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角膜・外眼部疾患

Terrien角膜周辺部変性

Terrien角膜周辺部変性(Terrien’s marginal degeneration: TMD)は、角膜周辺部の実質菲薄化に脂質沈着と表層血管新生を伴うまれな変性疾患である。緩徐進行性で、典型例は非炎症性であり、両眼性かつ非対称な経過をとる。初期には角膜周辺部に弓状の細粒状実質混濁が出現し、混濁部と角膜輪部の間には透明帯が残る。進行に伴い菲薄部の辺縁は貝殻のように扇型に縁取られ、脂肪沈着と偽翼状片を伴うようになる。菲薄化が著明になると角膜実質が脆弱化して前方突出し、強い倒乱視(against-the-rule astigmatism)または不正乱視によって視力が低下する。

本疾患は1900年にフランスの眼科医Louis-Auguste Terrienによって初めて記載され、以来1世紀以上にわたり実質菲薄化を特徴とする周辺部角膜変性の代表例として位置づけられてきた。有病率に関する正確な値は不明だが、世界的にもまれな疾患であり、角膜専門医でも生涯に経験する症例数は多くない。進行は一般に緩徐で、数年から数十年にわたり症状の顕在化が遅れる。しかし進行期には倒乱視により読書や運転に支障をきたし、まれに穿孔に至ることから、長期経過観察と適切なタイミングでの介入が重要となる。

発症年齢は40歳代以降が多く、男性にやや多い。20〜40歳代を中心に男女比は約3:1と報告されており、中高年の典型例と若年発症例との二峰性をとる4)。Chanらによる25例の多施設ケースシリーズでは、28%(7例)が片眼性であり、従来「両眼性が原則」とされてきた常識が修正された3)。最年少は6歳女児例が報告されており5)、Mandalらは10歳男児の片側性TMDを詳細に報告している2)

2つの臨床型が知られる。

臨床型特徴
中高年典型型無症候性、緩徐進行、非炎症、両眼性・非対称
若年発症型20〜30代男性に多く、再発性の上強膜炎・前眼部炎症を伴う13)

菲薄化は通常上方から始まり、軽度の点状上皮下混濁と前部実質混濁を呈する。混濁部と角膜輪部の間には透明な領域が残存する。混濁に続いて周辺部表層に微細な血管パンヌスが発生し、数年から数十年をかけて円周状に伸展する。進行縁には脂質沈着による黄白色の線が現れ、血管は溝を横切ってその先まで伸びる。菲薄化は上方に多いが、どの方向にも生じうる。下方輪部まで及ぶことはまれである。経過中、角膜上皮は健全に保たれるのが特徴である。

約20%の症例で偽翼状片の合併を認める。自然穿孔は少ないが、軽微な外傷で容易に穿孔が生じうる点に注意を要する。Chanらのシリーズでは25例中5眼で角膜穿孔が観察され、うち4眼は自発的な穿孔であった3)

Q TMDは小児でも発症するか?
A

TMDは通常20〜40歳代に発症するが、小児期の発症も複数報告されている。最年少例は6歳の女児であり、下方4〜8時方向に角膜菲薄化を認めた5)。Mandalらは10歳男児の片側性TMDを報告し、上方9〜3時方向の弓状実質菲薄化に脂質沈着と血管新生を認めた2)。小児例では不正乱視による弱視発症のリスクが高く、早期の屈折矯正と定期的な経過観察が重要である2)。小児例でも自然穿孔が起こり得るため、穿孔リスクを説明し慎重に経過観察する14)

Terrien辺縁変性の細隙灯写真
Vejdani AH, et al. Partial and Total Descemet’s Detachments in a Patient with Severe Terrien’s Marginal Degeneration and Juvenile Idiopathic Arthritis. Case Reports in Ophthalmological Medicine. 2014;2014:279491. Figure 1. PMCID: PMC4131067. License: CC BY.
右眼の細隙灯写真。周辺角膜に輪状の菲薄化溝・混濁・脂質沈着・血管新生を認める。周辺部優位に進む菲薄化病変に脂質沈着と血管新生が重なる所見を示している。
  • 霧視:最も一般的な症状であり、倒乱視の進行に伴い徐々に増悪する。無痛性の経過が典型的である。
  • 無症候性経過:軽症例では乱視以外に自覚症状がないことも少なくない。健診や他疾患の診療で偶然発見される例も多い。
  • 異物感・疼痛:若年発症型では再発性の痛みと結膜充血を伴う炎症エピソードを呈する場合がある13)
  • 急性視力低下:軽微な外傷後の穿孔により、突然の視力低下と疼痛を生じうる3)15)

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 周辺部角膜の菲薄化:通常は上方から始まり、三日月状または弓状の溝を形成する。中心側の壁は急峻で、周辺側はなだらかに傾斜する。辺縁は貝殻のように扇型に縁取られる。
  • 透明帯の存在:初期には混濁部と角膜輪部の間に1〜2 mmの透明な領域が残存する。
  • 脂質沈着:溝の中心側縁(パンヌス先端)に黄白色の線状脂質沈着を認める。血管は溝を横切って沈着の先まで伸びる。
  • 表層血管新生(パンヌス)輪部から菲薄化部に向かって微細な血管が伸展する。典型的には輪部炎症を伴わず、静かに進行する。
  • 翼状片:約20%の症例で合併する。
  • 上皮の健全性角膜上皮は欠損なく保たれ、フルオレセインで染色されない。Mooren潰瘍や周辺部潰瘍性角膜炎との決定的な違いである。
  • 高度の倒乱視:垂直経線の進行的な平坦化により、強い倒乱視や不正乱視を生じる。Mandalらの10歳男児例では6.3 Dの倒乱視を認め、眼鏡矯正(-6 DC at 90°)で視力が20/200から20/60へ改善した2)
  • 非典型所見結膜充血上強膜炎を伴う若年発症型では、再発性の前眼部炎症エピソードを繰り返しながら菲薄化が進行する13)
  • AS-OCT所見:菲薄化部周囲に上皮下高輝度バンドが観察される場合があり、臨床的に非炎症性にみえてもOCTで潜在的な炎症期を示しうる2)6)。Mandalらの症例では、菲薄部の角膜厚は耳側305 μm、鼻側355 μmと計測された2)。経時的な角膜厚計測は進行度評価の重要な指標となり、1年間で15 μmの減少を示した症例も報告されている2)

視力低下の最大要因は高度の倒乱視である。眼鏡矯正で対応できる範囲では日常生活への支障は軽微だが、不正乱視が前面化すると高次収差が増加し、眼鏡矯正でも像の歪みや鬼像(ghosting)を自覚するようになる。夜間視力の低下、羞明コントラスト感度の低下も進行期の典型的な訴えである。両眼性・非対称進行例では左右の屈折差が拡大し、不等像視(aniseikonia)が生じうる。小児発症例では視覚発達の臨界期に高度不正乱視が生じると不可逆的な弱視に至るため、早期の屈折矯正と弱視訓練が予後を左右する2)

病因は依然として不明である。現時点では変性起源説と炎症起源説の2つの仮説が並立している4)。組織学的には病変部のBowman膜の欠損、Descemet膜の破裂、実質内空胞(intra-stromal cyst)の形成が認められる。光学顕微鏡では上皮下の線維性コラーゲン変性が観察され、電子顕微鏡ではコラーゲン前駆体、実質基質、および高いリソソーム活性を持つ組織球による脂質の食作用が確認されている4)。組織球のリソソーム活性がコラーゲン線維の破壊に関与していると考えられる。若年発症型では血管侵入周囲の炎症細胞浸潤が報告されており、免疫介在性機序の関与が示唆されている13)。明確な遺伝性は確立されておらず、家族発症の報告も極めて散発的である。特定の全身疾患との強い関連も知られていないが、後述する円錐角膜PPCDとの合併報告は、角膜構造脆弱性を背景とする共通基盤の存在を示唆する。

  • 円錐角膜との合併:PouliquenらはTMDと円錐角膜が同一眼あるいは同一患者の両眼に発症する症例を報告した7)
  • 後部多形性角膜ジストロフィPPCD:WagonerらはTMDとPPCDの合併例を報告している8)
  • 対側眼の潜在的角膜形状異常:Nahataらは片眼のTMDを呈する20代女性の対側眼が臨床的に正常(視力20/20)であったにもかかわらず、角膜形状解析で下方急峻化と後方隆起を認め、円錐角膜様のトポグラフィー変化を報告した1)。TMDと角膜拡張症スペクトラムの関連が示唆される。
  • 前部基底膜ジストロフィ持続性隆起性紅斑などとの合併例も散発的に報告されている。
  • 血管炎関連:Keenanらは血管炎に関連してFuchs表層周辺部角膜炎とTMDを非対称に発症した症例を報告している16)

進行期のTMD眼は実質が著しく菲薄化しているため、軽微な外傷でも角膜穿孔を生じうる。Chanらのケースシリーズでは25例中5眼で穿孔が観察された3)。Chungらは小児例14)、Srinivasanらは成人例15)で自発穿孔を報告している。

TMDの診断は臨床診断であり、細隙灯顕微鏡検査が最も有用である。角膜形状解析前眼部光干渉断層計AS-OCT)が診断の確度を高め、炎症期の評価や鑑別診断に貢献する。2021年のNordic Terrien degeneration studyにより、脂質沈着を伴う周辺部菲薄化・表層血管新生・上皮の健全性を軸とした診断基準が提案された9)

細隙灯顕微鏡検査

基本所見:脂質沈着の進行縁、急峻な中心側縁となだらかな周辺側縁、健全な上皮、輪部から菲薄化部へ伸びる表層の血管新生を確認する。

進行期所見:偽翼状片(約20%)の合併、貝殻様の扇型辺縁、前房深度の保持など、Mooren潰瘍やリウマチ性周辺部潰瘍との鑑別点となる所見を系統的に観察する。

フルオレセイン染色:通常は染色されない。染色される場合は重度の菲薄化や切迫穿孔を示唆する。

角膜形状解析・AS-OCT

逆カニの爪パターン:菲薄化した周辺部角膜の平坦化と、その中点から約90度離れた角膜の相対的急峻化を呈する1)2)。ペルーシド角膜変性(PMD)のカニの爪パターンが下方に位置するのに対し、TMDでは上方に位置するため「逆」と称される2)

乱視の定量評価:Mandalらの症例では6.3 Dの倒乱視が検出された2)。経時変化の追跡に有用である。

AS-OCTによる炎症期評価:静止期では局所的実質菲薄化のみを認めるが、炎症期では菲薄化部に隣接する上皮下高輝度バンドが出現する6)。臨床的に炎症徴候を欠く場合でも潜在的炎症期を検出できる2)

対側眼評価:Nahataらは臨床的に正常な対側眼にも角膜形状解析で不整パターン(円錐角膜様変化)を認めたと報告し、片眼性と思われる症例でも対側眼の系統的評価が必要であることを強調した1)

TMDとの鑑別が必要な主な疾患を以下に示す2)4)。脂質沈着の有無、上皮欠損の有無、疼痛・炎症の有無、菲薄化の好発部位が鑑別のポイントとなる。

疾患TMDとの鑑別点
Mooren潰瘍疼痛・炎症高度、上皮欠損あり、overhanging edge、脂質沈着なし
ペルーシド角膜変性(PMD下方4〜8時方向に好発、脂質沈着なし、血管新生なし
周辺部溝状変性(furrow degeneration)高齢者、両眼性、血管新生なし、非進行性
Fuchs表層周辺部角膜両眼性、灰色バンド、脂質沈着なし、偽翼状片角膜菲薄化を伴う10)
リウマチ性周辺部潰瘍性角膜炎PUK膠原病合併、疼痛・充血・上皮欠損、強膜炎合併
Staphylococcal marginal keratitis慢性眼瞼炎続発、浸潤と輪部間のlucid interval
感染性周辺部角膜急速進行、膿性浸潤、コンタクトレンズ関連
Dellen(角膜凹窩)涙液膜破綻部の局所脱水、翼状片や濾過胞隣接に生じる

若年発症型のTMDは強膜炎や前眼部炎症を伴うため、非典型例ではMooren潰瘍や膠原病関連PUKとの鑑別が特に重要である13)。血液検査による膠原病・血管炎のスクリーニング(抗核抗体、リウマトイド因子、ANCA、HLA-B27、梅毒血清反応など)が必要となる場合がある。Mandalらの症例でも、HLA-B27、c-ANCA、p-ANCA、抗核抗体、リウマトイド因子、抗CCP抗体、HBs抗原、HCV、HIVなどを全て検査したうえで陰性を確認し、TMDの診断を確定している2)

鑑別診断の臨床的着眼点は以下に集約される。第一に疼痛と上皮欠損の有無:いずれも認めなければTMDあるいは老人性furrow degenerationの可能性が高い。第二に脂質沈着の有無:進行縁に黄白色の線状沈着があればTMDを強く示唆する。第三に菲薄化の好発部位:上方優位ならTMD、下方優位ならPMD、全周ならPUK合併を考慮する。第四に血管新生の態度:輪部から菲薄部へ微細な表層パンヌスが静かに伸展する像はTMDに特徴的で、Mooren潰瘍の活動性炎症を伴う血管反応とは区別される。

Q TMDの対側眼も評価すべきか?
A

必ず評価すべきである。Nahataらは、右眼にTMDを有する20代女性の臨床的に正常な対側眼(視力20/20)にも角膜形状解析で下方急峻化と後方隆起を認め、円錐角膜様のトポグラフィー変化を報告した1)。片側性TMDと考えられる症例であっても、対側眼に潜在的な角膜形状異常や角膜拡張症スペクトラムに属する変化が存在する可能性がある。初診時と年1回以上のトポグラフィーによる経過観察が推奨される1)

TMDは緩徐進行性で典型例は無症候性であるため、治療の基本は経過観察と屈折矯正である。炎症発作や切迫穿孔を呈した場合に積極的な介入が必要となる。

  • 経過観察:無症候性の典型例では治療を要せず、半年〜1年毎の細隙灯検査と角膜形状解析による進行モニタリングを行う。進行の速度は個人差が大きく、数十年にわたりほぼ静止状態の症例もあれば、数年で高度の倒乱視に至る症例もある。
  • 眼鏡矯正乱視に対する第一選択である。軽度〜中等度の倒乱視は眼鏡で対応可能である。定期的な屈折検査により処方値を更新する。
  • 酸素透過性ハードコンタクトレンズ(RGP-CL)・強膜レンズ:眼鏡で矯正困難な高度不正乱視に対しては、RGP-CLや強膜レンズ(scleral lens)による矯正を試みる4)強膜レンズは角膜全体を跨いで涙液層で屈折を調整するため、周辺部の不規則な形状変化に由来する収差を軽減でき、進行期のTMDにも応用しやすい。ただし高齢者ではCLへの忍容性が低いことも少なくなく、小児でも装用が困難な場合がある2)
  • 潤滑点眼:表面の不整に対しカルボキシメチルセルロース0.5%などの人工涙液を併用する。Mandalらの小児例では潤滑点眼単独でも症状緩和が得られたと報告されている2)
  • 低濃度ステロイド点眼結膜充血上強膜炎を伴う炎症発作例に対しては、フルメトロン0.1%を1日3回などの低濃度ステロイド点眼を用いる。若年発症型では長期継続を要することがあるため、眼圧・後嚢下白内障などの副作用に配慮し、最低有効濃度・最短期間を心がける。

進行性の菲薄化により穿孔が切迫している場合、あるいは乱視により視力が著しく低下している場合に手術適応となる。AAOのPreferred Practice Patternでは、TMDを含む周辺部の著明な実質喪失と乱視増大を伴う症例に対して、周辺部の三日月形あるいは円環状のパッチ移植が推奨されている11)

  • 三日月形パッチ移植(crescentic patch graft):層状または全層の角強膜パッチ移植を菲薄化部位に施行する。部分的な実質喪失を補強し、長期にわたり乱視進行を抑制しうる。重度の倒乱視の進行を最大20年間にわたって抑制できたとの長期報告もある4)。Fernandesらは両眼性TMDで軽微外傷後に穿孔した症例にパッチ移植を施行し、良好な視機能が得られたと報告している12)
  • 環状層状角膜移植術(annular lamellar keratoplasty):360度の周辺部変性を伴う重症例に適応される4)。ドーナツ型のグラフトを輪部全周に縫着する。
  • 自動層状治療角膜移植(ALTK):周辺部の進行性菲薄化例に対し、tectonicな補強を目的として選択される11)
  • 治療用ソフトコンタクトレンズ:穿孔部位が小さい場合は、組織接着剤(シアノアクリレート)との併用で一時的に閉鎖し、二期的に手術を計画することもある。
  • 全層角膜移植術(PK):中心角膜まで及ぶ病変や広範な不正乱視例に対しては、偏心性のPKやrotational autograftが選択されることがある11)。偏心性PKは正円形グラフトを中心から周辺にずらして縫着する手技で、瞳孔領を避けつつ病変部を切除できる利点があるが、術後乱視の管理が難しく、症例選択が肝要である。
  • 術後管理:いずれの術式でも長期の局所ステロイド点眼、縫合糸関連感染の監視、残存角膜の形状評価が必要となる。術後早期に縫合糸を段階的に抜糸することで乱視を最適化し、必要に応じてRGP-CLを再導入する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

TMDの病変部では、上皮は正常・肥厚・菲薄のいずれの形態もとりうる。Bowman膜は通常欠損または変性しており、Descemet膜には菲薄化や断裂が認められることがある。病変部実質内には実質内空胞(intra-stromal cyst)が形成され、光学顕微鏡では上皮下の線維性コラーゲン変性が観察される。電子顕微鏡所見としては、コラーゲン前駆体、実質基質、および高いリソソーム活性を持つ組織球による脂質の食作用が認められており、組織球のリソソーム活性がコラーゲン線維の緩徐な破壊に関与していると考えられている4)

TMDは長らく非炎症性変性疾患と考えられてきたが、Austinらは1981年に若年発症の炎症性TMDを報告し、変性説と炎症説の並立を提起した13)。Chanらによる多施設ケースシリーズでは、炎症エピソードを伴う症例の割合や予後の特徴が詳細に解析されており、炎症型が非炎症型より進行が速く手術介入を要する傾向が示されている3)

Rodriguezらは高分解能AS-OCTを用い、周辺部角膜菲薄化の炎症型と非炎症型を鑑別できることを示した。静止期では局所的実質菲薄化のみを認めるが、炎症期では菲薄化部に隣接する上皮下高輝度バンドが出現する6)。Mandalらの小児例でも、臨床的に炎症所見を欠くにもかかわらずAS-OCTで上皮下高輝度バンドが認められ、潜在的な炎症期である可能性が示唆された2)。この所見は治療方針決定(ステロイド点眼の適応判断)と予後予測に活用される。

TMDでは菲薄化部の角膜が平坦化し、その90度方向に相対的急峻化が生じるため強い倒乱視を呈する。この変化は角膜形状解析で逆カニの爪パターンとして描出される1)2)PMDのカニの爪パターンが下方に位置するのに対し、TMDでは病変が上方に位置することが多いため「逆」と称される2)。進行期では菲薄部の前方突出が顕著となり、不正乱視が矯正困難となる。

TMDは自然穿孔がまれとされてきたが、進行期の実質菲薄化が著しい例では軽微な外傷(眼こすり、鈍的外傷、コンタクトレンズ装脱着など)で容易に穿孔を生じうる。Chanらのシリーズでは25例中5眼で穿孔が観察され、そのうち4眼は明確な外傷契機のない自発穿孔であった3)。Chungらは小児のTMDで自然穿孔に至った症例を報告し14)、Srinivasanらは成人例で初発症状が自然穿孔であった症例を報告している15)。菲薄部の厚みが100 μm前後まで減少する症例では急激に穿孔リスクが上昇するため、AS-OCTによる定量的なモニタリングと早期の外科介入判断が肝要である。

Q TMDとMooren潰瘍はどう鑑別するか?
A

TMDは無痛性で上皮が健全であり、進行縁に脂質沈着と表層血管新生を伴う。一方、Mooren潰瘍は疼痛・充血を伴い、上皮欠損があり、潰瘍縁にせり出した「overhanging edge」を特徴とする。TMDでは前眼部炎症を欠くことが多く、菲薄化は数年単位で緩徐に進行する。ただしTMDにも若年型で炎症エピソードを伴う亜型があり13)、非典型例では血液検査による膠原病・血管炎スクリーニングとAS-OCTでの炎症期評価が鑑別に有用である2)6)

2021年のNordic Terrien degeneration studyは、従来統一されていなかったTMDの診断基準を提案し、脂質沈着・表層血管新生・上皮の健全性を軸とする臨床基準を定式化した9)。診断基準の標準化により、多施設での症例登録や前向き経過観察研究の設計が容易になると期待される。高分解能AS-OCTによる炎症期/静止期の鑑別は治療方針決定への応用が進みつつあり、従来の細隙灯所見だけでは捉えられなかった潜在的炎症を検出する手段として定着しつつある6)

強膜レンズは中心角膜を跨いで周辺菲薄部の屈折影響を吸収するため、重度不正乱視への非侵襲的選択肢として注目されている4)。大径のRGPレンズやハイブリッドレンズも選択肢となり、手術回避の手段として近年積極的に検討されている。周辺部の角膜クロスリンキングCXL)はTMDへの応用可能性が議論されているが、菲薄部で必要角膜厚(400 μm以上)を下回る症例が多く、適応は限定的である。バイオエンジニアリング角膜グラフトによるtectonic補強、脱細胞化ドナー組織の臨床応用、3Dプリンティングによる三日月形スキャフォールドなども将来的な研究対象となりうるが、TMDを対象とした大規模ランダム化比較試験は現時点で存在せず、現状のエビデンスはケースシリーズと後ろ向き研究に依存している。早期診断と患者教育、進行モニタリング、適切なタイミングでの外科介入が、引き続き臨床管理の柱となる。

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