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角膜・外眼部疾患

角膜同種移植拒絶反応と不全

1. 角膜同種移植拒絶反応と不全とは

Section titled “1. 角膜同種移植拒絶反応と不全とは”

角膜移植は最も成功率の高い臓器移植の一つである。低リスク眼の初回全層角膜移植術PKP)では 5 年生存率が 95% に達する。この高い成功率は角膜の免疫特権に支えられている。

角膜の免疫特権を構成する要因は以下の通りである。

  • 血管の欠如による免疫成分の送達障壁
  • リンパ管の欠如による抗原提示の制限
  • Fas リガンドの発現による活性化 T 細胞のアポトーシス誘導
  • MHC 抗原のきわめて低い発現
  • 前房関連免疫偏位ACAID):前房内抗原に対する全身性免疫寛容が誘導される

しかし角膜血管新生を伴う高リスク眼では 3 年時点の不全率が 35% を超えることがある。免疫特権下でも移植不全の最も一般的な原因は不可逆的な免疫学的拒絶反応である1)

「移植拒絶反応」はドナー角膜に対するホストの特異的免疫応答を指す。原発性ドナー不全(primary graft failure)はドナー組織自体の欠陥や手術外傷、不適切な保存により術後 8 週以内に透明化しない状態であり、免疫介在性ではない3)PKP の約 0.1% に発症する。

拒絶反応の診断は術後少なくとも 2 週間透明性を維持した移植片に対してのみなされる。発症の半数以上は術後1年以内に集中し、特に術後6か月から1年の時期にピークがある。ただし術後 20 年以上経過後に発症することもある。拒絶反応から不全への進行率は約 49% と報告されている。

角膜移植は世界的にみて最も頻繁に実施される組織移植であり、2012年時点の国際的調査ではPKP角膜移植全体の約70%を占めていた1)。近年は内皮疾患に対するDSAEKDMEKが急速に普及し、円錐角膜や実質炎後瘢痕に対するDALKも標準的選択肢となってきたため、術式の構成比は大きく変化している。一方でPKPは依然として広範囲の角膜混濁や形成異常に対して不可欠であり、かつ拒絶反応の最大のリスクを伴う術式である1)

全層角膜移植術(PKP)

拒絶反応率:約 4.9〜28.9%7)

不全の主因:拒絶反応(早期)+内皮不全(晩期)3)

特徴:全層のドナー組織を含むため抗原性が最も高い

深層層状角膜移植術(DALK)

拒絶反応率:1〜24%4)

利点:内皮拒絶反応のリスクを排除

課題:実質拒絶反応は生じうる4)

角膜内皮移植術(DSAEK)

拒絶反応率:平均 10%(範囲 0〜45%)

原発性不全率:平均 5%(範囲 0〜29%)

特徴PKP と比較し有意差なしとの報告あり3)

デスメ膜内皮角膜移植術(DMEK)

拒絶反応率:平均 1.9%(範囲 0〜5.9%)7)

原発性不全率:1.7%

特徴:最も低い抗原性で拒絶率が低い3)

DMEKPKPDSAEK と比較し拒絶反応リスクが有意に低いことが大規模コホートで示されている3)。UT-DSAEKDMEK の比較メタアナリシスでは、術後 12 か月の拒絶反応リスクに有意差はなかった2)。54眼を対象としたオランダの多施設無作為化比較試験でも、DMEK群で術後12か月の20/25以上達成率がDSAEK群より有意に高かった(66% vs 33%、P=0.02)一方、内皮細胞密度や屈折変化に有意差はなかった11)

Q 角膜移植の拒絶反応はいつ頃起こりやすいですか?
A

発症の半数以上は術後1年以内に生じ、特に術後6か月から1年の時期に多い。ただし拒絶反応は長期経過後にも発症しうるため、術後何年経っても充血霧視視力低下などの症状が出現したら速やかに受診する必要がある。術後20年以上経過した症例でワクチン接種を契機に拒絶反応を発症した報告もある10)

Q PKP と DMEK で拒絶反応率はどのくらい違いますか?
A

PKP の拒絶反応率は約 4.9〜28.9% であるのに対し、DMEK は平均 1.9%(範囲 0〜5.9%)と大幅に低いです。この差は主に移植されるドナー組織量の違いに起因します。PKP では樹状細胞を含む上皮・実質も移植されるため抗原性が高くなります。一方 DMEK ではデスメ膜と内皮のみの移植であり、抗原性が低く縫合糸も不要なためリスクが軽減されます。ただしステロイド中止後には DMEK でも約 6% に拒絶反応が生じるとの報告があり、長期的なステロイド継続が重要です。

拒絶反応を起こした移植角膜の裂隙灯顕微鏡像
Zheng Y, et al. Clinicopathological correlation analysis of (lymph) angiogenesis and corneal graft rejection. Mol Vis. 2011. Figure 1. PMCID: PMC3130724. License: CC BY.
拒絶反応により軽度の浮腫や新生血管が生じた角膜(A,B)や、高度の新生血管や穿孔を伴う角膜(C,D)の所見である。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う角膜混濁に対応する。

霧視充血眼痛・異物感・視力低下を呈する。術後 3 か月と 1 年に発症ピークがある。自覚症状が現れたら早急に受診する必要がある。

拒絶反応の判定基準には充血羞明視力低下・前房内細胞・角膜後面沈着物(KP)・内皮もしくは上皮の拒絶反応線・上皮下浸潤・限局性移植片浮腫のいずれかが含まれる1)

移植片限局性の KP が特徴的であり、レシピエント角膜の KP は認めない。Khodadoust line は線状の角膜後面沈着物であり、内皮拒絶反応の進行前線を示す。

拒絶反応は侵される層に応じて上皮型・実質型・内皮型の3型に分類される。移植片の予後に最も強く影響するのは内皮型であり、治療の遅れは不可逆性の内皮不全と視力低下を招く。

拒絶反応型頻度主な所見
上皮型約 2%輪部から移動する線状隆起(epithelial rejection line)
実質型実質浮腫が唯一の所見
内皮型約 50%KP・Khodadoust line・浮腫

上皮型拒絶反応(epithelial rejection)は頻度が拒絶反応全体の約2%と低い。前駆病変としてBowman膜直下に生じる0.2〜0.5mmの円形の上皮下浸潤が観察される。進行すると浮腫状に隆起した線状病変(epithelial rejection line)を形成する。移植片の透明治癒そのものにはほとんど影響しないが、内皮型拒絶反応の誘因となりうる。

実質型拒絶反応(stromal rejection)は実質浮腫が唯一の所見となる。DALKでは実質免疫拒絶反応として実質浸潤や界面血管新生を認めることがある4)PKP眼での内皮型拒絶反応による角膜浮腫との鑑別は難しい。

内皮型拒絶反応(endothelial rejection)は拒絶反応全体の約50%を占め、臨床的に最も重要である。移植片内に限局する角膜後面沈着物が重要所見であり、Khodadoust lineを形成する場合には同部位に実質浮腫を伴う。混合型(上皮型+内皮型など)は約30%に認められる。

Q Khodadoust line とは何ですか?
A

Khodadoust lineは内皮型拒絶反応に特徴的な線状の角膜後面沈着物である。移植片内皮面を漸進的に移動する拒絶反応の進行前線を示しており、ラインの通過した領域では内皮細胞が傷害されて同部位に実質浮腫を生じる。Khodadoust lineを認めた場合は速やかに強力なステロイド治療を開始する必要がある。

所見拒絶反応HSV/VZV内皮炎CMV内皮炎
KPの分布移植片内に限局移植片外にも付着移植片外にも付着
KPの色調白色〜灰白色褐色褐色〜白色
特徴的所見Khodadoust lineArltの三角coin lesion

拒絶反応は移植片内に限局した KP が最大の特徴であり、ウイルス性内皮炎は移植片外にも KP を認める点で鑑別される。なお、角膜後面沈着物は角膜移植時にドナー由来として付着することもあるため、日常の診察時にKPの分布を記録しておくことが鑑別上有用である。

PKPで拒絶反応が生じやすい症例はハイリスク眼とよばれ、以下の因子が挙げられる。

  • 2象限以上の角膜実質への血管侵入:最も確立されたリスク因子。
  • 術前炎症:眼表面疾患・感染性角膜炎後の炎症性角膜疾患
  • 角膜血管新生(2 象限以上)
  • 若年レシピエント(40歳以下):若年ほど免疫応答が活発となる
  • 大きな移植片:移植される抗原量と輪部血管への近接が増加する
  • 再移植・拒絶反応の既往:既存の感作の影響で拒絶率が上昇する
  • 縫合糸の緩みや断裂:露出した縫合糸が新生血管と免疫応答を誘発する
  • 緑内障の既往・緑内障手術歴
  • 虹彩前癒着虹彩とドナー内皮の接触が免疫応答を惹起する
  • アトピー素因:Th2優位の免疫背景が拒絶反応に関与しうる

角膜内皮移植術/デスメ膜内皮角膜移植術のリスク要因

Section titled “角膜内皮移植術/デスメ膜内皮角膜移植術のリスク要因”
  • 既存の緑内障
  • ステロイド反応性眼圧上昇
  • ヘルペス感染の関連

DMEK においてはステロイド減量時に拒絶反応が誘発されうる。ある症例では DMEK 後 15 か月でベタメタゾンからフルオロメトロンへの変更時に拒絶反応が発症した7)周辺虹彩前癒着PAS)も DMEK 拒絶のリスク因子として報告されている7)

臓器移植では HLA マッチングの有益性が明らかであるが、角膜移植では結果が一致していない1)。英国で実施された**Corneal Transplant Follow-up Study II(CTFS II)**は、ハイリスクPKPを対象にHLAクラスII(HLA-DR)マッチングの影響を前方視的に検討した大規模臨床試験である1)。1998年から2011年までに1133移植を集積し、HLAクラスIミスマッチ2抗原以下という条件下でHLA-DRを0・1・2ミスマッチ群に層別化した1)。ドナー・レシピエントの組織タイピングには血清学的手法の誤差を回避するためPCR-SSP/PCR-SSOによるDNAベース手法を用いた1)

CTFS IIにおいてHLA-DRミスマッチ数と拒絶反応発生率に明確な関係は認められていない1)。齧歯類モデルで示されたように角膜移植拒絶反応には複数の異なる免疫経路が関与しており、こうした免疫応答の冗長性がHLAマッチング研究の結果不一致を説明する一因と考えられている1)

COVID-19 ワクチン接種後の角膜移植拒絶反応が複数報告されている。mRNA ワクチン(BNT162b2)・ウイルスベクターワクチン(ChAdOx1)・不活化ワクチン(Sinopharm)のいずれでも発症がみられる。

BNT162b2 ワクチン初回接種 2 週間後に PKP の急性拒絶反応を呈した 2 例が報告された6)。いずれも以前の拒絶反応歴はなく、局所・全身ステロイドに良好に反応した6)

ChAdOx1 ワクチン接種 2 週間後にフェムト秒レーザー角膜移植の内皮拒絶反応が生じた症例もある8)。Khodadoust line と前房内炎症を認め、ステロイド治療で 5 週間後に回復した8)

Sinopharm 不活化ワクチン後の拒絶反応も 2 例報告された9)。文献レビューでは少なくとも 20 例以上のワクチン関連拒絶反応が集積されており、大多数がステロイド治療で回復している9)

術後 20 年以上経過した PKP でも BNT162b2 接種 10 日後に拒絶反応を生じた症例がある10)

因果関係は未確定であるが、ワクチン接種が MHC class II 抗原提示細胞の誘導を介して拒絶反応を惹起しうるという仮説が示されている9)

Q COVID-19 ワクチン接種後に角膜移植拒絶反応が起こりますか?
A

COVID-19 ワクチン接種後の角膜移植拒絶反応は mRNA・ベクター・不活化ワクチンのいずれでも報告されています。接種後 1〜3 週間で発症することが多く、大多数はステロイド治療に反応します。メタアナリシスでは固形臓器移植のワクチン接種による拒絶反応は否定されていますが、角膜移植については症例集積が進んでいます。因果関係は未確定のため、角膜移植患者はワクチン接種前のステロイド増量と接種後の早期受診が推奨されます。

移植片限局性の KP・Khodadoust line・角膜浮腫前房内細胞を確認する。上皮拒絶反応線は充血した輪部血管付近から始まり移植片境界を越えて移動する。

  • 角膜パキメトリ角膜厚測定は内皮機能の評価に有用であり、特に術前のベースラインデータがあれば拒絶反応の早期検出に役立つ3)
  • 前眼部OCT:移植片とホスト角膜間の接着状態、実質浮腫の分布、DSAEKグラフトの接着不良を評価する。
  • スペキュラマイクロスコープ角膜内皮細胞密度を定量的に評価する。ドナー角膜の最低内皮細胞密度はCTFS IIで2200 cells/mm²とされている1)
  • 前房水PCR検査:ヘルペスウイルス・CMV感染との鑑別が困難な場合に実施する7)
  • 蛍光眼底造影FA:移植片の血管新生・新生血管の活動性評価に用いられる場合がある。
  • 共焦点顕微鏡角膜の樹状細胞浸潤や炎症細胞の評価が可能であり、研究領域で活用が広がっている。

内皮型拒絶反応との鑑別を要する主な病態は以下である。

  • ヘルペス性角膜ぶどう膜炎:内皮型拒絶反応ときわめて鑑別が難しい。唯一の鑑別点は角膜後面沈着物の付着様式であり、ヘルペスでは移植片だけでなく周辺のレシピエント角膜にも付着する。
  • CMV角膜内皮炎:coin lesion様のKPと慢性持続性の眼圧上昇が特徴である。確定には前房水PCRが有用である7)
  • 移植片内皮機能不全:拒絶反応を伴わず内皮細胞密度が徐々に減少し、期間を経て機能不全に陥る。炎症反応の既往の有無で鑑別する。
  • 術後感染症:細菌性・真菌性・ヘルペスウイルス性の感染を否定したうえで免疫抑制を強化する必要がある。特に縫合糸の露出部位は感染巣となりやすい。
  • ステロイド反応性高眼圧:長期ステロイド使用中に眼圧が上昇した場合は、ステロイド緑内障との鑑別が必要である。
Q 拒絶反応とヘルペス性角膜内皮炎はどう鑑別しますか?
A

拒絶反応では KP が移植片内に限局するのが最大の特徴で、眼圧上昇はみられにくいです。HSV/VZV 内皮炎では KP が移植片外にも付着し、急性の眼圧上昇を伴います。CMV 内皮炎では coin lesion 様の KP と慢性持続性の眼圧上昇が特徴です。確定困難な場合は前房水 PCR 検査、血清抗体検査、ステロイドへの治療反応性を総合的に判断します。

急性拒絶反応の治療プロトコール

Section titled “急性拒絶反応の治療プロトコール”

拒絶反応の治療はステロイドによる消炎が基本である。

軽症(上皮型・実質型)

  • リンデロンPF眼耳鼻科用液0.1%(ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム、防腐剤非含有)を1日6〜8回の頻回点眼で開始する。
  • 6〜8週間かけて漸減する。

重症(内皮型・Khodadoust line陽性)

  • リンデロンPF眼耳鼻科用液0.1% を1時間ごとに頻回点眼する。
  • 必要に応じてソル・メドロール注(メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム)250mg/日を3日間静注する(ミニパルス療法)。
  • 結膜下にデキサメタゾンまたはベタメタゾンを注射することもある。
  • 寛解後はベタメタゾン0.1%を1日4回で1年以上継続し、その後低濃度ステロイドに切替えて長期維持する。ステロイド継続は拒絶反応再発の抑制に寄与するとされている3)

急性拒絶反応は早期治療により50%以上で回復する一方、治療開始が遅れると不可逆的な内皮細胞喪失から移植不全に至る。患者教育として、術後の自覚症状(充血霧視眼痛羞明)を把握させ、異変時の早期受診を徹底することが重要である。

角膜移植後の拒絶反応予防管理は、リスク層別化に応じた二段階のプロトコールが用いられる。

通常リスク眼の術後管理

ステロイド点眼:リンデロン点眼液0.01%(ベタメタゾン)1日5回→フルメトロン点眼液0.1%(フルオロメトロン)1日2〜3回へ切替(半年で漸減)

全身投与:プレドニン 20 mg を数日間、または投与なし

CsA:点眼を併用、数か月継続

ハイリスク眼の術後管理

ステロイド点眼:ベタメタゾン 0.1% × 4 回/日→1 年以上継続

ステロイド全身:リンデロン注0.4% 1回2mg 1日1回点滴静注を術日から3日間、その後リンデロン錠0.5mg 2錠分1を2週間で漸減

CsA:ネオーラルカプセル25mg 3mg/kg/日、トラフレベル70〜100 ng/mL

**シクロスポリンA(CsA)**は2象限以上の角膜実質血管侵入例、再移植例、拒絶反応既往例などのハイリスク症例で使用する。全身投与時はトラフレベルを70〜100 ng/mLに維持し、腎機能を含む全身的副作用をモニタリングする。術後約半年間継続する。

両側同時拒絶反応を呈した 18 歳の PKP 症例では、IV メチルプレドニゾロンパルスによる寛解後、ステロイド反応があったため CsA 1% 点眼に切り替え維持に成功した5)。CsA 1% 点眼はステロイド反応者において potent ステロイドの早期漸減を可能にし、長期的な移植片維持に有用である5)

タクロリムスシクロスポリン内服下で拒絶反応を発症した症例に対する切り替え薬として用いられる。トラフレベルは術後2か月まで8〜10 ng/mL、以降5〜6 ng/mLを目標とする(プログラフ0.05〜0.1 mg/kg/日)。0.03%タクロリムス点眼がハイリスク角膜移植の拒絶反応予防に有効との報告がある。

縫合糸の管理と拒絶反応後の長期管理

Section titled “縫合糸の管理と拒絶反応後の長期管理”

縫合糸の緩みや断裂は拒絶反応と晩期感染の双方の誘因となるため、発見した時点で速やかに抜糸する。抜糸後はステロイドや抗菌薬の点眼治療を一時的に強化する。寛解後もステロイド点眼を長期継続することで再発抑制が期待できる3)

ベタメタゾン0.1%から開始した場合、まず1日4回の維持期を数か月〜1年継続し、その後フルオロメトロン0.1%などの低濃度ステロイドに切替えて1日1〜2回で長期維持する。眼圧上昇がある場合はロテプレドノールへの変更、緑内障点眼薬の併用を検討する。

Q ステロイド反応がある場合の拒絶反応治療はどうしますか?
A

ステロイド反応による眼圧上昇がある場合は、プレドニゾロン酢酸塩から眼圧への影響が少ないロテプレドノールへの変更や、CsA 1% 点眼との併用を検討します。CsA 1% 点眼はステロイドの早期漸減を可能にし、眼圧管理と拒絶反応抑制の両立に有用です。緑内障点眼薬の併用も必要に応じて行います。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

免疫特権の破綻と遅延型過敏反応

Section titled “免疫特権の破綻と遅延型過敏反応”

角膜前房関連免疫偏位(anterior chamber-associated immune deviation:ACAID)により生理的な免疫寛容が維持されている。ACAIDではTGF-β優位の環境で抗原提示細胞が寛容原性となり、ドナー抗原に対する遅延型過敏反応と補体結合抗体産生が抑制される。しかし血管新生・炎症・縫合糸の緩みなどのハイリスク因子が存在すると、この免疫特権は容易に破綻する。

拒絶反応の中心機序は遅延型過敏反応であり、主要なエフェクター細胞はCD4+ Th1細胞である。活性化されたTh1細胞がIFN-γを産生することにより、移植角膜全層にMHCクラスII抗原提示細胞が誘導され、細胞性免疫応答が進行する8)。抗体媒介性機序の関与も近年注目されており、抗HLA抗体が補体活性化を介して慢性的な内皮細胞傷害を引き起こす可能性が示唆されている1)

術式による拒絶反応率の差は、主に移植されるドナー組織の量と抗原性の違いに由来する3)

  • PKP:全層を移植するため、浅層実質に多い樹状細胞やドナー上皮が多量の抗原として作用する3)。縫合糸の緩みが拒絶反応リスクをさらに高める3)
  • DALK:ドナー内皮を含まないため、最も重篤な内皮型拒絶反応は原理的に生じない。ただし実質拒絶反応は生じうる。
  • DSAEK:後部実質約50〜100μmをキャリアとした内皮移植で、PKPより抗原量が少ない。ドナー角膜はマイクロケラトームを用いて作成し、引き込み法の専用器具で前房内に挿入し空気タンポナーデで接着させる。
  • DMEK:Descemet膜と内皮のみの移植であり、抗原量が最小で縫合糸も不要なため拒絶率が最も低い3)DMEK術後のリバブリング(空気再注入)はグラフト剥離修復のために必要となる場合があり、メタ解析ではDMEK群でUT-DSAEK群より有意に多いことが示されている(OR 2.76、95%CI 1.46〜5.22)2)

DMEK後の拒絶反応リスク因子として周辺虹彩前癒着PAS)が注目されている。マウス角膜移植モデルではPASを有する群で拒絶反応が有意に増加した7)PASによる虹彩とドナー内皮の直接接触が細胞傷害性Tリンパ球活性を誘導し、拒絶反応を促進すると考えられる7)

HLAマッチングと免疫応答の冗長性

Section titled “HLAマッチングと免疫応答の冗長性”

角膜移植拒絶反応は主に細胞性免疫によって媒介されるが、齧歯類の研究では拒絶に至る複数の異なる免疫経路が確認されている1)。この免疫応答の冗長性が、HLAマッチング研究で結果が一貫しない一因と考えられている1)。近年は抗HLA抗体と抗体媒介性拒絶反応の役割も注目されており、晩期内皮不全の機序解明につながる可能性がある1)

ワクチン関連拒絶反応の推定機序

Section titled “ワクチン関連拒絶反応の推定機序”

COVID-19ワクチン接種は全身性の免疫応答を惹起し、SARS-CoV-2中和抗体に加えて抗原特異的CD8+およびTh1型CD4+ T細胞応答を誘導する6)。この免疫亢進が移植角膜に対する交差反応または非特異的免疫活性化を介して拒絶反応を誘発しうる6)。不活化ワクチン(Sinopharm)ではアジュバントである水酸化アルミニウムの免疫原性が拒絶反応の主因である可能性が示唆されている9)。ただしメタ解析レベルでは固形臓器移植におけるCOVID-19ワクチン接種後拒絶反応の増加は確認されておらず、角膜移植での因果関係も現時点では確定していない。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

COVID-19 ワクチン関連の角膜移植拒絶反応は世界的に症例報告が蓄積されている9)。文献レビューでは 20 例以上が集積され、大多数が再移植例であること、接種後 1〜2 週間で発症すること、ステロイド治療でほとんどが回復することが明らかになっている9)。接種前のステロイド予防投与の有用性が提案されているが、無作為化比較試験は存在せず、各症例で個別に判断する必要がある8)9)

HLA マッチングの有効性については CTFS II 試験が前方視的に検討を行ったが、現時点では角膜移植における HLA-DR マッチングの明確な臨床的有益性は示されていない1)。ただし抗 HLA 抗体と抗体媒介性拒絶反応の役割が明らかになりつつあり、晩期内皮不全の機序解明に寄与する可能性がある1)

UT-DSAEKDMEK の比較では、Sela 2023メタ解析2)およびDunker 2020多施設RCT11)のいずれにおいても、12か月拒絶反応率に有意差はない一方、DMEK群で良好な矯正視力が得られることが示された。ただし移植片不全はDMEK群でやや多い傾向があり2)、術式選択は患者個別の眼病変・既往・施設経験を総合して行うべきとされる。

今後の方向性として以下が注目されている。

  • Rhoキナーゼ阻害薬(リパスジル・ネタルスジル):抗炎症作用と内皮再生能が期待されており、従来は「再生しない」と考えられていた角膜内皮の再生が可能となる展望が生まれている。
  • 術前抗VEGF薬角膜血管新生の退縮によりハイリスク眼の拒絶反応率低減が検討されている。
  • サイトカインプロファイリング:涙液や房水中のIFN-γ・IL-6・IL-17等のサイトカイン濃度を測定し、ハイリスク患者の層別化と個別化免疫抑制の基盤とする試みが進行している。
  • 培養角膜内皮細胞の注入療法:自家または他家の培養内皮細胞を前房内に注入する臨床研究が進んでいる。
  • iPS細胞由来角膜細胞:免疫原性の低い特殊なHLA型を有する他家iPS細胞バンクの利用や、培養角膜上皮細胞シートの作製が報告されており、将来的な拒絶反応フリーの移植医療が模索されている。
  • 遺伝子治療免疫調節療法:樹状細胞の抗原提示抑制や制御性T細胞の誘導を標的とする新規アプローチが前臨床段階で検討されている。
  • 人工角膜Boston KPro:重度の角膜瘢痕・血管新生により通常のPKPでは拒絶反応リスクが極めて高い症例に対して、人工角膜置換術が選択肢となる。
  • 角膜バイオプリンティング:3Dバイオプリンターで角膜組織を作製する研究が進行しており、ドナー依存性と拒絶反応の双方を解決する技術として期待される。
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