手術関連因子
術後脈絡膜剝離(脈絡膜滲出)
1. 術後脈絡膜剝離とは
Section titled “1. 術後脈絡膜剝離とは”脈絡膜滲出(choroidal effusion)は、脈絡膜の毛細血管から上脈絡膜腔(脈絡膜外腔)に漿液成分が異常に貯留した病態である。毛様体および脈絡膜が強膜と分離し、その間隙に液体が蓄積して硝子体腔側に隆起した状態を脈絡膜剝離(choroidal detachment)と呼ぶ。比較的大きな血管の破綻が生じた場合は出血性脈絡膜剝離となり、駆逐性出血に至ることもある。
脈絡膜滲出、毛様体脈絡膜滲出、漿液性脈絡膜剝離はほぼ同義で使用される。脈絡膜剝離はこれらより広い概念であり、出血性のものも包含する。脈絡膜剝離全体の分類としては特発性脈絡膜剝離・続発性脈絡膜剝離・uveal effusion syndromeの3群が知られており、術後脈絡膜剝離は続発性に属する。続発性脈絡膜剝離の原因には低眼圧・脈絡膜循環障害・脈絡膜の炎症・悪性腫瘍などさまざまな疾患が含まれる。
漿液性と出血性の分類
Section titled “漿液性と出血性の分類”| 分類 | 貯留内容 | 主な発症機序 |
|---|---|---|
| 漿液性 | 漿液性液体 | 低眼圧による静水圧差 |
| 出血性 | 血液 | 後毛様体動脈の破裂 |
緑内障手術は脈絡膜剝離の最も一般的な原因である。緑内障診療ガイドライン(第5版)では線維柱帯切除術後早期の主な合併症として、浅前房(0.9〜13%)、脈絡膜剝離(5〜14%)、前房出血(2.7〜11%)、結膜創からの房水漏出(3.4〜14%)の頻度が報告されている1)。TVT(Tube versus Trabeculectomy)研究では線維柱帯切除術の19%、緑内障ドレナージインプラントの16%で術後脈絡膜滲出が認められた4)。出血性脈絡膜剝離はチューブシャント手術で1.2〜2.7%、線維柱帯切除術で0.6〜1.4%と報告されている。XEN45ジェルステント植え込み後にも0〜15%の頻度で脈絡膜滲出が報告されている2)。
白内障手術においても術中脈絡膜滲出が発生する。無縫合極小切開白内障手術では眼圧低下の時間が短いため発症率は0.05%程度とされる。危険因子としては高齢、高血圧・動脈硬化、高眼圧・緑内障、強度近視・小眼球症・Sturge-Weber症候群が挙げられる。
術後の視機能障害を来しうる低眼圧黄斑症の頻度は0.9〜5%、濾過胞関連感染症の頻度は0.97〜5%と報告されている1)。
小さく周辺部にある脈絡膜滲出は無症状のことが多く、自然に消退する。しかし大きな滲出は視力低下や前房浅形成を引き起こすことがある。多くは散瞳薬やステロイドによる保存的治療で改善するが、前房が消失するほどの重症例やkissing choroidalでは外科的ドレナージが必要となる。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
漿液性脈絡膜滲出:術後2〜5日に最も多く発生する。小さな周辺部滲出は無症状であることが多い。大きな滲出では以下の症状を呈する。
- 視力低下:脈絡膜隆起による屈折変化に起因する
- 周辺視野の狭窄:隆起した脈絡膜が網膜を圧迫する
- 近視化:水晶体虹彩隔壁の前方移動による
出血性脈絡膜剝離:術後数日で急激な眼痛、嘔気、視力低下を来す場合に疑う1)。突然の激しい拍動性疼痛と即時の視力喪失を呈する。毛様体神経の伸展による痛みで嘔気・嘔吐を伴うことがある。
術中発症(白内障手術時):浅前房を伴う急激な硝子体圧の上昇が発症徴候である。後囊の上昇に伴い後囊破損のリスクがあり、前房が極端に浅くなった場合は手術の継続が困難となる。眼底が透見可能であれば脈絡膜皺襞が観察される。
臨床所見(医師が診察で確認する所見)
Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”漿液性と出血性の臨床所見の比較を以下に示す。
| 所見 | 漿液性 | 出血性 |
|---|---|---|
| 眼圧 | 通常低い | 通常高い |
| 透照(Hagen徴候) | 陽性 | 陰性 |
| Bモード超音波 | エコーフリー | 高エコー |
眼底所見:検眼鏡的に脈絡膜剝離は茶褐色で表面が平滑な凸レンズ様の硬い隆起として観察される。初期または軽度では毛様体扁平部と周辺部脈絡膜の隆起として認められ、強膜を圧迫することなく鋸状縁を容易に観察できる。大きな脈絡膜剝離は渦静脈付着部で区切られた最大4つの多房性バルーン状隆起を呈す。
前房所見:正常深度、浅い、または消失していることがある。脈絡膜剝離による水晶体の前方移動が浅前房を引き起こす。
低眼圧黄斑症合併時の所見:低眼圧が持続すると眼軸長が短縮し、脈絡膜皺襞、黄斑部皺襞、網膜血管の蛇行、乳頭浮腫が生じる1)。持続すると永久的な視力障害を来す可能性がある。
続発性緑内障:続発性脈絡膜剝離によって急性緑内障発作が生じることがある。水晶体虹彩隔壁の前方移動により隅角が閉塞し、眼圧が急上昇する病態である。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”漿液性脈絡膜滲出の成因
Section titled “漿液性脈絡膜滲出の成因”術後低眼圧が最も一般的な原因である。スターリングの式に基づくと、眼圧低下(間質圧の低下)により毛細血管圧が相対的に高くなり、脈絡膜上腔への液体貯留が生じる。炎症による脈絡膜毛細血管透過性の亢進も寄与する6)。
脈絡膜上腔への液体蓄積は、以下の悪循環を形成する。
- 術後低眼圧→脈絡膜上腔への液体貯留
- 毛様体機能の低下→房水産生の減少→さらなる低眼圧
- 水晶体の前方移動→前房浅化→脈絡膜剝離の増大
- 房水がぶどう膜強膜流出路に流入→濾過胞が十分に形成されない
- 房水内の蛋白濃度上昇→濾過胞の瘢痕化促進
白内障術中の発症は、高齢化による動脈硬化と手術中の急激な眼圧低下のために、短後毛様動脈からの急峻な漿液成分の渗出により生じると考えられている。
出血性脈絡膜剝離の成因
Section titled “出血性脈絡膜剝離の成因”後毛様体動脈の枝の破裂により脈絡膜上腔に血液が急速に蓄積する。急激な眼球減圧、特に高眼圧状態から手術が開始された場合にリスクが高い。代謝拮抗薬(マイトマイシンC・5-FU)の使用も低眼圧を助長し寄与する1)。
患者関連因子
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”脈絡膜剝離は茶褐色で表面が平滑な凸レンズ様の硬い隆起として観察される。鋸状縁が圧迫なしで容易に観察できることが特徴である。大きな脈絡膜剝離では渦静脈付着部で区切られた多房性の隆起を呈する。
Bモード超音波検査
Section titled “Bモード超音波検査”漿液性と出血性の鑑別に不可欠な検査である。
- 漿液性:エコーフリーな滑らかで厚い半球状の隆起
- 出血性:高エコーの隆起
臨床的に明らかでない微小な脈絡膜上腔液体貯留も検出可能である5)。
超音波生体顕微鏡(UBM)
Section titled “超音波生体顕微鏡(UBM)”毛様体と強膜の分離を観察でき、毛様体の前方回転を可視化するために使用される。前眼部の詳細な評価に有用である。
脈絡膜の厚さだけでなく強膜の厚さも測定可能であり、小眼球症の診断にも有用である。
術後の前房浅化・眼圧異常を呈する病態との鑑別が重要である。
- 網膜剝離:脈絡膜剝離は前方の位置、鋸状縁への広がり、渦静脈付着部で区切られた多房性の隆起で網膜剝離と区別される。脈絡膜剝離は裂孔原性網膜剝離と異なり、眼球運動によって明らかには移動しない
- 駆逐性出血:術中に急性発症し、前房消失を来す。脈絡膜皺襞の有無が脈絡膜滲出との鑑別に有用である。駆逐性出血では急激な眼内容物の脱出を伴い、予後不良となることが多い
- irrigation misdirection syndrome(IMS):白内障術中に発生する硝子体圧上昇であるが、眼底に脈絡膜皺襞を認めない点で脈絡膜滲出と区別される
- 悪性緑内障(aqueous misdirection):浅前房が存在するが、それに見合う低眼圧や脈絡膜剝離がなく、上脈絡膜出血もない場合に疑う。房水が硝子体腔に流入することで前房が浅くなる病態であり、散瞳薬・房水産生抑制薬・硝子体手術が治療の選択肢となる
- 後部強膜炎:Bモード超音波で後部強膜・脈絡膜の肥厚と球後組織の肥厚を示すTサインが特徴的である。中年女性に多く、多くは片眼性で、眼痛・視力低下を認め、前部強膜炎やぶどう膜炎を合併することが多い
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”術中・術後の低眼圧を最小限に抑えることが予防の基本である1)。
- 線維柱帯切除術:強膜弁に複数の縫合糸を配置し、術後にレーザー切糸(LSL)で眼圧管理を行う。過剰濾過を減らす目的で術中に縫合を多く行うことが一般的な管理方法である1)
- レーザー切糸のタイミング:少なくとも1週間は遅らせる。早期のレーザー切糸は避ける
- 前房の安定化:粘弾性物質や前房維持装置を使用する
- バルブなし緑内障ドレナージデバイス:吸収性縫合糸によるチューブの結紮が必要である
- 術後管理:局所・全身の房水産生抑制薬を中止する1)
多くの脈絡膜滲出は保存的治療で消退する。結膜下および強膜弁周囲組織の瘢痕化により自然に改善する症例もある1)。
- 散瞳薬(アトロピン硫酸塩水和物):水晶体虹彩隔壁を後方に回転させて前房を深くする
- 副腎皮質ステロイド点眼:炎症を抑制する(推奨度1B)1)
- 圧迫眼帯:強膜弁を正確に圧迫することで過剰濾過が改善することがある1)
- 重症例:経口プレドニゾロン(1 mg/kg、漸減)を併用する5)
- 前房消失時:前房内に空気や粘弾性物質を注入して前房を再形成する
白内障術中の対応:ヒーロンV®(高粘度ヒアルロン酸ナトリウム)を前房内に注入することで前房を形成できれば手術の継続が可能である。極小切開白内障手術では眼圧上昇に伴い自然に創口が閉鎖するため、20〜30分待機するだけで前房が深くなり手術を継続できることもある。ヒーロンV®が創口から押し戻されるようなケースでは手術を中止し、前房形成が得られない場合は翌日以降に手術を再開する。
なお、片眼で術中脈絡膜滲出を起こした場合、対側眼でも同様のリスクが高いため、対側眼の手術はできれば全身麻酔で行うか、全身麻酔が可能な施設への転送も考慮する。
外科的ドレナージ
Section titled “外科的ドレナージ”外科的ドレナージの適応は以下の通りである5)。
- 前房消失と持続的な水晶体角膜接触:角膜内皮障害のリスクが高い
- Kissing choroidal(接触型脈絡膜剝離):視神経から水晶体まで接触する重度の脈絡膜剝離
- 漿液性網膜剝離の合併:RPEポンプ機構の代償不全による二次性網膜剝離
- 持続するブレブリークを伴う低眼圧
- 保存的治療に反応しない持続する脈絡膜滲出
手技:輪部から3.5〜4.5 mm後方に全層強膜切開を行い、脈絡膜上腔の液体を排出する。術中にドレナージと同時に前房に灌流液や粘弾性物質を注入して前房を再形成する5)。
出血性脈絡膜剝離のドレナージ:自然に出血が吸収されることもあるが、ドレナージを行う場合は血液が液化するまで7〜10日待つことが望ましい1)。
過剰濾過に対する追加的介入
Section titled “過剰濾過に対する追加的介入”過剰濾過に伴う低眼圧に対しては、段階的に以下の介入を検討する1)。
- 経結膜的強膜弁縫合:結膜上から直接ナイロン糸で強膜弁を縫合する方法であり、低眼圧黄斑症の治療として長期にわたり有効性が示されている1)
- 自己血注入:自己血を濾過胞内および濾過胞周囲に注射する方法により低眼圧黄斑症が改善する報告がある。ただし急激な眼圧上昇を来すことがある1)
- 観血的強膜弁縫合:上記の方法で改善しない場合、結膜を再度開けて強膜弁の縫合を直視下で行う1)
- 強膜開窓術:著明な脈絡膜剝離が生じている場合に脈絡膜上腔に貯留した液を排液する1)
多くの漿液性脈絡膜滲出は術後の創傷治癒や結膜下組織の瘢痕化に伴い消退する。散瞳薬やステロイド点眼による保存的治療で改善する場合がほとんどである。しかし大きな脈絡膜滲出や持続例では外科的ドレナージが必要になる。出血性脈絡膜剝離は漿液性に比べて重篤であり、より積極的な介入が必要である。
kissing choroidal(接触型脈絡膜剝離)とは、対向する脈絡膜剝離が視神経から水晶体まで互いに接触するほど大きく隆起した状態である。前房消失を伴い、網膜への血流障害や角膜内皮障害のリスクが高いため、外科的ドレナージの絶対適応となる。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”脈絡膜の解剖学的特徴
Section titled “脈絡膜の解剖学的特徴”脈絡膜は組織学的に外側から上脈絡膜(suprachoroid)、血管層、脈絡毛細血管板、Bruch膜の4層に分けられる。脈絡膜は視神経と後毛様体動脈が眼球に入る部位、および渦静脈が眼球から出る部位で強膜と強固に結合している。上脈絡膜と強膜との結合は前方ほど緩く後方ほど強い。この結合部位が脈絡膜剝離の多房性形態を決定する。
強膜と脈絡膜との間隙は脈絡膜外腔(suprachoroidal space)と呼ばれ、薄く色素を有する結合組織の膜である上脈絡膜がこの間隙に存在する。上脈絡膜と強膜の前方の結合が緩いため、初期の脈絡膜剝離は毛様体扁平部と周辺部脈絡膜の隆起として認められる。
スターリングの式と脈絡膜滲出
Section titled “スターリングの式と脈絡膜滲出”正常の脈絡膜毛細血管では静水圧のバランスが保たれている。さまざまな原因でバランスが破綻すると血液中のアルブミンが毛細血管外に漏出し、渗出液が脈絡膜外腔に貯留する6)。
低眼圧により間質圧(≒眼圧)が低下すると毛細血管圧が相対的に高くなり、液体が脈絡膜上腔に貯留する。脈絡膜滲出が一旦形成されるとタンパク質を含む血清が脈絡膜上腔に蓄積し、膠質浸透圧の平衡によりぶどう膜の再吸収が制限される。脈絡膜循環障害では脈絡膜毛細血管からの漏出が増加し、脈絡膜の炎症では毛細血管の透過性が亢進して血液の液性成分が血管外へ漏出する。
出血性脈絡膜剝離の発症機序
Section titled “出血性脈絡膜剝離の発症機序”後毛様体動脈(短後毛様動脈)の枝が急激な眼球減圧により破裂し、脈絡膜上腔に血液が急速に蓄積する。高眼圧状態からの急激な眼圧低下が最大のリスクである。動脈硬化を伴う高齢者では血管壁の脆弱性が高く、破裂の閾値が低下している。術中に発生した場合は駆逐性出血に至り、眼内容物の脱出を来す重篤な合併症となる。
RPEポンプ不全と漿液性網膜剝離
Section titled “RPEポンプ不全と漿液性網膜剝離”脈絡膜剝離が長期間続くと、網膜色素上皮(RPE)のバリア機構が代償不全を起こし、その結果として網膜下液が貯留することによって非裂孔原性網膜剝離が生じる。随伴する非裂孔原性網膜剝離が長期に及び、中心窩下の網膜色素上皮が障害を受けている場合、手術によって解剖学的な改善は得られても視力の改善は困難となる。
小眼球症とuveal effusion syndrome
Section titled “小眼球症とuveal effusion syndrome”小眼球症では強膜の異常(肥厚)により渦静脈が圧迫され、渦静脈からの排出が阻害されることで網膜下液が貯留する。強膜の肥厚はコラーゲン線維の配列異常によるとの報告がある。
uveal effusion syndromeでは、強膜の異常によって脈絡膜血管外の蛋白に富む液体の経強膜的な眼外への移動が障害されている6)。蛋白に富む滲出液が脈絡膜外腔に蓄積し、膠質浸透圧差による液体貯留が持続する。本症は寛解と再燃を繰り返して遷延し、脈絡膜剝離が長引くことで網脈絡膜萎縮から網膜色素上皮の機能低下を徐々に生じ、視力障害を引き起こす。
Gassは1983年に強膜部分切除術と強膜開窓術がuveal effusion syndromeに有効であることを報告し、1990年には約56%の症例で2段階以上の視力改善を認めたと報告している。ただし非裂孔原性網膜剝離が長期に及んだ場合は、手術で解剖学的改善が得られても視力回復は限定的である。
またHunter症候群のようなムコ多糖体代謝異常でも強膜肥厚を生じ、続発性脈絡膜剝離を来すことがある。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”低侵襲緑内障手術と脈絡膜滲出
Section titled “低侵襲緑内障手術と脈絡膜滲出”低侵襲緑内障手術は従来の濾過手術に比べて脈絡膜滲出のリスクが低い傾向にある。しかし、XEN45ジェルステントの小内腔(約45 μm)は理論上は術後早期の低眼圧を回避できるものの、脈絡膜滲出は依然として報告されている2)。
Cassottanaら(2023)は84歳男性のXEN45植え込み後両側脈絡膜滲出症例を報告した。右眼は散瞳薬・ステロイドで1ヶ月で改善したが、左眼は保存的治療に抵抗し、2ヶ月後に経強膜的ドレナージを要した。高齢、術前の多剤使用、術後1週間以内の10 mmHg未満の低眼圧が主要なリスク因子として同定された2)。
術後24〜48時間以内に眼圧が10 mmHg未満となることは予後不良因子と考えられている2)。
片眼発症と対側眼リスク
Section titled “片眼発症と対側眼リスク”片眼での脈絡膜滲出は対側眼における同種手術でのリスク因子となる可能性がある2)。白内障手術においても、片眼で術中脈絡膜滲出を起こした場合は対側眼でも同様のリスクが高いため、全身麻酔での手術や全身麻酔可能施設への転送も考慮される。
薬剤誘発性脈絡膜滲出
Section titled “薬剤誘発性脈絡膜滲出”Shaheenら(2023)は局所ドルゾラミドによる急性漿液性・出血性脈絡膜滲出の症例を報告した。78歳男性がドルゾラミド−チモロール配合剤開始2日後に左眼の脈絡膜滲出を発症し、ドルゾラミドの中止とプレドニゾロン1%・アトロピン1%の点眼で4日間で完全消退した。10年前にも同様のエピソードがあり、特異体質反応の再現性が確認された3)。
偽水晶体眼では水晶体によるバリアがないため硝子体への薬剤浸透が増加し、発症リスクが高い可能性がある3)。経口炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド・メタゾラミド)では脈絡膜滲出が生じなかった症例もあり、局所製剤と全身投与で病態生理が異なる可能性が示唆されている3)。
uveal effusion syndromeに対する強膜手術
Section titled “uveal effusion syndromeに対する強膜手術”uveal effusion syndromeに対しては強膜部分切除術と強膜開窓術の有効性が報告されている。Gassは約56%の症例で2段階以上の視力改善を認めたと報告している。ただし、随伴する非裂孔原性網膜剝離が長期に及び中心窩下の網膜色素上皮が障害を受けている場合、手術によって解剖学的な改善は得られても視力の改善は困難である。
- 画像診断の進歩:OCTAや広角OCTによる術後脈絡膜滲出の早期検出と定量評価の標準化が期待される。従来のBモード超音波では検出困難な微小滲出の評価が可能となりつつある
- 術式別管理指針:低侵襲緑内障手術の普及に伴い、各術式に特異的な脈絡膜滲出の発生率と管理指針の確立が求められる
- 対側眼リスク評価:片眼発症後の対側眼におけるリスク予測のためのバイオマーカー探索が今後の研究課題である
- 薬剤誘発性の機序解明:炭酸脱水酵素阻害薬の局所投与と全身投与で病態生理が異なる可能性が示唆されており、経口アセタゾラミドでは脈絡膜滲出が生じなかった症例も報告されている3)。薬剤選択における安全性の向上が期待される
低侵襲緑内障手術は従来の濾過手術に比べてリスクは低いが、XENジェルステントなどの術式でも脈絡膜滲出は0〜15%の頻度で報告されている。高齢者、術前に多くの緑内障薬を使用している患者、術後早期に眼圧が10 mmHg未満に低下した場合にリスクが高い。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
- Cassottana P, Toma C, Maltese C, Villa V, Ricciarelli R, Traverso CE, et al. A Case of Bilateral Choroidal Effusion after XEN Gel Stent Implantation. Gels (Basel, Switzerland). 2023;9(4). doi:10.3390/gels9040276. PMID:37102888; PMCID:PMC10138104.
- Shaheen A, Schultis S, Magraner M, Correa ZM, Yannuzzi NA, Greenfield DS. Acute serous and hemorrhagic choroidal effusion associated with topical dorzolamide therapy. American journal of ophthalmology case reports. 2023;31:101866. doi:10.1016/j.ajoc.2023.101866. PMID:37323588; PMCID:PMC10265454.
- Gedde SJ, Herndon LW, Brandt JD, et al. Postoperative complications in the Tube Versus Trabeculectomy (TVT) study during five years of follow-up. Am J Ophthalmol. 2012;153(5):804-814.e1. doi:10.1016/j.ajo.2011.10.024. PMID: 22244522.
- Schrieber C, Liu Y. Choroidal effusions after glaucoma surgery. Curr Opin Ophthalmol. 2015;26(2):134-142. doi:10.1097/ICU.0000000000000131. PMID: 25643198.
- Brubaker RF, Pederson JE. Ciliochoroidal detachment. Surv Ophthalmol. 1983;27(5):281-289. doi:10.1016/0039-6257(83)90228-X. PMID: 6407132.