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ぶどう膜炎

眼科的ステロイド局所療法(点眼・注射)(Ocular Corticosteroid Therapy)

1. 眼科的ステロイド局所療法とは

Section titled “1. 眼科的ステロイド局所療法とは”

眼科局所ステロイド療法は、眼炎症・術後炎症・アレルギー性結膜炎などに対して、全身投与を回避しながら高い眼局所濃度を得ることができる治療法である。点眼・結膜下注射・テノン嚢下注射・前房内注射・硝子体内注射の5経路がある。

適応疾患は広く、ぶどう膜炎虹彩毛様体炎・後部ぶどう膜炎汎ぶどう膜炎)のほか、白内障緑内障硝子体手術後の術後炎症コントロール、角膜移植後の拒絶反応予防、アレルギー性結膜炎などが含まれる。

局所治療薬(ステロイド系)

ステロイド点眼:前眼部炎症の基本治療。フルオメトロン・ロテプレドノール・プレドニゾロン・ジフルプレドナート。

後部テノン嚢下注射:後眼部慢性炎症・黄斑浮腫に第一選択。ケナコルト-A 40 mg/mL 0.5 mL(保険適用外)。

硝子体内インプラント:難治性UMEにOzurdex 0.7 mg(約4〜6か月持続)。

合併症対策薬

眼圧降下薬ステロイド緑内障への対応。β遮断薬炭酸脱水酵素阻害薬・α2刺激薬を優先選択。ぶどう膜炎ではプロスタグランジン系とピロカルピンを原則回避。

散瞳薬前房炎症時の虹彩後癒着予防。ミドリンM/P が標準。

ステロイド性抗炎症薬点眼:炎症軽度安定後の代替薬。

非感染性ぶどう膜炎の国際調査(53か国221名)では、全身免疫調節療法を開始する前に全員がスクリーニングを実施していた1)。局所ステロイドは、炎症部位と重症度に応じて全身治療を補完する選択肢となる。

2. 主な症状と臨床所見(適応疾患)

Section titled “2. 主な症状と臨床所見(適応疾患)”

ステロイド局所療法の適応を判断するための主な臨床所見を示す。

所見詳細
角膜後面沈着物(KP)微細〜豚脂様(サルコイドーシス・結核性)
前房フレア・細胞SUN基準で1+〜4+で評価
虹彩後癒着散瞳薬で予防・解離を図る
硝子体混濁中間部・後部ぶどう膜炎の指標
嚢胞様黄斑浮腫CMEOCTで評価。後部Tenon嚢下注射の良い適応
続発緑内障眼圧上昇→降圧点眼(薬剤選択に注意)

ぶどう膜炎は部位により前部・中間部・後部・汎ぶどう膜炎に分類される。局所治療薬の選択はこの分類と炎症の程度に依存する。嚢胞様黄斑浮腫CME)はぶどう膜炎における視力低下の主要原因であり、黄斑部の液体貯留と内核層の嚢胞形成を特徴とする6)

Q なぜ炎症が強いときに散瞳薬を使うのですか?
A

前房内に強い炎症が起きると、虹彩水晶体前面に癒着する「虹彩後癒着」が生じます。散瞳薬毛様体筋や瞳孔括約筋を弛緩させ、この癒着を予防・解離します。ベーチェット病ではトロピカミド(ミドリンM)1日1〜3回、原田病ではミドリンP 1日1回夜の点眼が処方例として示されています。

ステロイド局所療法の適応疾患は感染性と非感染性ぶどう膜炎に大別される。

非感染性ぶどう膜炎の主要原因:

感染性ぶどう膜炎の主要原因:

  • ヘルペスウイルス・CMV
  • 結核・梅毒・トキソプラズマ・真菌(カンジダ等)

感染性ぶどう膜炎では感染を十分にコントロールしない状態でのステロイド単独投与は感染を増悪させる危険があるため、原因治療を優先することが原則である。

4. 診断と検査方法(投与前評価)

Section titled “4. 診断と検査方法(投与前評価)”

ステロイド局所療法開始前に感染性ぶどう膜炎の除外が不可欠である。全身免疫調節療法へ進む場合は、国際調査で全例スクリーニングが行われていた1)。炎症強度はSUN(Standardization of Uveitis Nomenclature)ワーキンググループの分類に基づき評価する。

全身免疫調節療法を検討する場合のスクリーニング例

  • 血液化学検査(98.2%の専門医が実施)1)
  • 全血算(93.7%が実施)1)
  • QuantiFERON(TB検査、88.7%が実施)1)

炎症強度の評価は細隙灯顕微鏡検査が基本であり、前房フレア・細胞数をSUN基準で半定量的に評価する。後眼部の黄斑浮腫にはOCT検査が必須であり、中心網膜厚(CST)を定量的に測定してテノン嚢下注射・硝子体内投与の適応と効果判定に用いる5)

感染性除外後に、炎症部位(前眼部・中間部・後眼部)と重症度に応じて投与経路を選択する。

Q 感染性ぶどう膜炎にステロイドを使ってよいですか?
A

感染性ぶどう膜炎への感染コントロール前のステロイド単独投与は急激増悪の危険があり、原則禁忌です。特に後部テノン嚢下注射は感染性ぶどう膜炎に施行すると急激に増悪する恐れがあります。感染症のコントロールをとったうえで時期を遅らせて注射すること、または同時に抗菌薬を投与することが大切です。

前眼部炎症に対する第一選択治療である。力価の低い順から:フルオロメトロン → ロテプレドノール → リメキソロン → プレドニゾロン → ジフルプレドナート。

薬剤名濃度特徴・用途主な副作用
フルオロメトロン(FML)0.1, 0.02%炎症軽度な場合眼圧上昇(少)
ロテプレドノール(Lotemax)0.2, 0.5, 1%低眼圧リスク眼圧上昇(少)
プレドニゾロン(Pred Forte)0.12, 1%眼内炎症の標準治療白内障眼圧上昇
ジフルプレドナート(Durezol)0.05%強力。重症例白内障眼圧上昇

ベーチェット病の局所治療処方例:リンデロン点眼(0.1%)1日4〜6回点眼、ミドリンM 1日1〜3回点眼。原田病の処方例:リンデロン点眼(0.1%)1日3回、ミドリンP 1日1回夜。

局所ステロイド(点眼)の漸減は必須ではない。治療期間が3〜4週間未満であれば用量にかかわらず漸減は不要である。3〜4週間を超えて使用した場合は段階的な減量が推奨される。

急性炎症のパルス治療として使用する。

  • リンデロン注(2 mg/0.4%):0.2〜0.3 mL、1日1回球結膜下注射
  • 適応:ベーチェット病急性発作・前部ぶどう膜炎重症例
  • 水溶性製剤のため持続効果は短時間だが、急性発作時の迅速な抗炎症効果が期待できる

5-3. 後部テノン嚢下注射(デポ型)

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後眼部慢性炎症のコントロールに最初に行う手技であり、黄斑浮腫網膜血管炎を伴う硝子体混濁などが良い適応である。特に嚢胞様黄斑浮腫・びまん性硝子体混濁に対して有効である。

使用薬剤と処方例

  • ケナコルト-A(40 mg/mL)0.5 mL 後部Tenon嚢下注射(保険適用外)
  • サルコイドーシスベーチェット病原田病黄斑浮腫への標準処方
  • 高齢者や糖尿病など全身疾患のためステロイド内服が好ましくない場合にも選択される

効果の特性

  • 効果ピーク:注射後約1か月
  • 有効期間:約3か月
  • 複数回施行:2か月以上間隔をあける

手技の要点

  • 点眼麻酔後、顕微鏡下で耳側下方結膜円蓋部に小切開を加える
  • テノン嚢切開後に強膜を部分的に露出させる
  • 24〜25 G程度の鈍針でトリアムシノロンアセトニド 20 mg/0.5 mL を注入
  • 視神経の根元まで到達させるよう深く注入する

鋭針を使う代替手技:耳側下方円蓋部から25 G程度のやや太めの鋭針を使う方法もある。出血・痛みが少なく、注射時間が短く、薬液逆流がほとんどない利点がある。

副作用・注意点

  • トリアムシノロンは3か月テノン嚢下に停滞する
  • 眼圧上昇・白内障眼瞼下垂・感染症のリスクあり
  • 上方からの注射で眼瞼下垂が生じるため、耳側下方からの注射が推奨される

段階的なエスカレーション指針ぶどう膜炎診療ガイドライン準拠)5)

  1. ステロイド点眼(前眼部炎症の第一選択)
  2. 後部テノン嚢下注射(後眼部炎症・黄斑浮腫
  3. 硝子体ステロイドインプラント(難治性UME)
  4. 全身免疫調節療法(局所治療で不十分な場合)
Q Tenon嚢下注射の効果はどのくらい持続しますか?
A

トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-A)後部テノン嚢下注射の場合、効果ピークは注射後約1か月で、約3か月間の有効性が期待できます。薬剤は3か月テノン嚢下にとどまりますが、同時に白内障眼圧上昇などの副作用リスクも持続します。複数回施行する場合は2か月以上の間隔をあけることが推奨されます。

5-4. 硝子体内注射(デポ型・インプラント)

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難治性ぶどう膜炎性黄斑浮腫(UME)に対して硝子体ステロイド投与が選択される。

薬剤用量・期間主要エビデンス
トリアムシノロン(マキュエイド)4 mg、約3か月視力改善約50%、白内障4〜5回でほぼ確実、眼圧上昇20〜45%
デキサメタゾンインプラント(Ozurdex0.7 mg、約4〜6か月Fan 2023 メタ解析:BCVA 6か月-0.24 logMAR、CMT 6か月-140.25 μm、IOP上昇13.6%、白内障形成5.4%3)
フルオシノロン(Iluvien0.19 mg、約36か月白内障手術73.8%、緑内障手術11.9%(長期リスク高)
フルオシノロン(Retisert)0.59 mg、約30か月白内障手術90%超、緑内障手術40%(超長期リスク高)

MUST(Multicenter Uveitis Steroid Treatment)試験では、硝子体内フルオシノロンインプラントと全身免疫調節療法を直接比較し、長期視力転帰では両群に差がなかったが、インプラント群で白内障緑内障手術率が有意に高かった7)

POINT試験では眼周囲トリアムシノロン(PTA)・硝子体トリアムシノロン(ITA)・硝子体内DEXインプラント(IDI)を直接比較し、中心窩網膜厚減少率はそれぞれ23%・39%・46%であった8)。HURON試験ではOzurdex 8週時点で中心窩網膜厚有意低下と硝子体混濁改善が確認された4)

Q 日本でデキサメタゾンインプラント(Ozurdex)は保険適用ですか?
A

Ozurdexデキサメタゾン硝子体内インプラント)は、糖尿病黄斑浮腫網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫などには保険適用があります。ただしぶどう膜炎性黄斑浮腫への適応は2026年4月時点では保険適用外となっています。主治医にご確認ください。

5-5. 脈絡膜上腔注射(Xipere; SCS-TA)

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脈絡膜腔(SCS;脈絡膜強膜の間の潜在的空間)に薬剤を直接投与する新しい経路である。動物実験では硝子体内投与と比較して後眼部への薬物曝露が12倍高く、前眼部への曝露は96%低下した2)

PEACHTREE試験(第III相):SCS-TA 4 mg投与群で24週時に15文字以上のBCVA改善を達成した患者が46.9%(偽処置群15.6%、p<0.001)、中心窩網膜厚減少は平均152.6 μm対17.9 μm(p<0.001)2)

MAGNOLIA延長試験:SCS-TA群の50%が2回目投与後最長9か月間レスキュー治療を必要としなかった2)

米国では2021年承認済みだが、2026年4月時点で日本では未承認である。

ステロイド緑内障眼圧上昇に対して降圧点眼薬(プロスタグランジン製剤・β遮断薬炭酸脱水酵素阻害薬・α2受容体刺激薬)→ 炭酸脱水酵素阻害薬内服 → D-マンニトール点滴静注の順に用いる5)

ステロイド白内障:長期ステロイド使用(特に全身投与)で後囊下白内障発生リスクがある。小児では成人より発症しやすい。眼内ステロイドを4〜5回繰り返すと白内障進行がほぼ確実になるとされる。

感染性ぶどう膜炎への誤投与:感染コントロール前のテノン嚢下注射は急激増悪の恐れがあり厳禁。

グルコルチコイドは受容体(GR)に結合し、炎症性サイトカイン産生を抑制することで眼内炎症を鎮める。NF-κBシグナル経路を抑制し、TNF-α・IL-1β・IL-6などの炎症性サイトカインの産生を広く抑制する。

眼圧上昇の機序ステロイドによる線維柱帯のムコ多糖沈着・水分結合能増加 → 房水流出抵抗増加 → 眼圧上昇。これがステロイド緑内障の主要機序である。ステロイドレスポンダーでは点眼開始後2〜4週で眼圧上昇が認められる。デポ型注射後の眼圧上昇は3〜6か月間持続する可能性がある。

嚢胞様黄斑浮腫の病態ぶどう膜炎に伴うCMEは、炎症性サイトカイン(主にVEGF・TNF-α)が網膜血管内皮細胞の結合タンパク(オクルジン・クローディン等)を障害し、血液網膜関門(BRB)を破綻させることで発症する6)ステロイドはBRBの再建と炎症性サイトカインの産生抑制の双方の機序で奏効する。

デポ型の機序トリアムシノロンアセトニドはデポ型製剤であり、注射部位から徐放されることで長期効果(約3か月)を発揮する。組織内での緩徐な溶解により安定した薬物濃度が維持される。

硝子体内インプラントの機序:DEXインプラント(Ozurdex)は生分解性ポリマー(ポリ乳酸・グリコール酸共重合体)にデキサメタゾン0.7 mgが組み込まれており、約4〜6か月間持続放出する。初期1〜2か月は高濃度放出、以降は徐々に低下するパターンを示す3)

前部ぶどう膜炎の局所治療フロー

ステップ1ステロイド点眼(炎症程度に応じ力価選択)

ステップ2散瞳薬(ミドリンP等)で虹彩後癒着を予防

ステップ3眼圧上昇時はβ遮断薬炭酸脱水酵素阻害薬(プロスタグランジン系・ピロカルピン禁忌)

ステップ4:コントロール不十分→全身ステロイドまたはTenon嚢下注射

後眼部への局所治療フロー

後部Tenon嚢下注射:ケナコルト-A 40 mg/mL 0.5 mL(耳側下方から施行)

適応嚢胞様黄斑浮腫・びまん性硝子体混濁・後極部炎症

硝子体内インプラント(難治性)Ozurdex 0.7 mg / トリアムシノロン4 mg

脈絡膜上腔注射(研究段階):Xipere 4 mg(国内未承認)

脈絡膜上腔投与の日本承認動向

Section titled “脈絡膜上腔投与の日本承認動向”

SCS-TA(Xipere)は2021年に米国で承認されたが、2026年4月時点で日本では未承認である。PEACHTREE試験の良好な成績を踏まえ2)、国内承認に向けた動向が注目されている。

バイオシミラーの普及と個別化治療

Section titled “バイオシミラーの普及と個別化治療”

デキサメタゾンインプラントのバイオシミラーや長時間作用型インプラントの開発が進んでおり、治療コスト低減と治療アクセス向上が期待される。ステロイドレスポンダー(眼圧上昇を起こしやすい患者)の早期同定による個別化薬剤選択も研究が進んでいる。網膜炎症における血液網膜関門障害の詳細な機序解明により、より選択的なターゲット療法の開発も期待される6)

全身療法との最適な組み合わせ

Section titled “全身療法との最適な組み合わせ”

局所ステロイドと全身免疫調節療法の最適な組み合わせ・投与順序・中止基準については引き続き検討が続いている。MUST試験7)の長期追跡から、硝子体内インプラントと全身治療の選択においては患者個別の白内障緑内障リスクを考慮した意思決定が推奨されている。


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  2. Fung S, Syed YY. Suprachoroidal space triamcinolone acetonide: a review in uveitic macular edema. Drugs. 2022;82(13):1403-1410.
  3. Fan S, Shi XY, Zhao CF, et al. Efficacy and safety of single-dose intravitreal dexamethasone implant in non-infectious uveitic macular edema: a systematic review and meta-analysis. Front Med. 2023;10:1126724.
  4. Lowder C, Belfort R Jr, Lightman S, et al.; Ozurdex HURON Study Group. Dexamethasone intravitreal implant for noninfectious intermediate or posterior uveitis. Arch Ophthalmol. 2011;129(5):545-553. doi:10.1001/archophthalmol.2010.339.
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