原発性

眼窩メラノーマ(眼窩黒色腫)
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 眼窩メラノーマとは
Section titled “1. 眼窩メラノーマとは”眼窩メラノーマは、眼窩内に発生するメラノサイト由来の悪性腫瘍である。原発性と二次性の2種に大別される。
二次性
定義:周囲組織からの浸潤または遠隔転移による眼窩病変。
頻度:全転移性眼窩腫瘍の5〜20%を占める。転移性眼窩腫瘍は全眼窩腫瘍の2〜7%。
原発部位:脈絡膜51%、結膜17%、皮膚12%、鼻副鼻腔3%、眼瞼2%の順。
原発性眼窩メラノーマの疫学データは以下の通りである。文献レビュー88例の集積解析による1)。
- 平均発症年齢:45.1歳(範囲5〜91歳、中央値45歳)
- 性別比:男性58%、女性42%(有意差なし)
- 人種:95%が白人(北欧系)
二次性眼窩メラノーマの診断間隔は、原発メラノーマ確定後0ヶ月〜34年と幅広い。成人では皮膚悪性黒色腫も眼窩転移の原発となりうる。
原発性は眼窩内の異所性メラノサイト由来で全眼窩腫瘍の1%未満と極めて稀である。二次性はぶどう膜・結膜・皮膚メラノーマの浸潤または遠隔転移によるもので、全転移性眼窩腫瘍の5〜20%を占める。予後は二次性のほうが不良で、中央生存期間は24ヶ月とされる。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”主要な自覚症状の頻度を以下に示す(文献レビュー88例より)1)。
| 症状 | 頻度 |
|---|---|
| 片側性眼球突出 | 73% |
| 視力低下 | 32% |
| 複視 | 15% |
| 眼窩周囲の痛み | 14% |
| 触知可能な腫瘤 | 9% |
その他の症状として、眼瞼下垂・眼瞼腫脹・相対的求心性瞳孔障害(RAPD)・白毛症がみられることがある1)。
悪性腫瘍の眼窩浸潤による眼球運動制限は比較的急速に進行する。
臨床所見(医師が診察で確認する所見)
Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”眼科診察で評価すべき所見・検査は以下の通りである。
- 眼球突出:ヘルテル眼球突出度測定で評価する。
- 眼瞼下垂・眼球運動異常:腫瘤の圧排または浸潤による。
- 結膜浮腫・結膜充血:炎症性変化として認める。
- 視神経乳頭浮腫:進行例で視神経圧迫が生じた場合にみられる。
- 推奨検査:ヘルテル眼球突出度測定、色覚検査、外眼筋運動、視力・眼圧、前眼部・後眼部検査、視野検査、黄斑・視神経の光干渉断層計。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”原発性眼窩メラノーマの原因
Section titled “原発性眼窩メラノーマの原因”原発性眼窩メラノーマは、眼窩内に異所的に存在する深部間葉系神経向性メラノサイトの悪性転化に由来する。メラノサイトは神経堤由来であり、皮膚以外にも脳・消化管などの神経堤細胞移動先で腫瘍を形成しうる。
素因となる色素性病変が原発性の90%に存在する1)。
- 青色母斑:眼窩内に存在する良性メラノサイト前駆病変。組織学的に42%で検出される1)。
- 太田母斑(眼皮膚メラノーマ症):眼皮膚を分布域とする真皮メラノサイトーシス。
- 眼窩メラノサイトーシス:眼窩内のメラノサイト過形成状態。
文献レビュー88例では24%に眼メラノーマ症または太田母斑の合併が報告されている1)。
二次性眼窩メラノーマの原因
Section titled “二次性眼窩メラノーマの原因”- ぶどう膜メラノーマの強膜外進展:眼内原発性悪性腫瘍として最多。脈絡膜由来85〜90%、虹彩3〜5%、毛様体5〜8%。強膜を破って眼窩内に浸潤すると予後不良となる。
- 結膜・眼瞼メラノーマの眼窩進展:固有層浸潤から眼窩に達する。
- 皮膚メラノーマの遠隔転移:リンパ行性または血行性に眼窩に転移する。
皮膚メラノーマのリスク因子
Section titled “皮膚メラノーマのリスク因子”家族歴・紫外線A波曝露・青い目・赤毛またはブロンドの毛髪・色白の肌・多数の母斑・免疫抑制がリスク因子として挙げられる。
原発性眼窩メラノーマの90%に素因となる色素性病変が存在し、太田母斑(眼皮膚メラノーマ症)はその代表的な素因の一つである1)。ただし、太田母斑のすべてが悪性化するわけではなく、悪性化は稀である。定期的な眼科検診による経過観察が重要である。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”確定診断は生検と病理学的検査による。画像診断のみでの確定はできない。眼メラノーマ症の患者では、播種防止のため生検を避けるべきとされる。
CT所見とMRI所見の比較を以下に示す。
| 項目 | CT | MRI |
|---|---|---|
| 形態 | 境界明瞭な均質性腫瘤 | ガドリニウム造影で増強 |
| 信号特性 | 骨破壊像の検出に有用 | T1高信号・T2低信号(メラニン常磁性特性) |
| 限界 | 良性腫瘍と誤診されることがある | 脈絡膜黒色腫も同様の信号を呈する |
MRIではメラニンの常磁性特性によりT1強調画像で高信号(硝子体比較)、T2強調画像で低信号(硝子体比較)を示す。ガドリニウム造影で増強し、脂肪抑制シーケンスで信号が上昇する。
腫瘍は筋錐内または外眼筋に沿って描出され、眼窩蓋・球後脂肪・海綿静脈洞への浸潤がみられることもある。
組織学的検査
Section titled “組織学的検査”組織型の内訳は以下の通りである。
- 特定不能のメラノーマ:86.6%で最多
- 上皮様型:8.5%
- 紡錘形B型:1.6%
- 混合型(紡錘形+上皮様):1.6%
- 紡錘形A型・無色素性:各0.8%
確定に用いる免疫組織化学染色はS100・HMB-45・Melan-Aである1)。SOX-10も陽性を示す1)。
血液・全身検査
Section titled “血液・全身検査”- 5-S-システイニルドーパ:血中濃度が10 nmol/Lを超えると全身播種リスクが増大する。
- PET/CT:全身転移検索に有用である。
画像所見が境界明瞭なため、良性腫瘍(神経鞘腫・線維性組織球腫・動静脈奇形・海綿状血管腫)との誤診が起こりうる1)。眼窩メラノサイトーマとの鑑別も重要である。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”手術が治療の主軸である1)。術式の選択肢は局所切除(excision/debulking)と眼窩内容除去術(exenteration)の2種である。
局所切除術
適応:腫瘍の位置と大きさが切除可能な症例。
特徴:機能・整容を温存できる。
成績:文献レビュー88例中38%で選択。眼窩内容除去術と生存率・再発率に有意差なし(p=.16)1)。
眼窩内容除去術
適応:根治切除が困難で補助療法の効果も期待できない場合。
特徴:根治性は高いが、重大な心理社会的・機能的障害を伴う。
成績:文献レビュー88例中57%で選択。局所切除との生存率差はない(p=.16)1)。
眼窩内容除去術の主な合併症として、副鼻腔眼窩瘻(15/64例)・皮膚移植失敗・慢性分泌物・脳脊髄液漏出がある。再建法は自然肉芽形成から遊離皮弁まで多様である。側頭筋弁による閉鎖腔再建は眼窩容積回復と補助放射線療法への耐容性向上に有用とされる2)。
補助放射線療法の追加は手術単独と比較して死亡ハザード比を有意に改善する(HR 0.2、95%信頼区間 0.06–0.69、p=.01)1)。
- 外照射:最多で83%に使用1)。
- 陽子線治療:腫瘍への適合性が高く正常組織への線量を最小化。8%に使用1)。
- 強度変調放射線治療/回転強度変調放射線治療:6%に使用。回転強度変調放射線治療 60Gy/30回・画像誘導放射線治療による位置確認での実施例がある2)。
- 小線源療法:3%に使用1)。
小さな腫瘍では放射線療法単独も選択肢となる。
放射線治療後の晩期合併症として放射線網膜症・視神経症・角膜瘢痕に注意が必要である。
薬物療法(全身療法)
Section titled “薬物療法(全身療法)”転移性メラノーマに対して使用されるが、眼窩メラノーマ特異的なエビデンスは限定的である。転移性腫瘍の場合は原発巣を扱う他科(皮膚科・腫瘍内科等)と連携して治療を行う。
- 免疫チェックポイント阻害薬:ニボルマブ(抗PD-1抗体)、ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)、イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)。
- 分子標的薬:BRAF阻害薬・MEK阻害薬。
ペムブロリズマブ9サイクル投与により、ぶどう膜メラノーマ眼窩浸潤例(腹腔内転移を含む)で完全寛解が得られ、2年間の無再発が確認された症例報告がある2)。
文献レビュー88例の解析では、眼窩内容除去術と局所切除の間で生存率・再発率に有意差はなかった(p=.16)1)。一方、手術に補助放射線療法を追加すると死亡ハザード比が有意に改善する(HR 0.2、p=.01)。術式の選択は腫瘍の部位・大きさ・全身状態を考慮して行われる。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”原発性眼窩メラノーマの発生機序
Section titled “原発性眼窩メラノーマの発生機序”原発性眼窩メラノーマは、軟膜や毛様体神経のメラノサイト、または眼窩内の異所性メラノサイト巣に由来する1)。メラノサイトは神経堤由来の細胞であり、発生過程での移動先(皮膚以外にも脳・消化管)でも腫瘍を生じうる。皮膚メラノーマの60〜80%はデノボ発生、20〜40%は良性母斑の悪性転化による。
二次性眼窩メラノーマの発生機序
Section titled “二次性眼窩メラノーマの発生機序”- ぶどう膜メラノーマの強膜外進展:腫瘍が強膜を貫通し眼窩に浸潤する。
- 結膜メラノーマの固有層浸潤:結膜から眼窩へ直接浸潤が進展する。
- 遠隔皮膚メラノーマの転移:リンパ行性または血行性に眼窩へ到達する。
遺伝子プロファイル
Section titled “遺伝子プロファイル”原発性眼窩メラノーマには2つの遺伝子サブグループが報告されている1)。
- ぶどう膜メラノーマ型:GNAQ/GNA11/SF3B1変異。GNAQ/GNA11のコドン209変異はぶどう膜メラノーマの最大90%で検出され、MAPKシグナル経路を活性化する。後方に位置する眼窩メラノーマに多い。
- 結膜メラノーマ型:NRAS/TERTp変異。前方(結膜近傍)の眼窩メラノーマに多い。
予後との関連では、SF3B1変異・EIF1AX変異は良好な予後を示唆する1)。BAP-1発現の喪失はぶどう膜メラノーマでは転移と関連するが、原発性眼窩メラノーマでは必ずしも予後不良と関連しない1)。
ぶどう膜メラノーマ型(GNAQ/GNA11/SF3B1変異)と結膜メラノーマ型(NRAS/TERTp変異)の2群が報告されている1)。腫瘍の眼窩内における位置と遺伝子型が対応する可能性が示唆されており、将来的には免疫療法の反応性予測に活用できると期待されている。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”免疫チェックポイント阻害薬の有効性と限界
Section titled “免疫チェックポイント阻害薬の有効性と限界”Adetunji ら(2021)の文献レビューでは、原発性眼窩メラノーマに対するイピリムマブ+ニボルマブ併用療法の初めての使用例が報告された1)。2サイクル投与後に免疫関連無菌性髄膜炎・自己免疫性肝炎が発症し中止となり、腫瘍縮小効果も得られなかった。
ぶどう膜メラノーマに対する免疫チェックポイント阻害薬の奏効率は皮膚メラノーマより低い。低い腫瘍変異負荷が一因と考えられている1)。
一方、ぶどう膜メラノーマの眼窩浸潤例(腹腔内転移を含む)においてペムブロリズマブ投与により完全寛解が得られた症例が報告されており2)、遺伝子検査による免疫療法反応性の予測が今後の課題として挙げられている1)。
- 原発性眼窩メラノーマ:全生存期間中央値174ヶ月、36%に転移、15%に局所再発、32%が転移により死亡1)。5年転移有病率は38%。
- 二次性眼窩メラノーマ:生存期間中央値24ヶ月。皮膚原発が最も予後不良。
- 主な転移先:肝臓・肺が多い。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Adetunji MO, McGeehan B, Lee V, Maguire MG, Briceño CA. Primary orbital melanoma: A report of a case and comprehensive review of the literature. Orbit. 2021;40(6):461-469.
- Lalmand M, Gilis S, Raptos A, Simon A, Van Brussel S, Sasserath C. Ten years’ blindness of the right eye: A rare presentation of an orbital melanoma. SAGE Open Med Case Rep. 2023;11:2050313X231173786.