ポートワイン血管腫の分布とリスク
V1領域のみ:緑内障リスク6.7%
V2領域のみ:緑内障リスクはほぼなし
V1+V2領域:緑内障リスク31.8%と大幅に上昇
V1+V2+V3領域:神経症状リスクが4倍に増加
スタージ・ウェーバー症候群(Sturge-Weber Syndrome: SWS)は、脳三叉神経血管腫症(encephalotrigeminal angiomatosis)とも呼ばれる先天性の神経皮膚症候群(母斑症)である。三叉神経領域の顔面ポートワイン血管腫(火炎状母斑)、同側の脳軟膜血管腫、眼の血管腫を三主徴とする。1879年にSturgeが顔面血管腫・牛眼を伴う片麻痺およびてんかんの症例を報告し、1929年にWeberが症候群として確立した。
原因はGNAQ遺伝子の体細胞モザイク変異(post-zygotic mutation)であり、遺伝性ではなくほとんどが孤発例である4)8)。胎生期の交感神経障害による血管発生異常と考えられている。発生頻度は出生50,000人に1人とまれであり、人種・性別による偏りはない5)7)。
SWSは臨床像により以下の3型に分類される。
| 分類(Roach) | 特徴 |
|---|---|
| I型(古典型) | PWS+神経症状+緑内障 |
| II型 | PWS+緑内障(神経病変なし) |
| III型(最稀) | 髄膜血管腫のみ |
緑内障はSWSにおいて最も重要な眼合併症であり、母斑症の中で最も高い緑内障発症率を示す2)。眼瞼に血管腫が及んでいる場合、30〜70%の高頻度で緑内障を発症する。脈絡膜血管腫は患者の約40%に合併する。
緑内障の発症時期により、早期発症型と晩期発症型に大別される。約60%は生直後〜4歳までに発症する早期発症型であり、隅角の発育異常が主な病因である。残りの約40%は幼児期以降に発症する晩期発症型で、上強膜静脈圧の上昇と脈絡膜血管腫が病因に関与する。10歳までに発症することが多い。
三叉神経領域の顔面ポートワイン血管腫、同側の脳軟膜血管腫、眼血管腫を三主徴とする先天性の神経皮膚症候群である。GNAQ遺伝子の体細胞モザイク変異が原因であり、遺伝性ではなくほとんどが孤発例である4)8)。てんかん(75〜90%が3歳までに発症)、知的障害、片麻痺などの神経症状と、緑内障(30〜70%)が主要な合併症である。三主徴が揃わないII型(緑内障のみ)やIII型(髄膜血管腫のみ)も存在する。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。

早期発症型では流涙・羞明・眼瞼けいれんが初発症状となる。角膜径の増大や角膜混濁(牛眼: buphthalmos)に伴い視力障害を呈する。Descemet膜の亀裂線条であるHaab線が認められることがある。
晩期発症型は原発開放隅角緑内障と臨床像が類似し、初期には自覚症状に乏しい。進行に伴い視野狭窄や視力低下を生じる。
SWSはGNAQ遺伝子(第9染色体q21.2)の体細胞モザイク変異(c.548G→A, p.Arg183Gln)が原因である8)。この変異によりGαqシグナル伝達経路が恒常的に活性化され、内皮細胞の無制御な増殖と血管奇形が生じる4)。生殖細胞系列の変異ではなく体細胞モザイク変異であるため、遺伝性ではない。分子診断には罹患組織(通常は皮膚)の生検が必要である4)。
GNAQ変異の検出には罹患組織の検体と解析法が影響するため、分子診断は臨床像と組み合わせて解釈する。
ポートワイン血管腫の分布とリスク
V1領域のみ:緑内障リスク6.7%
V2領域のみ:緑内障リスクはほぼなし
V1+V2領域:緑内障リスク31.8%と大幅に上昇
V1+V2+V3領域:神経症状リスクが4倍に増加
発症時期と病因の違い
早期発症型(約60%):隅角の発育異常が主因。牛眼・角膜径増大を呈する1)
晩期発症型(約40%):上強膜静脈圧の上昇と脈絡膜血管腫の関与が主因1)
眼瞼侵襲:血管腫が眼瞼に及ぶ場合、緑内障発症率が著明に上昇する
両側性PWS:片側性と比較してSWSである可能性が高い7)
SWSに伴う緑内障の診断には精密な眼圧検査と前眼部・隅角・眼底検査が重要である。小児では全身麻酔下検査が必須となる場合が多い。
蛍光眼底造影が有用である。早期に大型の脈絡膜血管パターンがみられ、後期に腫瘍部分全体が過蛍光を示す。びまん性脈絡膜血管腫は通常の眼底検査では同定困難な場合がある。
頭部CTで脳皮質内の石灰化を検出する。石灰化が出現していない新生児期でも、ガドリニウム造影MRIにより脳軟膜血管腫が検出可能である。SPECTによる脳血流評価も補助的に用いられる。
SWSは母斑症の一つであり、脈絡膜血管腫を来す代表的な疾患である。他の母斑症との鑑別が重要となる。
| 疾患 | 特徴的眼所見 | 血管腫・腫瘍の部位 |
|---|---|---|
| SWS | 脈絡膜血管腫・緑内障 | 顔面+脳軟膜 |
| von Hippel-Lindau病 | 網膜血管腫(耳側周辺) | 網膜・小脳・腎 |
| 神経線維腫症1型 | 虹彩Lisch結節 | 皮膚神経線維腫 |
| 結節性硬化症 | 網膜過誤腫 | 脳・皮膚・腎・心 |
また、Klippel-Trenaunay-Weber症候群はSWSと類似する皮膚血管腫を呈するが、四肢の静脈奇形・骨軟部組織肥大を伴う点で区別される。
SWSに伴う緑内障の治療は、発症時期と病因機序に応じて異なる戦略が求められる。
先天性や乳幼児期発症の緑内障には手術治療が必要である1)。線維柱帯切開術(trabeculotomy)または隅角切開術(goniotomy)が第一選択となる1)。ただし成功率は原発先天緑内障と比較して低く、追加手術が必要になることが多い。
線維柱帯切除術(trabeculectomy)を行うと、血管腫から出血して高度な上脈絡膜血腫や駆逐性出血を生じるリスクがある。概して緑内障手術の反応はよくなく、線維柱帯切除術やチューブシャント手術を要することが多い。
年長者では上強膜静脈圧が上昇しているため、薬物治療が第一選択となる1)。房水産生抑制薬(β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬)が最も有効とされる。プロスタグランジン関連薬の眼圧下降効果は一貫しないと報告されている。
薬物治療や流出路再建術が奏功しない場合には、線維柱帯切除術やチューブシャント手術を考慮する1)。
濾過手術・チューブシャント
術中・術後合併症への対策
脈絡膜出血・滲出:脈絡膜血管腫を伴う場合、急激な眼圧下降により脈絡膜剥離・出血のリスクが高い1)
予防措置:術前の高浸透圧薬による眼圧下降、後部強膜切開術の施行、強膜弁縫合の事前配置・強固な追加縫合
デバイス選択:バルブ付き(Ahmed)または2段階式(Baerveldt)GDDの使用により低眼圧リスクを軽減
毛様体光凝固術:難治例では毛様体光凝固術(CPC)を考慮。16眼中10眼(62.5%)が合併症なく6〜22 mmHgの眼圧を維持した報告がある(平均8.87年フォローアップ)
2段階法では、チューブを前房に挿入する数週間前にプレート周囲に被膜を形成させる。これにより術直後の過度な眼圧下降を防ぎ、脈絡膜滲出や出血のリスクを最小限に抑えることができる。SWSのように脈絡膜血管腫を合併する症例では特に有用な手法である。
ネタルスジルは第4〜5選択薬として追加した場合でも、SWSに伴う緑内障の眼圧を効果的に下降させたとの報告がある。線維柱帯からの房水流出を促進する機序を持つ。
SWSに伴うびまん性脈絡膜血管腫は緑内障治療と並行して管理が必要な場合がある。
発達緑内障に比べて難治性であるが、早期に良好な眼圧コントロールが得られれば視力の保持が可能である。しかし脈絡膜血管腫が増大して渲出性網膜剥離をきたすと、冷凍凝固を行っても十分奏功せず、重篤な視力障害をきたすことがある。
病変が角膜・水晶体・網膜・神経に及ぶため、良好な視力の獲得は困難なことが多い。SWS患者の平均余命は一般人口と比較して短縮しており、両側性の軟膜病変がある場合には神経学的症状がより重篤となり予後が不良である。
最も重要な注意点は脈絡膜血管腫に関連する手術合併症である。SWSでは脈絡膜血管腫の合併が約40%に見られ、緑内障手術による急激な眼圧下降が脈絡膜滲出・出血・網膜剥離を引き起こすリスクがある1)。予防策として術前の高浸透圧薬投与、後部強膜切開術の施行、強膜弁の強固な縫合、バルブ付きまたは2段階式ドレナージデバイスの使用が推奨される。また2歳未満ではα2受容体作動薬(ブリモニジン)が禁忌であることにも注意を要する1)。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
SWSの根本的な原因はGNAQ遺伝子の体細胞モザイク変異(c.548G→A, p.Arg183Gln)である8)。この変異はGαqシグナル伝達経路を恒常的に活性化させ、内皮細胞の無制御な増殖と血管奇形を引き起こす4)。変異は受精後早期の体細胞に生じるため、変異細胞の分布範囲が臨床表現型(I〜III型)の多様性を規定する。
緑内障診療ガイドライン(第5版)では、SWSにおける眼圧上昇の機序として以下の5つが列挙されている1)。
摘出眼の組織学的検討では以下の所見が確認されている。これらは原発先天緑内障で見られるものと類似する。
乳幼児期に発症する場合は、隅角の発達異常が最も重要な要因と考えられる。
10代後半〜20代以降に発症する場合は、血管腫による上強膜静脈圧の上昇が主因となる1)。隅角鏡検査では隅角異常は最小限であるが、隅角内に血液が観察されることが多く、上強膜静脈圧の上昇と相関する。この状態では房水産生抑制薬が最も有効とされ、薬物治療が第一選択となる。
両者は緑内障の発症機序が根本的に異なるためである。早期発症型は隅角の先天性形成異常が主因であり、線維柱帯や隅角構造自体に問題があるため、流出路を物理的に開放する隅角手術(線維柱帯切開術・隅角切開術)が有効である1)。一方、晩期発症型は上強膜静脈圧の上昇が主因であり、隅角構造自体は比較的正常に近い。上強膜静脈圧が高い状態では房水産生抑制薬が最も有効であり、薬物治療が第一選択となる1)。薬物治療が無効な場合は、上強膜静脈系をバイパスできる濾過手術やチューブシャント手術を考慮する。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
SWSに伴う緑内障の管理において、以下の領域で今後の進展が期待される。
日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2021 Jun;105(Suppl 1):1-169. doi:10.1136/bjophthalmol-2021-egsguidelines. PMID:34675001.
Pazos M, Traverso CE, Viswanathan A; European Glaucoma Society. European Glaucoma Society - Terminology and guidelines for glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025;109(Suppl 1):1-212. doi:10.1136/bjophthalmol-2025-egsguidelines. PMID:41026937.
Yeom S, Comi AM. Updates on Sturge-Weber Syndrome. Handb Clin Neurol. 2015;132:157-168. doi:10.1016/B978-0-444-62702-5.00011-1.
Yadav PS, Adhikari P, Mehta B, Khadka S, Bhurtel MR, Dahal A, et al. Unmasking Sturge-Weber syndrome in adulthood: a case with extrafacial port-wine stain and delayed neurological symptoms. Annals of medicine and surgery (2012). 2024;86(6):3679-3682. doi:10.1097/MS9.0000000000002049. PMID:38846877; PMCID:PMC11152852.
Ainuz BY, Wolfe EM, Wolfe SA. Surgical Management of Facial Port-Wine Stain in Sturge Weber Syndrome. Cureus. 2021;13(1):e12637. doi:10.7759/cureus.12637. PMID:33585124; PMCID:PMC7872872.
Pathak BD, Sharma S, Adhikari A, Simkhada N, Ghimire B, Aryal N. Sturge-Weber Syndrome with Bilateral Port-Wine Stain. Case reports in pediatrics. 2022;2022:2191465. doi:10.1155/2022/2191465. PMID:35464665; PMCID:PMC9033375.
Shirley MD, Tang H, Gallione CJ, Baugher JD, Frelin LP, Cohen B, et al. Sturge-Weber syndrome and port-wine stains caused by somatic mutation in GNAQ. The New England journal of medicine. 2013;368(21):1971-9. doi:10.1056/NEJMoa1213507. PMID:23656586; PMCID:PMC3749068.
Stallworth JY, O’Brien KS, Han Y, Oatts JT. Efficacy of Ahmed and Baerveldt glaucoma drainage device implantation in the pediatric population: A systematic review and meta-analysis. Surv Ophthalmol. 2023;68(4):578-590. doi:10.1016/j.survophthal.2023.01.010. PMID:36740196; PMCID:PMC10293048.