この疾患の要点
神経サルコイドーシス(NS)は、サルコイドーシス 患者の5〜15%に発症する中枢・末梢神経系の肉芽腫性炎症疾患である。
約70%の症例で神経症状が疾患の初発症状となり、全身性サルコイドーシスの診断が先行しないことが多い。
脳神経麻痺(顔面神経が最多)、ぶどう膜炎 、髄膜炎、脊髄障害、下垂体機能低下症など症状は多彩である。
確定診断には非乾酪性肉芽腫の組織確認が必要だが、診断困難例が多くZajicek基準による段階的な診断が用いられる。
治療の第一選択は全身コルチコステロイド であり、抵抗例にはメトトレキサート やTNF阻害薬 を追加する。
日本ではぶどう膜炎の原因疾患第1位であり、眼所見はIWOS基準で評価される。
早期診断・適切な治療により病勢が制御できる一方、診断の遅れや治療抵抗例では重篤な神経障害が残存することがある。
サルコイドーシスは非乾酪性肉芽腫を特徴とする原因不明の慢性炎症性疾患である。肺・皮膚・眼が好発臓器であるが、中枢神経系(CNS)および/または末梢神経系(PNS)を侵す場合を**神経サルコイドーシス(Neurosarcoidosis; NS)**と呼ぶ。他臓器サルコイドーシスに伴うこともあれば、神経系を単独に侵すこともある。
罹患率 :米国では白人10万人あたり11人、アフリカ系アメリカ人10万人あたり35.5〜36人とされる
有病率 :約10万人あたり152〜215人
好発年齢 :30〜50代。アフリカ系アメリカ人女性に多い
神経学的病変の頻度 :サルコイドーシス患者の5〜15%に認められる4) 7) 。剖検では最大25%に証拠があり、潜在性の可能性がある
神経症状での初発 :約70%の症例で神経症状が初発となり、全身診断が先行しないことが多い3)
日本においては、サルコイドーシスは比較的多く認められ、ぶどう膜炎の原因疾患第1位を占める。男性は20歳代に多く、女性は20歳代と50〜60歳代の2峰性ピークを示す。
Q 神経サルコイドーシスはどのくらいの頻度で起こるのか?
A サルコイドーシス患者の5〜15%に神経学的病変が認められる4) 7) 。剖検では最大25%に神経サルコイドーシスの所見があるとされ、潜在例が多い可能性がある。約70%の症例では神経症状が疾患の最初のサインとなる3) 。
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Chaoyi Feng, Qian Chen, Wei Liu et al. Neurosarcoidosis presenting as
CRVO combined
CRAO : a biopsy-proven case report of a Chinese patient. BMC Ophthalmology. 2020 Aug 27; 20:348. Figure 1. PMCID: PMC7457306. License: CC BY.
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NSの症状は病変部位によって多彩である。単一の症状から多臓器にわたる複合症状まで幅広い。
全身・非特異的症状
倦怠感、発熱、体重減少
頭痛、認知機能障害、気分障害
脳神経障害
顔面神経麻痺 :最も多い脳神経障害。耳下腺腫脹を伴うことがある
視神経 障害 :視力 低下、視野欠損 (中心・周辺)
眼球運動障害 :複視 、眼瞼下垂 。第4脳神経麻痺 も報告されている9)
神経眼科症状
髄膜炎症状
脊髄・末梢神経症状
感覚異常、筋力低下、亜急性対麻痺
膀胱直腸障害、勃起不全6)
内分泌症状
尿崩症、高プロラクチン血症、甲状腺機能低下症。10〜15%に下垂体関与がある
重症例では汎下垂体機能低下症:コルチゾール1.9 mcg/dL、FT4 0.4 ng/dL、プロラクチン86.8 ng/mLなどの著明な低下を呈する4)
血管炎に伴う症状
頭痛69%、運動症状48%、脳神経障害41%、認知・行動変化28%7)
てんかん発作
CNS病変の主要所見
びまん性軟髄膜増強 :ガドリニウム造影MRIで最も頻度が高い所見。
脳神経増強 :顔面神経・視神経を含む脳神経の造影増強。
脳腫瘤様病変 :単発〜多発。腫瘍や転移と誤認されやすい。
水頭症 :交通性・非交通性の両型。症例の57%に認められる2) 。
眼所見(IWOS基準6項目)
肉芽腫性前部ぶどう膜炎 :豚脂様角膜 後面沈着物、虹彩 結節。
隅角 結節またはテント状周辺虹彩前癒着 :特徴的な前眼部所見。
塊状硝子体混濁 :雪玉状または数珠状の混濁。
網膜 血管周囲炎 :主に静脈に生じる血管周囲炎および結節。
多発するろう様網脈絡膜 滲出斑 :または光凝固斑様の萎縮病巣。
視神経乳頭肉芽腫または脈絡膜肉芽腫 :視神経乳頭の発赤・腫脹。
脊髄MRIの4パターン(PMC11213433) 6)
長区間横断性脊髄炎(LETM) :45%。C2から脊髄円錐に及ぶ縦方向広範横断性病変
髄膜脊髄根炎 :23%。
腫瘤様脊髄炎 :23%。
前脊髄炎 :10%。椎間板変性隣接領域に生じる
眼サルコイドーシスの参考となる付随所見 :角膜乾燥症、上強膜炎 ・強膜炎 、涙腺腫脹、顔面神経麻痺
眼サルコイドーシスの合併症 :嚢胞様黄斑浮腫 、網膜上膜、続発緑内障 、併発白内障
視神経症の特徴 :28%が両側性に連続発症し、37%に視神経乳頭腫脹、4%に視神経周囲炎 を認める10) 。
Q 眼にどのような症状が出るのか?
A ぶどう膜炎が最も多く、豚脂様角膜後面沈着物・虹彩結節を伴う肉芽腫性前部ぶどう膜炎が特徴的である。IWOS基準の6項目(肉芽腫性前部ぶどう膜炎、隅角結節、塊状硝子体混濁、網膜血管周囲炎、ろう様網脈絡膜滲出斑、視神経乳頭/脈絡膜肉芽腫)のうち2項目以上で眼サルコイドーシスを疑う。視神経症では28%が両側性に発症する10) 。
NSの病因は未解明である。Th1細胞性免疫反応(IV型アレルギー)による非乾酪性肉芽腫形成が基本病態である。抗原刺激への長期曝露によるマクロファージとT細胞の過剰活性化が想定されている。日本ではPropionibacterium acnesの関与を示す報告がある。
職業的曝露 :農業従事、殺虫剤・カビへの曝露
遺伝的要素 :アフリカ系アメリカ人に多く、BTNL2遺伝子変異が感受性を高める可能性がある
社会経済的要因 :低社会経済的地位はストレスと免疫異常を介してリスクを高める可能性がある3)
NSの診断は多様な臨床像と検査結果を総合して行う。確定診断には非乾酪性肉芽腫の組織確認が必要だが、CNS生検はリスクを伴うため複数の診断基準が用いられている。
確実度 主な要件 確実(Definite) CNS生検で非乾酪性肉芽腫+臨床症状+他疾患除外 可能性が高い(Probable) 全身サルコイドーシスの組織証拠+CNS炎症の検査所見 可能性あり(Possible) 臨床所見が示唆するが上記基準を満たさない
組織診断群(確実) :2つ以上の臓器病変+検査所見2項目以上+病理組織陽性
臨床診断群(ほぼ確実) :2つ以上の臓器病変+検査所見2項目以上
除外すべき病態 :悪性リンパ腫、結核、多発血管炎性肉芽腫症 (GPA)、IgG4関連疾患、Sjögren症候群など
確実 :生検確認+ぶどう膜炎
推定 :両側肺門リンパ節腫脹(BHL)+ぶどう膜炎(生検なし)
可能性が高い :眼内徴候3つ+検査所見2つ
可能性あり :眼内徴候4つ+検査結果2つ
血清ACE :上昇が診断補助に有用(例:73 U/L9) )。全身性サルコイドーシスには有用だが神経型への特異度は不十分
血清リゾチーム :上昇を認める
血清可溶性IL-2R(sIL-2R) :上昇。リンパ球減少とともに眼サルコイドーシスの有効マーカー
67Ga-citrateシンチグラムまたはFDG-PET :集積像陽性で診断補助
CSF蛋白 :上昇(74%)7)
細胞増多 :78%(主にリンパ球)7)
IgG-Index :上昇(56%)7)
オリゴクローナルバンド :25〜30%に陽性7)
CSF ACE :上昇が診断補助(例:56.9 U/L5) )
CSF異常は画像正常例でも70%で認められる
ガドリニウム造影MRI :最も感度が高い。びまん性/肥厚軟髄膜増強が最多所見。脳室周辺分布+軟髄膜増強が典型的な2所見の組み合わせ1)
胸部CT :BHLの確認。白人では胸部CT正常でもサルコイドーシスは否定できない
FDG-PET :他部位の病変評価・生検部位の選択に有用3)
MRI vessel wall imaging(VWI) :血管炎関連NSの評価に有用
非乾酪性肉芽腫の確認がゴールドスタンダードである。CNS生検が理想的だが侵襲が高いため、リンパ節・皮膚・結膜 ・経気管支肺生検など他部位での代用が検討される。
結核性髄膜炎、多発性硬化症 、CNSリンパ腫、EBV関連リンパ腫様肉芽腫症
多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、髄膜腫、視神経膠腫、Behçet病、IgG4関連疾患
Q 神経サルコイドーシスの確定診断にはどのような検査が必要か?
A 確定診断にはCNS生検による非乾酪性肉芽腫の組織確認が必要である。しかし侵襲が高いため、髄液検査(蛋白上昇・リンパ球増多)、ガドリニウム造影MRI、血清ACE・sIL-2R、胸部CT(BHL確認)などを組み合わせた段階的診断が実際には多く用いられる。他部位(リンパ節・皮膚・経気管支肺生検等)で非乾酪性肉芽腫が確認されれば、Probable診断が可能となる。
病勢に波のある疾患のため、軽症例では自然軽快を期待しステロイド点眼のみで経過観察可能である。重症例にはステロイド全身投与を行う。
前眼部炎症
ステロイド点眼 :リンデロン0.1% 1日4回。前房 炎症がない場合でも隅角結節予防のため継続する
散瞳薬 :ミドリンP 1日3回(虹彩後癒着 予防)
後眼部炎症(重症例)
ステロイド内服 :プレドニゾロン0.5〜1.0 mg/kg/日から開始し漸減
プレドニゾロン漸減の処方例を以下に示す。
期間 用量 2週間 30 mg/日 1か月 20 mg/日 1か月 15 mg/日 1か月 10 mg/日 1か月 7.5 mg/日 1か月 5 mg/日 1か月 5 mg 隔日
後部Tenon囊下注射 :徐放性ステロイド(ケナコルトA 40mg)。嚢胞様黄斑浮腫・硝子体混濁に有効。効果ピークは約1か月、有効期間は約3か月
眼合併症の治療
併発白内障 :消炎期に手術。ステロイド内服下で施行可
続発緑内障 :降圧点眼(PG製剤・β遮断薬 ・炭酸脱水酵素阻害薬 ・α2受容体刺激薬)→炭酸脱水酵素阻害薬内服→D-マンニトール点滴。手術(線維柱帯切開術 )はステロイド緑内障 に特に有効
閉塞性血管炎による無血管野 :網膜光凝固術
第一選択
経口コルチコステロイド :軽〜中等症の第一選択。
静注コルチコステロイド(パルス) :重症例・ステロイド抵抗例。メチルプレドニゾロン1g×5日間→経口プレドニゾロン1 mg/kg6) 。
第二選択
メトトレキサート(MTX) :最も頻用される免疫抑制薬。効果発現まで時間がかかるためステロイドと併用する。
アザチオプリン ・ミコフェノール酸モフェチル :MTXの代替または追加として使用。
第三選択
インフリキシマブ :TNF -α阻害薬。脳血管炎合併例でも使用。
アダリムマブ :同じくTNF-α阻害薬。難治例への使用が増えている。
脳血管炎合併例 :グルココルチコイド+MTX/シクロホスファミド/インフリキシマブの組み合わせが主要な治療戦略7) 。サルコイドーシス診断後5年間の脳血管イベントハザード比は10.06と著明に高い7) 。
てんかん合併 :レベチラセタムなどの抗てんかん薬 を併用する5) 。
水頭症 :VPシャント(調整弁5 cmH2O+抗サイフォン装置)+ステロイドの併用が有効2) 。術後に急速な脳室虚脱(slit ventricles)が一過性に生じた場合は弁を15 cmH2Oへ変更する2)
脊髄圧迫(硬膜外病変) :外科的減圧(椎弓切除術)を要することがある8)
生命を脅かす合併症がない限り、手術適応は原則として限定される
下垂体病変による汎下垂体機能低下症にはヒドロコルチゾン・レボチロキシン・デスモプレシン(尿崩症)などのホルモン補充が必要となる。神経損傷はしばしば不可逆的であり、生涯にわたる補充が必要な場合がある4) 。
治療における注意点
ステロイド全身投与は生検結果を陰性化させるため、経気管支肺生検などの診断的生検が終了するまで全身投与を原則として控える。
ステロイド長期使用では骨粗鬆症・糖尿病・感染症リスクに注意が必要である。維持量(5〜10 mg/日)が長期に必要となる例もある。
免疫抑制薬(MTX・アザチオプリン等)は効果発現まで数週〜数か月を要するため、早期のステロイドとの併用が重要である。
Q ステロイドでの治療はどのくらい続くのか?
A 病勢によって大きく異なる。眼サルコイドーシスでは典型的にプレドニゾロン30 mgから漸減して隔日5 mgまで約7か月間かけて減量する。重症例や再発例では維持量(5〜10 mg/日)が長期にわたって必要なことがある。NSは再発・寛解を繰り返すことが多く、長期の経過観察が不可欠である。
Th1細胞が IL-2・IFN-γを放出し、マクロファージを動員・活性化する。活性化マクロファージがサイトカインを分泌し持続的な肉芽腫形成が維持される。組織学的には類上皮細胞と多核巨細胞が中心を形成し、周囲にリンパ球・形質細胞・肥満細胞が集積する。多核巨細胞内に星状体(asteroid body)が観察されることがある。
肉芽腫が血管壁内または血管周囲に形成される。特に小穿通動脈に好発する。サルコイドーシス診断後5年間の脳血管イベントハザード比は10.06であり、脳血管合併症のリスクは著明に高い7) 。
炎症性ミエリン破壊が主体である。神経・筋生検では神経上膜肉芽腫・神経内膜浸潤が確認される6) 。
髄膜の肉芽腫性瘢痕化によるCSF流路閉塞、およびくも膜絨毛の炎症によるCSF吸収障害が生じる。交通性・非交通性の両型が生じうる2) 。
視床下部・下垂体柄・下垂体への肉芽腫浸潤により内分泌軸が障害される。障害が高度な場合はNa 168(高ナトリウム血症)を伴う中枢性尿崩症を呈することがある4) 。
MRIの血管壁撮像技術により、血管炎関連NSの診断精度向上が期待されている。
Fockeら(2025)の系統的レビューでは、NS患者13例中9例(69%)でMRI VWIによる血管壁病変の検出に成功した7) 。従来のガドリニウム造影MRIでは捉えにくい血管壁炎症を可視化できる可能性がある。
血管炎関連NSのバイオマーカー として、CSF中のネオプテリンとリゾチームが注目されている。
Fockeら(2025)は、血管炎関連NS例においてCSFネオプテリンが100%の症例で上昇(平均5.2 ng/ml)し、リゾチームが75%で上昇(平均4.25 mg/l)したことを報告した7) 。これらのマーカーが診断ツールとなる可能性がある。
FDG-PETに依存しないイメージングとして、ソマトスタチン受容体イメージングおよびCXCR4(活性化マクロファージに発現)をターゲットとしたPETイメージングが探索されている。
トファシチニブやバリシチニブなどのJAK阻害薬が難治性サルコイドーシスへの応用として探索段階にある。
一部の難治性NS症例で症状改善の報告があるが、NSにおける役割は現時点では不明確である6) 。
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