼病変の同時制御)

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全身治療は消化器内科と連携して行う。腸管病変のコントロールが眼炎症の安定化に直結する。

薬剤カテゴリー代表薬主な用途
5-ASA 製剤メサラジン(ペンタサ®・アサコール®)UC 第一選択
副腎皮質ステロイドプレドニゾロン 0.5〜1mg/kg/日 漸減活動期寛解導入
免疫抑制薬アザチオプリン 2〜2.5mg/kg/日、メトトレキサートシクロスポリン、タクロリムス寛解維持・ステロイド減量
TNF-α 阻害薬インフリキシマブ(レミケード®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)中等症〜重症 IBD+眼病変

TNF-α 阻害薬の詳細2):

  • インフリキシマブ(レミケード®):5mg/kg を 0・2・6週で点滴静注、以降8週ごとに維持
  • アダリムマブ(ヒュミラ®):導入 160mg→80mg(2週後)→40mg(以降2週ごと)皮下注射
  • 非感染性ぶどう膜炎に対する TNF 阻害薬使用指針(2019年版)ではアダリムマブ非感染性ぶどう膜炎の保険適用薬として位置づけられている2)
Q 生物学的製剤は腸と眼のどちらにも効きますか?
A

インフリキシマブアダリムマブなどの TNF-α 阻害薬は腸管炎症と眼の炎症を同時に抑制する効果が報告されています。アダリムマブ非感染性ぶどう膜炎に対して保険適用があり、IBD 合併眼炎症では積極的な使用が推奨されます2)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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IBD 関連ぶどう膜炎の病態には腸管免疫と眼免疫系の共通軸が関与する。

腸管粘膜で活性化したリンパ球がα4β7 インテグリン・MAdCAM-1 経路を介して全身循環に入り、眼組織に動員される「ホーミング仮説」が提唱されている。腸管粘膜と眼は共通の粘膜免疫系(MALT)を通じて連絡していると考えられる3)

TNF-α・IL-23・IL-17(Th17 系)が腸管と眼の両組織で過剰発現し、炎症を慢性化させる。IL-23 は Th17 細胞を誘導し、腸管上皮バリア破壊と眼内炎症を共通機序で引き起こす4)

HLA-B27 は自己ペプチドへの誤った抗原提示を誘導し、脊椎関節症・IBD 関連ぶどう膜炎に共通するリスクアレルである。HLA-B27 陽性の IBD 患者では AAU の再発頻度が著しく高い1)

IBD では腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)が免疫寛容を破綻させ、粘膜免疫の過剰活性化につながる。腸内細菌叢と眼炎症の関連は近年注目されており、IBD 患者における腸内細菌叢の多様性低下が眼合併症頻度と相関するとの報告もある3)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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トファシチニブ・ウパダシチニブなどの JAK 阻害薬は IBD とぶどう膜炎の双方への効果が検討されている。潰瘍性大腸炎に保険適用があり、眼炎症への効果についても症例報告が蓄積しつつある4)

抗α4β7 インテグリン抗体ベドリズマブは IBD 特異的な腸管選択性を持つ一方、眼合併症への効果は TNF-α 阻害薬と比べ限定的との報告がある。IBD 合併眼病変がある場合の第一選択にはならない可能性が示唆されている3)

プロバイオティクスや糞便微生物移植(FMT)による腸内細菌叢モジュレーションが IBD 治療に応用されており、眼炎症への影響についても探索的研究が行われている。

  1. 蕪城俊克, 後藤浩, 園田康平ほか. ぶどう膜炎診療ガイドライン. 日眼会誌. 2019;123(6):635-696.
  2. 後藤浩, 蕪城俊克, 園田康平ほか. 非感染性ぶどう膜炎に対するTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル(改訂第2版、2019年版). 日眼会誌. 2019.
  3. Felekis T, Katsanos K, Kitsanou M, et al. Spectrum and frequency of ophthalmologic manifestations in patients with inflammatory bowel disease. Inflamm Bowel Dis. 2009;15:29-34.
  4. Troncoso LL, Biancardi AL, de Moraes HV Jr, Zaltman C. Ophthalmic manifestations in patients with inflammatory bowel disease: a review. World J Gastroenterol. 2017;23:5836-5848.

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