Cutibacterium acnes(アクネ菌)
若年者MRKCで重要:旧名Propionibacterium acnes。若年女性のフリクテン型MRKCで検出頻度が高いことが報告されている1)。マイボーム腺内に定着し、菌体抗原がIV型過敏反応を惹起する。
フリクテン性角結膜炎(phlyctenular keratoconjunctivitis: PKC)は、外来抗原に対するT細胞依存性のIV型(遅延型)過敏反応によって、角膜または結膜に結節性炎症が生じる疾患である。病巣部位により結膜フリクテン、輪部フリクテン、角膜フリクテンに分類され、これらを総称してフリクテン性角結膜炎と呼ぶ。
本疾患は歴史的に結核との関連で議論されてきたが、現在は結核菌に限らず、眼瞼炎・マイボーム腺炎に伴う細菌抗原への遅延型過敏反応として理解される。結核流行地域や結核曝露歴のある小児では、現在も結核関連PKCを鑑別に含める必要がある2)。
日本からの臨床研究では、若年患者のフリクテン性角膜炎とマイボーム腺炎との関連が詳しく報告され、C. acnesや霰粒腫既往、若年女性に多い臨床像が示された1)。以後、国内ではフリクテン性角結膜炎をMRKCのフリクテン型として扱う考え方が広く用いられている1,3)。
PKCは小児〜若年者に多く、国内の若年患者シリーズでは女性、霰粒腫既往、マイボーム腺炎の合併が目立つ1)。結核が高有病率である地域では依然として小児PKCの重要な原因として結核菌が挙げられ、2000年以降も小児PKCと結核の関連症例が報告されている2)。

| 分類 | 特徴 |
|---|---|
| 結膜フリクテン | 輪部近傍の白〜黄色結節。表層血管集積と上皮欠損を伴う |
| 輪部フリクテン | 角膜輪部に結節性隆起。血管侵入を伴うことがある |
| 角膜フリクテン | 結節性浸潤+結節に向かう表層血管侵入(束状角膜炎) |
| 遊走性フリクテン | 角膜表面を横断して進行する形態。先端部の隆起と後方の血管束 |
結膜フリクテンは、角膜輪部近傍の球結膜上に生じる白色〜黄色の結節性隆起病変であり、表層性血管の集積と上皮欠損を伴う。瞼裂部に好発する。
角膜フリクテンは角膜下方周辺部に好発するが、瞼裂部にも生じる。角膜に白色・楕円形の結節性細胞浸潤とそれに向かう表層性血管侵入、対応する球結膜の充血を特徴とする。重症例では角膜の混濁と菲薄化が生じ、高度の視力低下をきたす。結節病変に向かって血管新生が束状に形成されるため、束状角膜炎(fascicular keratitis)とも呼ばれる。
**遊走性フリクテン(marching phlyctenules)**では、フリクテンが角膜表面を横切って進行する。隆起した先端部とその後方に続く血管束を呈する。
国内のMRKC概念では、臨床像によりおおむね以下の2型に整理される1,3)。
マイボーム腺炎の重症度と角膜炎の重症度は関連し、フリクテン型MRKC患者ではマイボーム腺の脱落・消失などの形態変化が多いことが多施設横断研究で報告されている3)。
Cutibacterium acnes(アクネ菌)
若年者MRKCで重要:旧名Propionibacterium acnes。若年女性のフリクテン型MRKCで検出頻度が高いことが報告されている1)。マイボーム腺内に定着し、菌体抗原がIV型過敏反応を惹起する。
黄色ブドウ球菌
結核菌
結核流行地域で重要:Mycobacterium tuberculosisのツベルクリン蛋白に対する過敏反応で発症する。2000年以降も小児結核PKCの症例報告があり、肺結核・リンパ節結核に加えて副鼻腔結核の報告もある2)。結核流行地域の小児PKCでは結核のスクリーニングを行う2)。
ウイルス・その他
結核菌のツベルクリン蛋白はPKCの代表的な原因抗原の一つである。先進国ではC. acnesや黄色ブドウ球菌が主因となっているが、結核流行地域では依然として重要な原因である2)。PKCを発症した小児、特に結核流行地域からの渡航者では、胸部X線、ツベルクリン反応検査(Mantoux test)、QuantiFERON-TB Gold検査によるスクリーニングが推奨される。結核関連PKCでは抗結核薬の全身投与が必要となる2)。
PKCの診断は病歴と特徴的な臨床所見に基づく。角膜輪部近傍の結節性病変と表層性血管集積を認め、マイボーム腺炎の合併があれば診断はほぼ確実である。若年女性で霰粒腫の既往があり、結節性細胞浸潤と表層血管侵入を認めれば診断は容易である。
結核が疑われる場合は、胸部X線検査、ツベルクリン反応検査(PPD/Mantoux)、QuantiFERON-TB Gold検査を実施する。Wiriyachaiらの症例報告では、一般的な培養・染色・PCRが陰性であっても、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を用いたPCRで結核菌が検出された2)。同論文の文献レビューでは、肺結核、リンパ節結核、皮膚結核、副鼻腔結核を背景とする小児PKCが報告されている2)。
クラミジアが疑われる場合は結膜スワブの蛍光抗体法またはPCR検査を行う。単純ヘルペスウイルスが疑われる場合はHSV-1/HSV-2のIgG・IgM血清学的検査と結膜スワブPCRを行う4)。
| 疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| カタル性角膜潰瘍 | III型アレルギー。輪部と病変の間に1〜2mmの「透明帯」が存在する |
| 春季カタル | 巨大乳頭、輪部のTrantas斑、強い瘙痒感 |
| 結節性強膜上炎 | 強膜上の結節で、充血は限局性。スリット光で深部に病変 |
| 壊死性角膜炎 | 片眼性で高度の実質混濁。マイボーム腺炎の合併は軽度 |
| 非フリクテン型MRKC | SPKが主体で結節性細胞浸潤なし。眼瞼炎・ドライアイ様所見との鑑別に注意 |
| 周辺部潰瘍性角膜炎 | 膠原病関連。輪部の潰瘍と浸潤、強膜炎合併 |
| ヘルペス角膜炎 | 樹枝状病変や地図状潰瘍。HSV-2関連PKCの報告もあり鑑別を要する4) |
その他の鑑別として、酒皶性角膜炎、トラコーマ、感染性角膜潰瘍、アカントアメーバ角膜炎などが挙げられる。再発を繰り返す重症例では、細胞浸潤と血管侵入が高度となり壊死性角膜炎と見誤ることがあるが、高度のマイボーム腺炎の合併の有無で鑑別可能である。
治療の核心は、マイボーム腺炎の制御による抗原量の減少、眼表面の炎症抑制、および基礎感染症の治療の3本柱である1,3)。抗菌点眼と低濃度ステロイド点眼の併用を基本とし、マイボーム腺炎合併例では抗菌薬内服を積極的に併用する。
代表的な処方例は以下のとおりである。
| 種別 | 薬剤 | 用量・用法 |
|---|---|---|
| 抗菌点眼 | ベストロン®点眼用(セフメノキシム 0.5%) | 1日4回 |
| ステロイド点眼 | フルメトロン®点眼液(フルオロメトロン 0.1%) | 1日4回 |
| 抗菌内服(セフェム) | フロモックス®錠(セフカペン 100mg) | 3錠 分3 食後 |
| 抗菌内服(マクロライド) | クラリス®錠(クラリスロマイシン 200mg) | 2錠 分2 食後 |
| 眼軟膏 | エコリシン®眼軟膏(エリスロマイシン+コリスチン) | 1日1回 眠前 マイボーム腺開口部 |
| 難治例点眼 | シクロスポリン点眼(0.1% パピロックミニ®、適応外) | 症例により |
結膜フリクテンでは抗菌点眼+低濃度ステロイド点眼が中心で、マイボーム腺炎合併例ではセフカペン内服かクラリスロマイシン内服を追加する。
角膜フリクテンではこれに加えて、マイボーム腺開口部へのエコリシン®眼軟膏の塗布が有効で、眼表面の炎症が強い初期には抗菌薬とステロイドを併用しつつ、細菌が十分に除菌されるまで抗菌薬中心の治療を継続する。
MRKCの考え方に基づく治療では、眼表面炎症の制御とマイボーム腺炎の治療を並行して行う1,3)。
難治例やステロイド依存性の症例では、シクロスポリンA点眼が有効な選択肢となる。長期のステロイド使用に伴う白内障や続発緑内障のリスクを回避できる利点がある。
小児でドキシサイクリン内服を検討する場合、8歳未満では歯牙着色のリスクからエリスロマイシンまたはクラリスロマイシンが推奨される。
結核関連PKCでは抗結核薬の全身投与が必要となる2)。Wiriyachaiらが報告した7歳男児の副鼻腔結核合併PKC症例では、標準的な多剤併用抗結核療法により眼病変が改善した2)。
HSV関連PKCでは抗ウイルス薬の全身投与を検討する4)。Khanらの症例報告では、HSV-2曝露が疑われる結膜フリクテン・結節性強膜炎に対し、抗ウイルス薬追加後に改善が報告された4)。ステロイド単独投与でHSV関連病変が悪化する可能性があるため、非典型例では感染症の検索が重要である。
結膜フリクテンは1〜2週間で自然消退することもあるが、ステロイド点眼により数日〜1週間で改善する。角膜フリクテンはより長期の治療を要する場合が多い。マイボーム腺炎を背景とする再発例では、眼瞼衛生と抗菌薬内服を数週間〜数か月継続する必要がある。結核関連PKCでは全身の結核治療に準じた期間の抗結核薬が必要になる2)。HSV関連の難治例では抗ウイルス薬の継続を検討する4)。
フリクテン性角結膜炎の原因抗原の多くは、マイボーム腺内に定着したC. acnesや黄色ブドウ球菌などの細菌に由来する。マイボーム腺炎の重症度と眼表面の炎症の重症度は相関することが国内外のMRKC関連研究で示されており1,3)、マイボーム腺炎を制御せずにステロイド点眼のみで炎症を抑えても、抗原曝露が続く限り再発を繰り返す。温罨法・眼瞼洗浄による物理的な細菌量低下と、セフェム系およびマクロライド系抗菌薬の内服によるマイボーム腺細菌叢の正常化が、根治的な治療戦略として重要である1,3)。
PKCの本態は、局所の細菌蛋白に対する遅延型(IV型)アレルギー反応による炎症細胞浸潤である。抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞)が微生物抗原を取り込み、主要組織適合抗原クラスII(HLA-DR)を介して感作ヘルパーT細胞に提示する。活性化したT細胞はインターフェロン-γやIL-2などのサイトカインを放出し、単球やマクロファージを病巣に動員して肉芽腫様の結節性病変を形成する。
組織学的には、浸潤部から得られた擦過検体にヘルパーT細胞、抑制性/細胞障害性Tリンパ球、単球、ランゲルハンス細胞が認められ、細胞の大部分がHLA-DR陽性であることから、細胞性免疫反応の関与が裏付けられる。
MRKCの概念が提唱されて以降、マイボーム腺内に定着した細菌(特にC. acnesとブドウ球菌)から産生されるリパーゼや菌体蛋白が眼表面に持続的に曝露されることが、フリクテン形成のトリガーと考えられている1,3)。鈴木らはフリクテン型MRKC患者の多施設横断研究において、マイボーム腺の脱落・消失などの形態学的変化が高頻度に観察されることを報告し、マイボーム腺自体の病変がフリクテン形成と関連することを示した3)。
霰粒腫は局所的なマイボーム腺閉塞+炎症(focal obstructive MGD)の表現型であり、MRKCの重要な随伴所見として位置づけられている1,3)。
角膜輪部は血管系・免疫系・神経系が密集する特殊な領域であり、ランゲルハンス細胞やリンパ組織が豊富に存在する。この免疫系の集積がフリクテンが輪部に好発する理由と考えられている。角膜フリクテンでは、結節性浸潤に向かって表層性血管が束状に侵入し、これが束状角膜炎の典型所見を呈する。
結核菌のツベルクリン蛋白に対する感作が成立した患者では、眼表面での微量の抗原曝露によって局所的なIV型反応が惹起される。PKCは結核の活動性と必ずしも一致せず、ツベルクリン蛋白への過敏性の存在が発症条件となる。結核流行地域や結核曝露歴を有する小児では、PKCを結核の臨床的警鐘徴候として扱う必要がある2)。