胎児型
頻度:横紋筋肉腫全体の50〜60%、眼窩横紋筋肉腫の80〜84%を占める。
組織像:紡錘形細胞の束が種々の方向に走る。小円形または紡錘形で、核の多型性は少ない。細胞質は乏しく好酸性顆粒を有し、横紋のある横紋筋芽細胞が認められる。
予後:眼窩例の5年生存率は95%と良好である。平均発症年齢7〜8歳。

横紋筋肉腫は、筋組織に分化する胎児期中胚葉または間葉組織から発生する悪性腫瘍である。小児悪性腫瘍全体の5〜8%を占め、小児の軟部組織腫瘍の中で最も頻度が高い。眼窩における未分化間葉系細胞から発生し、横紋筋への分化を示す。外眼筋などの分化した筋組織が悪性化したものではない。小児で最も頻度の高い眼窩悪性腫瘍である。
米国では全小児がんの約5%を占め、年間約250例が新規診断される。そのうち約10%(年間約35例)が眼窩原発である。年間発症率は全人口で4例/100万人口、小児では4.5例/100万人口と推計されている1)。
発症年齢は平均7〜8歳で、2/3は10歳未満の小児に発症する。90%が16歳未満で発生し、男児にやや多い(男女比5:3)。人種による罹患率の差はない。
眼部の横紋筋肉腫の発生部位の内訳は、眼窩76%・結膜12%・ぶどう膜9%・眼瞼3%である。眼窩は全横紋筋肉腫の10%の原発部位であり、その他の発生部位として泌尿生殖器(22%)、四肢(18%)、髄膜近傍(16%)、他の頭頸部(10%)がある。
2/3は10歳未満の小児に発症し、平均発症年齢は7〜8歳である。90%が16歳未満で発生する。成人への発症はまれであるが報告されている。
Shieldsらの報告による所見頻度は以下の通りである。
| 所見 | 頻度 |
|---|---|
| 眼球突出 | 80〜100% |
| 眼球偏位 | 80% |
| 結膜・眼瞼腫脹 | 60% |
| 眼瞼下垂 | 30〜50% |
| 触知可能な腫瘤 | 25% |
| 痛み | 10% |
病変は上方・内上方に多く、腫瘤が眼球を下方・外方へ偏位させる。境界が比較的明瞭な円形〜卵形の腫瘤が筋円錐外に認められる。
副鼻腔・鼻腔から発生して二次的に眼窩へ侵入する例が約10%あり、副鼻腔炎・鼻閉・鼻出血を呈することがある。後方腫瘍では脈絡膜皺襞・網膜剥離・視神経乳頭浮腫を伴う場合がある。
結膜原発の場合は結膜円蓋部に肉芽状のピンク色のブドウ状腫瘤として現れる。ぶどう膜原発では虹彩腫瘤として現れ、前房播種や続発緑内障を伴うことがある。
転移は肺に最も多く、次いで骨髄、骨、リンパ節の順に多い。眼窩にはリンパ管がほとんどないが、結膜・眼瞼の前方腫瘍は領域リンパ節へ転移しうる。
横紋筋肉腫は外眼筋からではなく、眼窩軟部組織中の多分化能を有する未分化間葉系細胞から発生する。ほとんどは散発性であり、明確な原因は不明である。
関連する遺伝的リスク要因は以下の通りである。
頭部・眼窩CTを緊急に施行し、眼窩骨壁の破壊の有無・頭蓋内・副鼻腔への進展を確認する。
各モダリティの特徴的所見は以下の通りである。
| 検査 | 主な所見 |
|---|---|
| CT | 均質・境界明瞭な円形〜卵円形の腫瘤。中等度〜高度の造影効果 |
| MRI T1 | 眼窩脂肪に対し低信号、外眼筋に対し等信号 |
| MRI T2 | 眼窩脂肪・外眼筋に対し高信号 |
MRI上、画像では毛細血管腫との鑑別が困難な場合があるが、血管(血流)が豊富であることから区別が可能となる。
転移検索として、胸部X線・骨シンチグラフィー・骨髄穿刺の細胞診を行う。全身検索にはPET/CT・全身CT・シンチグラフィも使用される。
確定診断には生検が必要である。細針吸引生検では不十分であり、切除生検または切開生検を行う。
術中迅速診断では他の腫瘍との区別が困難なことがある。緊急手術で生検を行い、早期に化学療法・放射線療法を開始することが原則である。
光学顕微鏡・免疫組織化学・電子顕微鏡による横紋筋芽細胞の証明が診断の中心となる。
臨床的鑑別疾患:神経芽細胞腫、緑色腫、リンパ管腫、乳児血管腫、眼窩蜂窩織炎、非特異的炎症。日本の教科書では、副鼻腔炎の眼窩進展・眼窩蜂巣炎・皮様囊腫破裂・血管腫の腫瘍内出血・リンパ管腫の出血・神経芽細胞腫・Ewing肉腫・白血病の眼窩浸潤(緑色腫)・眼窩出血も鑑別に挙げられる。
現在、手術の主目的は組織診断の確保であり、眼窩内容除去を第一選択とする時代は終わっている。標準治療は手術・放射線療法・化学療法を組み合わせた三者併用療法である。放射線療法は40〜60Gy程度を照射する。造血幹細胞移植も一部で行われる。
化学療法にはVAC療法(ビンクリスチン+アクチノマイシンD+シクロホスファミド)が主に用いられる。その他、イホスファミド・エトポシドの有益性も報告されている。
眼窩横紋筋肉腫はIntergroup Rhabdomyosarcoma Study(IRS)の病期分類に基づいて治療方針が決定される。Shieldsらの30例における病期内訳はグループI 7%・グループII 37%・グループIII 53%・グループIV 3%であった。
| グループ | 定義 | 治療方針 |
|---|---|---|
| I | 局所疾患の完全切除 | 化学療法のみ |
| II | 残存疾患または領域リンパ節転移 | 化学療法+放射線療法 |
| III | 不完全切除または肉眼的残存 | 化学療法+放射線療法 |
| IV | 遠隔転移 | 化学療法+放射線療法 |
グループII〜IVに対する放射線療法は4〜5週間で4000〜5000 cGy(40〜50Gy)照射する。
全切除できない症例や再発例では、姑息的治療として放射線照射や抗がん剤治療を考慮する。外科的治療として腫瘍摘出および眼窩内容除去術が行われることもある。なお、手術で完全切除できた場合でも化学療法は必須である。眼窩は予後良好部位であり、適切な治療を行えば90%以上の生存が期待できる。
放射線療法(4000〜5000 cGy)の主な合併症は以下の通りである。
化学療法の眼科的合併症として、シクロホスファミドによる乾性角結膜炎・眼瞼結膜炎、イホスファミドによる結膜炎・霧視、エトポシドによる網膜中心動脈閉塞症などが報告されている。
治療後の長期的視力転帰(Shields)は、20/20〜20/40が39%・20/50〜20/100が18%・20/200〜光覚なしが43%である。
放射線療法(4000〜5000 cGy)後の主な合併症として、放射線網膜症(90%)・放射線白内障(55%)・ドライアイ(36%)・眼窩発育不全(24%)・眼瞼下垂(9%)が報告されている。化学療法でも薬剤により乾性角結膜炎・結膜炎・網膜中心動脈閉塞症などが生じうる。
横紋筋肉腫はWHO分類で胎児型・胞巣型・多形型・紡錘細胞/硬化型の4亜型に分類される2)。
胎児型
頻度:横紋筋肉腫全体の50〜60%、眼窩横紋筋肉腫の80〜84%を占める。
組織像:紡錘形細胞の束が種々の方向に走る。小円形または紡錘形で、核の多型性は少ない。細胞質は乏しく好酸性顆粒を有し、横紋のある横紋筋芽細胞が認められる。
予後:眼窩例の5年生存率は95%と良好である。平均発症年齢7〜8歳。
胞巣型
頻度:横紋筋肉腫全体の20%前後。眼窩横紋筋肉腫の10%程度。
組織像:腫瘍が胞巣状に増殖する。未分化な小円形細胞が隔壁に付着する形態を示す。広範な転移をきたしやすい。
予後:眼窩例の5年生存率は74%。全体として予後不良。
多形型
頻度:小児にはまれ。主に成人の四肢(特に大腿)に好発。
組織像:大型で異型のある核と好酸性細胞質を持つ。多形性に富む腫瘍細胞からなる。
予後:予後不良な組織型である。
ブドウ状型(botryoid型)は乳児に多い胎児型の変種で、上皮下の腫瘍細胞凝集体が特徴的な「ブドウのような」外観を呈する。
組織学的には胎児型に比べ、胞巣型・多形型の予後が不良である。横紋筋肉腫全体の5年生存率は66%であるが、眼窩横紋筋肉腫は発生部位的に予後良好群に分類される。
胞巣型横紋筋肉腫は再発性染色体転座 t(2;13)(q35;q14) および t(1;13)(p36;q14) によって特徴づけられる。約80%の胞巣型横紋筋肉腫にPAX3-FOXO1またはPAX7-FOXO1転座が関与する。PAX3-FOXO1融合はOLIG2の高発現・予後不良と関連する2)。
胎児型横紋筋肉腫には再発性の構造的染色体再構成はないが、第11染色体(特に11p15.5領域)の対立遺伝子喪失が高頻度に認められる。
眼窩横紋筋肉腫における胎児型の5年生存率は95%であるのに対し、胞巣型は74%と低い。胞巣型はPAX3-FOXO1などの染色体転座を伴い、広範な転移をきたしやすい組織型である。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項を参照。
近年、TFCP2再構成を伴う上皮様紡錘細胞型横紋筋肉腫という新規亜型が同定されている。
Li ら(2023)は、上皮様紡錘細胞型横紋筋肉腫が骨(頭頸部・骨盤)に好発し、EWSR1-TFCP2またはFUS-TFCP2融合を特徴とする極めて予後不良の亜型であることを報告した3)。報告例の中央生存期間は17ヶ月にとどまる。
胞巣型横紋筋肉腫の約80%に関与するPAX3-FOXO1融合タンパクを標的とした治療研究が進められている。
低分子干渉RNA(siRNA)をリポソーム-プロタミン粒子に内包した製剤が、生体外で胞巣型横紋筋肉腫細胞株においてPAX3-FOXO1の発現を効率的に下方制御し、胞巣型横紋筋肉腫異種移植腫瘍の成長遅延・抑制をもたらすことが報告されている1)。
転移性肉腫への免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブなど)の応用が試みられている1)。ただし、現時点で横紋筋肉腫への有効性は確立していない。
成人の松果体部原発胞巣型横紋筋肉腫を対象とした文献レビューでは、治療強度と生存期間の関連が示唆されている。
Chang ら(2025)の成人の松果体部原発胞巣型横紋筋肉腫 13例のレビューでは、手術のみの平均生存期間が約5ヶ月であったのに対し、手術+放射線療法で約10.28ヶ月、手術+放射線療法+化学療法で約11.33ヶ月と、多剤併用治療で生存期間が延長する傾向を報告した2)。