この疾患の要点
眼窩類皮嚢腫(皮様囊腫)は小児眼窩 新生物の46%、全眼窩 腫瘤の3〜9%を占める最多の眼窩 良性腫瘍である。
胚性外胚葉が骨縫合線に迷入することで形成される先天性分離腫(choristoma)であり、眉毛外側(前頭頬骨縫合)への好発が特徴的である。
浅在型は眉毛外側の無痛性弾性硬腫瘤として発見されるが、深在型では眼球突出 ・眼球偏位・眼球運動制限を呈する。
完全摘出が基本であり、囊胞壁を破裂させずに全摘出することが再発予防の鍵となる。
ダンベル型では骨の内外にまたがる骨破壊を伴い、脳外科との連携が必要になる。
加齢とともにゆっくり増大するため、適切な時期の手術介入が重要である。
完全摘出後の再発はまれであり、視機能予後は良好である。
眼窩類皮嚢腫(orbital dermoid cyst)は発生過程の異常で生じる先天性分離腫(choristoma)であり、本来その組織が存在しない場所に正常細胞が良性腫瘤を形成したものである。ICD-10ではD31.60に分類される。
分離腫には皮様囊腫(dermoid cyst)と表皮様囊腫(epidermoid cyst)の2種類がある。皮様囊腫は囊胞の内腔に皮膚の付属器である毛囊・毛髪・皮脂腺、さらに脂肪や平滑筋を含む。表皮様囊腫は付属器構造を伴わず、内腔に表皮の角化物質(いわゆる垢)のみが充満する。内胚葉・中胚葉・外胚葉由来の組織を同時に含む場合は奇形腫(teratoma)と呼ばれる。
眼窩類皮嚢腫は小児の眼窩 新生物の46%、全眼窩 腫瘤の3〜9%を占める最多の眼窩腫瘍 であり、全眼窩腫瘍 の約2%を占めるとする報告もある1) 。骨性分離腫(osseous choristoma)は全結膜 腫瘍の約0.1%、全眼性分離腫の1.7〜5%を占める比較的まれな亜型である2) 。
さらに分離腫はdermoid、dermolipoma、single-tissue choristoma、complex choroistomaに細分類される4) 。
Q
皮様嚢腫と表皮様嚢腫はどう異なりますか?
A
皮様嚢腫 は嚢胞壁内面に角化重層扁平上皮を持ち、毛包・皮脂腺・汗腺などの付属器構造を含む。一方、表皮様嚢腫 は付属器構造を伴わず、内腔に角化物質(垢様の内容物)のみが充満する。内胚葉・中胚葉・外胚葉由来の組織を同時に含む場合は奇形腫(teratoma)と呼ばれる。
眼窩類皮嚢腫は発生部位によって浅在型・深在型・ダンベル型の3つに大別される。
型 好発部位 主な症状 浅在型(前部型) 眉毛外側・眼窩 外縁 無痛性皮下腫瘤 深在型(眼窩 内深部型) 眼窩 深部・筋円錐内眼球突出 ・偏位・運動制限ダンベル型 眼窩 骨の内外にまたがる骨破壊を伴う
好発部位は頬骨・前頭骨の縫合線であり、前頭頬骨縫合が最も多く約60%がこの部位に発生する。前頭涙骨縫合への発生は約25%とされる。
浅在型 :眉毛外側付近のゆっくり進行する無痛性腫瘤として気づかれる。
深在型 :年長児・成人では眼球突出 ・複視 ・眼球運動制限が現れる。
囊胞破裂時 :急激な眼球突出 と眼窩 炎症が生じる(緊急対応が必要)。
浅在性嚢腫
位置 :眉毛外側(前頭頬骨縫合部)に好発し、ドーム状の隆起として触知される。
触診所見 :弾性硬・表面平滑・圧痛なし。眼窩 骨と癒合している場合は可動性がない。
形態 :大きいものは機械的眼瞼下垂 を引き起こすことがある。
深在性嚢腫
主所見 :眼球突出 ・眼球偏位・眼球運動制限を呈する。
炎症 :嚢腫の漏出・破裂時に脂質肉芽腫性炎症が生じうる。
形態 :眼窩 骨の内外にまたがるダンベル型では骨破壊を伴う。筋円錐内発生では画像診断が必須となる1) 。
眼窩類皮嚢腫の発生原因は、胎生期における胚性外胚葉の迷入である。
胚性上皮芽の迷入 :胚形成期に胎児縫合線が閉鎖する際、外胚葉由来の上皮芽が骨縫合線に閉じ込められ嚢腫を形成する。これが分離腫(choristoma)の基本的な発生機序である。
好発縫合 :前頭頬骨縫合が最も一般的(約60%)。前頭涙骨縫合にも約25%が生じる。
ダンベル型 :眼窩 骨の内外にまたがる形態をとることがある。骨を破壊しながら発育するものもある。
緩徐な増大 :加齢とともにゆっくり増大し、青年期以降に症状が顕在化することがある。
成人発見例 :先天性病変だが、小児期に無症状のまま経過し、成人になってから発見されることもある。
眼窩 良性腫瘍の中でも皮様囊腫・表皮様囊腫は頻度が高く、特に小児眼窩腫瘍 の代表的疾患の一つである。
Levanon E, Greenberg G, Lustig-Barzelay Y, et al. Orbital masses: a review of CT imaging characteristics. Front Ophthalmol (Lausanne). 2025;5:1685141. Figure 5. PMID: 41323232; PM
CI D: PMC12660082; DOI: 10.3389/fopht.2025.1685141. License: CC BY.
軸位断(a)および冠状断(b)造影CTで、左眼窩 内側直筋に近接する境界明瞭な脂肪減弱病変(約-105 HU)を認め、隣接篩骨内板の菲薄化・外側弓状変形(骨scalloping)を伴う。本文「4. 診断と検査方法」の項で扱うCT所見(境界鮮明な囊胞状腫瘤・脂肪信号・骨リモデリング)に対応する。
浅在性嚢腫は縫合線上の位置・硬い質感という臨床所見から比較的容易に診断できる。深部嚢腫では画像検査が必須となる。
検査 特徴的所見 CT 境界鮮明な囊胞状腫瘤。85%で骨リモデリングを認める MRI T1・T2信号ともに不均一(脂肪と水分の混在を反映)。脂肪抑制T1で低信号 超音波 低反射部分と不規則スパイク反射の混在
CT :境界鮮明・被膜を有する均一内容の囊胞状腫瘤として描出される。骨破壊像・骨欠損がみられる場合がある1) 。ダンベル状形態の検出に有用であり、頭蓋内への進展評価にも使用する。
MRI :囊腫の内容物は水に近い性質と脂肪に近い性質が混在するため、T1強調画像およびT2強調画像ともに信号強度は不均一である1) 。脂肪抑制T1では低信号を呈し、脂肪成分の確認に有用。軟部組織の詳細な描出や周囲神経筋構造の評価に優れる。
超音波 :A-scanで低反射部分と不規則スパイク反射が混在するパターンを示す。
確定診断 :摘出後の病理組織学的検査による。囊胞壁の内面が角化重層扁平上皮で覆われ、皮様囊腫では毛囊・皮脂腺などの付属器構造が確認される。
表皮囊腫 :付属器構造を欠く囊胞性病変。同部位に発生しうる
眼窩 血管腫 :乳幼児期の眼窩腫瘍 。MRI所見が異なる
横紋筋肉腫 :急速増大する悪性腫瘍。鑑別が特に重要
涙腺多形腺腫 :眼窩 外上方の充実性腫瘤
副鼻腔粘液囊腫 :副鼻腔由来の囊胞性病変
先天性脳瘤・涙嚢腫 :内側病変との鑑別
Q
皮様嚢腫はCTやMRIでどのように見えますか?
A
CTでは境界鮮明な囊胞状腫瘤として描出され、85%で骨リモデリングを認める。MRIではT1・T2ともに不均一な信号強度を呈し、脂肪と水分の混在を反映する。脂肪抑制T1では低信号を示すため、脂肪成分の確認に有用である。
小さく無症状の嚢腫では経過観察が選択される場合がある。ただし、加齢とともに増大するため定期的な経過観察と適切な手術時期の検討が必要である。
囊胞壁を破裂させずに完全摘出することが原則である。残存すると急激な炎症を惹起し、再発・膿瘍形成・眼窩 皮膚瘻の原因となる。
浅在性切除
切開部位 :眉毛内切開・上眼瞼溝切開・病変直上の切開から選択する。
手術要点 :囊腫壁を破裂させずに全摘出することが必須。骨実質内に病変があれば骨切併用による摘出が必要である。眼窩 骨と強く癒合していることが多く、慎重な剥離を要する。
術後経過 :完全摘出が得られれば予後は良好であり、再発はまれである。
深部・複雑型切除
眼窩 切開 :側方アプローチまたは前方・側方を組み合わせた眼窩 切開術を選択する。
筋円錐内 :経鼻内視鏡アプローチも有効な術式であり、3.0cmの筋円錐内嚢腫を完全摘出した報告がある1) 。
ダンベル型 :眼窩 骨の内外にまたがる場合は脳外科との連携が必要となる。頭蓋内部分への対応を含めた周術期計画が重要である。
輪部 デルモイドの手術 :整容目的が主体であり、腫瘍切除と必要に応じた表層角膜移植 (冷凍保存角膜 使用可、約7.0mmのトレパン径が多い)を行う。
治療における注意点
術中に嚢腫が破裂した場合は大量洗浄を行う。脂質肉芽腫性炎症が生じうるが、大量洗浄で軽減できる。ステロイド 投与で炎症を抑制する。
不完全摘出は再発・膿瘍形成・眼窩 皮膚瘻のリスクとなる。完全摘出が原則である。
ダンベル型や脳外科的管理が必要な症例では、術前から多科連携体制を整える。
Q
手術で嚢腫が破裂した場合はどうなりますか?
A
嚢腫内の脂質・ケラチンが漏出し脂質肉芽腫性炎症が起こりうる。術中に大量洗浄を行うことで炎症を軽減できる。不完全摘出では再発・膿瘍形成・眼窩 皮膚瘻の原因となるため、破裂後も残存組織を可能な限り除去することが重要である。術後はステロイド を投与して炎症を制御する。
Q
皮様嚢腫は成長し続けますか?
A
加齢とともにゆっくり増大する先天性病変である。表在性では長期間無症状のまま経過するが、放置すると眼瞼圧排・骨破壊・囊胞破裂のリスクが高まる。深部では増大とともに眼球突出 ・複視 などの症状が出現する。適切な時期の手術介入を専門医と相談することが重要である。
眼窩類皮嚢腫は胎生期に縫合線部で外胚葉が閉じ込められることによって生じる分離腫である。皮膚由来の構成要素(毛囊・皮脂腺・汗腺・角化物質)が本来存在しない眼窩 内で異所性に形成される。
分離腫の組織学的分類を以下に示す。
分類 組織学的特徴 皮様嚢腫 (dermoid cyst)角化上皮+毛包・皮脂腺などの付属器構造 表皮様嚢腫 (epidermoid cyst) 角化上皮のみ(付属器構造なし) dermolipoma(脂肪腫型) 脂肪組織主体4) 骨性分離腫(osseous choristoma) 成熟骨組織2)
嚢腫形成 :胎生期に縫合線が閉鎖する際、外胚葉由来の上皮芽が骨縫合線内に閉じ込められる。閉じ込められた上皮は内腔に向かって角化を続け、毛囊・皮脂腺などの付属器を形成しながら囊腫を成長させる。
緩徐な増大 :囊胞内に角化物質・毛髪・皮脂が蓄積することで徐々に増大する。周囲骨に圧迫性骨欠損を形成することがある。
炎症反応 :囊胞壁からのケラチン・脂質の漏出が周囲組織の激烈な炎症反応を引き起こす1) 。急性の脂質肉芽腫性炎症として発症する。
病理所見 :囊胞壁の内面は異型性のない角化重層扁平上皮で覆われる。皮様囊腫では囊胞壁に毛囊・皮脂腺などの付属器構造が認められる。
骨性分離腫 :dermolipoma 内に成熟骨組織が存在する異型であり4) 、多能性間葉系細胞の異常活性化・強膜 骨板の先祖返り・頬骨前頭縫合の発生異常などが病因仮説として挙げられている2) 。
筋円錐内皮様嚢腫 は眼窩類皮嚢腫全体の0.5〜0.6%と極めてまれな亜型であり、1986〜2020年のPubMed上では6例のみが報告されている1) 。
Samalら(2021)は30歳男性の右眼筋円錐内3.0cmの皮様嚢腫 を報告した1) 。経鼻内視鏡アプローチで完全摘出が達成され、6か月後の再発はなかった。病理では角化重層扁平上皮と付属器構造が確認された。
経鼻内視鏡アプローチを含む低侵襲手術法が症例報告レベルで蓄積されてきており、今後の標準化が期待される。
分離腫の組織学的多様性についての研究も進んでいる。骨・軟骨の混合型、歯牙様構造を含む型、色素性嚢胞変化を伴う軟骨型などが報告されており2) 、骨性分離腫の病因仮説として多能性間葉系細胞の異常活性化・強膜 骨板の先祖返り・頬骨前頭縫合の発生異常が挙げられている2) 。涙腺分離腫については、涙腺内に軟骨・筋肉・神経組織などの異所性組織を含む希少症例が報告されており3) 、分離腫の多様な組織起源が明らかになりつつある。
Samal S, Sable MN, Pradhan S, Pradhan P. Intraconal orbital dermoid cyst: a rare location. Autopsy & case reports. 2021;11:e2021282. doi:10.4322/acr.2021.282. PMID:34249789; PMCI D:PMC8232379.
Zhong S, Fu J, Hu M, Zhang X, Cheng P. Epibulbar osseous choristoma. BMC ophthalmology. 2025;25(1):199. doi:10.1186/s12886-025-04024-9. PMID:40217468; PMCI D:PMC11987218.
Cruz AAV, Limongi RM, Feijó ED, Enz TJ. Lacrimal gland choristomas. Arquivos brasileiros de oftalmologia. 2021;85(2):190-199. doi:10.5935/0004-2749.20220029. PMID:35416898; PMCI D:PMC11826571.
Kim JM, Son WY, Sul HJ, Shin J, Cho WK. Epibulbar osseous choristoma with dermolipoma: A case report and review of literature. Medicine. 2022;101(47):e31555. doi:10.1097/MD.0000000000031555. PMID:36451416; PMCI D:PMC9705003.
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