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白内障・前眼部

眼内レンズの瞳孔捕獲(IOLキャプチャー)

完全に囊内固定されていない眼内レンズIOL)の光学部の一部が虹彩前に脱出する状態を瞳孔捕獲(pupillary capture)と呼ぶ。囊外固定や縫着後に起こりやすいが、囊内固定でも前囊に被覆されていない部分が虹彩前に出る場合がある。硝子体手術との同時手術でガスを注入した場合に起こりやすいことが知られている。また、IOL縫着後は再発しやすく、逆瞳孔ブロック(reverse pupillary block)が原因の場合もあると推定されている。

現代では囊内固定が標準化されたため全体的な頻度は低減傾向にあるが、後囊破損例や無囊例での縫着・強膜内固定後の症例では依然として問題となる。強膜縫着IOLでの発生率は495眼中18眼(3.6%)と報告されており、6) 硝子体手術と同時に縫着IOLを挿入した長期追跡研究でも遅発性合併症として記録されている。1)

なお、後嚢の連続曲線状切開(posterior CCC)を通してIOL光学部を後囊切開部に意図的に嵌入させる「後囊optic capture」は後発白内障予防のために行う意図的な手技であり、本稿で扱う偶発的な瞳孔捕獲とは区別される。

囊外固定・非対称固定によってIOL支持部(ハプティック)が虹彩や周囲組織と直接接触する場合、IOL支持部が虹彩を機械的に擦過(iris chafing)するため虹彩色素が放出される。この色素が線維柱帯に沈着して色素性緑内障が生じ、虹彩障害が著しいと虹彩毛様体炎と前房出血を伴うことがある。この一連の病態はぶどう膜炎緑内障前房出血(UGH; uveitis-glaucoma-hyphema)症候群と呼ばれる。単ピース(one-piece)アクリルIOLを毛様溝に固定すると透照欠損・色素分散・眼圧上昇・反復性前房出血・炎症を引き起こしうるため、毛様溝への挿入は禁忌とされている。7)

Q 白内障手術後どのくらいで瞳孔捕獲が起こるのか?
A

硝子体手術同時施行やガス注入後は術後早期(数日〜数週)に起こりやすい。縫着IOL強膜内固定IOL後は術後数か月〜数年で発症することもあり、再発しやすい特徴がある。Voteらの研究では硝子体手術+縫着IOL後の長期追跡で遅発性合併症として報告されている。1)

IOL光学部が虹彩前に完全に脱出し瞳孔領を占拠している細隙灯写真
IOL光学部が虹彩前に完全に脱出し瞳孔領を占拠している細隙灯写真
Ahuja R. Pupillary capture of IOL optic in eye. Wikimedia Commons. 2006. License: CC BY-SA 2.5. https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Optic_Capture_of_IOL.jpg
細隙灯写真で、IOLの光学部が虹彩縁を越えて完全に虹彩前面へ脱出し、虹彩組織が光学部の後方に押しやられている。本文「主な症状と臨床所見」の項で扱うIOL光学部の虹彩前脱出(瞳孔捕獲)の細隙灯所見に対応する。
  • IOLエッジのグレア・羞明:光学部エッジが瞳孔領に露出することで特徴的に出現する。矯正視力への直接的影響は通常軽微である。
  • 屈折異常IOL偏位による乱視や球面度数の変化が起こりやすい。
  • 眼圧上昇:脱出した光学部により瞳孔ブロックが生じると眼圧が上昇し、急性閉塞隅角発作に類似した症状を呈しうる。
  • 視力低下:通常は軽微であるが、UGH症候群合併時や嚢胞様黄斑浮腫CME)合併時には低下しうる。6)
  • 瞳孔偏位・不正瞳孔IOL虹彩の相互作用により瞳孔形態が変化することがある。
  • IOL光学部の虹彩前脱出細隙灯顕微鏡検査散瞳下に確認しやすい。光学部の一部または全部が虹彩前に観察される。
  • 前房深度の変化:逆瞳孔ブロック合併時は前房が深くなり虹彩が後方に弯曲する特徴的な所見を呈する。
  • 虹彩透照欠損(iris transillumination defects)IOL支持部による虹彩擦過の所見。UGH症候群の徴候として確認する。
  • 色素分散・前房内色素沈着線維柱帯への色素沈着はUGH症候群を示唆する。
  • 前房出血:反復性に生じる場合がある。
  • 角膜浮腫IOL支持部が角膜内皮に接触している場合に出現する。
Q 視力が低下しなくても治療が必要なのか?
A

視力に大きな影響がない場合でも、IOLエッジによる羞明感が強い場合や、瞳孔ブロックによる眼圧上昇を伴う場合は治療を検討する。角膜内皮IOL支持部が接触している場合は早急な整復が必要であり、放置すると角膜内皮障害が進行して最終的に水疱性角膜症に至ることがある。

瞳孔捕獲の根本的な原因はIOLが完全に水晶体囊内に固定されていない状態にある。以下のリスク要因が報告されている。

リスク要因機序
囊外固定・非対称固定IOLが囊に完全に被覆されない
IOL毛様溝縫着囊支持なし、再発しやすい
強膜内固定(Yamane法含む)8)囊支持なし、IOL動揺が残る
硝子体手術同時ガス注入膨張ガスがIOLを前方に押し出す
硝子体切除後6)硝子体によるIOL支持喪失+虹彩弛緩(flaccid iris)
若年者虹彩伸展性が高い
単ピースアクリルIOLの毛様溝挿入7)前面鋭角エッジによる iris chafing(禁忌)
強膜縫合位置が輪部から2mm未満6)IOL虹彩に近接しすぎる

Kokameらの検討では、強膜縫着位置を輪部から2mm後方に統一した群で再発が有意に少なかった(p=0.025)。6)

Q 逆瞳孔ブロックとは何か?
A

通常の瞳孔ブロックとは逆に、前房圧が後房圧を上回り、瞳孔縁がIOL前面に密着して弁状に働く状態である。前房が深くなり虹彩が後方に弯曲する特徴的な所見を呈する。IOL虹彩前に出ると房水前房→後房の流路が遮断されて後房圧がさらに上昇し、悪循環が形成される。レーザー虹彩切開術(LI)で前後房の圧較差を解消することが有効とされる。2)

検査法評価内容要点
細隙灯顕微鏡検査IOL光学部と虹彩の位置関係散瞳下で光学部被覆状況を評価。支持部の前房内脱出も確認
眼圧測定瞳孔ブロックによる眼圧上昇急性上昇時は緊急対応
前眼部OCT前房深度・IOL位置・虹彩弯曲の客観的評価瞳孔ブロックの評価に有用
超音波生体顕微鏡UBMIOL毛様体・毛様溝の位置関係縫着・強膜内固定IOLの位置確認
角膜内皮スペキュラーマイクロスコピー角膜内皮細胞密度IOL支持部接触による内皮障害の評価
隅角鏡検査色素沈着・虹彩前癒着の評価UGH症候群の評価に使用
  • IOL脱臼・落下IOLが完全に位置からずれ硝子体腔に落下した場合は別病態として管理する。
  • UGH症候群瞳孔捕獲の関連合併症であるが、瞳孔捕獲を伴わずIOL接触のみで生じうる。
  • IOL偏心・傾斜IOLが囊内で偏位しているが虹彩前への脱出を伴わない。
  • 急性閉塞隅角発作眼圧上昇・前房浅化・散瞳固定を呈するが、IOL術後では瞳孔捕獲の鑑別が重要である。
Q 前眼部OCTは瞳孔捕獲の診断に必要か?
A

細隙灯顕微鏡で診断が明らかな場合は必須ではないが、逆瞳孔ブロックの評価(前房深度の増大・虹彩後方弯曲の確認)やIOL位置の客観的記録に有用である。特に再発例では前眼部OCTUBMによるIOL位置の定量的評価が治療方針の決定に役立つ。

治療は発症状況・癒着の有無・再発頻度に応じて段階的に選択する。

ステップ1:保存的整復(急性発症・癒着なし)

Section titled “ステップ1:保存的整復(急性発症・癒着なし)”
  • 散瞳薬(1%トロピカミド+2.5%フェニレフリン)投与後に仰臥位 → 自然整復を試みる。
  • 虹彩IOLが癒着していない場合に有効である。
  • 前房IOL脱臼瞳孔ブロックを生じた場合は散瞳薬を使用する(縮瞳薬は禁忌)。

ステップ2:観血的整復(自然整復しない場合)

Section titled “ステップ2:観血的整復(自然整復しない場合)”
  • サイドポートからフック・スパーテルでIOL光学部を虹彩後方に整復する。
  • 虹彩と囊が著しく癒着していなければ手技は容易である。
  • 外来での30G針パラセンテーシス技術:点眼麻酔下で前房穿刺粘弾性物質を注入してIOLを後方に押し戻す。Kokameらは495眼中18眼(3.6%)の瞳孔捕獲に対し54回の外来処置を手術室搬入なしで全例管理した。6)

ステップ3:再発予防(縫着IOL後の再発例)

Section titled “ステップ3:再発予防(縫着IOL後の再発例)”

IOL縫着・強膜内固定後は光学部が囊に被覆されないため、瞳孔捕獲が繰り返されやすい。

  • レーザー虹彩切開術(LI / イリデクトミー):逆瞳孔ブロックが関与する場合に前後房の圧較差を解消する。判断が難しいが有効な場合がある。2)
  • 糸張り法(おさえの糸):LIを行っても再発する場合、IOL虹彩前脱出を防ぐ糸を通す方法を検討する。Linらは矩形ループ縫合、Kimらはtram-track suture techniqueを報告している3,4)
  • 虹彩縫縮・追加縫合術:繰り返す再発に対し、瞳孔径やIOL前面の通過路を小さくして光学部の脱出を防ぐ。フランジ付きポリプロピレン縫合による再発抑制も報告されている5)

ステップ4:IOL交換(整復不能・重篤例)

Section titled “ステップ4:IOL交換(整復不能・重篤例)”
  • 視機能低下が著しい場合にのみ行う(侵襲大)。
  • 虹彩と囊が強く癒着したり、IOL前房内脱臼が繰り返される場合は整復のみでの回復が困難であり、IOL交換が必要となる。
  • 支持部が前房内に出て角膜内皮に接触している場合はなるべく早く整復する。
  • 交換時の固定法:3ピースIOLの毛様溝固定と前囊CCCを温存したoptic captureが安定性に優れる。7)
治療法適応特記事項
散瞳+仰臥位急性発症・癒着なし第一選択。縮瞳薬は禁忌
フック/スパーテル整復自然整復不可例サイドポートから施行
30G針パラセンテーシス6)外来整復点眼麻酔下・手術室不要
レーザー虹彩切開術2)瞳孔ブロック疑い前後房圧較差を解消
糸張り法3, 4)LI後も再発する例強膜間のおさえの糸
虹彩縫縮・追加縫合5)繰り返す再発瞳孔径・通過路を調整
IOL交換7)整復不能・重篤例視機能低下が著しい場合のみ
  • 強膜縫着IOLの固定位置:輪部から2mm後方での固定で再発が有意に少なくなる(p=0.025)。6)
  • 毛様溝固定時のoptic capture:前囊CCCが温存されている場合、光学部をCCC開口部に嵌入させることでIOLの安定性が向上する。7)
  • 単ピースアクリルIOLは毛様溝に挿入しない(iris chafing・UGH症候群のリスク)。7)
Q 繰り返し再発する場合はどうすればよいか?
A

縫着IOL強膜内固定IOL後は再発しやすい。まずレーザー虹彩切開術で逆瞳孔ブロックの解消を試みる2)。それでも再発する場合は、IOL虹彩前に出るのを防ぐ糸張り法3,4)や追加縫合術5)で対処する。外来での30G針パラセンテーシス技術により手術室搬入なしに整復できる場合もある6)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

1. IOL固定不良による物理的不安定性

Section titled “1. IOL固定不良による物理的不安定性”

IOLが完全に囊内固定されていない状態では眼球運動・瞬目・体位変換でIOLが前後に動揺する。囊外固定では支持部が毛様溝、光学部が虹彩のすぐ後方に位置するため、前囊による被覆が不十分となる。わずかな前方変位で光学部が虹彩を越えて脱出する。

2. 硝子体ガスによる前方押し出し

Section titled “2. 硝子体ガスによる前方押し出し”

硝子体手術同時施行時のガス注入により膨張するガスがIOLを前方に圧排し、光学部が瞳孔面を越えて虹彩前に脱出する。ガスが吸収された後に整復するものの、囊支持不足の症例では再発しやすい。

硝子体が除去されると硝子体によるIOL支持が失われ不安定になる。水晶体囊を欠く状態では虹彩の弛緩(iridodonesis / flaccid iris)が生じ、虹彩の前後方向の可動域が増大する。その結果、拡瞳時に光学部が虹彩前方に脱出しやすくなる。6)

4. 逆瞳孔ブロック(reverse pupillary block)

Section titled “4. 逆瞳孔ブロック(reverse pupillary block)”

前房圧が後房圧を上回ると瞳孔縁がIOL前面に密着して弁状に働く(逆瞳孔ブロック)。IOL虹彩前に出ることで房水前房→後房の流路が遮断され後房圧がさらに上昇するという悪循環が形成される。前房が深くなり虹彩が後方に弯曲する特徴的な所見を呈する。2)

IOL支持部が虹彩を機械的に擦過することで虹彩色素が放出される。色素が線維柱帯に沈着して色素性緑内障が生じ、持続的な擦過で虹彩毛様体炎と前房出血を合併するUGH症候群に進展する。

単ピースアクリルIOLの毛様溝固定では前面鋭角エッジ(sharp anterior optic/haptic edge)が虹彩の透照欠損・色素分散を引き起こしやすい。7) 3ピースIOLは後方ハプティック角があり毛様溝固定時のiris chafingリスクが低い。十分な光学部径(6.0mm以上)とハプティック長が毛様溝固定の安定性に寄与する。

Kokameらの30G針パラセンテーシス技術(2022)では、495眼中18眼(3.6%)の瞳孔捕獲を54回の外来処置で管理した。全例が点眼麻酔下で疼痛なく施行され、手術室アクセスが制限される状況でも有効な代替手段となりうる。強膜縫合位置を輪部から2mm後方に設定することで再発が有意に減少する(p=0.025)点も示されており、術中の固定位置の最適化が予防戦略として重要である。6)

Yamane法(flanged intrascleral fixation, 2017)はダブルニードル技法によりIOLハプティックを強膜内に固定する方法である。縫合糸の侵食・破断のリスクを回避できる点が従来の縫着法に対する利点であるが、囊支持がない点は縫着法と同じであるため瞳孔捕獲のリスクは残存する。8) 無縫合強膜内固定の概念はGabor & Pavlidis(2007)9) が初報告し、Agarwal(2008)10) はフィブリン糊を用いた無縫合固定法を記載している。瞳孔捕獲の発生率と縫着法との比較は今後の検討課題である。

輪部から2mm後方での固定が瞳孔捕獲の再発を有意に減少させることが示されており(p=0.025)、至適固定位置の標準化に向けたデータ蓄積が望まれる。6)

Q 強膜内固定(Yamane法)では瞳孔捕獲は起こりにくいのか?
A

強膜内固定は縫着法と比較して縫合糸関連合併症(侵食・破断)を回避できるが、囊支持がない点は同じであるため瞳孔捕獲のリスクは残る。両者の発生率の直接比較データは限られており、今後の検討課題である。8)

  1. Vote BJ, Tranos P, Bunce C, et al. Long-term outcome of combined pars plana vitrectomy and scleral fixated sutured posterior chamber intraocular lens implantation. Am J Ophthalmol. 2006;141(2):308-312. PMID: 16458685
  2. 東出朋巳. 眼内レンズ毛様溝縫着後の逆瞳孔ブロックによる虹彩捕獲とその治療. IOL & RS. 2009;23(3):410-412. URL: https://cir.nii.ac.jp/crid/1573950399792764160
  3. Lin K, Hu Z, Lin Z, Chen T, Tang Y, Wu R. Rectangular loop suture to correct iris capture of the posterior chamber intraocular lens. BMC Ophthalmol. 2020;20:383. doi:10.1186/s12886-020-01650-3.
  4. Kim SI, Kim K. Tram-Track Suture Technique for Pupillary Capture of a Scleral Fixated Intraocular Lens. Case Rep Ophthalmol. 2016;7(2):290-295. PMID: 27462257. PMCID: PMC4943309. doi:10.1159/000446208.
  5. Kim DH, Moon DRC, Kang YK, et al. Case report: Management of recurrent pupillary optic capture with sutureless surgical technique using 7-0 polypropylene flange. Front Med (Lausanne). 2024;11:1367905. doi:10.3389/fmed.2024.1367905.
  6. Kokame GT, Card K, Pisig AU, Shantha JG. In office management of optic capture of scleral fixated posterior chamber intraocular lenses. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;25:101356. doi:10.1016/j.ajoc.2022.101356.
  7. American Academy of Ophthalmology. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2022;129(4):P52-P142.
  8. Yamane S, Sato S, Maruyama-Inoue M, Kadonosono K. Flanged intrascleral intraocular lens fixation with double-needle technique. Ophthalmology. 2017;124(8):1136-1142. PMID: 28457613
  9. Gabor SGB, Pavlidis MM. Sutureless intrascleral posterior chamber intraocular lens fixation. J Cataract Refract Surg. 2007;33(11):1851-1854. PMID: 17964387
  10. Agarwal A, Kumar DA, Jacob S, et al. Fibrin glue-assisted sutureless posterior chamber intraocular lens implantation in eyes with deficient posterior capsules. J Cataract Refract Surg. 2008;34(9):1433-1438. PMID: 18721701

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