RRMS
再発寛解型(Relapsing-Remitting MS):最も多いサブタイプ。再発が24時間以上持続し、発作間には完全または部分的な寛解がみられる。
多発性硬化症(Multiple Sclerosis; MS)は、中枢神経系(CNS)の白質に炎症性の脱髄性病変が発生し、多彩な神経症状が再発と寛解を繰り返す疾患である。グリオーシスによる瘢痕硬化性病変が特徴であり、通常は中枢神経のみが侵されて末梢神経系は障害されない。
乏突起膠細胞は視神経が有髄神経となる後篩状板部から出現し、眼窩内視神経から中枢側に存在する。この乏突起膠細胞が形成する中枢性髄鞘が脱髄の標的となる。MSの約3割で発症時に視力障害がみられ、患者の75%が生涯に少なくとも1回視神経炎を経験する。
男女比は1:2.9と女性に多く、発症年齢のピークは20歳代である。米国での推定有病率は1〜1.5/1,000人であり1)、世界では210万人が罹患する。発症平均年齢は15〜45歳で、北半球・南半球の高緯度地域に多く分布する。
MSには以下の4つの主要サブタイプがある。RRMS(再発寛解型)は25〜29歳で発症し、SPMSは40〜49歳で発症することが多い1)。
RRMS
再発寛解型(Relapsing-Remitting MS):最も多いサブタイプ。再発が24時間以上持続し、発作間には完全または部分的な寛解がみられる。
SPMS
PPMS
一次性進行型(Primary Progressive MS):初発から進行性に障害が蓄積する。再発なく緩徐に進行する。
CIS
患者の75%で初発症状は単独の愁訴であり、45%が運動・感覚症状、20%が視覚症状として発症する。
眼症状
全身神経症状
増悪は急性〜亜急性に発症し数日〜数ヶ月持続する。85%で症状改善・消失が得られるが、10〜15%では後遺症が残存する。
MS関連視神経炎とMOGAD・NMOSDに伴う視神経炎は臨床像が異なり、鑑別が治療方針を左右する。
| 特徴 | MS-ON | MOG-ON | AQP4-ON |
|---|---|---|---|
| 性別比(F:M) | 3:1 | 1:1 | 7〜9:1 |
| 両側同時性 | 極めてまれ | 高頻度(31〜84%) | あり(13〜82%) |
| 視力低下nadir | 軽度〜中等度 | 中等度〜高度 | 中等度〜高度 |
| 乳頭腫脹 | 軽度またはまれ | 中等度〜高度(45〜92%) | あり(7〜52%) |
| MRI視神経病変 | 局所的・短い | 長大(>50%)・視神経周囲炎 | 長大・後方優位(視交叉) |
| OCT急性期pRNFL | 肥厚(中央値103μm) | 著明肥厚(中央値164μm) | 肥厚 |
| ステロイド反応性 | 中等度 | 高度(ステロイド依存性あり) | 低い場合あり |
| 長期視力回復 | 良好 | 良好(再発なければ) | 不良の場合あり |
| CSFオリゴクローナルバンド | 非常に高頻度 | まれ(0〜20%) | あり |
急性期のpRNFLが118μm以上であればMOG-ONとの鑑別に感度74%・特異度82%とされる5)。
片眼性の痛みのある視力低下として発症することが多い。眼窩痛は92%に認められ、眼球運動で悪化するのが特徴である。また、体温上昇(入浴・運動)により症状が一時的に悪化するUhthoff現象もみられる。無治療でも発症3週間以内に約8割で視力改善が始まる。
MSの正確な原因は不明だが、自己免疫的な機序が発症に関わると考えられている。Tリンパ球が髄鞘を異物として認識し、マクロファージ・サイトカイン・抗体を活性化して髄鞘・軸索を破壊する。
初回視神経炎発症後のMS移行リスクは、脳MRIの脱髄病変の有無によって大きく異なる。
2017年McDonald基準(2024年改訂版)が用いられる。中枢神経の脱髄病変の時間的・空間的多発性(DIT/DIS)を証明することが基本である。2024年の改訂では視神経が5番目の地形的部位として追加された。また、κ遊離軽鎖インデックスもオリゴクローナルバンドと同等の代替指標として追加された(一致率87%)。
空間的多発性(DIS)の5つの地形的部位
時間的多発性(DIT)の証明:2回以上の発作、またはMRIでの増強・非増強病変の同時存在、新規T2病変、CSFオリゴクローナルバンドで代替できる1)。
PPMSの診断には1年以上の障害進行に加え、脳T2病変・脊髄T2病変(2つ以上)・CSFオリゴクローナルバンドのうち2項目以上の所見が必要とされる1)。
脱髄プラークはT2高信号病変またはガドリニウム増強病変として検出される。
MRIが不確定な場合や疾患の進行予測に有用である1)。早期・無症候性の脱髄をMRI可視化前に検出できる。65%で潜時延長・振幅低下が認められる。
以下の疾患との鑑別が重要であり、非典型例では追加検査を実施する。
| 疾患カテゴリ | 主な鑑別疾患 |
|---|---|
| 脱髄疾患 | NMO(デビック病)、ADEM、MOGAD |
| 感染性 | サルコイドーシス、結核、梅毒、ライム病 |
| 自己免疫 | SLE、シェーグレン症候群、ベーチェット病 |
| 視神経疾患 | NAION、LHON、中毒性・代謝性視神経症 |
非典型例での追加検査:抗AQP4抗体(NMOSD除外)、抗MOG抗体(MOGAD除外)、血清NfL検査、梅毒血清検査(VDRL/RPR/FTA-ABS)、ANA(SLE)、ACE・リゾチーム(サルコイドーシス)。
MOGAD診断には、典型的臨床表現型(視神経炎・脊髄炎・ADEM・脳幹/小脳症状・皮質脳炎)と血清MOG抗体陽性が必要である。力価不明または低力価の場合は、1つ以上の支持的所見(両側同時視神経炎・視神経病変が50%超の長さ・視神経鞘増強・乳頭浮腫)が必要とされる。この診断基準の検証研究では感度96.5%・特異度98.9%・PPV 94.3%・NPV 99.3%が報告されており6)、成人での特異度がMOG抗体検査単独(95.6%)から98.9%へ改善した(p=0.0005)6)。
MS-ONは片側性・局所的な短い視神経病変が特徴で、CSFオリゴクローナルバンドが高頻度に陽性となる。MOG-ONは両側同時発症が多く、視神経病変が長大で乳頭腫脹を伴い、ステロイド著効だが依存性がある。AQP4-ONは後方優位・視交叉病変が多く、視力予後が不良の場合がある。治療も各疾患で異なるため、抗AQP4抗体・抗MOG抗体の測定による正確な鑑別が重要である。
メチルプレドニゾロン1,000mg/日の点滴静注を3日間連続で行うステロイドパルス療法が標準治療である。3日間点滴後のプレドニゾロン内服(後療法)は行わない。ステロイド内服療法は再発率を高めるため行うべきではない。
無治療でも発症から3週間以内に約8割で視力改善が始まるが、パルス療法で改善期間が短縮される。ONTT(視神経炎治療試験)では、高用量メチルプレドニゾロン静注は視機能・コントラスト感度・色覚の回復時間を改善したが、最終的な視力予後の改善は示されなかった。ステロイドパルス療法が無効の場合は血液浄化療法(血漿交換療法)を行う。
早期治療(発症7日以内)が残存障害軽減に有効とされる7)。MOGAD・NMOSDでは5日間投与が行われる場合がある7)。
視力低下・視野障害の改善後は、再発予防のために神経内科医との連携のもとでDMTを考慮する。脳MRI脱髄病変がある場合は、CIS段階からの早期DMT開始を検討する。
主要なDMTとその有効性を以下に示す。
| 薬剤 | 作用機序 | 投与法 | 相対リスク低下 |
|---|---|---|---|
| インターフェロンβ | T/B細胞活性・サイトカイン分泌修飾 | 自己注射 | 障害進行RR 0.71 |
| 酢酸グラチラマー | 制御性T細胞調節 | 自己注射 | 再発RR 0.82 |
| ナタリズマブ | CNSへの炎症細胞流入阻害 | 点滴 | 再発RR 0.56 |
| フィンゴリモド | S1P受容体調節 | 経口 | 新規T2病変RR 0.65 |
| テリフルノミド | ピリミジン合成阻害 | 経口 | 障害進行RR 0.76 |
| フマル酸ジメチル | 酸化ストレス・炎症軽減 | 経口 | 再発RR 0.64 |
| アレムツズマブ | 抗CD52モノクローナル抗体 | 点滴 | 障害進行RR 0.44 |
| オクレリズマブ | 抗CD20モノクローナル抗体 | 点滴 | RRMS標準治療 |
| オファツムマブ | 抗CD20モノクローナル抗体 | 皮下注 | RRMS標準治療 |
抗CD20モノクローナル抗体(オクレリズマブ・リツキシマブ・オファツムマブ)は再発型MSの標準治療として定着してきている3)。B細胞の抗原提示とサイトカイン分泌(抗体産生ではなく)が組織障害の主要なメディエーターであることが明らかになってきた3)。
MS用DMT(インターフェロンβ・フィンゴリモド等)はMOGAD・NMOSDに対して無効または増悪を招く可能性があるため5)、正確な鑑別診断が治療選択に直結する。
MSは自己免疫疾患と考えられている。Tリンパ球が髄鞘を異物として認識し、マクロファージ・サイトカイン・抗体を活性化して髄鞘・軸索を破壊する。髄鞘消失により電気インパルスの伝導が障害され、神経信号伝達が遅延・消失する。
各疾患の病態メカニズムが異なることが治療への反応性の違いを説明する。
活動性プラーク
泡沫状マクロファージ:髄鞘を貪食したマクロファージが集積する。
血管周囲浸潤(perivascular cuffing):リンパ球が血管周囲を取り巻く特徴的所見。
浮腫性の限局性脱髄病変:急性増悪期にみられる。
慢性プラーク
髄鞘消失:Luxol fast blue染色で確認できる。軸索は保存されるが再髄鞘化が不全。
NAWM病変:正常にみえる白質のびまん性グリオーシス・ミクログリア活性化・BBB破壊。限局的白質病変より臨床的障害と高い相関を示す。
オリゴデンドロサイトがCNSの再髄鞘化を担う1)。成人のオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)に依存するが、既存の成熟オリゴデンドロサイトは再髄鞘化に貢献できない1)。
再髄鞘化失敗の主な原因は以下の通りである1)。
また、皮質・皮質下の灰白質障害も認められ、髄膜にB細胞濾胞様リンパ構造が形成されると、より重症の臨床経過に至ることが知られている1)。
CD40Lを阻害することで、T細胞と抗原提示細胞(B細胞含む)の共刺激を遮断する新規アプローチである。
Vermersch et al.(N Engl J Med 2024)による第2相試験では、frexalimabはMRIアウトカムにおいてプラセボに対して明確な有効性を示し、神経組織障害のバイオマーカーである血清NfLの低下も確認された3)。現在の高効果DMT(抗CD20薬)に対する臨床的優位性の確立が今後の課題とされる3)。
鉄依存性の細胞死であるフェロトーシスがMS神経細胞死に関与することが示された。グルタミン酸興奮毒性 → カルシウム過負荷 → 小胞体ストレス → STING1がSTIM1から解離 → 非典型経路活性化 → オートファジー → GPX4のオートファジー分解 → フェロトーシスというカスケードが報告されている4)。STING1阻害薬(C176・H151)は動物モデルでオートファジー依存性GPX4分解を減少させ、神経保護効果を示した4)。
MOGADに特化した治療薬の開発も進んでいる。リツキシマブ(NCT05545384)・サトラリズマブ(NCT05271409)・ロザノリキシズマブ(NCT05063162)が第3相試験に進行中である5)7)。
pRNFL菲薄化がMS進行のモニタリングに有用であることが示されており、OCT-Aによる網膜微小血管密度低下の報告も蓄積されている。