OCT所見
嚢胞様変化:外網状層から内顆粒層にかけて液体貯留を認める。花弁状の嚢胞形成が特徴的。
中心網膜厚(CST)増加:定量的な評価が可能で、治療効果の指標となる。2)
亜臨床型:視力低下を伴わない軽微な液体貯留もOCTで検出される。
偽水晶体性嚢胞様黄斑浮腫(Pseudophakic Cystoid Macular Edema; PCME)は、白内障手術後に黄斑部に液体が貯留し嚢胞様の浮腫を生じる疾患である。1953年にIrvineが初めて報告し、のちにGassが蛍光眼底造影で詳細を記載したことからIrvine-Gass症候群とも呼ばれる。
臨床的なCMEの発生率は研究により幅がある4)。OCTで検出される亜臨床型を含めると、頻度はより高くなる5)。術後4〜12週に発症することが多く、視力障害を伴う場合は迅速な診断・治療が求められる2)。
多くの症例は3〜4か月以内に自然消退する自己限定的な経過をたどるが、治療抵抗例(約0.02%)では永続的な視力障害を残すことがある4)。6〜9か月以上遷延する慢性例では、網膜線維化により浮腫が消退した後も視力障害が残存する可能性がある。
術後一度改善した視力が再び低下する場合に本疾患を疑う。
細隙灯顕微鏡では初期に明らかな異常を認めないことがあるが、OCTや蛍光眼底造影で特徴的な所見が得られる。
OCT所見
嚢胞様変化:外網状層から内顆粒層にかけて液体貯留を認める。花弁状の嚢胞形成が特徴的。
中心網膜厚(CST)増加:定量的な評価が可能で、治療効果の指標となる。2)
亜臨床型:視力低下を伴わない軽微な液体貯留もOCTで検出される。
FA所見
花弁状蛍光漏出:蛍光眼底造影(FA)で後期に黄斑部中心窩周囲に花弁状の過蛍光を示す。Irvine-Gassに特異的なパターン。
乳頭蛍光漏出:視神経乳頭からの蛍光漏出を伴うことがある。
OCTA所見
FAZ拡大:光干渉断層血管造影(OCTA)では中心窩無血管帯(FAZ)の拡大を認めることがある。
毛細血管リモデリング:慢性例では黄斑毛細血管の形態変化が観察される。
OCTは非侵襲的で繰り返し実施でき、液体貯留の定量評価と治療効果判定に優れる。4)FAは蛍光漏出のパターン確認に有用だが侵襲的である。日常診療ではOCTが主力の検査となっている。
嚢胞様変化は外網状層(特に中心窩周囲のHenle線維層)および内顆粒層に生じ、嚢胞の隔壁はMüller細胞や軸索線維により形成される。経過により急性型と慢性型に大別され、慢性化すると視細胞構造の不可逆的変化により視力予後が悪化しうる。
急性CME
発症時期:術後4〜12週がピーク。
眼底所見:黄斑部に浮腫を認め、中心窩を中心とした花弁状の嚢胞配列を呈する。
経過:多くは3〜4か月以内に自然消退する。
慢性CME
定義:6〜9か月以上持続するもの。
組織変化:永久的な網膜線維化を生じうる。
視力予後:浮腫消退後も視細胞構造の変化により永続的な視力障害が残存する可能性がある。
PCMEの主な原因は、白内障手術に伴う炎症性メディエーターの増加であり、これが血液網膜関門(BRB)の破綻を引き起こすと考えられている2, 5)。
術式・眼内条件に関連する主なリスク因子を以下に示す。
| リスク因子 | 備考 |
|---|---|
| 後嚢破損/硝子体脱出 | 最大の術中リスク因子4) |
| 術前ぶどう膜炎 | 炎症素因が増悪4) |
| 糖尿病網膜症 | 血管透過性亢進が下地に |
| 上膜(ERM)合併 | OR 4.537) |
| プロスタグランジン製剤点眼 | 緑内障治療薬として使用中の場合 |
術式に関しては、過去の硝子体手術既往、網膜光凝固既往、眼内炎症の既往も独立したリスク因子とされる。また、術中合併症としての残留水晶体片、対側眼のCME既往、高齢・男性といった患者背景もリスクを高める4)。網膜色素変性・放射線網膜症・ナノフタルモスなどの眼科的既往も関連する。
網膜前膜(ERM)は特に重要なリスク因子であり、術前の中心網膜厚が高いほどリスクが上昇する。眼底検査では見逃されやすい黄斑上膜の存在を確認するため、術前にスペクトラルドメインOCTを施行することが推奨される6)。
**OCT(光干渉断層計)**が診断の中心となる。非侵襲的かつ高感度で、黄斑部の液体貯留を定量的に評価できる。4)外網状層と内顆粒層の嚢胞様変化、中心窩下液の有無、中心網膜厚(CST)を確認する。
**蛍光眼底造影(FA)**は花弁状蛍光漏出パターンを視覚化し、PCMEに特徴的な所見を提供する。鑑別に役立つが、侵襲的であるため日常診療ではOCTが優先される。
OCTAはFAに代わる非侵襲的な血管評価法として期待されており、FAZ面積の変化などの情報を提供する。
嚢胞様黄斑浮腫の原因疾患は複数あり、以下との鑑別が重要である。
NSAIDs点眼が第一選択薬であり、プロスタグランジン産生を抑制してCMEを改善させる5)。2024年のメタアナリシスでは、NSAIDs予防投与によりPCMEリスクが低下した(RR 0.33)5)。
ステロイド点眼は炎症制御に用いられるが、PCME予防ではNSAIDs単独またはNSAIDs併用の有用性が多く検討されている4, 5)。
ESCRSの臨床ガイドラインでは、ブロムフェナク0.09%(1日2回)とデキサメタゾン0.1%(1日4回)の併用が、いずれかの単剤使用よりもCME予防に有効であることが示されている6)。非糖尿病患者ではNSAIDs点眼がステロイド点眼よりCME発症オッズを有意に低下させ(OR 0.11; 95% CI 0.03–0.37)、NSAIDs+ステロイド併用はステロイド単独よりさらにオッズが低い(OR 0.21; 95% CI 0.10–0.44)6)。糖尿病網膜症のない糖尿病患者では、NSAIDsとステロイドの併用点眼が推奨され、糖尿病網膜症がある場合は結膜下トリアムシノロンのデポ注射の追加が検討される6)。
段階的な治療アプローチを以下に示す。
第1段階
NSAIDs点眼:ネパフェナク、ブロムフェナクなど。術前から開始し術後も継続投与する。
ステロイド点眼:NSAIDsと組み合わせて用いる。PREMED試験ではNSAIDs+ステロイドの併用が有効とされた。4)
第2段階
テノン下トリアムシノロン注射:第1段階で改善しない難治例に検討される選択肢である2)。
抗VEGF硝子体内注射:VEGFを標的とした治療。難治例で選択肢として検討される。
第3段階
Ozurdex(デキサメタゾン硝子体内インプラント):持続放出型ステロイド。難治性CMEで検討されるが、眼圧上昇に注意する2)。
硝子体手術(PPV):すべての薬物療法に抵抗する難治例の最終手段。2)遷延例では内境界膜剥離や嚢胞切開を併用した硝子体手術の報告もある。
糖尿病患者ではCMEリスクが高い。高リスク眼では、術前からNSAIDsやステロイドを組み合わせた予防投与を検討する4, 5)。
PCMEでは、まず点眼治療で炎症を抑える。反応不十分な場合は、ステロイド局所注射、硝子体内治療、硝子体手術を症例ごとに検討する2)。
高リスク眼では術前から開始することが推奨されている。4)術後も継続して使用し、浮腫が消退するまで維持する。中止後の再発に注意し、主治医の指示に従って投与期間を決める必要がある。
PCMEの主な発症機序は、術後炎症に伴う血液網膜関門(BRB)の破綻である2, 5)。血液網膜関門の2層構造やCME全般に共通する3つの発症メカニズム(滲出性・変性性・牽引性)といった総論は、総説記事にまとめている。本項では白内障術後に特有の機序を中心に述べる。
白内障手術に伴う組織損傷がシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)を活性化させ、アラキドン酸カスケードからPGが産生される。2)PGはBRB毛細血管内皮の透過性を亢進させ、血漿成分が網膜外網状層と内顆粒層に貯留する。これが嚢胞様構造の形成につながる。
VEGFもBRB破綻に寄与しており、抗VEGF療法の有効性はこの機序を支持する。5)
炎症以外にも、硝子体や網膜前膜による黄斑部への機械的牽引、既存の網膜血管病変による血管透過性亢進、術後の一過性眼圧低下(相対的低眼圧)などの因子が発症に関与すると考えられている。
Müller細胞(網膜の支持グリア細胞)も液体恒常性の維持に関与していると考えられている。CMEが消退した後に黄斑円孔が自然閉鎖した症例において、NSAIDs使用によりCMEが消失した後のMüller細胞の再生・修復促進が関与している可能性が示唆されている。3)
da Costa DRら(BMC Ophthalmol 2022)は、CMEと黄斑円孔を合併した75歳女性の症例を報告した。3)NSAIDs点眼によりCMEが消失した後、黄斑円孔が自然閉鎖し、最終矯正視力は20/25まで回復した。Müller細胞の再生促進による自然閉鎖の可能性が考察されている。
Ozurdex(デキサメタゾン0.7mgインプラント)は難治性PCMEに対する選択肢の一つであり、さらなる長期有効性と安全性データの蓄積が進んでいる2)。
フルオシノロンアセトニド持続放出インプラントなどの長期徐放製剤についても、難治性後眼部炎症性疾患でのデータが集積中である。PCME難治例への応用は研究段階である2)。
炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミドはCME治療に用いられることがあるが、高齢者では重篤な副作用のリスクが報告されている。
Kudasiewicz-Kardaszewskaら(Life 2025)は、アセタゾラミド250mg×2回投与後に脈絡膜剥離を生じた87歳男性の症例を報告した。1)8日間で改善したが、高齢者ではアセタゾラミドの全身投与よりも局所治療を優先すべきとの警鐘が鳴らされている。
CMEと黄斑円孔の合併は稀なケースだが、NSAIDsによるCME消退後に黄斑円孔が自然閉鎖した症例が報告されている。3)この知見は、積極的なCME治療が黄斑形態の修復に貢献する可能性を示唆しており、外科的介入前に内科的治療を試みることの重要性を支持するものである。
治療抵抗性CMEに対する硝子体内注射薬の検討が進んでいるが、エビデンスは限定的である。ESCRSガイドラインによれば、硝子体内ステロイド・抗VEGF・TNF-α阻害薬、テノン嚢下ステロイド注射、硝子体内ステロイドインプラントの有効性に関する研究はいずれもバイアスリスクが中〜高であり、これら注射薬の臨床的有効性について確定的な結論は得られていない6)。PREMED 2試験では、結膜下トリアムシノロン40 mgが術後6〜12週の黄斑厚・黄斑体積を減少させたのに対し、硝子体内ベバシズマブ1.25 mgには効果が認められなかった4)。
術中の結膜下または前房内ステロイド注射により術後点眼を省略する「dropless cataract surgery」の有効性が検討されているが、従来の局所点眼療法と同等の安全性・有効性を持つかは未確立である6)。点眼コンプライアンス不良が予想される患者では選択肢となりうる。