この疾患の要点
ウレッツ・ザバリア症候群(UZS)は眼科手術後に瞳孔 が散瞳 固定する合併症である。
全層角膜移植術 (PKP )後に最も多いが、白内障 手術やDALK 、有水晶体後房レンズ 挿入術など多数の手術で報告されている。
虹彩 虚血による瞳孔 括約筋の壊死が主な病態と考えられている。
術後の眼圧 上昇が最も重要なリスク因子であり、円錐角膜 も高リスクである。
予防が最も重要であり、術前マンニトール投与や周辺虹彩 切開術が有効とされる。
約1/4の症例で二次性緑内障 に進行するため、術後の眼圧 管理が必須である。
ウレッツ・ザバリア症候群(Urrets-Zavalia syndrome: UZS)は、眼科手術後に瞳孔 が散瞳 固定し、光刺激や縮瞳薬に反応しなくなるまれな術後合併症である。1963年にアルゼンチンの眼科医Alberto Urrets-Zavaliaが、全層角膜移植術 (PKP )後に散瞳 固定・虹彩後癒着 ・虹彩 萎縮を呈した6症例を初めて報告した。
当初はPKP 後の合併症として認識されていたが、現在では多数の眼科手術後に発生することが判明している1, 2, 3, 4) 。PKP 後の発生率は0〜17.7%と報告されており、通常は片眼性に発生する。白内障 術後の全体発生率は8.2%とされる4) 。これまでに約100例の症例報告が公表されている2, 4) 。
Q
UZSはどのような手術で発生するか?
A
UZSは当初PKP 後の合併症として報告されたが、現在ではDALK 、DSAEK 、白内障 手術、線維柱帯切除術 、有水晶体眼内レンズ (ICL )挿入術、内視鏡的毛様体 光凝固術 (ECP )、強膜 縫着眼内レンズ 挿入術など、多数の眼科手術後に報告されている1, 2, 3, 4) 。さらに、アルゴンレーザー周辺虹彩 形成術や経強膜 毛様体 光凝固術 の後にも発生が報告されている。これらに共通するのは、虹彩 虚血を引き起こしうる状況であること、および術後の眼圧 上昇である。
散瞳 に伴う視覚障害 :ハロー・グレア・羞明 が生じる。
外見上の異常 :片眼性の散瞳 が目立ち、整容面の問題となることがある。
視力 低下 :散瞳 固定そのものは視力 低下を引き起こさないが、二次性緑内障 による視野障害が問題となる。
瞳孔所見
散瞳 固定 :光刺激にも調節にも反応しない。瞳孔 径は7.5〜9 mmに達する1, 2, 3, 4) 。
縮瞳薬への無反応 :ピロカルピン2〜4%やカルバコールに反応しない1, 2, 3) 。
発症時期 :80.9%が術後2日目までに検出されるが、術後5ヶ月まで遅発する例もある。
虹彩・前房所見
虹彩 萎縮 :前層・後層のびまん性萎縮を認める4) 。透過性亢進を呈する。
周辺虹彩前癒着 (PAS ) :隅角 閉塞の原因となる4) 。
虹彩後癒着 :水晶体 前嚢上の色素沈着を伴うことがある4) 。
眼圧 上昇 :術後早期の一過性上昇から慢性的な上昇まで多様である。術後2ヶ月で40 mmHgに達した例1) や、術後1日目に36 mmHgを示した例2) がある。
二次性閉塞隅角緑内障 :約1/4の症例で進行が報告されている4) 。永久的な散瞳 により虹彩 が線維柱帯 に近接し、癒着と隅角 閉塞を引き起こす。
不完全型UZS :虹彩 前層のびまん性萎縮と角膜内皮 ・水晶体 前嚢上の色素顆粒を認める。1/3〜2/3の症例で瞳孔 反応性が部分的に回復するが、正常な瞳孔 径への回復はわずか4.8%である。
術後眼圧 上昇 :PKP 後24時間以内の眼圧 上昇がUZS発症の有意なリスク因子である。ベースライン眼圧 が低い眼では、同程度の眼圧 上昇でも虹彩 虚血を生じやすいとの仮説がある2) 。
円錐角膜 :PKP 後のUZS発生率は円錐角膜 眼で7.8%、非円錐角膜 眼で0.8%と著明な差がある。円錐角膜 眼の低い強膜 剛性により虹彩 根部血管が閉塞しやすいと考えられている。
散瞳薬 の使用 :アトロピン・フェニレフリンなどの使用が関与する可能性があるが、散瞳薬 未使用でもUZS発生の報告があり、決定的な役割は否定する研究もある。
残存粘弾性物質 :虹彩 括約筋・血管系への毒性や眼圧 上昇の原因となる。
中毒性前眼部症候群 (TASS ) :術後の前房 内炎症反応がUZSを誘発する4, 5) 。
Plateau iris(プラトー虹彩 )形態 :虹彩 周辺部の血管が散瞳 時に圧迫されやすく、虚血性損傷のリスクが高まる可能性がある1) 。
前房 内への空気・ガス注入 :深層層状角膜移植術 ・角膜内皮移植 術の術後、空気が虹彩 を前方に押し出して角膜 に接触させ、虹彩 虚血を引き起こす可能性がある。
術中エピネフリン使用 :硝子体 切除液中のエピネフリンが虹彩 小血管を収縮させ、術中虹彩 虚血を招く可能性がある1) 。
Q
円錐角膜がUZSのリスク因子となる理由は何か?
A
円錐角膜 眼では、PKP 後のUZS発生率が非円錐角膜 眼の約10倍高い(7.8% vs 0.8%)。これには以下の機序が考えられている。第一に、円錐角膜 眼の低い強膜 剛性により、術中に強膜 内の虹彩 根部血管が閉塞しやすくなる。第二に、円錐角膜 眼に固有の虹彩 異常が存在する可能性がある。ただし、201例のPKP 症例でUZSを認めなかったとする報告もあり、円錐角膜 の関与の程度については議論が残る。
UZSは特徴的な臨床像と手術歴から臨床的に診断する。術後に散瞳 固定が認められ、縮瞳薬に反応しないことが診断の根拠となる。
細隙灯顕微鏡検査 :虹彩 萎縮、透過性亢進、虹彩後癒着 、水晶体 前嚢上の色素沈着を確認する。
隅角鏡検査 :周辺虹彩前癒着 や隅角 閉塞の有無を評価する4) 。
前眼部光干渉断層計 (AS-OCT ) :閉塞隅角 やplateau iris形態の検出に有用である1) 。
虹彩 蛍光血管造影 :虹彩 血管の充盈遅延・分節状充盈・蛇行・後期の漏出を認め、重度の虹彩 虚血と一致する所見が得られる。
薬理学的検査 :ピロカルピン2〜4%の点眼で瞳孔 が収縮しないことを確認する2, 3) 。
Q
UZSとTASSの関係は?
A
中毒性前眼部症候群 (TASS )はUZSの重要なリスク因子の一つである。TASS では術後早期に前房 内炎症が発生し、瞳孔 括約筋の壊死が生じて散瞳 固定に至る5) 。典型的にはTASS の炎症と同時に散瞳 固定が出現するが、術後2週間で炎症が出現し、その1週間後にUZSが発症した遅発例も報告されている4) 。TASS とUZSの鑑別というよりも、TASS がUZSの原因となるという因果関係がある。
UZSは一度発症すると不可逆的であることが多いため、予防が最も重要である。
術前の予防策 :
静脈内マンニトール投与により、散瞳 固定の発生率が4%から1.5%に低下する。マンニトールは硝子体 容積を減少させ、虹彩 の絞扼を防ぐ。
YAGレーザー 虹彩 切開術をPKP の1日前に行うことでUZS予防効果が示されている。
Plateau iris形態のスクリーニングを行い、該当する患者では機械的散瞳 (iris hooks)の使用を検討する1) 。
術中の予防策 :
前房 を深く保ち、虹彩 への手術的外傷を回避する。
周辺虹彩 切開術を施行する。PKP において周辺虹彩 切開術導入後にUZSが発生しなくなったとの報告がある。
粘弾性物質 を細心の注意を払って除去する。
空気注入が必要な場合(角膜内皮移植 術、深層層状角膜移植術 )は最小量にとどめる。
術後の予防策 :
PKP 後24時間は厳密な眼圧 管理を行う。散瞳薬 の使用は避ける。
有水晶体後房レンズ 挿入術後は、瞳孔ブロック による急性緑内障 に注意する3) 。
眼圧上昇への対応
前房 洗浄 :残存した血液や粘弾性物質 が原因の場合は直ちに施行する。
隅角 解離 :前房 浅水化による虹彩 ・角膜 接触が原因の場合、前房 を再形成し接触を解除する。
薬物的眼圧 降下 :ブリンゾラミド ・ブリモニジン・チモロールなどの併用1) 。
薬物療法
ダピプラゾール :交感神経遮断薬。虹彩 交感神経系の過活動に対処し縮瞳を誘導する目的で使用される。
グアネチジン・ピロカルピン併用 :虹彩 の交感神経痙攣を治療する報告があるが、多くの報告で効果は限定的である。
Q
UZSは予防できるか?
A
UZSの正確な原因は不明であるため完全な予防は困難であるが、いくつかの有効な予防策が報告されている。術前の静脈内マンニトール投与は発生率を4%から1.5%に低下させる。術前のYAGレーザー 虹彩 切開術も有効とされる。術中には前房 を深く保ち、周辺虹彩 切開術を施行し、粘弾性物質 を確実に除去することが重要である。術後は24時間の厳密な眼圧 管理と散瞳薬 の回避が推奨される。Plateau iris形態を有する患者では、薬理学的散瞳 の代わりに機械的散瞳 (iris hooks)の使用を考慮すべきとの提案もある1) 。
UZSの主要な病態として、虹彩 の虚血と瞳孔 括約筋の壊死が最も広く受け入れられている1, 2) 。
虹彩 蛍光血管造影では、UZS患者において虹彩 血管の充盈遅延・分節状充盈・血管の蛇行・後期の漏出が認められる。これらの所見は重度の虹彩 虚血と一致する。
術後の急激な眼圧 上昇が虹彩 血管を閉塞させ、虹彩 虚血を引き起こすとする説が有力である。PKP 後24時間以内の眼圧 上昇はUZS発症の有意なリスク因子である。白内障 手術においても、術周期に眼内炎 ・TASS または過度の眼圧 上昇が生じると、瞳孔 括約筋壊死から慢性的な散瞳 に至りうる5) 。
一方、眼圧 上昇のないUZS症例も報告されており、Urrets-Zavaliaの原著論文の全症例で眼圧 は正常であった。
72歳男性が両側のECP /白内障 同時手術を受け、両眼とも術後に眼圧 36 mmHgまで上昇したが、ベースライン眼圧 が低かった右眼(17 mmHg)のみにUZSが発症し、ベースライン眼圧 が高かった左眼(21 mmHg)は発症しなかった2) 。これは、ベースライン眼圧 が低い眼では同程度の眼圧 上昇でも虹彩 虚血が生じやすい可能性を示唆する。
Plateau iris形態を有する眼では、虹彩 周辺部が角膜 に近接しているため、散瞳 時に虹彩 周辺部血管が圧迫されやすい1) 。強膜 縫着眼内レンズ 挿入後にUZSを発症した患者の僚眼にplateau iris形態が認められた報告があり、虹彩 解剖学的特徴がUZSの素因となる可能性が示唆されている1) 。
硝子体 切除液中のエピネフリンは小血管収縮作用を有し、術中の虹彩 虚血を引き起こす可能性がある1) 。長時間の散瞳 維持と相まって、瞳孔 括約筋の不可逆的虚血性損傷に至る可能性がある。
UZSの病態は単一の機序では説明できず、多因子性であると考えられている2) 。虹彩 蛍光血管造影で虹彩 虚血所見を認めない症例も報告されており、すべてのUZSが虹彩 虚血で説明できるわけではない。虹彩 への直接的な手術的外傷、散瞳薬 の毒性、炎症反応なども関与する可能性がある。
近年、従来報告されていなかった手術でのUZS発症例が相次いで報告されている。2024年には強膜 縫着眼内レンズ 挿入後の初の症例が報告され1) 、内視鏡的毛様体 光凝固術 (ECP )と白内障 手術の併用後の初の症例も報告された2) 。2025年には有水晶体眼内レンズ (ICL )挿入後の瞳孔ブロック に続発したUZSの症例が報告された3) 。
「術者は、長時間の眼内手術を予定している患者に対してplateau iris形態のスクリーニングを検討し、該当する患者では薬理学的散瞳 の代わりに機械的散瞳 (iris hooks等)を使用すべきである」1)
UZSの正確な病態生理はいまだ完全には解明されておらず、効果的な治療法も確立されていない。術前のリスク評価法の確立、虹彩 虚血の早期検出法の開発、および発症後の瞳孔 括約筋機能回復の可能性が今後の研究課題である。
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