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ぶどう膜炎

非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症

1. 非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症とは

Section titled “1. 非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症とは”

自己免疫性網膜症(autoimmune retinopathy; AIR)は、自己抗体が網膜抗原を標的とし視細胞の変性を引き起こす稀な疾患群である1)。自己免疫性網膜症は大きく2型に分類される。

腫瘍随伴性自己免疫性網膜症

癌関連網膜症:肺小細胞癌などの悪性腫瘍に随伴する。腫瘍抗原と網膜抗原の交差反応が原因。

悪性黒色腫関連網膜:悪性黒色腫に随伴する。網膜電図でnegative b波を示す点が特徴的。

非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症

非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症:悪性腫瘍を伴わずに発症する。全身性の自己免疫異常が背景にあると考えられる。

甲状腺機能低下症:非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症に最も多く合併する全身疾患である。

非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症の有病率は不明である。女性に好発し(63〜66%)、平均診断年齢は65歳とされるが1)、30歳の若年女性における発症例も報告されている1)。1997年に非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症の最初の症例が報告され、癌関連網膜症との臨床的類似性が指摘された。

自己免疫疾患(甲状腺機能低下症、関節リウマチ、多発性硬化症、橋本病など)の合併がしばしばみられる。腫瘍随伴性との鑑別は極めて重要であり、自己免疫性網膜症を疑った際には悪性腫瘍のスクリーニングが必須である。

Q 非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症と癌関連網膜症はどう違うのか?
A

最大の違いは基礎疾患としての悪性腫瘍の有無である。癌関連網膜症は肺小細胞癌などに随伴し、抗リカバリン抗体が代表的な自己抗体である。非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症では悪性腫瘍を認めないが、臨床症状は類似するため、年齢・性別に応じた腫瘍スクリーニングが必要となる。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。

非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症の症状は両眼性かつ進行性であるが、左右非対称のことが多い。

  • 進行性の視力低下:両眼性・無痛性で、亜急性〜慢性の経過をたどる1)
  • 夜盲(nyctalopia):桿体機能の障害を反映し、暗所での見えにくさを訴える。
  • 光視症(photopsia):閃光やちらつきを自覚する。視細胞の異常活動を示唆する。
  • 色覚異常:錐体障害が加わると色の識別が困難になる1)
  • 視野欠損:暗点、周辺視野狭窄、盲点拡大などが報告されている。

症状は自然に一時的な改善を示すこともあり、診断が遅れる一因となる。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

初期の眼底は正常に見えることが多く、これが診断を困難にする最大の要因である。

  • 眼底所見:初期には異常を認めない。進行期には網膜血管の狭細化、視神経乳頭蒼白、網膜色素変化がみられる1)。骨小体様色素沈着(bony spicules)は通常みられない。
  • 光干渉断層計所見:外顆粒層やエリプソイドゾーンの菲薄化・消失を認める2)黄斑厚の減少が特徴的であるが、嚢胞様黄斑浮腫を伴う例もある3)
  • 蛍光眼底造影(FFA:pin-point leakage(点状漏出)、血管周囲の染色、視神経乳頭の染色がみられることがある1)
  • 眼底自発蛍光黄斑周囲の過蛍光や視神経周囲の低蛍光、斑状の自発蛍光異常を呈する2)
  • 視野検査:暗点(約61%に検出)、周辺視野狭窄、盲点拡大など多彩なパターンを示す。

Nairら(2024)の症例では、30歳女性の矯正視力が右眼3/60、左眼2/60と著しく低下し、対光反射は緩慢、眼底には軽度の乳頭蒼白と血管狭細化を認め、FFAで多発性pin-point leakageと血管周囲染色がみられた1)

Q 眼底が正常に見えるのに視力が低下することがあるのか?
A

非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症では初期に眼底検査で明らかな異常を認めないことが多い。このため視神経炎などと誤診される場合がある。網膜電図光干渉断層計が異常を検出する有用な手段であり、原因不明の進行性視力低下ではこれらの検査を積極的に施行すべきである。

非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症の発症には、免疫寛容の破綻による抗網膜自己抗体の産生が関与する1)。腫瘍随伴性自己免疫性網膜症では腫瘍抗原と網膜抗原の交差反応が引き金となるのに対し、非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症では全身性の自己免疫異常が背景にあると推定される。

  • 自己免疫疾患の合併:甲状腺機能低下症が最も多く、関節リウマチ、橋本病、多発性硬化症重症筋無力症、バセドウ病、自己免疫性肝炎なども報告されている。
  • 女性:患者の63〜66%を占める1)
  • 年齢:50〜60代に好発するが、若年発症もある1)
  • 感染:細菌またはウイルス感染が網膜タンパク質との交差反応を誘発する可能性がある。
  • 免疫チェックポイント阻害薬免疫チェックポイント阻害薬療法後に自己抗体産生が誘導され、自己免疫性網膜症を発症する例が報告されている。

非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症は除外診断である。特異的な確定診断法がなく、臨床所見・電気生理学的検査・画像検査・血清学的検査を総合して判断する2)

網膜電図は診断の要となる検査である。

  • 錐体系・桿体系のいずれかまたは両方の応答低下を認める。
  • 典型的には疾患の進行とともに桿体機能障害が進行する。
  • 網膜電図が完全に消失する例もある。
  • 遺伝性網膜変性に比べ、網膜電図機能低下の速度がより急速である傾向がある1)
  • 陰性網膜電図:b波がa波より小さい波形パターンを呈する例がある1)3)

Grewalら(2021)の症例では、29歳女性の全視野網膜電図で左眼優位に著明な応答低下と陰性波形がみられた3)

検査法主な所見
光干渉断層計外顆粒層・エリプソイドゾーンの菲薄化、嚢胞様黄斑浮腫
眼底自発蛍光過蛍光・低蛍光の斑状変化
蛍光眼底造影点状漏出、血管周囲染色
  • 光干渉断層計:外層構造(外顆粒層、エリプソイドゾーン)の消失・菲薄化が特徴的1)2)嚢胞様黄斑浮腫を認める例もある3)
  • 眼底自発蛍光黄斑周囲の過蛍光リング、斑状の低蛍光(網膜色素上皮萎縮を反映)がみられる2)
  • 蛍光眼底造影:血管漏出や嚢胞様黄斑浮腫の評価に有用である1)

ウェスタンブロット・免疫組織化学・酵素免疫測定法・マルチプレックスアッセイで検出される抗網膜抗体には以下がある。

  • 抗リカバリン抗体
  • 抗炭酸脱水素酵素II抗体
  • 抗α-エノラーゼ抗体
  • 抗桿体トランスデューシンα抗体
  • 抗アレスチン抗体
  • 視細胞間レチノイド結合タンパク質抗体

Grewalらの症例では、血清中に抗炭酸脱水素酵素IIおよび抗エノラーゼ抗体が検出され、免疫組織化学で視細胞層が染色された3)

ただし、抗網膜抗体の陽性所見のみでは確定診断に至らない1)加齢黄斑変性網膜色素変性など他の網膜疾患でもARAは検出されるため、臨床所見との総合判断が不可欠である。

AIRを疑った場合、腫瘍随伴性を除外するためにマンモグラフィ、胸腹骨盤CT、脳MRI、大腸内視鏡検査など年齢・性別に応じた悪性腫瘍スクリーニングを実施する1)3)。PET検査も有用であり、Nairらの症例ではPET検査とその他の血液検査で腫瘍性疾患が除外された1)

npAIRの鑑別疾患は多岐にわたる。

  • 遺伝性網膜変性(IRD)網膜色素変性RP)、錐体杆体ジストロフィーなど。IRDは通常年〜数十年単位で緩徐に進行するのに対し、AIRは月単位で急速に進行する点が鑑別の手がかりとなる2)。遺伝子検査が確定診断に有用である。
  • 急性帯状潜在性外層網膜症AZOOR:急性発症の視野欠損光視症を呈する。若年女性に好発し、自己免疫疾患の合併がある。
  • 癌関連網膜症(CAR)・悪性黒色腫関連網膜症(MAR):悪性腫瘍の精査が必須。MARでは網膜電図でnegative b波を示す。
  • その他:非感染性・感染性ぶどう膜炎、ビタミンA欠乏症など。

Bonilla-Escobarら(2025)は、全身性自己免疫疾患を有する49歳女性で当初npAIRと診断したが、遺伝子検査でPRPH2遺伝子の病的バリアントが同定され、最終的に遺伝性網膜変性と診断を修正した2)。父親にも同一変異が確認され、常染色体優性遺伝のパターンと一致した。

Q 遺伝子検査は必ず必要か?
A

現時点で全例に遺伝子検査が推奨されているわけではないが、自己免疫疾患を合併する患者で遺伝性網膜変性が疑われる場合や治療反応が不良な場合には実施が望ましい。IRDとnpAIRの鑑別は治療方針に大きく影響するため、積極的に検討すべきである2)

npAIRの治療は免疫抑制療法が中心であるが、標準化されたプロトコールは存在しない1)3)。治療の目標は自己免疫反応の抑制と、さらなる網膜障害の進行防止である。

急性期の第一選択として高用量の経口ステロイドを使用する。

  • 経口プレドニゾロン:Nairらの症例では50 mg/日で開始し、臨床反応に応じて漸減した1)
  • 硝子体トリアムシノロン:局所投与として嚢胞様黄斑浮腫の治療に用いられることがある3)
  • テノン嚢下注射:デポメドロールのテノン嚢下注入も選択肢の一つである。

免疫抑制薬(ステロイド節約薬)

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長期のステロイド使用による副作用を回避するため、以下の免疫抑制薬が併用される。

  • アザチオプリン:Nairらの症例では50 mg 1日2回で開始し、ステロイド漸減後も50 mg/日で維持した1)。Grewalらの症例では225 mg/日まで増量されたが、3ヶ月で効果が得られなかった3)
  • ミコフェノール酸モフェチル(MMF):広く使用される免疫抑制薬であるが、妊娠を希望する場合には禁忌となる。
  • シクロスポリン:T細胞介在性の免疫反応を抑制する。

ステロイドと従来の免疫抑制薬に抵抗する場合に検討される。

  • アダリムマブ(抗TNF-α抗体):Grewalらの症例では40 mg隔週の皮下投与が試みられたが、嚢胞様黄斑浮腫の改善は得られず注射部位の皮疹が発生した3)
  • リツキシマブ(抗CD20抗体):症例報告でnpAIRの進行抑制に使用された例がある。
  • 静注免疫グロブリン(IVIG):短期的な免疫調整に用いられる。
  • 血漿交換:循環抗体の除去を目的とする。

npAIRにおける嚢胞様黄斑浮腫は高頻度に認められ、より重症かつ進行の速い病型の指標である3)網膜電図振幅の低下やエリプソイドゾーン消失のより急速な進行と関連する。嚢胞様黄斑浮腫に対しては以下の治療が行われる。

  • 局所ステロイド:点眼・テノン嚢下注射・硝子体内注射。Grewalらの症例では硝子体トリアムシノロン(2 mg/0.05 mL)で嚢胞様黄斑浮腫が消退したが、眼圧が42 mmHgまで上昇し緑内障チューブシャント手術を要した3)
  • 硝子体内デキサメタゾンインプラント(Ozurdex®):Bonilla-Escobarらの症例ではIRD関連の嚢胞様黄斑浮腫に対し有効性が示された2)
  • 硝子体フルオシノロンアセトニドインプラント(Yutiq®):より長期の浮腫制御が可能で、デキサメタゾンより有利なリスク・ベネフィット比が期待される2)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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npAIRの病態は免疫寛容の破綻に基づく。網膜抗原に対する自己抗体が産生され、視細胞の変性と網膜色素上皮RPE)の障害を引き起こす1)

npAIRに関連する主な抗網膜抗体と標的抗原は以下の通りである。

  • 抗リカバリン抗体:光応答のカルシウム依存性制御に関与するタンパク質。CARでも代表的。
  • 抗炭酸脱水素酵素II抗体網膜の水・電解質輸送に関与する3)
  • 抗α-エノラーゼ抗体:解糖系酵素。npAIRで高頻度に検出される3)
  • 抗桿体トランスデューシンα抗体:光信号伝達に関与する。
  • 抗アレスチン(S-arrestin)抗体:光受容のシグナル停止に関与する。

これらの自己抗体は、カスパーゼ活性化と細胞内カルシウム流入を介したアポトーシスにより視細胞・神経節細胞・双極細胞を破壊する。

腫瘍随伴性AIRでは腫瘍に異所性発現した網膜抗原が免疫系に認識されて交差反応が起こる1)。npAIRにおいては以下の機序が推定されている。

  • 全身性自己免疫異常に伴う免疫調節の破綻
  • 細菌・ウイルス感染による分子擬態(molecular mimicry)
  • RPE血液網膜関門機能の障害と免疫調節不全
  • 免疫チェックポイント阻害薬による免疫系の脱抑制

近年、遺伝性網膜変性(IRD)においても自然免疫の過剰活性化が神経炎症を促進することが動物モデルや臨床研究で示されている2)網膜色素変性では嚢胞様黄斑浮腫網膜血管漏出、硝子体中の炎症性サイトカイン上昇が報告されており、炎症が網膜変性の初発因子なのか、視細胞死に対する二次的反応なのかは未解明である2)。この知見はnpAIRとIRDの鑑別をさらに複雑にしている。

インターロイキン-6(IL-6)は後部ぶどう膜炎において中心的な役割を担う多機能性サイトカインである3)ぶどう膜炎患者の硝子体液・房水中ではIL-6濃度が上昇している。IL-6はTh17細胞の分化に不可欠であり、これらの細胞が複数の自己免疫疾患で病態に関与する。npAIRにおける嚢胞様黄斑浮腫や血管周囲漏出にもIL-6シグナルが寄与していると考えられる3)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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IL-6シグナルの阻害がnpAIRに伴う難治性嚢胞様黄斑浮腫の新たな治療戦略として注目されている。

Grewalら(2021)は、アザチオプリン(225 mg/日)やアダリムマブに抵抗したnpAIR合併嚢胞様黄斑浮腫の29歳女性に対し、サリルマブ(抗IL-6受容体抗体)200 mgを2週間ごとに皮下投与した3)。2回の投与で嚢胞様黄斑浮腫が著明に改善し、4回(6週間)で右眼の嚢胞様黄斑浮腫が完全消退した。視力は右眼20/70から20/32に改善し、6ヶ月で網膜電図振幅のわずかな改善も認められた。全身的な副作用は認められなかった。

SATURN試験(第2相)では、サリルマブ200 mgを2週間ごとに16週間皮下投与した結果、非感染性後部ぶどう膜炎における硝子体混濁嚢胞様黄斑浮腫視力の改善が示された3)

トシリズマブ(別のIL-6阻害薬)についても、npAIR関連嚢胞様黄斑浮腫に対する有効性を示す症例報告がある3)

Bonilla-Escobarら(2025)の症例は、npAIRと診断された患者に遺伝子パネル検査(250遺伝子)を実施したところPRPH2遺伝子変異が同定され、遺伝性網膜変性に診断が修正された2)PRPH2変異は多彩な臨床表現型を呈し、網膜血管漏出や嚢胞様黄斑浮腫など炎症性所見を伴うことがあるため、npAIRとの鑑別が困難な場合がある。

遺伝子検査は、治療方針の根本的な変更につながりうるため、特に非典型例や治療抵抗例では積極的に検討されるべきである2)


  1. Nair N, Venkatraman A, Magdum R, Radhakrishnan O.. A Glimpse Into Rarity: A Phenomenal Case of Autoimmune Retinopathy in a Young Woman. Cureus. 2024;16(10):e71387. doi:10.7759/cureus.71387. PMID:39539864; PMCID:PMC11557282.
  2. Bonilla-Escobar FJ, Sawyer C, Yang P, Pepple KL. Clearing the AIR: A PRPH2 mutation identified in the evaluation of presumed autoimmune retinopathy. Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;37:102252. doi:10.1016/j.ajoc.2025.102252.
  3. Grewal DS, Jaffe GJ, Keenan RT.. SARILUMAB FOR RECALCITRANT CYSTOID MACULAR EDEMA IN NON-PARANEOPLASTIC AUTOIMMUNE RETINOPATHY. Retin Cases Brief Rep. 2021;15(5):504-508. doi:10.1097/icb.0000000000000872. PMID:30986811; PMCID:PMC6783341.

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