感染症
HIV感染:最大のリスク因子である。CD4陽性Tリンパ球数200 cells/µL未満で発症リスクが著増する1)。
CD4/CD8比の著明な低下:PML発症の免疫学的素因となる1)。

進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy; PML)は、ポリオーマウイルス科に属するJCウイルス(John Cunningham virus; JCV)による中枢神経系の脱髄疾患である。JCVは人口の50~70%に潜伏感染しているが、PMLの発症には通常、免疫抑制状態が必要となる。
一般人口におけるPMLの有病率は10万人あたり0.22、罹患率は10万人あたり0.11である。HIV感染者(特にCD4陽性Tリンパ球数200 cells/µL未満)では発症リスクが著しく増加する。HIV関連PMLの死亡率は1年後に最大30%、2年後に50~60%に達する1)。抗レトロウイルス療法(ARV)の導入により生存期間中央値は0.4年から1.8年に改善した1)。
自己免疫疾患を基礎とするPMLの罹患率は10万人あたり0.4~4.0であり、リツキシマブやナタリズマブなどの薬剤もPMLを誘発しうる。ナタリズマブ関連PMLの発生率は全患者で1,000人あたり3.94と最も高い4)。リツキシマブ関連PMLでは非ホジキンリンパ腫患者で1,000患者年あたり2.89の発生率が報告されている4)。
PMLの神経眼科的所見は診断の重要な手がかりとなる。最も一般的な所見は以下の通りである。
一般人口における有病率は10万人あたり0.22と極めて稀である。しかしHIV陽性者では頻度が著しく高く、ARV時代でも1年死亡率は最大30%に達する1)。ナタリズマブ使用者では1,000人あたり約4例と比較的高頻度に発症する4)。
PMLの神経学的症状は脱髄病変の部位により多彩である。発症は亜急性であり、この点が急性発症する多発性硬化症の再発との鑑別点となる。
多発性硬化症(MS)の免疫調節薬使用中にはPMLとMSの再発を鑑別する必要がある。両者の鑑別点を以下に示す。
| 特徴 | MSの再発 | PML |
|---|---|---|
| 発症様式 | 急性 | 亜急性 |
| 主な症状 | 視神経障害、錐体路障害 | 精神状態変化、片麻痺 |
| MRI病変部位 | 脳室周囲 | 皮質下 |
| 臨床経過 | 回復あり | 回復困難 |
後頭葉病変による同名半盲が最も多い。両側後頭葉が侵されると皮質盲に至る。脳幹病変では眼振や外転神経麻痺による水平複視が生じる6)。頭頂側頭葉病変ではBalint症候群や半側空間無視も報告されている4)。
JCウイルス(JCV)はポリオーマウイルス科に属するDNAウイルスである。エンベロープを持たない正二十面体のカプシドに二本鎖環状DNAを保有する。通常は若年期に初感染し、扁桃や胃腸管が初期感染部位と考えられている。感染後は腎臓、リンパ組織、末梢血白血球に潜伏する。オリゴデンドロサイトやアストロサイトにもJCV DNAが検出されており、脳も潜伏部位の一つである可能性がある。
感染症
HIV感染:最大のリスク因子である。CD4陽性Tリンパ球数200 cells/µL未満で発症リスクが著増する1)。
CD4/CD8比の著明な低下:PML発症の免疫学的素因となる1)。
自己免疫・薬剤
血液悪性腫瘍
リンパ増殖性疾患:推定頻度0.07%。1年死亡率39.2%5)。
慢性リンパ性白血病:化学療法後のリンパ球減少が誘因8)。
濾胞性リンパ腫:反復化学療法による持続的リンパ球減少がリスク4)。
免疫正常者でのPML発症はまれであるが報告されている9)。加齢に伴う免疫機能低下や未検出の潜在的免疫抑制が関与する可能性がある。
ナタリズマブが最も高リスクである(発生率1,000人あたり3.94)4)。リツキシマブ、TNF阻害薬、エプコリタマブなどの生物製剤もリスクを高める2)4)5)。細胞毒性化学療法薬によるリンパ球減少も重要な危険因子である。
PMLの診断は、米国神経学会(AAN)Neuroinfectious Disease Sectionによる診断基準に基づく。
確定診断
脳生検で以下の3所見すべてを確認する。
脱髄:白質の広範な髄鞘崩壊。
奇形星細胞:反応性アストロサイトの異常形態。
核内封入体を含むオリゴデンドロサイト:JCVの感染細胞。
加えてJCV DNAまたはタンパク質の検出が必要。
ほぼ確実
以下の両方を満たす場合。
CSF中JCV PCR陽性:髄液からのJCV DNA検出。
特徴的な臨床・MRI所見:皮質下白質の多巣性脱髄。
疑い
以下の両方を満たす場合。
特徴的な臨床・MRI所見あり:ただしCSF中JCV DNA未検出。
適切な代替診断がない:他の原因が除外される。
CSF中のJCV DNA PCRが臨床診断の要である。ただしPCR感度は約58%であり、初回検査で陰性となる場合がある5)。ある症例では初回PCR陰性の後、2回目のCSF検査でJCV陽性(116 IU/mL)となり確定診断に至った5)。臨床的にPMLが強く疑われる場合は再検査が重要である。
頭部MRIはPMLが疑われる場合の第一選択画像検査である。
特徴的な画像所見として以下が報告されている。
脳幹限局のPML病変は極めてまれであるが、文献レビューでは10例が報告されている6)。テント下病変は薬剤関連PML全体の27.4%に認められる6)。
PMLリスクのある薬剤を投与中の患者では、投与開始前および6ヶ月ごとにJCV DNAの定期的な血液検査を行うことがある。ナタリズマブ使用患者では抗JCV抗体インデックスによるリスク層別化が実施されている4)。
PMLに対する確立された特異的抗JCV療法は現時点で存在しない。治療の基本は免疫機能の回復である。
多剤併用抗レトロウイルス療法(cART)の速やかな導入が推奨される。ARVの導入によりPMLの生存期間中央値は0.4年から1.8年に改善した1)。感染症専門医との連携が重要である。
免疫抑制薬の即時中止が推奨される2)5)。関節リウマチ患者の生物製剤関連PML 27例のレビューでは、発症から診断まで平均2.5ヶ月の遅延が認められた5)。早期の薬剤中止が生存率向上に不可欠である。
cARTの開始や免疫抑制薬の中止後に逆説的な臨床的悪化が生じることがある。これはPML-IRIS(PML-immune reconstitution inflammatory syndrome)と呼ばれ、大量の抗原負荷に対する免疫系の過剰反応である。副腎皮質ステロイド療法で治療する。
現時点でJCVに対する確立された特異的治療薬は存在しない。HIV患者ではcARTによる免疫回復、非HIV患者では免疫抑制薬の中止が最善の戦略である。免疫チェックポイント阻害薬などの新規治療は「最新の研究」の項を参照。
JCVは通常、若年期に初感染する。初期伝播は密接な対人接触または媒介物(fomite)による拡散が疑われている。扁桃が初期曝露後の潜伏部位と考えられ、胃腸管も主要な初期感染部位の可能性がある。
免疫正常者ではJCV感染が疾患を引き起こすことは稀であるが、休眠状態のウイルスがしばしば持続する。この状態ではJCV DNAは検出可能であるが、タンパク質レベル(活性な転写の指標)は検出されない。再活性化前のJCVは腎臓、リンパ組織、末梢血白血球に潜伏する。オリゴデンドロサイトやアストロサイトにもJCV DNAが確認されており、脳も潜伏部位の一つと考えられる。
JCVのライフサイクルは12段階で特徴づけられる。
JCV再活性化の病因は免疫抑制の存在に関わる。HIV-1感染との関連が最も強く、HIV-1のTat調節タンパク質がJCV DNAの複製を刺激すると考えられている。潜伏JCV DNAを保有するオリゴデンドロサイトはTatタンパク質を強力に吸収することが示唆されている。
JCVによるオリゴデンドロサイトの溶解が脱髄の本態である。髄鞘が破壊されると跳躍伝導ができなくなり、神経伝導障害が生じる。多数の脱髄領域が融合し、マクロファージによる崩壊産物の貪食に先立って広範な白質破壊をきたす。
脳生検では以下の病理所見が特徴的である。
PMLの病態にはPD-1経路を介した免疫疲弊が関与しており、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)によるJCV免疫の再賦活が試みられている。
Lambertら(2022)は慢性リンパ性白血病治療後に発症したPML患者(77歳女性、CD4=280 cells/µL)に対し、抗PD-L1抗体アテゾリズマブ(1,200 mg、3週間ごと)を投与した。治療開始1週間で失語と認知機能の改善を認め、CSF中JCV量は733,845 copies/mLから945 copies/mLへ劇的に減少した。しかし治療に伴い免疫再構築炎症症候群(IRIS)と重症免疫関連有害事象(皮疹、房室ブロック、痙攣)が出現し、メチルプレドニゾロン大量投与を要した。ステロイドによるJCV特異的T細胞応答の抑制により、最終的にPMLが再増悪し死亡した8)。
ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)やニボルマブも一部の症例で効果が報告されているが、ICI治療に伴うIRISと免疫関連有害事象の管理が課題である。
Wangら(2022)は免疫正常の67歳女性PML患者に対し、ミルタザピン(15 mg/日)とメフロキン(250 mg/週)の併用療法を実施した。ミルタザピンは5HT2A受容体を遮断しJCVのアストロサイト侵入を阻害する。メフロキンはin vitroでJCV増殖を抑制する。この患者は2年以上にわたり臨床的安定を維持した9)。
ただしメフロキンの臨床試験での有効性は確認されておらず、大規模試験での検証が必要である。