眼球突出
特徴:緩徐進行・単眼性・無痛性
様式:筋円錐内腫瘤のため軸方向(axial)突出が典型的
計測:Hertel眼球突出計で左右差を評価
眼窩海綿状血管腫(orbital cavernous hemangioma)は血管内皮に由来する良性腫瘍で、成人眼窩腫瘍の中で最も代表的な良性腫瘤である。被膜に包まれた境界明瞭な充実性腫瘤を形成し、筋円錐内(眼窩の外眼筋が形成する円錐状の空間内)に好発する。
血管腫は組織学的に、血管壁を構成する全成分が腫瘍化する多形血管腫と、1成分のみが腫瘍化する単形血管腫とに分類される。海綿状血管腫は単形血管腫に属し、内腔が海綿状の血管腔(cavernous spaces)から構成される。
年齢分布による観点では、血管性眼窩腫瘍は年齢層によって異なる疾患が好発する。乳幼児期には毛細血管腫が最多であり、小児期にはリンパ管腫が多く認められる。これに対して海綿状血管腫は成人、特に30〜50歳代に好発する。女性にやや多い傾向があり、男女比は約1:1.4〜1:2 の報告がある。
近年の国際血管異常学会(ISSVA)分類の改訂では、従来「腫瘍」に分類されていた海綿状血管腫を低流量血管奇形(venous malformation)として再分類する考え方が提唱されている[1,7]。しかし臨床現場では依然として「海綿状血管腫」の名称が広く使用されているため、本記事でもこの名称を採用する。
良性腫瘍であり悪性化は極めてまれである。被膜に包まれた境界明瞭な腫瘤で、周囲組織への浸潤を示さない。血管腫の大多数は組織学的に良性であるが、まれに再発や周囲組織の破壊など悪性の所見を呈するものがある。適切な診断と治療選択が予後を改善する。完全摘出後の再発は極めてまれであり、一般に予後は良好である。

眼窩海綿状血管腫は増大速度が緩徐であり、症状は数か月〜数年をかけて徐々に進行する。急激な増大はまれであるが、腫瘍内出血が生じた際には比較的急速な増大をきたすことがある。
代表的な自覚症状は以下のとおりである。
なお、無症状のまま画像検査で偶発的に発見される例も少なくない。このような例では経過観察が基本方針となる。
眼球突出量はHertel眼球突出計で計測する。眼底検査では、腫瘤による眼球壁の押し付けによって脈絡膜皺襞(choroidal folds)を認めることがある。
眼球突出
特徴:緩徐進行・単眼性・無痛性
様式:筋円錐内腫瘤のため軸方向(axial)突出が典型的
計測:Hertel眼球突出計で左右差を評価
視力低下・複視
画像上の特徴
CT:境界明瞭・均一な充実性腫瘤。筋円錐内好発
MRI Dynamic:濃染遅延(gradual enhancement)が特徴的
超音波:被膜の高反射+内部スパイク状高反射の連続
眼窩原発腫瘍の中で最多を占めるのはリンパ増殖性疾患群であり、眼窩腫瘍全体の50〜60%を占める。眼窩海綿状血管腫はリンパ増殖性疾患に次いで多い良性眼窩腫瘍であり、成人眼窩良性腫瘍の中で最も頻度が高い。
好発年齢は30〜50歳代であり、小児にはまれである(小児では毛細血管腫やリンパ管腫が好発する)。性差については女性にやや多い傾向が報告されているが、大規模な疫学データは限られている。

眼窩海綿状血管腫の診断はCTおよびMRIを主体とした画像診断が中心である。診断確定には画像検査が不可欠であり、脳血管造影検査が必要となる症例は少ない。
画像検査上、良性腫瘍の場合は境界明瞭で正常組織への浸潤を示さない。これに対して悪性腫瘍や炎症性疾患は境界不鮮明で周囲組織への浸潤パターンを呈することが多く、鑑別に役立つ。
| 検査法 | 所見 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| CT | 境界明瞭・均一な充実性腫瘤 | 筋円錐内好発。石灰化はまれ。造影CTで均一に造影 |
| MRI T1/T2 | T1低〜等信号、T2高信号 | 境界明瞭・均一。腫瘤内部は均一な信号強度 |
| MRI Dynamic(造影) | 濃染遅延(gradual enhancement) | 本疾患に最も特徴的。早期不均一→経時的に均一造影 |
| 超音波(Aモード) | 被膜高反射+内部スパイク状高反射が連続 | high internal reflectivity with regular pattern |
| 超音波(Bモード) | 境界明瞭な充実性腫瘤 | 被膜エコーの高反射を確認できる |
MRI Dynamic撮像での濃染遅延(gradual enhancement / progressive filling)は眼窩海綿状血管腫の最も特徴的な画像所見である[3,4,6]。造影剤投与早期には腫瘍内部の信号が不均一(一点または一部分から造影が始まる)で、一部造影されない部分が存在する。経時的に造影が広がり、最終的に腫瘤全体が均一に濃染される。この遅延パターンは腫瘤内の緩徐な血流を反映しており、神経鞘腫が早期から広範囲に造影されるのとは対照的で、他の眼窩腫瘍との鑑別に重要である[3,4]。
超音波Aモードでは、腫瘤の前壁で被膜を示す高い反射と、腫瘤内部にスパイク状の高反射が連続して観察される。この所見はhigh internal reflectivity with regular patternと呼ばれ、海綿状血管腫に特徴的である。
眼窩海綿状血管腫の主な鑑別疾患と鑑別ポイントを示す。
| 鑑別疾患 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| 神経鞘腫 | 筋円錐内で鑑別困難。MRI T2で不均一な高信号(囊胞状変性が多い)。Dynamic MRIで早期濃染傾向 |
| 眼窩静脈瘤 | Valsalva手技(息こらえ)で腫瘤が増大・突出が増強する。体位変換で変化あり |
| リンパ管腫 | 小児好発。多胞性・ニボー(液体レベル)形成。自然出血を繰り返す |
| 涙腺多形腺腫 | 涙腺窩(眼窩外上方)に限局。骨圧迫変形を伴うことがある |
細針穿刺吸引細胞診(FNA)は、血液成分のみが吸引されることが多く診断的価値は低い。
MRI Dynamic撮像での濃染遅延(gradual enhancement)が最も特徴的な所見である。造影剤投与早期は腫瘤内部が不均一で一部造影されないが、経時的に均一に濃染される。これは腫瘤内部の緩徐な血流を反映している。超音波Aモードでの被膜高反射+内部スパイク状高反射の連続パターンも特徴的であり、複数のモダリティを組み合わせることで診断精度が高まる。
眼窩海綿状血管腫は良性腫瘍であり、無症状例は経過観察が基本方針である。定期的な画像検査(MRIまたはCT)で腫瘤の増大を確認しながら経過をみる。
手術適応となるのは以下の場合である。
視力発達への影響が懸念される小児例(まれ)や、複視が強く日常生活に支障をきたす場合には、早期の手術介入を検討する。
外側開眼術(標準術式)
適応:筋円錐内の腫瘤。大多数の例で適応
手技:側頭部皮膚切開→側頭筋剥離→外側眼窩壁骨切り→筋円錐内腫瘤へのアクセス
要点:被膜を破らずに腫瘤を一塊として摘出(en bloc resection)。被膜損傷は術中出血増加・不完全摘出のリスクとなる
前方・経結膜アプローチ
適応:眼窩前方に位置する小型腫瘤
特徴:侵襲が比較的小さい。外側眼窩壁骨切りを要しない
経結膜アプローチ:小型腫瘤に対してさらに低侵襲なアプローチとして選択される場合がある
経過観察の適応
ほとんどの例で眼窩側方アプローチ(lateral orbitotomy)により腫瘤の摘出が可能である[2,5]。手術の要点は以下のとおりである。
被膜の完全保持が最重要のポイントである。 被膜を破ると腫瘤内の血液成分が流出して術野が不良となり、完全摘出が困難になる。被膜が温存されることで腫瘤は一塊として安全に摘出される。
主な合併症として以下が挙げられる。
術後の一過性眼球運動障害は時間の経過とともに改善することが多い[2,5]。術前から視力低下がなければ、術後の視機能は良好に保たれ、164例の大規模コホート研究では視力・視野・複視・眼球突出・眼球運動が術後有意に改善したと報告されている[2]。
可能である。良性腫瘍であり、視力障害・眼球運動障害・著明な眼球突出がなければ経過観察が基本方針となる。増大傾向や視機能への影響が出現した時点で手術を検討する。無症状で偶発的に発見された例では、定期的な画像検査(MRIまたはCT)で腫瘤の増大がないことを確認しながら経過をみることが多い。
被膜を破らずに一塊として完全摘出できれば、再発は極めてまれである。被膜が明瞭なため完全摘出率は高い。ただし被膜損傷による不完全摘出は再発リスクとなるため、手術では被膜の温存が重要なポイントとなる。まれに再発や周囲組織の破壊など悪性の所見を呈するものがあり、適切な経過観察が推奨される。
眼窩海綿状血管腫は血管内皮細胞に由来する良性腫瘍である。腫瘤全体が線維性の被膜(fibrous capsule)に包まれており、内部は海綿状に拡張した血管腔(cavernous spaces)の集合体から構成される。
血管腔の内腔は血管内皮細胞で覆われており、腔内には血液が充満している。血管腔間の隔壁(septae)は線維性結合組織と平滑筋様細胞から成る。この構造が腫瘤に特有の弾性感(soft rubbery texture)をもたらす。
腫瘤内の血管腔は閉鎖した系を形成しており、全身循環との交通は限定的である。このため腫瘤内への造影剤の流入は緩徐であり、これがMRI Dynamic撮像での濃染遅延(gradual enhancement)として観察される原因となる。
造影剤は腫瘤周辺部から徐々に浸透し、最終的に腫瘤全体を均一に染める。この「周辺部から中心部への漸次的な濃染パターン」が海綿状血管腫に特徴的であり、早期から均一に濃染される眼窩腫瘍(神経鞘腫の一部や転移性腫瘍など)との鑑別に有用である。
通常の増大は緩徐であり、血管腔への血液の緩慢な蓄積によると考えられている。悪性化の報告は極めてまれである。
腫瘍内出血(内部出血)が生じると急速な増大をきたすことがある。これは腫瘤内の血管腔が破綻して血液が貯留するためであり、急激な眼球突出・視力低下・疼痛の原因となる。このような場合には緊急手術が必要となることがある。
2018年のISSVA(国際血管異常学会)分類改訂では、海綿状血管腫を「静脈奇形(venous malformation)」に再分類することが提唱されている。静脈奇形は血管内皮の異常増殖ではなく血管構造の先天的奇形であるという理解に基づくものである。免疫組織化学的検討においても、成人の被膜化海綿状病変は乳児血管腫とは異なる発生機序を示唆する所見が報告されている[7]。この分類変更は治療方針や病態理解に影響を与える可能性があるが、眼窩の「海綿状血管腫」は臨床的にこの再分類が適切か否かについてなお議論がある[1]。
ISSVA分類改訂に伴い、従来「腫瘍」に分類されていた眼窩海綿状血管腫を「低流量静脈奇形(venous malformation)」として再分類する議論が継続している。この再分類が臨床的に意味を持つかどうか(たとえば硬化療法の適応など)については、眼窩疾患における大規模な比較研究が必要な段階である。
経鼻内視鏡アプローチ(endoscopic transnasal approach)は、眼窩内側(鼻側)に位置する腫瘤に対する低侵襲な術式として報告が蓄積されている。外側眼窩壁骨切りを必要とせず、術後の整容的問題が少ないとされるが、内視鏡的手術の技術習熟が必要であり適応は限られる。
MRI拡散強調画像(DWI)とADC値(apparent diffusion coefficient)を用いた眼窩腫瘍の良悪性鑑別の試みが報告されている。海綿状血管腫はADC値が高いとされ、悪性腫瘍との鑑別に有用な可能性があるが、眼窩領域での大規模な検証はまだ不十分である。
眼窩海綿状血管腫の自然退縮(spontaneous regression)は極めてまれであるが、散発的な症例報告がある。特に妊娠後や女性ホルモンの変動と関連する可能性が示唆されているが、機序は未解明であり、無症状例における経過観察継続の根拠として確立されるには至っていない。
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