Purtscher flecken(プルチャー斑)
形状:多角形の境界明瞭な白濁。
位置:細動脈と静脈の間の網膜内層。網膜動脈周囲にみられる。
境界:血管から50μm以内に明確な境界線。血管周囲の網膜が白濁を免れる現象(perivascular sparing)が典型的。
頻度:約63%に認められる。
病態:毛細血管床の前毛細血管細動脈閉塞による内層白濁。
1910年、オトマール・プルチャー(Otmar Purtscher)が樹から落下した頭蓋外傷の中年症例で初めて報告した。まれな疾患であり、外傷に伴う網膜の血管閉塞性疾患である。頭・頸・胸部打撲など眼球以外の外傷によって生じる遠達外傷性網膜症として位置づけられる。
全身疾患や球後麻酔などの手術手技、急性膵炎、血栓性血小板減少性紫斑病、腎不全、結合組織炎に伴う同様の疾患は**プルチャー様網膜症(Purtscher-like retinopathy)**として区別される。眼底所見は両者で共通しており、病態も類似する。
推定発生率は0.24人/百万人/年とされ、過少報告の可能性がある4)6)。6割が両眼性で、時に片眼性の症例も存在する。急性膵炎が原因の場合はほぼ全例両眼性となる。病変は後極部(乳頭周囲・黄斑領域)の83〜92%に限局する。外傷が最も頻度の高い原因であり、次いで急性膵炎である。
プルチャー様網膜症の原因は多岐にわたる。急性膵炎・腎不全・膠原病・妊娠高血圧腎症/HELLP症候群・脂肪塞栓症候群・バルサルバ法・溶血性尿毒症症候群・揺さぶられっ子症候群・球後麻酔・ステロイド注射などの他、近年ではCOVID-19感染1)9)・高血圧緊急症2)・フィラー注入3)・虚血性大腸炎4)・ワクチン接種5)・C3糸球体症8)による症例が報告されている。
頭部外傷・胸部圧迫・長管骨骨折など外傷が原因の場合をプルチャー網膜症と呼ぶ。急性膵炎や腎不全など外傷を伴わない全身疾患が原因の場合はプルチャー様網膜症と呼ぶ。眼底所見は両者で共通しており、治療方針も同様である。

視力障害は外傷や関連する疾患の発症数時間から数日後に遅れて発症する。視力障害の程度はごく軽度から眼前手動弁に至るまでさまざまである。視野障害を伴うこともあり、中心暗点・傍中心暗点・弓状暗点などを呈する。
後極部(乳頭周囲・黄斑領域)に限局した所見が特徴的である。
Purtscher flecken(プルチャー斑)
形状:多角形の境界明瞭な白濁。
位置:細動脈と静脈の間の網膜内層。網膜動脈周囲にみられる。
境界:血管から50μm以内に明確な境界線。血管周囲の網膜が白濁を免れる現象(perivascular sparing)が典型的。
頻度:約63%に認められる。
病態:毛細血管床の前毛細血管細動脈閉塞による内層白濁。
軟性白斑(綿花様白斑)
病変範囲によりA・B・Cの3ゾーンに分類される。2/3の症例がゾーンAのみに関与し、ゾーンCの関与は稀である。
| ゾーン | 病変範囲 |
|---|---|
| A | 視神経乳頭周囲(乳頭径4倍の範囲) |
| B | 後極部(赤道前まで) |
| C | 周辺部まで含む広範囲 |
発症2か月後のフォローアップでは、眼底正常化40%・視神経萎縮64%・RPE虎斑状変化23%・網膜菲薄化14%・網膜動脈狭窄4%が報告されている。視神経萎縮や網膜萎縮を残す場合もある。
外傷や全身疾患の発症直後ではなく、数時間から数日の遅延後に視力低下が生じることが多い。眼痛はなく、外傷後に徐々に見えにくくなった場合は本疾患を念頭に置く必要がある。
プルチャー網膜症(外傷性)
頭部外傷:最も古くから知られた原因。交通事故・転落・殴打など。
胸部圧迫:強い圧迫外傷による胸腔内圧の急激な上昇。クラッシュ症候群・重量物による胸部挫滅。
長管骨骨折:脂肪塞栓症候群の合併により発症しうる。
プルチャー様網膜症(非外傷性)
急性膵炎:最も頻度が高い非外傷原因。ほぼ全例両眼性。
腎不全・C3糸球体症:補体代替経路の活性化が関与する6)8)。
COVID-19感染:軽症例でも補体活性化・凝固異常により発症しうる1)9)。
バルサルバ法・排便:胸腔内圧上昇による静脈還流障害7)。
その他の非外傷原因として、膠原病・結合組織疾患(SLE・皮膚筋炎・強皮症)・妊娠高血圧腎症/HELLP症候群・脂肪塞栓症候群・溶血性尿毒症症候群・血栓性血小板減少性紫斑病・出産(羊水塞栓)・球後麻酔・揺さぶられっ子症候群がある。近年ではフィラー注入(非顔面含む)3)・虚血性大腸炎4)・帯状疱疹ワクチン(Shingrix)接種後5)の症例も報告されている。
軽症COVID-19でも補体活性化・凝固異常により網膜微小血管閉塞が生じ、プルチャー様網膜症を発症しうることが報告されている1)。サイトカインストームによるC5a高濃度が血栓形成を促進する機序も考察されている9)。
2つの診断基準が用いられる。
Agrawalらの基準は、①関連疾患の存在、②単眼/両眼のPurtscher fleckenおよび/または浅層CWS、③後極部への限定、④直接眼外傷がないこと、⑤網膜血管内に塞栓がないこと、⑥最小限の出血、のすべてを要する。
Miguelらの更新基準(5基準中3つ以上)を以下に示す4)。
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 基準1 | Purtscher fleckenの存在 |
| 基準2 | 少数〜中等度の網膜出血 |
| 基準3 | 軟性白斑(後極部限定) |
| 基準4 | 説明可能な病因の存在 |
| 基準5 | 診断と矛盾しない補完的検査所見 |
臨床所見と蛍光眼底造影で診断される。
Purtscher fleckenは多角形で細動脈-静脈間の毛細血管床に生じ、血管から50μm以内に明確な境界線を持つ。軟性白斑は境界不明瞭なふわふわした白色斑で、NFL内の局所梗塞が原因である2)。両者が同一眼底に共存することもある。
エビデンスに基づいた治療ガイドラインは存在しない。多くは経過観察となるが、ステロイド治療を行う場合もある。原因疾患(急性膵炎・骨折など)への治療が最優先である。
| 治療法 | エビデンス | 主な位置づけ |
|---|---|---|
| 経過観察 | 系統的レビューで推奨 | 第一選択 |
| 高用量ステロイド | 前向き試験未確立 | 補助的 |
| 抗VEGF薬 | 症例報告のみ | 黄斑浮腫合併時 |
無治療でも数か月以内に軽快する場合が多い。ステロイド療法・抗血小板薬治療・線溶療法などが行われることもあるが効果は不明である。Miguelらの系統的レビューでは、高用量ステロイド群と無治療群で視力改善に有意差は認められなかった。Xiaら(2017)の系統的レビューでもグルココルチコイド療法に視力改善の差はないとされている4)5)。病変は1〜3か月で自然消退する傾向がある4)。
高用量ステロイド静注が最も一般的に報告される治療法であるが、前向き試験でのエビデンスは未確立である。損傷した神経膜と微小血管チャネルの安定化、顆粒球凝集と補体活性化の抑制が機序として挙げられる。症例報告ではプレドニゾロン60mg開始後に漸減する用量が用いられている1)6)。
複数の系統的レビューでステロイド群と無治療群の視力改善に有意差は示されていない4)5)。基礎疾患の治療が最優先であり、病変は1〜3か月で自然消退する傾向がある。ステロイド療法・抗血小板薬治療・線溶療法の効果は不明であり、前向き試験でのエビデンスは未確立である。
主要な病因は網膜細動脈前毛細血管の塞栓による閉塞である。複合的な因子により血管内皮が傷害されることが病態に関与する。
プルチャー遠達外傷性網膜症の機序として以下が推測されている。
塞栓の種類は原因疾患により異なる。脂肪(長管骨骨折)・膵臓プロテアーゼ(急性膵炎)・白血球凝集(leukoembolization)・空気・血小板・フィブリンが報告されている。
塞栓サイズによって所見が異なる。大きいものは網膜動脈分枝閉塞症様の融合性白濁を、小さいものは軟性白斑を、中間のものがPurtscher fleckenをきたす。
C5および補体の活性化は二次的なリンパ漏出を伴い重要な役割を担う。補体活性化→白血球凝集塊(最大50μm)形成→前毛細血管閉塞という経路が示唆されている5)8)。
Purtscher fleckenは直径約45μmの前毛細血管細動脈の閉塞による。網膜動脈・細動脈両側50μmの毛細血管非存在領域(capillary free area)に対応する透明ゾーンが形成される。
データは乏しい。Kincaidらによる急性膵炎死亡例では網膜内層に局所的浮腫・嚢胞状空間・正常構造の破壊が観察された。細動脈内腔にタンパク質様物質(再開通した血栓と推定)を認め、視細胞外節の消失があるがRPEと脈絡膜は正常であった。
エクリズマブ(C5阻害薬)が非定型溶血性尿毒症症候群に伴うプルチャー様網膜症で有効性を示した症例報告がある8)。C3糸球体症と補体調節異常の共通病態を踏まえ、プルチャー様網膜症治療への応用可能性が示唆されている。
Teru et al.(2025)は急性虚血性大腸炎後のプルチャー様網膜症を初報告した4)。72歳女性、腹痛・血便で入院翌日に両眼視力低下。大腸炎の治療(メトロニダゾール・シプロフロキサシン)のみで2週間後に自然改善した。
Pee et al.(2023)は乳房ヒアルロン酸フィラー約500mL注入後に両眼CF・肺胞出血・脳梗塞を合併したプルチャー様網膜症とPAMMの初例を報告した3)。SD-OCTで内顆粒層高反射バンドを認め、10か月後にも内層網膜の配列異常が残存した。
Shroff et al.(2022)はSS-OCTAで血管脱落・血流欠損を描出した片眼性プルチャー様網膜症後COVID-19例を報告した9)。急性期の血流欠損が慢性期にも持続することが示され、OCTAが表層・深層毛細血管叢の血管密度を定量的に評価できるツールとして注目されている。
急性期のOCT所見(内層高反射の範囲・程度・深さ)と長期視機能予後との相関を検討する研究が進んでいる。内層萎縮の範囲・黄斑部神経節細胞層の菲薄化が予後不良の指標となりうることが報告されており、OCTによる客観的予後予測モデルの構築が期待されている。