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関節リウマチと眼病変(ドライアイ・強膜炎)(Rheumatoid-Arthritis-and-Ocular-Manifestations)

関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)は、関節滑膜を病変の主座とする慢性炎症性自己免疫疾患である。肺・皮膚・眼など全身に多彩な症状を呈し、膠原病のなかで最も頻度が高い。

30〜60歳の女性に好発し、男女比は約1:3である。高齢発症では男性の比率が増加する。日本の有病率は人口の約0.5〜1%(約60〜120万人)と推計される。

RA患者の約25〜30%に何らかの眼症状を認める1)。眼合併症の頻度はRA罹病期間・疾患活動性・関節外症状の有無に関連する2)

RAに合併する眼病変は以下の5型に分類される。

眼合併症頻度主な特徴
乾性角結膜炎ドライアイ最多Sjögren症候群合併例が多い
強膜炎比較的多い眼痛・深層充血・壊死性形態あり
上強膜炎(エピスクレラ炎)比較的多い表層性炎症・自然軽快傾向
周辺部角膜潰瘍比較的少ない急速な角膜菲薄化・穿孔リスク
虹彩毛様体前部ぶどう膜炎

悪性リウマチとは、強膜炎・胸膜炎・間質性肺炎・心膜炎・心筋炎・多発性単神経炎・腸間動脈塞栓症・指尖潰瘍を伴う重症型であり、予後が不良である。

Q 関節リウマチの患者はどのくらいの頻度で目の症状が出るか?
A

約25〜30%の患者に何らかの眼症状を認める。最も多いのはドライアイ乾性角結膜炎)であり、次いで強膜炎上強膜炎が続く。周辺部角膜潰瘍や壊死性強膜炎は比較的稀だが、視力予後に直結する重篤な合併症である。

前眼部写真。左眼耳側の強膜に広範な充血・浮腫を認める前部びまん性強膜炎
前眼部写真。左眼耳側の強膜に広範な充血・浮腫を認める前部びまん性強膜炎
Seidel G, et al. Anterior segment picture of diffuse scleritis of the temporal part of the left eye. J Clin Med. 2023;12(14):4825. Figure 1. PMCID: PMC10381547. License: CC BY.
左眼耳側を中心に強膜全体にわたる充血と浮腫が広がる前部びまん性強膜炎の前眼部写真で、暗赤色の深層充血強膜炎の特徴的所見として確認できる。本文「主な症状と臨床所見」の項で扱う強膜炎(前部びまん性)に対応する。

眼合併症の種類によって自覚症状は異なる。

  • 乾性角結膜炎:眼乾燥感・異物感・羞明・疲れ目・視力変動
  • 強膜炎:強い眼痛(深部痛・拍動性)・充血羞明・流涙
  • 壊死性強膜炎(scleromalacia perforans):無痛のことがあるため見逃し注意
  • 上強膜炎:区域性の発赤・軽度の疼痛・自然軽快傾向
  • 周辺部角膜潰瘍充血視力低下・穿孔時の急激な眼痛

乾性角結膜炎

Schirmer試験:5mm/5分以下で分泌低下。

BUT(涙液破壊時間):5秒以下で不安定涙液層。

フルオレセイン染色:下方角膜結膜の点状上皮障害。

強膜炎

前部びまん性強膜全体にわたる充血・浮腫。

前部結節性強膜に結節を形成。

壊死性:中央に黄白色の虚血巣、血管消失像。

後部強膜炎:眼底浮腫・T-sign(超音波検査)。

上強膜炎

区域性型:扇形の充血。局所NSAIDsで軽快。

びまん性型:広範な充血。RAと関連する例が多い。

経過:自然軽快するが再発を繰り返すことがある。

周辺部角膜潰瘍

部位角膜輪部から1〜2mmに沿った溝状菲薄化。

進行:弦月形に周方向に拡大し、急速に穿孔に至ることがある。

蛍光染色:上皮欠損部にフルオレセイン陽性。

強膜炎の分類はWatson分類に基づく前部強膜炎(びまん性・結節性・壊死性)と後部強膜炎に分けられ、壊死性が最も重篤である7)強膜炎患者のうち約30〜50%に全身性自己免疫疾患を合併し、RAが最多である5)

Q 目が赤く痛い場合、強膜炎と結膜炎はどう違うか?
A

強膜炎強膜白目の深層)の血管が炎症を起こしており、強い眼痛(深部痛・拍動性)を伴う。充血は暗赤色で、血管を圧迫しても消えにくい。結膜炎は表層の充血で鮮紅色、痛みは軽度または灼熱感であり、充血は圧迫で消退しやすい。強膜炎が疑われる場合は早急に眼科を受診する必要がある。

RAの眼病変は、自己免疫機序による全身性血管炎と肉芽腫性炎症が強膜角膜辺縁部血管に波及することで生じる11)

  • 自己免疫機序:滑膜のリンパ球浸潤・血管新生・パンヌス形成により軟骨破壊・骨侵食が進行する
  • 炎症性サイトカイン:TNF-α・IL-1β・IL-6・IL-17が組織破壊を主導する
  • 眼への波及:免疫複合体の強膜血管への沈着→補体活性化・血管炎→肉芽腫性壊死性炎症
  • 角膜辺縁部:辺縁血管網でのIII型アレルギー反応→MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)産生→角膜実質コラーゲン分解
  • 涙腺機能低下:Sjögren症候群合併例ではリンパ球浸潤による涙腺・唾液腺の分泌低下
  • RA罹病期間が長い
  • リウマトイド因子(RF)高力価・抗CCP抗体陽性
  • 関節外症状(肺・皮膚・神経)を有する悪性RA
  • Sjögren症候群の合併(乾性角結膜炎リスクの増大)
  • 疾患活動性が高い(DAS28高値)
  • 喫煙

壊死性強膜炎や周辺部角膜潰瘍を発症した患者は、10年生存率が低下するとの報告があり8)、これらの眼病変は全身の血管炎活動性の指標となる。

周辺部角膜潰瘍(PUK)のAS-OCT像。活動期・治癒期・治癒後の3段階を示す高拡大画像
周辺部角膜潰瘍(PUK)のAS-OCT像。活動期・治癒期・治癒後の3段階を示す高拡大画像
Baradaran-Rafii A, et al. High magnification of AS OCT findings in peripheral ulcerative keratitis. BMC Ophthalmol. 2020;20:205. Figure 2. PMCID: PMC7249626. License: CC BY.
周辺部角膜潰瘍PUK)の前眼部OCT像で、活動期・治癒期・治癒後の3段階における角膜実質の菲薄化と上皮欠損の経時変化が観察できる。本文「診断と検査方法」の項で扱う周辺部角膜潰瘍の検査所見と経過評価に対応する。

RAの診断は2010年ACR/EULAR分類基準に基づく9)。関節の腫脹数・血清学的検査(RF・抗CCP抗体)・症状持続期間・急性期反応物質(CRP・赤沈)の4ドメインを点数化する。

血液検査では赤沈亢進・CRP上昇・RF陽性(約75%、約25%では陰性)・抗CCP抗体・MMP-3上昇が診断に有用である4)。X線検査では手・指の関節びらん・骨侵食像が特徴的である。

以下の検査により眼合併症を評価する。

検査法評価対象所見の目安
Schirmer試験涙液分泌量5mm/5分以下で分泌低下
涙液破壊時間(BUT涙液安定性5秒以下で不安定
細隙灯顕微鏡強膜角膜・前眼部壊死性変化・角膜菲薄化の確認
眼圧測定緑内障ステロイド応答ステロイド使用時は必須
眼底検査後部強膜炎乳頭浮腫後部病変の除外
Bスキャン超音波後部強膜炎T-sign(テノン嚢水腫)
MRI眼窩後部強膜炎の範囲評価強膜の肥厚・増強効果

後部強膜炎は見逃されやすく、眼痛視力低下・眼球突出複視を呈することがある。Bスキャン超音波でのT-signが診断に有用である。

強膜炎患者では全身性疾患の精査として、RF・ANA・ANCA・補体・胸部X線等の系統的検索が推奨される5)

Q 関節リウマチの患者は眼科も定期的に受診すべきか?
A

定期的な眼科検診が強く推奨される。強膜炎や周辺部角膜潰瘍は早期発見・早期治療が視力予後に直結する。特にRA疾患活動性が高い時期や悪性RAでは、症状がなくても眼科的スクリーニングが重要である。また、ヒドロキシクロロキン使用患者では網膜毒性の定期モニタリングも必要となる。

壊死性強膜炎の前眼部写真。結膜充血、強膜融解、ぶどう膜露出を認める重症例
壊死性強膜炎の前眼部写真。結膜充血、強膜融解、ぶどう膜露出を認める重症例
Krishnamurthy R, et al. Coloured anterior segment photograph showing conjunctival hyperemia, scleral melting, and exposed uveal tissue. Cureus. 2024;16(4):e58652. Figure 1. PMCID: PMC11104700. License: CC BY.
結膜充血・毛様充血と蛇行した強膜血管を背景に、強膜融解と黒色のぶどう膜露出が確認される壊死性強膜炎の前眼部写真である。本文「標準的な治療法」の項で扱う壊死性強膜炎強膜穿孔リスクを伴う最重症型)に対応する。

RAの眼病変治療は眼科的局所治療と内科(リウマチ科)の全身治療の両輪で行う。

軽症から中等症の乾性角結膜炎には以下を段階的に適用する。

  • 人工涙液点眼:防腐剤フリー製剤を選択(長期使用のため防腐剤による角膜毒性回避)
  • ヒアルロン酸ナトリウム0.1%点眼液:1日5〜6回(角膜保護・涙液安定化)
  • 涙点プラグ挿入術:中等症以上で有効。上下涙点への留置
  • ジクアホソルナトリウム3%点眼液:1日6回。水分・ムチン分泌促進
  • レバミピド点眼液:ムチン産生増強。Sjögren症候群合併例に有用

Sjögren症候群合併例ではドライアイが重症化しやすく、シクロスポリン点眼液の追加を検討する場合がある。

  • NSAIDs点眼・内服:フルビプロフェン点眼、ジクロフェナク点眼。軽症例では第一選択
  • 区域性型は多くが自然軽快するが、再発を繰り返す例では全身性疾患の活動性評価を行う
重症度治療選択
軽症NSAIDs内服(ジクロフェナクナトリウム 75〜100mg/日、インドメタシン 75mg/日)
中等症プレドニゾロン0.5〜1mg/kg/日 経口投与。有効後に漸減
重症・壊死性メチルプレドニゾロン1g/日 3日間静注パルス療法 + 免疫抑制薬
免疫抑制薬適応シクロホスファミド(2mg/kg/日)またはアザチオプリン(2mg/kg/日)
難治性リツキシマブトシリズマブ等の生物学的製剤
強膜穿孔保存角膜による表層角膜移植術強膜移植術

結節性・びまん性強膜炎では非ステロイド性抗炎症薬が有効なことがあるが、壊死性強膜炎に対してはより積極的な免疫抑制療法が必要となる6)

  • RAの全身的コントロール:眼局所治療のみでは不十分。リウマチ科との連携が必須
  • 角膜保護:防腐剤フリー点眼液・治療用ソフトコンタクトレンズ(角膜保護目的)
  • 外科的治療角膜穿孔例では保存角膜による表層角膜移植術を施行
  • 穿孔予防には早期の全身免疫抑制療法の強化が重要である10)

RAの全身治療として以下を適用する4)

DMARDs(疾患修飾性抗リウマチ薬)

  • メトトレキサート(MTX)6〜16mg/週が基本薬。葉酸併用で副作用軽減
  • サラゾスルファピリジン・ブシラミン(リマチル):MTX不耐例に使用
  • 早期から積極的に使用し、treat-to-target戦略でDAS28寛解を目標とする

生物学的DMARDs

JAK阻害薬

  • トファシチニブ・バリシチニブ・ウパダシチニブ
  • 近年の使用が増加。生物学的製剤と同等の効果を示す報告がある
Q リウマチの治療薬は目にどのような影響があるか?
A

ステロイド(プレドニゾロン等)は長期使用で白内障(後嚢下白内障)・眼圧上昇・緑内障のリスクがあるため、定期的な眼科検診が必要である。抗TNF-α抗体など生物学的製剤の一部では逆説的なぶどう膜炎発症が稀に報告されている。ヒドロキシクロロキン(HCQ)は一定用量を超えると網膜毒性(ヒドロキシクロロキン網膜症)を生じるため、年1回の眼科モニタリングが推奨される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

RA発症には遺伝的素因(HLA-DR4/DR1等)と環境因子(喫煙・歯周病菌による蛋白シトルリン化等)が複合して関与する。シトルリン化蛋白に対する自己抗体(抗CCP抗体)が産生され、免疫複合体として関節内に沈着する。

滑膜では以下の機序で組織破壊が進行する。

  • 滑膜へのT細胞・B細胞・マクロファージの浸潤
  • TNF-α・IL-1β・IL-6・IL-17等の炎症性サイトカインの大量産生
  • 血管新生によるパンヌス(肥厚した滑膜組織)形成
  • 破骨細胞活性化→軟骨破壊・骨侵食

眼病変はRA全身の血管炎・免疫反応の眼局所における発現である3)

強膜炎の機序

  • 強膜血管への免疫複合体沈着→補体活性化→好中球浸潤→壊死性血管炎
  • 肉芽腫性炎症(類上皮細胞・巨細胞)が強膜実質を破壊
  • MMP-1・MMP-3による強膜コラーゲン分解

角膜辺縁部潰瘍の機序

  • 辺縁角膜血管網(limbal plexus)に免疫複合体が沈着
  • III型過敏反応(アルサス反応)→補体・好中球による実質融解
  • MMP-1・MMP-2・MMP-9によるコラーゲン分解が急速な菲薄化を引き起こす

乾性角結膜炎(Sjögren症候群合併)の機序

  • CD4陽性T細胞主体のリンパ球が涙腺・結膜杯細胞に浸潤
  • 涙液分泌低下→角結膜上皮障害→炎症性サイトカイン(IL-1β・TNF-α)の角結膜局所産生→上皮障害の悪循環
  • 二次的なムチン産生低下・涙液破壊時間短縮

強膜炎・周辺部角膜潰瘍はRA関節外症状の一つであり、全身の血管炎活動性と並行して増悪・寛解する。生物学的製剤や免疫抑制薬によるRAの疾患活動性抑制は、眼病変の改善にも寄与する1)

生物学的製剤の眼炎症への応用

Section titled “生物学的製剤の眼炎症への応用”

難治性強膜炎・周辺部角膜潰瘍に対するリツキシマブ(抗CD20抗体)3)トシリズマブ(抗IL-6受容体抗体)の有効性が症例報告・小規模研究で報告されている。生物学的製剤によるRA全身治療の強化が眼合併症の改善・再発抑制に貢献する可能性がある。

抗TNF-α抗体によるぶどう膜炎誘発

Section titled “抗TNF-α抗体によるぶどう膜炎誘発”

抗TNF-α抗体投与中に逆説的なぶどう膜炎(demyelinating uveitis-like reaction)が発症する症例が報告されている4)。投与前後の眼科的モニタリングと、炎症増悪時には投与継続の可否を再検討する必要がある。

JAK阻害薬(トファシチニブ・バリシチニブ等)はRA全身治療薬として普及しつつあり、強膜炎等の眼炎症への効果についても研究が進んでいる。JAK-STAT経路はIL-6・IFN-γシグナルを介した眼炎症に関与しており、眼局所への応用が期待される。

重篤な周辺部角膜潰瘍の穿孔例に対し、羊膜移植・人工角膜・培養角膜実質細胞移植などの細胞工学的アプローチが試みられている。長期成績の評価が課題である。


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